うたのプリンスさま短編集
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【甘くない】
「ねえトキヤ、新しいドラマ見てくれた?」
「あっ、見た見た!俺、1話からびっくりしちゃった」
なぜか返事をしたのはトキヤではなく音也くんだった。
「マサも名前も大人っぽくてさ、ドキドキしちゃった」
音也くんが少し頬を赤らめてそういう。素直に嬉しい感想だ。
「ね、トキヤってばー」
それでも、肝心のトキヤが返事をしてくれないのが不満で、私はトキヤの肩を揺らした。顔もあげないまま雑誌か何かに熱中している。
「うるさいですよ。なぜ、当然のように私たちの楽屋にいるんですか」
やっと顔をあげたトキヤは少し眉を寄せて険しい顔だ。
「いいじゃないか、イッチー。レディがいると賑やかで」
「Yes!名前がいると楽しいです」
「だって、トキヤ。みんな歓迎してくれてるよ」
「はい!大歓迎ですよー。名前ちゃん、お菓子食べますか?」
「わーい!那月くんありがとー」
那月くんに餌付けをされながらトキヤを見やれば、呆れたようにため息をついている。
「はぁ……まぁ、いいです」
あ、あれは相手にするのがめんどくさいから諦めた顔だ。
「でさ、見てくれた?ドラマ」
肝心の話題に話を戻す。
「ええ、見ましたよ」
「どうだった?」
「衝撃の展開でしたね。続きの気になる1話でした」
「そうじゃなくってさ……」
あくまでドラマの感想を述べるトキヤにしびれを切らして、私は単刀直入に問うた。
「嫉妬……した?」
「はぁ……?」
なんとひどい顔か。ファンが見たら泣きそうなくらい、アイドルがしちゃいけない顔をしている。心底理解できないというように、顔を歪ませてこちらを見ている。
「おい、苗字……。何を言っている」
「だって、私真斗くんとあんなに激しくキスしたんだよ?」
「そ、そうだが……あれは演技だろう……」
「演技でもキスはしたもーん」
つい先日1話が放送されたドラマで、私と真斗くんは恋人役を演じている。と言っても、恋人になるのはまだ先の話で、1話の段階では出会って間もないのだが、それなのにあんなに激しいキスシーンが話題を呼んでいる作品だ。
「嫉妬なんてしませんよ。聖川さんの言う通り、あれは仕事でしょう」
やっぱり呆れたようにため息をついたトキヤが、興味なさげに言う。
「でもさー、共演がきっかけで始める恋って珍しくないよ?」
「聖川さんがそんなことするはずないでしょう」
「そうだ。友人の彼女に手を出すなど、するはずがないだろう」
真斗くんにも否定されて、ぶーっと口を膨らませた。
「子供みたいなことしないでください。全く……あなたもプロなんですから、仕事には真面目に取り組みなさい」
「仕事には真面目だもん」
「はいはい、そうですか」
話は終わったとばかりに雑誌に目を戻すトキヤ。
少しくらい気にしてくれるんじゃないかと思っていたけど、トキヤに夢を見すぎたみたいだ。彼はプロ意識が高い。そりゃあ当然、ドラマの中に嫉妬したりはしないんだろう。
私だったら、トキヤと他の女の子のキスシーンなんて嫉妬でどうにかなってしまいそうだ。
「イッチーは冷たいねえ」
「いや、一ノ瀬の姿勢は見習うべきだ。プロとして素晴らしい」
「レディの気持ちもわかるけどね。まぁ、いちいち気にしていたらこの仕事はできないからね」
レンくんが慰めるように頭をポンポンしてくれる。
「おい、神宮寺。不必要な接触はやめろ」
「なんだい?お前は名前のなんでもないだろう?」
私を挟んで険悪なムードになるのはやめてほしい。
私をおいて何か言い合いを始めた二人の間で、私はぽちぽちとスマホをいじる。その中に一枚の写真を見つけて、今日のもう1つの目的を思い出した。
「ねえねえ真斗くん。この写真見て」
私のスマホの画面を覗き込んで、真斗くんが「あぁ」と頷く。
「撮影で行ったカフェだな」
「そうそう!でね、今期間限定スイーツがあるんだって。和風特集らしくてね」
画面をスワイプして写真を何枚か送る。
「ほぅ……美味そうだな」
「でしょー。今度一緒に行こうよ」
「えー!なになに?俺も行きたーい!」
