うたのプリンスさま短編集
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【可愛い彼氏】
「やあ、ハニー。今日もお疲れ様」
「レンくん!どうしたの?」
「たまたま近くに用があったからね、迎えに来たんだ」
そう言ってニコりと笑ったレンくんが、私の後ろに視線を止めると少しだけ顔を歪ませた。
「なんだその顔は」
「別に。彼女は俺と帰るから、行って構わないよ」
「言われなくてもそうする。またな苗字、お疲れ様」
「うん、真斗くんもお疲れ様!」
先に帰っていく真斗くんにひらひらと振った手を、レンくんに握って止められる。
「ダメだよハニー、この手は俺だけに伸ばして」
「はいはい。もう、レンくんってば真斗くんのことになるといつもそれなんだから」
なんていうか、急に子供っぽくなる。仲が悪いように見えるけど、それが彼らなりのコミュニケーションなんじゃないかな、と勝手に思っている。本当のところはわからないけど。
「ほら、この可愛い手を俺に頂戴?」
「はいはい。レンくんは可愛いなぁ」
「ハニーの方が可愛いよ」
そう言ってるけど、嬉しそうに私に撫でられているレンくんの方が絶対に可愛い。
アイドルとしてテレビに映っているレンくんとは違う、私だけに見せてくれる特別な姿だ。
女の子たちに人気のあるレンくんだから、もちろん少しくらい嫉妬してしまうこともある。仕事だってわかっていても、やっぱりちょっとは気になってしまうものだ。
でも、ファンの子達は知らないレンくんを知っているという優越感。それは色んなモヤモヤを全部吹き飛ばしてくれるくらいに私に特別感を与えてくれる。
何より、レンくんの可愛さが、最高に私の癒しなのだ。
「ふふっ、ほら帰ろう?」
頭を撫でていた手を伸ばせば、レンくんはためらいなくその手を絡め取ってくれる。暖かくて大きな彼の手が少し強めに私の手を握ってくれる。
「ふへへっ……」
「ん?なんだか楽しそうだね」
「レンくん、私のこと好きだよね」
ぎゅっと握られた手に愛を感じて、頬が緩んでしまうのを感じる。
レンくんは一瞬きょとんとした顔をすると、すぐに顔を崩して言った。
「あたりまえだよ。世界で一番、君が好きだよ」
「あっ、ストップ!それは家に帰ってから」
顔を寄せてくるレンくんを手で静止すると、ちょっとだけ不満そうな顔をする。
「家に帰ったら、ね。それじゃあ早く帰らないと」
なんて言って先を急ぎ始めるレンくんに手を引かれる。意外に子供っぽいところが、また可愛らしい。
ちょっとだけ急ぎで帰宅すると、玄関に入るなりレンくんの抱擁が待っていた。拒む理由なんてない。目一杯彼に抱かれて、1日を終えたのはあまりにも幸せな時間だった。
***
遠くで聞こえた音が、次第に近づいてくるような感覚で目がさめる。やけに頭に響くそれは、枕元においた携帯が発しているようだ。
ぼんやりとした目を擦って、携帯に手を伸ばす。手が届いたところで力尽きて、再び布団に顔面から突っ伏した。
「おい、レン!連絡もなしに心配するだ。なにやってんだよ?」
「あれ、翔くん?」
なぜか聞こえた友人の声に、わずかに頭が覚醒する。
「え?名前か?あれ、これってレンの番号だよな?」
翔くんの言葉に手元を確認すると、確かにそれはレンくんの携帯だった。機種が同じだから、寝ぼけていて気づかなかった。
「まあいいや。レンも一緒か?お前ら二人してなにしてんだよ。集合時間過ぎてんぞ」
集合時間、と言われて「あ」と声が漏れる。
「……ごめん。完全に寝坊です」
今日はオフが重なったこともあって、久しぶりに同じクラスだったみんなで出かけることになっていたのだ。集合時間は10時。現在の時刻はそれを15分ほど過ぎたところだ。
「はぁー……ったく、何かあったんじゃなくてよかったけどさ」
