勝手な未来
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「お小夜!どこにいくんです!待ちなさい!」
宗三の静止など聞こえていないように、小夜は門へと駆け出した。向かうのは当然、主の元だ。
「復讐してやる……復讐してやる……!」
呪いの言葉のようにぶつぶつと口の中で繰り返しつぶやいて、門に飛び込もうとした小夜の前に突然現れた人影によって、門を出ることはできなかった。
「邪魔だよ、どいて……」
「おや、どちらへ向かうというのです?審神者の許可なく出陣することは禁じられているはずですが……」
見知らぬ顔の登場に、小夜を追いかけてきた刀剣たちも警戒の色を強める。
「おや、そんなに警戒しないでください。私は政府より遣わされました、まあ役人のようなものでしょうか。状況は把握しています。政府の方でも調査を進めますので、皆様はどうかご辛抱を」
にこやかにそういった男は30代中頃だろうか。穏やかなその笑顔は、どこか張り付いたもののように見えて胡散臭さがぬぐい切れない。
「主が連れ去られたのに、黙って指をくわえていろと?」
「ええ、そうです。主のいない刀剣は道具の役目すら果たせない。貴方達にできることは何もありませんよ。あぁ、ご安心ください、此度の件は政府がしっかり調査いたします。もちろん、結果はご報告しますので、それまでは本丸にて待機という形でお願いしますね」
「それでは」と、言うだけ言って政府の役人はそのまま帰ってしまう。
残された刀剣達は、その胸に広がった感情をぶつける相手を失い、ただ奥歯を噛むしかなかった。
「……全員、待機だ」
「隊長……!」
第一部隊の隊長を務めている山姥切の言葉に、何人かが声をあげる。
「貴方は、主が連れ去られて、平気でいられるの……?」
その小さな体から殺気に近いどす黒いオーラを放って、小夜が問う。その瞳は復讐にとりつかれて、まっすぐに山姥切を睨みつけていた。
「平気なわけ、ないだろう」
「ならどうして……!」
「お前が、俺たちが、飛び出して行って何ができるんだ?政府を敵に回して、主の帰りを待つことなく処罰を受けるのが正しいとでも言うのか?」
その山姥切の言葉に、反論できるものは誰もいなかった。山姥切の判断は正しい。
もちろん、山姥切だって、今すぐにでも遡行軍を追いかけて見つけ出し、1人残らず消してやりたかった。だが、隊長を任された立場である自分が、そんな判断を軽率に下していけないことは重々わかっていた。それができるからこそ、山姥切が隊長を務めているのだ。
「僕は、僕は……っ!あの人に会えて、やっと復讐以外の何かが見つけられそうだったんだ……。なのに、どうしてあの人を……」
「小夜、部屋に戻るぞ。隊長さんの命令だ」
第一部隊唯一の短刀は、同じく第一部隊の鶴丸によって部屋へと戻っていく。その手は強く握られ、わなわなと震えていた。そうしていなければ、胸の内に広がる黒い感情に飲み込まれてしまいそうだった。
「主……っ!」
「あんなこと言っておいて、自分は今すぐにでも飛び出して行きそうな顔だな」
小夜を戻らせ、山姥切は再びやってくる自分の気持ちを必死に押し殺した。だが、それは長く付き合ってきた仲間にはお見通しのようだ。
「……そんなことはしない。主に、会わせる顔がなくなるだろう」
「隊長が立派で助かるな」
「そういうあんただって、こんなところまで何しに来た」
「別に……用があったわけじゃない」
そう答える大倶利伽羅の手にはしっかりと刀が握られている。それはまさに今から戦いに挑むような出で立ちだ。
「……そうか。俺たちも戻るぞ」
そのことには言及せず、山姥切は門に背を向けて歩き出す。
「軽傷者、中傷者多数。重傷者二振、うち一振はもう虫の息だ」
「わかってる。長くは待つつもりはない」
大倶利伽羅の言葉に、山姥切ははっきりとした決意を込めて返す。覚悟は決まっている。
「いいのか。あんたは、あいつの一番の刀だろう」
「だからこそ、俺がやるんだ。そのあとは、他の奴らがそばにいてやればいい」
そんな身勝手を、きっと審神者は許さないだろう。
山姥切は、自分を自慢の刀だと誇ってくれる審神者の笑顔を思い出す。自分を写しでもなんでもなく、ただ一振の刀として評価してくれた審神者のために。その自慢の刀を振るう覚悟は随分前から出来ている。たとえそれが審神者を悲しませることになろうとも、審神者の未来に自分がいなくても、それでも守り抜くのが刀の役目だと。
「いつでも出陣の準備はできている。行くなら声をかけろ」
それだけ言うと、大倶利伽羅は山姥切を追い越して、すたすたと先を歩いて行ってしまう。
「お、おい!これは俺が……!」
「あいつを救いたいのはあんただけじゃない。知らないところで、勝手にいなくなられるなんて、ごめんだ」