音也くんが話に割り込んできて、画面を覗き込む。
「ね、俺も一緒に行っていい?」
「いいよー」
「ダメです」
私の許可の後に、却下の声が入る。
「何堂々とデートの約束をしているんですか?」
「聞いてたんだ」
てっきり、こっちの会話には興味がないものだと思っていた。というか、デートって。
「それは気にもなりますよ。なにせ自分の彼女が堂々とデートの約束をしているものですから」
「いや、デートって。たまたま撮影で行ったお店だったし、誘っただけじゃん。それに、真斗くん相手なら安心なんじゃなかったの?」
「ええ、もちろん聖川さんのことは信頼してますよ。ですが、まずプライベートは別です。好きな女性が他の男性と出かけるのにいい気はしません」
「ひゅー!イッチーやるねぇ!」
「レン、黙りなさい」
冷やかしたレンくんがすごい勢いで睨まれている。本人は全く気にしてなさそうだけど。
「む……一ノ瀬がそういうのなら、俺は遠慮しておこう」
「えぇー、じゃあ俺も……」
「え、ちょっと!なんでよ!行こうよ!」
「コラ!あなたは、私の話を聞いていなかったんですか」
遠慮した二人に食いさがる私を引き剥がすように、トキヤに後ろから引っ張られる。
「だって、トキヤは甘いものなんて絶対一緒に行ってくれないじゃん!」
その手から逃れるように身をよじる。
トキヤは健康志向が強いし、体型維持にも気を遣っている。だから普段から甘いものなんて口にすることが少ない。ましてや、わざわざ食べに行くなんてことしてくれないだろう。
「一緒に行くくらい、いくらでもして差し上げますけど!?不満がありますか!?」
「あるよ!トキヤ、自分は頼まないじゃん!私は、一緒に行って、別のもの頼んで、シェアしたいの!」
「ぐっ……それは……」
トキヤが言葉に詰まる。
「一緒に行く相手にお困りなら、俺が一緒に行ってあげるよ。イッキたちは遠慮するみたいだしね」
「おい、神宮寺。お前ってやつは……」
「レンくんはだめー。注文したの、ほとんど私が食べることになるんだもん、言葉たくみにさ、気づいたら私の脂肪になってる。いっつもそう」
「俺はレディが美味しそうに食べているのを見るのが好きなだけだよ」
嘘つけ。知ってるんだぞ。レンくんはあんまり甘いのが得意じゃない。それでも、嫌な顔せずに付き合ってくれて、さらに楽しませてくれるのだから最高だけど。彼といるとものすごい勢いで太る気がする。
「ちょっと待ちなさい。その口ぶりだと、何度も一緒に出かけているように聞こえるのですが……」
「しばらく同じ現場の時があったからね。帰りに何度か」
トキヤがキっと私を睨む。
「トキヤと付き合う前の話だもん……一部は」
一部は、付き合い始めた後だったかもしれない。
「……いいでしょう。行きましょう、そのお店。そして、それぞれスイーツを頼めばいいんでしょう?」
「え?」
「もちろん私も食べます。一緒に食べられれば、それで満足なんでしょう?」
「うん……嬉しいけど、いいの?」
「ええ、彼女のお願いなので。叶えてやりたいと思うのも当然でしょう」
意外だ。トキヤのことだから、なんだかんだと結局行けずに終わってしまうんじゃないかと思っていた。
「へへへー、トキヤって実は優しいところあるよね」
「そうですね、貴方相手だとどうやら甘いみたいです」
恋人の特権に少しにやける。
プライベートだからダメだなんて、しっかり独占欲も見せつけてくれちゃって満足だ。
「名前嬉しそうだね」
「あぁ……だが一ノ瀬は、悪い顔をしているな」
「レディは気づいてないみたいだけどね」
後日。約束通りトキヤとカフェに行った。そこまでは良かった。
「今度はこちらに付き合ってほしいことがあります」
とのお誘いに、私は二つ返事でOKした。
結果。
「摂取したカロリー分食事を調節するので付き合ってください」
「はぁああああ!?勝手にやってよ!私は美味しいものが食べたい!」
「貴方もアイドルでしょう。体型には気を遣ったらどうですか?」
「その顔ムカつくんだけど!別に私太ってないもん!」
結局。トキヤの食事制限メニューに付き合わされることとなった。
トキヤが私に甘いなんて、絶対に嘘だ。