「うぅ……ごめんなさい、翔くん」
「俺はいいよ、適当に時間潰してるし。ま、トキヤはご立腹みたいだけどな」
「うっ……」
厳しい彼の顔を思い出して、顔をしかめる。ルーズなことは嫌いなトキヤくんのことだ、寝坊なんて許されないだろう。学園時代にも何度か叱られたことがあった。苦い記憶だ。
「ごめん、なるべく早く行くね」
「おー、急いでこいよって言いたいけど、まあ慌てずに気をつけてな」
「ありがと翔くん!」
「なにで埋めあわせるかは考えておいてくださいね」
通話が切れる直前、トキヤくんの声が聞こえた気がした。少しでも早く行かないと。
完全に覚醒した意識で、まずは布団から出ることを試みるが、お腹に回っている腕がそれを妨害する。背中に愛おしい人の体温を感じてなんとも幸せだが、ここから抜け出さないことには始まらない。
しばらくこうしていたい気持ちを振り払って、レンくんの腕を抜けようとするが、それに気づいたのか彼の腕に力がこもる。逃がさないとでもいうようにぎゅっと強く抱きしめられた。どうやらお目覚めみたいだ。
「ダメだよ、ハニー。どこへ行くの?」
「どこって、準備」
「他の男へ会いに行くために?」
「わかってるんじゃん。だったら離して」
「どうして他の男のところへ行かせなきゃいけないんだい?」
「ひゃっ……!ちょっと、レンくん」
すり寄るようにして首筋に顔を埋められるものだから、息がかかって思わず声が出てしまった。
「待たせてるんだから、早く準備しないと悪いよ」
「やだ。そんなにおチビちゃんたちとのデートが楽しみなの?」
「デートって……だいたいレンくんも一緒に行くんだから、準備しなよ。ほら、起きるよ」
「ん、やだ」
聞き分けの悪い子どもみたいに駄々をこねている。どこか口調もふわふわとしていて、まだ寝ぼけているのがわかる。
レンくんはどうも朝に弱いらしい。いつでも甘えたな一面を見せてくれる彼だが、朝はより一層それが色濃い。そしてそんな彼に対して、私はついつい甘々になってしまうのだ。
お腹に周った腕に手を重ねると、レンくんが満足そうにすり寄ってくる。
「ハニー、好きだよ」
「ん、私も好きだよ」
低く掠れた声で愛を囁かれると、ああこのままでもいいかな、なんて思ってしまう。
レンくんの熱に浮かされて、瞼が再び重くなっていく。
「って、ダメだから!ほんと、トキヤくんに怒られるって」
「あれ、流されてくれないんだね」
「流されないよ!ほら起きる!」
うっかり二度寝に向かいそうだったのを慌てて起き上がる。まったく油断も隙もあったっものじゃない。甘えているように見えて、実は計算の上だったりするからこの男は侮れないのだ。
「もう遅いし、ご飯はお昼と一緒でいいよね」
「うん、いいんじゃないかな」
「うわっ、寝癖ひどいし……最悪ぅ……」
「ふふっ、俺に整えさせてよ」
「わーっ!!ベッドから出るならちゃんと服着てください!」
楽しそうにこちらに近寄ってくる裸の男を制止する。
「ん?どうしてだい?」
「わかってやってるでしょ。時間ないんだからね、さっさと服着て!」
「釣れないなあ」
***
どうもマイペースなレンくんを急かしながら、やっと家を出たのは一時間近く経ってからだった。
「で、何か言うことは?」
「ごめんなさい……」
下手な言い訳は通用しない。というか、どう考えてもこちらに非しかないので素直に謝るほかない。
「許してあげてよ、イッチー。彼女お疲れだったんだ」
「何他人事のようにいっているんですか。貴方も同罪ですよ、レン」
「わかってるよ、ごめんね。お詫びとしてここはご馳走させてよ。ほら、ハニー。好きなもの食べてね」
「朝食べてないからすごくお腹すいたー。何にしようかなぁ」
「……どうも釈然としませんね」
「今更だろ……」
