平和な日常~冬~2

さてメイン会場の大ホールではセレモニーも終わり関係者が懇談していたが、横島達の元には千鶴がやって来ていた。


「もう、いいんか?」

「ええ、必要な方には挨拶は済ませましたので」

千鶴自身も挨拶する相手は居たが、流石に麻帆良の御三家とも言われる那波家なだけに千鶴から挨拶するべき相手は限られてるらしい。

学園の幹部クラスに雪広家などの支援企業の中枢のメンバーだけなので手早く済ませたようである。


「それにあまり両親と一緒だと抜けられなくなりますから」

本来は両親と共に挨拶を受けるべき立場でもあるが、こちらは両親の許可の元で抜け出して来たらしい。

実際同じ財閥の娘という立場があるあやかもすでに両親とは一緒ではなく、こちらは麻帆良カレーや納涼祭絡みの挨拶周りを始めている。

それと千鶴はあえて口にしないが、下手に両親と居ると挨拶に来た相手から息子などを紹介されるので逃げて来たとも言えるが。

あやかはまだ次女なので違うが千鶴は那波家の一人娘なので、よく有力企業や関係者の息子なんかを紹介されることが多いのだ。

あわよくば逆玉と考えるのはもちろんのこと、そこまで行かなくとも未来の那波グループの社長と親交を深めたいのは当然のことなのだろう。

ただ千鶴自身はそういった相手があまり好きではないのでこの後は夕映と一緒に横島のサポートに回る予定だった。


「あら、さやかさん」

結果千鶴が合流したことで横島の周りには夕映・刀子・千鶴の三人が揃い横島は更に注目を集めることになるが、そんな横島の元に一人の女性がやってくる。

年の頃は高校生くらいで綺麗な金髪が印象的な美人だった。

女性の名はさやかと言うらしく千鶴は親しげに言葉をかけるが、彼女が何者なのかは横島も夕映もよく知っている。


「初めまして、雪広さやかと申します。 お噂はかねがね聞き及んでおりますわ。 横島さんと綾瀬さん」

この女性は雪広家の長女である雪広さやかであった。

容姿はあやかと同様に美人だが、あやかを一回り落ち着かせた感じか。

彼女は幼い頃から雪広グループの後継者として育てられており、千鶴とは幼い頃から知っている仲である。

最近あやかが頭角を現し話題になっているが、元々雪広家ではさやかが社交界を中心に評価が高かった。


「わざわざ挨拶に来て頂くとは思いませんでしたよ。 こちらから出向かねばならないのに申し訳ありません」

「そう形式張らないで結構ですわ。 私としても自由になる口実が欲しかったところですから」

初対面のVIP相手に横島は当然ながららしくないほど丁寧な対応になるが、さやかは少し小声になると気さくな感じで自分の都合で挨拶に来たと答える。

それが本音かリップサービスかはともかく、若干表情が固い横島と夕映を気遣かったのは確かだろう。


「それにあやかがお世話になってますから」

「どっちかと言うと世話になってるのは俺の方ですよ。 雪広グループにもあやかさんにも本当にお世話になってます」

「そうですわね。 人はみんなそう見るでしょうね」

少し緊張した様子の横島と対照的にさやかは楽しげに会話をしていくが、あやかの方が世話になってると言う横島に意味ありげな言葉で返す。

周りの夕映達はその言葉の意味を考えつつ二人の表情を見守るが、横島は少し困ったように笑ってしまう。



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