2019.7.11
「ねえトキヤ、新しいドラマ見てくれた?」
「あっ、見た見た!俺、1話からびっくりしちゃった」
なぜか返事をしたのはトキヤではなく音也くんだった。
「マサも名前も大人っぽくてさ、ドキドキしちゃった」
音也くんが少し頬を赤らめてそういう。素直に嬉しい感想だ。
「ね、トキヤってばー」
それでも、肝心のトキヤが返事をしてくれないのが不満で、私はトキヤの肩を揺らした。顔もあげないまま雑誌か何かに熱中している。
「うるさいですよ。なぜ、当然のように私たちの楽屋にいるんですか」
やっと顔をあげたトキヤは少し眉を寄せて険しい顔だ。
「いいじゃないか、イッチー。レディがいると賑やかで」
「Yes!名前がいると楽しいです」
「だって、トキヤ。みんな歓迎してくれてるよ」
「はい!大歓迎ですよー。名前ちゃん、お菓子食べますか?」
「わーい!那月くんありがとー」
那月くんに餌付けをされながらトキヤを見やれば、呆れたようにため息をついている。
「はぁ……まぁ、いいです」
あ、あれは相手にするのがめんどくさいから諦めた顔だ。
「でさ、見てくれた?ドラマ」
肝心の話題に話を戻す。
「ええ、見ましたよ」
「どうだった?」
「衝撃の展開でしたね。続きの気になる1話でした」
「そうじゃなくってさ……」
あくまでドラマの感想を述べるトキヤにしびれを切らして、私は単刀直入に問うた。
「嫉妬……した?」
「はぁ……?」
なんとひどい顔か。ファンが見たら泣きそうなくらい、アイドルがしちゃいけない顔をしている。心底理解できないというように、顔を歪ませてこちらを見ている。
「おい、苗字……。何を言っている」
「だって、私真斗くんとあんなに激しくキスしたんだよ?」
「そ、そうだが……あれは演技だろう……」
「演技でもキスはしたもーん」
つい先日1話が放送されたドラマで、私と真斗くんは恋人役を演じている。と言っても、恋人になるのはまだ先の話で、1話の段階では出会って間もないのだが、それなのにあんなに激しいキスシーンが話題を呼んでいる作品だ。
「嫉妬なんてしませんよ。聖川さんの言う通り、あれは仕事でしょう」
やっぱり呆れたようにため息をついたトキヤが、興味なさげに言う。
「でもさー、共演がきっかけで始める恋って珍しくないよ?」
「聖川さんがそんなことするはずないでしょう」
「そうだ。友人の彼女に手を出すなど、するはずがないだろう」
真斗くんにも否定されて、ぶーっと口を膨らませた。
「子供みたいなことしないでください。全く……あなたもプロなんですから、仕事には真面目に取り組みなさい」
「仕事には真面目だもん」
「はいはい、そうですか」
話は終わったとばかりに雑誌に目を戻すトキヤ。
少しくらい気にしてくれるんじゃないかと思っていたけど、トキヤに夢を見すぎたみたいだ。彼はプロ意識が高い。そりゃあ当然、ドラマの中に嫉妬したりはしないんだろう。
私だったら、トキヤと他の女の子のキスシーンなんて嫉妬でどうにかなってしまいそうだ。
「イッチーは冷たいねえ」
「いや、一ノ瀬の姿勢は見習うべきだ。プロとして素晴らしい」
「レディの気持ちもわかるけどね。まぁ、いちいち気にしていたらこの仕事はできないからね」
レンくんが慰めるように頭をポンポンしてくれる。
「おい、神宮寺。不必要な接触はやめろ」
「なんだい?お前は名前のなんでもないだろう?」
私を挟んで険悪なムードになるのはやめてほしい。
私をおいて何か言い合いを始めた二人の間で、私はぽちぽちとスマホをいじる。その中に一枚の写真を見つけて、今日のもう1つの目的を思い出した。
「ねえねえ真斗くん。この写真見て」
私のスマホの画面を覗き込んで、真斗くんが「あぁ」と頷く。
「撮影で行ったカフェだな」
「そうそう!でね、今期間限定スイーツがあるんだって。和風特集らしくてね」
画面をスワイプして写真を何枚か送る。
「ほぅ……美味そうだな」
「でしょー。今度一緒に行こうよ」
「えー!なになに?俺も行きたーい!」
音也くんが話に割り込んできて、画面を覗き込む。
「ね、俺も一緒に行っていい?」
「いいよー」
「ダメです」
私の許可の後に、却下の声が入る。