2019.7.24
「やあ、ハニー。今日もお疲れ様」
「レンくん!どうしたの?」
「たまたま近くに用があったからね、迎えに来たんだ」
そう言ってニコりと笑ったレンくんが、私の後ろに視線を止めると少しだけ顔を歪ませた。
「なんだその顔は」
「別に。彼女は俺と帰るから、行って構わないよ」
「言われなくてもそうする。またな苗字、お疲れ様」
「うん、真斗くんもお疲れ様!」
先に帰っていく真斗くんにひらひらと振った手を、レンくんに握って止められる。
「ダメだよハニー、この手は俺だけに伸ばして」
「はいはい。もう、レンくんってば真斗くんのことになるといつもそれなんだから」
なんていうか、急に子供っぽくなる。仲が悪いように見えるけど、それが彼らなりのコミュニケーションなんじゃないかな、と勝手に思っている。本当のところはわからないけど。
「ほら、この可愛い手を俺に頂戴?」
「はいはい。レンくんは可愛いなぁ」
「ハニーの方が可愛いよ」
そう言ってるけど、嬉しそうに私に撫でられているレンくんの方が絶対に可愛い。
アイドルとしてテレビに映っているレンくんとは違う、私だけに見せてくれる特別な姿だ。
女の子たちに人気のあるレンくんだから、もちろん少しくらい嫉妬してしまうこともある。仕事だってわかっていても、やっぱりちょっとは気になってしまうものだ。
でも、ファンの子達は知らないレンくんを知っているという優越感。それは色んなモヤモヤを全部吹き飛ばしてくれるくらいに私に特別感を与えてくれる。
何より、レンくんの可愛さが、最高に私の癒しなのだ。
「ふふっ、ほら帰ろう?」
頭を撫でていた手を伸ばせば、レンくんはためらいなくその手を絡め取ってくれる。暖かくて大きな彼の手が少し強めに私の手を握ってくれる。
「ふへへっ……」
「ん?なんだか楽しそうだね」
「レンくん、私のこと好きだよね」
ぎゅっと握られた手に愛を感じて、頬が緩んでしまうのを感じる。
レンくんは一瞬きょとんとした顔をすると、すぐに顔を崩して言った。
「あたりまえだよ。世界で一番、君が好きだよ」
「あっ、ストップ!それは家に帰ってから」
顔を寄せてくるレンくんを手で静止すると、ちょっとだけ不満そうな顔をする。
「家に帰ったら、ね。それじゃあ早く帰らないと」
なんて言って先を急ぎ始めるレンくんに手を引かれる。意外に子供っぽいところが、また可愛らしい。
ちょっとだけ急ぎで帰宅すると、玄関に入るなりレンくんの抱擁が待っていた。拒む理由なんてない。目一杯彼に抱かれて、1日を終えたのはあまりにも幸せな時間だった。
***
遠くで聞こえた音が、次第に近づいてくるような感覚で目がさめる。やけに頭に響くそれは、枕元においた携帯が発しているようだ。
ぼんやりとした目を擦って、携帯に手を伸ばす。手が届いたところで力尽きて、再び布団に顔面から突っ伏した。
「おい、レン!連絡もなしに心配するだ。なにやってんだよ?」
「あれ、翔くん?」
なぜか聞こえた友人の声に、わずかに頭が覚醒する。
「え?名前か?あれ、これってレンの番号だよな?」
翔くんの言葉に手元を確認すると、確かにそれはレンくんの携帯だった。機種が同じだから、寝ぼけていて気づかなかった。
「まあいいや。レンも一緒か?お前ら二人してなにしてんだよ。集合時間過ぎてんぞ」
集合時間、と言われて「あ」と声が漏れる。
「……ごめん。完全に寝坊です」
今日はオフが重なったこともあって、久しぶりに同じクラスだったみんなで出かけることになっていたのだ。集合時間は10時。現在の時刻はそれを15分ほど過ぎたところだ。
「はぁー……ったく、何かあったんじゃなくてよかったけどさ」
「うぅ……ごめんなさい、翔くん」
「俺はいいよ、適当に時間潰してるし。ま、トキヤはご立腹みたいだけどな」
