平和な日常~冬~2

その頃さよは中等部の茶道部の面々と一緒に会場に到着していた。

和服に着替える前に会場のパーティールールを見に来たのだが、そこは一つの部屋を料理大会の種目ごとに移動式の壁で仕切られている。


「うわ~、どうやってここまで入れたんですか?」

目的のスイーツ部門の場所の前に他の場所も覗いていくさよと茶道部の少女達だが、ホテルの中に超包子の路面電車型屋台があるのを見つけると流石に驚き絶句した。


「一度ばらして持ち込んで組み立てたのネ。 おかげで昨日は徹夜したヨ」

屋台ではすでに超と五月が仕込みの真っ最中である。

さよと茶道部の少女達に気づくと超がやって来て自信ありげな表情で一回ばらしてホテルの中で組み立てたと言うが、茶道部の少女達も流石は超鈴音だと感心半分呆れ半分な様子であった。


「スイーツ部門の方も人のことは言えないネ」

正直そこまでするかと思う茶道部の面々に超はクスッと笑うと、彼女達が手伝うスイーツ部門の方も人のことが言えないと意味ありげな言葉を残す。

基本的に会場の設営は大学部のイベント設営サークルと茶道部が監修して造られており、企画段階から加わった横島や木乃香達を除けばさよもほとんど知らない。

超の言葉に一同はドキドキしながら本命のスイーツ部門の場所に行くが、その光景にはさよも茶道部の面々も節句する。


「なにこれ……」

そこはホテルの中だと一瞬忘れそうになるほどの別世界であった。

入口に入っただけで香る畳の匂いがまるで旅館か本物の茶室を思い出させるが、もちろんただの和室や茶室ではない。

客席はおよそ五十席ほどあるが、半分の二十五席は床から一段高い畳張りの完全な和室になっている。

残り半分はテーブル席になるがこちらもただのテーブルと椅子はなく、椅子のクッションが畳になっている和風の椅子になんと茶釜が設置された特注のテーブルであった。

畳張りの和室の方は完全な茶室とほぼ同じで茶釜だけで六ヶ所設置されていて合計で十二ヶ所でお茶を立てるらしい。

加えてスイーツ部門の一角は壁や床ももちろん天井までが和風に改造されるほど徹底している。

しかも小さいが箱庭も一角に造られていて、ししおどしまできちんと造られていた。

決して派手さはないがその徹底ぶりには誰もが驚きを隠せない様子だ。


「お前達、中等部の茶道部か? どうだいい出来だろ」

そんな和風の一角では大学生達が最後の仕上げをしていたが、さよ達を見て驚きの表情が見れて嬉しそうな様子で声をかけてくる。


「いい出来ってレベルじゃないわ。 ここ半日しか使わないのよ」

「もちろん知ってるさ。 でもクイーンは毎年徹底してるからな。 今回は特に和風なんで宮大工専攻の奴とか造園専攻の奴にも手伝ってもらったし今までにないもんが出来たよ」

僅か半日足らずの上にパーティーで提供される料理やスイーツは大会優勝者以外にもたくさんあるのだ。

料理大会優勝者の料理披露は目玉の一つではあるが決してメインではない。

一体どれだけの手間とお金をかけたのかと、少女達はただただ驚くしか出来なかった。



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