平和な日常~冬~2

「あれが噂のシェフか?」

「想像以上に若いな」

一方会場の隅に居る横島達だったが、地味に注目を集めていた。

麻帆良カレーの考案者にして木乃香の師匠としても名が知られてる横島は、一般的にはやはりシェフとして有名である。

女性が苦手だとの噂や逆にそれを隠れみのに複数の女性と付き合ってるのではとの噂など相変わらず支離滅裂な噂があるが、大人達の大半は正直あまり信じてないというか横島の女性関係は興味が薄いのが現状だった。


「雪広家の次女が名を上げたのも彼の差し金だとも噂があるが……」

「彼が次女を見抜いたのか次女が彼を見抜いたのか。 まあどちらにしても雪広グループはいい買い物をしたよ」

横島達を遠目に見ていた中年の男達は支援企業の末端に位置する企業の重役らしいが、彼らの興味は横島そのものよりも横島の功績とそれをほぼ独占する雪広グループへの羨望のようだ。

麻帆良カレーは麻帆良祭から半年過ぎた現在、麻帆良の新たなご当地グルメとして地道に知名度を上げている。

爆発的なヒットこそしてないが、雪広グループとしては一過性のブームに終わらせたくないので好都合な面もあった。

グループ系列の飲食店での販売やレトルトの全国展開に加え麻帆良カレーを普及させる実行委員会も事実上雪広グループの管理下にあるので、その利益は決して馬鹿に出来ないものがある。

加えてあやかが麻帆良祭と納涼祭において名を上げたことも、一部では横島があやかの才能を見抜いて任せたのではとの噂もあった。

まああやかに加えて木乃香も横島の元で才能を発揮しているし、横島の代理として日頃会議等に参加する才女が他にもいるとの噂も雪広グループから漏れ伝わってる。

その結果一般的に横島の人を見る目は確かだろうと噂が大人達には流れていた。


「どうやら例のIT企業のオーナーも彼らしいぞ。 その件に関して雪広グループと那波グループがあちこちに根回ししてたからな」

見た感じ普通の若者にしか見えないし才能豊かな片鱗さえ見えないほど大人達から見ると横島は平凡だったが、別の中年男性が二人の会話に割り込むと横島のもう一つの顔について彼らは語り出す。


「おいおい……」

「ということは元々雪広会長や那波会長達は彼を知っていたのか? それともまた近衛学園長のツテか?」

「よく考えてみると学園長が自分の孫を預けたんだから、元々知り合いだと見る方が無難だろうな。 あの三人の情報収集能力は桁違いだからな。 以前は外務省より先に海外の紛争危機の情報を入手したっていうし」

突然フラリと麻帆良に現れて頭角を表した横島に対する話題は尽きないが、実は麻帆良では割とよくあることでもある。

昨年は超鈴音の話題で持ち切りだったし過去には高畑なども話題になったことがあるのだ。

ただ基本的には近右衛門や清十郎や千鶴子が知っていたのだろうと見られることが多い。

つい最近には横島が近右衛門に魔法世界絡みの機密情報を流して裏の関係者を激震させたが、元々近右衛門達三人の情報収集能力は国家クラスだとの認識が麻帆良にはあった。

まあそのおかげで横島の件で情報提供元を詮索する者が居ないのだが、横島に関しても近右衛門達の誰かが知り合いで支援していたのだろうと専らの噂だったのである。



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