「何堂々とデートの約束をしているんですか?」
「聞いてたんだ」
てっきり、こっちの会話には興味がないものだと思っていた。というか、デートって。
「それは気にもなりますよ。なにせ自分の彼女が堂々とデートの約束をしているものですから」
「いや、デートって。たまたま撮影で行ったお店だったし、誘っただけじゃん。それに、真斗くん相手なら安心なんじゃなかったの?」
「ええ、もちろん聖川さんのことは信頼してますよ。ですが、まずプライベートは別です。好きな女性が他の男性と出かけるのにいい気はしません」
「ひゅー!イッチーやるねぇ!」
「レン、黙りなさい」
冷やかしたレンくんがすごい勢いで睨まれている。本人は全く気にしてなさそうだけど。
「む……一ノ瀬がそういうのなら、俺は遠慮しておこう」
「えぇー、じゃあ俺も……」
「え、ちょっと!なんでよ!行こうよ!」
「コラ!あなたは、私の話を聞いていなかったんですか」
遠慮した二人に食いさがる私を引き剥がすように、トキヤに後ろから引っ張られる。
「だって、トキヤは甘いものなんて絶対一緒に行ってくれないじゃん!」
その手から逃れるように身をよじる。
トキヤは健康志向が強いし、体型維持にも気を遣っている。だから普段から甘いものなんて口にすることが少ない。ましてや、わざわざ食べに行くなんてことしてくれないだろう。
「一緒に行くくらい、いくらでもして差し上げますけど!?不満がありますか!?」
「あるよ!トキヤ、自分は頼まないじゃん!私は、一緒に行って、別のもの頼んで、シェアしたいの!」
「ぐっ……それは……」
トキヤが言葉に詰まる。
「一緒に行く相手にお困りなら、俺が一緒に行ってあげるよ。イッキたちは遠慮するみたいだしね」
「おい、神宮寺。お前ってやつは……」
「レンくんはだめー。注文したの、ほとんど私が食べることになるんだもん、言葉たくみにさ、気づいたら私の脂肪になってる。いっつもそう」
「俺はレディが美味しそうに食べているのを見るのが好きなだけだよ」
嘘つけ。知ってるんだぞ。レンくんはあんまり甘いのが得意じゃない。それでも、嫌な顔せずに付き合ってくれて、さらに楽しませてくれるのだから最高だけど。彼といるとものすごい勢いで太る気がする。
「ちょっと待ちなさい。その口ぶりだと、何度も一緒に出かけているように聞こえるのですが……」
「しばらく同じ現場の時があったからね。帰りに何度か」
トキヤがキっと私を睨む。
「トキヤと付き合う前の話だもん……一部は」
一部は、付き合い始めた後だったかもしれない。
「……いいでしょう。行きましょう、そのお店。そして、それぞれスイーツを頼めばいいんでしょう?」
「え?」
「もちろん私も食べます。一緒に食べられれば、それで満足なんでしょう?」
「うん……嬉しいけど、いいの?」
「ええ、彼女のお願いなので。叶えてやりたいと思うのも当然でしょう」
意外だ。トキヤのことだから、なんだかんだと結局行けずに終わってしまうんじゃないかと思っていた。
「へへへー、トキヤって実は優しいところあるよね」
「そうですね、貴方相手だとどうやら甘いみたいです」
恋人の特権に少しにやける。
プライベートだからダメだなんて、しっかり独占欲も見せつけてくれちゃって満足だ。
「名前嬉しそうだね」
「あぁ……だが一ノ瀬は、悪い顔をしているな」
「レディは気づいてないみたいだけどね」
後日。約束通りトキヤとカフェに行った。そこまでは良かった。
「今度はこちらに付き合ってほしいことがあります」
とのお誘いに、私は二つ返事でOKした。
結果。
「摂取したカロリー分食事を調節するので付き合ってください」
「はぁああああ!?勝手にやってよ!私は美味しいものが食べたい!」
「貴方もアイドルでしょう。体型には気を遣ったらどうですか?」
「その顔ムカつくんだけど!別に私太ってないもん!」
結局。トキヤの食事制限メニューに付き合わされることとなった。
トキヤが私に甘いなんて、絶対に嘘だ。
2019.7.11
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