「うっ……」
厳しい彼の顔を思い出して、顔をしかめる。ルーズなことは嫌いなトキヤくんのことだ、寝坊なんて許されないだろう。学園時代にも何度か叱られたことがあった。苦い記憶だ。
「ごめん、なるべく早く行くね」
「おー、急いでこいよって言いたいけど、まあ慌てずに気をつけてな」
「ありがと翔くん!」
「なにで埋めあわせるかは考えておいてくださいね」
通話が切れる直前、トキヤくんの声が聞こえた気がした。少しでも早く行かないと。
完全に覚醒した意識で、まずは布団から出ることを試みるが、お腹に回っている腕がそれを妨害する。背中に愛おしい人の体温を感じてなんとも幸せだが、ここから抜け出さないことには始まらない。
しばらくこうしていたい気持ちを振り払って、レンくんの腕を抜けようとするが、それに気づいたのか彼の腕に力がこもる。逃がさないとでもいうようにぎゅっと強く抱きしめられた。どうやらお目覚めみたいだ。
「ダメだよ、ハニー。どこへ行くの?」
「どこって、準備」
「他の男へ会いに行くために?」
「わかってるんじゃん。だったら離して」
「どうして他の男のところへ行かせなきゃいけないんだい?」
「ひゃっ……!ちょっと、レンくん」
すり寄るようにして首筋に顔を埋められるものだから、息がかかって思わず声が出てしまった。
「待たせてるんだから、早く準備しないと悪いよ」
「やだ。そんなにおチビちゃんたちとのデートが楽しみなの?」
「デートって……だいたいレンくんも一緒に行くんだから、準備しなよ。ほら、起きるよ」
「ん、やだ」
聞き分けの悪い子どもみたいに駄々をこねている。どこか口調もふわふわとしていて、まだ寝ぼけているのがわかる。
レンくんはどうも朝に弱いらしい。いつでも甘えたな一面を見せてくれる彼だが、朝はより一層それが色濃い。そしてそんな彼に対して、私はついつい甘々になってしまうのだ。
お腹に周った腕に手を重ねると、レンくんが満足そうにすり寄ってくる。
「ハニー、好きだよ」
「ん、私も好きだよ」
低く掠れた声で愛を囁かれると、ああこのままでもいいかな、なんて思ってしまう。
レンくんの熱に浮かされて、瞼が再び重くなっていく。
「って、ダメだから!ほんと、トキヤくんに怒られるって」
「あれ、流されてくれないんだね」
「流されないよ!ほら起きる!」
うっかり二度寝に向かいそうだったのを慌てて起き上がる。まったく油断も隙もあったっものじゃない。甘えているように見えて、実は計算の上だったりするからこの男は侮れないのだ。
「もう遅いし、ご飯はお昼と一緒でいいよね」
「うん、いいんじゃないかな」
「うわっ、寝癖ひどいし……最悪ぅ……」
「ふふっ、俺に整えさせてよ」
「わーっ!!ベッドから出るならちゃんと服着てください!」
楽しそうにこちらに近寄ってくる裸の男を制止する。
「ん?どうしてだい?」
「わかってやってるでしょ。時間ないんだからね、さっさと服着て!」
「釣れないなあ」
***
どうもマイペースなレンくんを急かしながら、やっと家を出たのは一時間近く経ってからだった。
「で、何か言うことは?」
「ごめんなさい……」
下手な言い訳は通用しない。というか、どう考えてもこちらに非しかないので素直に謝るほかない。
「許してあげてよ、イッチー。彼女お疲れだったんだ」
「何他人事のようにいっているんですか。貴方も同罪ですよ、レン」
「わかってるよ、ごめんね。お詫びとしてここはご馳走させてよ。ほら、ハニー。好きなもの食べてね」
「朝食べてないからすごくお腹すいたー。何にしようかなぁ」
「……どうも釈然としませんね」
「今更だろ……」
2019.7.24
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