「最近のあやかは本当にイキイキとしてますわ。　少し羨ましいくらいに。　以前のあの子は雪広という名を少し気にしすぎてましたから。　貴方のおかげです」

まるで見る者を魅了するようや柔らかな笑みを浮かべたさやかは、笑ってごまかす横島に対しあやかが世話になった理由を明確に口にした。


「俺はなんにもしてませんよ。　全てはあやかさんの努力の結果です」

「では、そういうことにしておきますわ」

多くの人が賑やかに懇談する会場で横島は明らかに目立っている。

セレモニーが終了すると同時に雪広家と那波家の娘が揃って横島の元に歩み寄ったのだから当然だが。

そんな中で横島とさやかはお互い割と和やかな感じで雑談してるように見えるが、その話の内容は見た目以上に奥深い。

特に夕映は初対面のさやかが横島の凄さの真髄とも言えることを理解してることに驚きを隠せない。

そもそも横島の功績は一つ一つじっくり吟味すると横島本人はたいしたことはしてないのだが、その真髄はたいしたことをしないで結果に導くことなのだと夕映は考えていた。

横島がどこまで考えて狙ったのかは分からないが、誰も気付かなかったあやかの悩みを一つ解決したのは紛れもない事実だ。

しかも横島自身が助けてもらいながら何故かあやかの悩みが解決したのだから、横島からすると偶然だと言うのは当然だった。

ただ横島の周りではこの手の偶然がよくあることも確かである。

それをさやかは知っているのだろうと夕映は思う。

というかパーティーは慣れてないと言った横島がそんなさやかと普通に渡り合ってるのだから、やはり横島も普通ではないなとシミジミと感じる。


（魔法のこと知ってるな）

一方の横島はさやかが魔法の存在をすでに知っているのだと理解した。

そもそも横島に最初に挨拶に来たのことも、横島の素性を知る両親や祖父が後押ししなければ流石にないなと思う。

流石にどこまで知ってるかは読めないが、今後の為の顔合わせの意味もあるのだろう。

ただあやかの件は横島もそこまで深く考えた結果ではなく、本当に偶然な部分も多々あるのだが。



「やっぱ緊張するな～」

結局さやかは今度ゆっくりとお話をしましょうと言って横島達の元を去るが、横島はさやが去ると思わず一息ついたのは言うまでもない。

柔らかく優しい空気に隠された適度な緊張感には横島も押され気味であった。


「雪広さやかさんは才色兼備を地でいくと評判の人です。　ただいいんちょとは違い、自分から人の上には立たないようですが」

「さやかさんは自らリーダーシップを取らずとも周りを動かせるタイプよ。　周りに華を持たせつつ結果に導く。　少しマスターのやり方に似てるかも知れませんね」

緊張感から解放され手に持っていたジュースを飲み干す横島に夕映と千鶴は補足するようにさやかの情報を語るが、千鶴はさやかと横島は少し似てると呟き横島は全力で否定する。


「なるほど。　大人しいとは聞きましたが、そんな方でしたか」

ただ夕映と刀子は千鶴の言葉でさやかの人となりを理解したようだが、横島の否定は聞き流していた。

横島は本気で買い被り過ぎだとこぼすが、周りから見た横島はそんな感じである。

ある意味で一番敵に回してはいけない人なのだと思う。