平和な日常~冬~2

「今頃横島君はどんな顔をしてるかのう」

同じ頃すでに麻帆良ホテルに入っていた近右衛門は、穂乃香と鶴子と刀子を前に意味深な笑顔を見せていた。

横島との協力以降いろいろ大変だった近右衛門だが、表向きは横島を特別扱いしないことにしている。

もちろん例の情報源が横島であることは絶対に隠さねばならないが、横島の存在そのものは隠すことなど出来ないし仲間に加わる以上は最低限の付き合いはして貰わねば困るのが現実だった。

まあ横島が現状ほど目立たねばまた違ったのだろうが、表の活動で目立ち過ぎた横島の自業自得と言える。


「綾瀬さんがなんとかすると思いますよ」

そもそも横島を今日のパーティーに出せないかという話は、裏とは関係なく表の活動で以前からあった話なのだ。

麻帆良カレーは現在麻帆良の新しいご当地グルメとして定着してるし、納涼祭や芦コーポレーションも注目を集めている。

一連の中心人物である横島が麻帆良学園最大のパーティーに参加することはある意味当然の流れなのだが、問題は本人が興味のないことは全て周りに丸投げしてることだった。

お偉いさんとの挨拶なんて興味がないのは聞かなくてもわかるが、流石に挨拶まで代理にする訳にはいかない。


「今のところ横島君をコントロール出来るのは綾瀬君だけか」

ただ本人に全くやる気がないことを無理にやれとは近右衛門からはなかなか言えないし、出来れば角が立たない人にやんわりと横島を動かして貰いたいというのが本音である。

そういった意味では現状で周りとの調整が出来て横島を動かせるのは、夕映一人だと近右衛門や雪広グループ関係者なんかは見ていた。

同じ横島の身近な少女達でも木乃香やのどかは横島に流されるし明日菜には調整能力がない。

結局は日頃横島の代理として会議なんかに出てる夕映にお鉢が回った形になっている。

言うべきことはきちんと言えて横島と周りとを調整できる夕映は、近右衛門や雪広グループ関係者からかなり期待されてるが本人はそこまで期待されてることをまだ知らない。


「きちんと話せば理解してくれますよ。 ただ綾瀬さんに任せた方がより確実ですが」

もちろん近右衛門も刀子も横島は話せば理解してくれることは重々承知しているが、それでも横島の扱いは慎重にならねばならないのは変わらない。

特に横島の過去に関してはまだ謎な部分の方が多く、下手に機嫌を損ねるのが怖いと感じる部分も全くない訳ではないのだ。

言い方は悪いかもしれないが、何も知らず横島が気に入って側に置いてる夕映に任せた方が確実で安全なのが実情だった。


「いずれ綾瀬君達は秘密を明かす必要があるのかも知れんな」

現状では表の活動だが横島の実務を代わりに熟してるのは夕映とのどかであり、特に夕映の実務能力は現状のままでも魔法協会に欲しいとすら近右衛門は思ってしまう。

まあ強制は出来ないし最終的には本人次第ではあるが、願わくば横島や木乃香と共に裏と表を繋ぐ懸け橋になって欲しかった。

結局夕映は本人の知らぬところでどんどんと存在感と期待を増していたが、それを本人が知るのはまだ先のことになる。



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