山姥切だけではない。審神者と過ごす中で、道具として振るわれるだけでなく、彼女を守りたいとそう思っていたのは皆同じだ。
それは、第一部隊を始め、審神者の危機に駆けつけることすらできなかった多くの刀が考えていることだ。そして、審神者のそばにいながら、最後の最後で彼女を1人にしてしまった刀も。
審神者の消息がつかめるまで、本丸にて待機。
その指示を受け入れた本丸は静かな夜を迎えていた。だが、それぞれの胸の中で確かな覚悟がひとつ、またひとつと固まっていく。
審神者が助かるのなら、たとえもう主のもとに帰れないとしても、主の刀としてその身を尽くそうと。
2019.4.30
宗三の静止など聞こえていないように、小夜は門へと駆け出した。向かうのは当然、主の元だ。
「復讐してやる……復讐してやる……!」
呪いの言葉のようにぶつぶつと口の中で繰り返しつぶやいて、門に飛び込もうとした小夜の前に突然現れた人影によって、門を出ることはできなかった。
「邪魔だよ、どいて……」
「おや、どちらへ向かうというのです?審神者の許可なく出陣することは禁じられているはずですが……」
見知らぬ顔の登場に、小夜を追いかけてきた刀剣たちも警戒の色を強める。
「おや、そんなに警戒しないでください。私は政府より遣わされました、まあ役人のようなものでしょうか。状況は把握しています。政府の方でも調査を進めますので、皆様はどうかご辛抱を」
にこやかにそういった男は30代中頃だろうか。穏やかなその笑顔は、どこか張り付いたもののように見えて胡散臭さがぬぐい切れない。
「主が連れ去られたのに、黙って指をくわえていろと?」
「ええ、そうです。主のいない刀剣は道具の役目すら果たせない。貴方達にできることは何もありませんよ。あぁ、ご安心ください、此度の件は政府がしっかり調査いたします。もちろん、結果はご報告しますので、それまでは本丸にて待機という形でお願いしますね」
「それでは」と、言うだけ言って政府の役人はそのまま帰ってしまう。
残された刀剣達は、その胸に広がった感情をぶつける相手を失い、ただ奥歯を噛むしかなかった。
「……全員、待機だ」
「隊長……!」
第一部隊の隊長を務めている山姥切の言葉に、何人かが声をあげる。
「貴方は、主が連れ去られて、平気でいられるの……?」
その小さな体から殺気に近いどす黒いオーラを放って、小夜が問う。その瞳は復讐にとりつかれて、まっすぐに山姥切を睨みつけていた。
「平気なわけ、ないだろう」
「ならどうして……!」
「お前が、俺たちが、飛び出して行って何ができるんだ?政府を敵に回して、主の帰りを待つことなく処罰を受けるのが正しいとでも言うのか?」
その山姥切の言葉に、反論できるものは誰もいなかった。山姥切の判断は正しい。
もちろん、山姥切だって、今すぐにでも遡行軍を追いかけて見つけ出し、1人残らず消してやりたかった。だが、隊長を任された立場である自分が、そんな判断を軽率に下していけないことは重々わかっていた。それができるからこそ、山姥切が隊長を務めているのだ。
「僕は、僕は……っ!あの人に会えて、やっと復讐以外の何かが見つけられそうだったんだ……。なのに、どうしてあの人を……」
「小夜、部屋に戻るぞ。隊長さんの命令だ」
第一部隊唯一の短刀は、同じく第一部隊の鶴丸によって部屋へと戻っていく。その手は強く握られ、わなわなと震えていた。そうしていなければ、胸の内に広がる黒い感情に飲み込まれてしまいそうだった。
「主……っ!」
「あんなこと言っておいて、自分は今すぐにでも飛び出して行きそうな顔だな」
小夜を戻らせ、山姥切は再びやってくる自分の気持ちを必死に押し殺した。だが、それは長く付き合ってきた仲間にはお見通しのようだ。
「……そんなことはしない。主に、会わせる顔がなくなるだろう」
「隊長が立派で助かるな」
「そういうあんただって、こんなところまで何しに来た」
「別に……用があったわけじゃない」
そう答える大倶利伽羅の手にはしっかりと刀が握られている。それはまさに今から戦いに挑むような出で立ちだ。
「……そうか。俺たちも戻るぞ」
そのことには言及せず、山姥切は門に背を向けて歩き出す。
「軽傷者、中傷者多数。重傷者二振、うち一振はもう虫の息だ」
「わかってる。長くは待つつもりはない」
大倶利伽羅の言葉に、山姥切ははっきりとした決意を込めて返す。覚悟は決まっている。
「いいのか。あんたは、あいつの一番の刀だろう」
「だからこそ、俺がやるんだ。そのあとは、他の奴らがそばにいてやればいい」
そんな身勝手を、きっと審神者は許さないだろう。
山姥切は、自分を自慢の刀だと誇ってくれる審神者の笑顔を思い出す。自分を写しでもなんでもなく、ただ一振の刀として評価してくれた審神者のために。その自慢の刀を振るう覚悟は随分前から出来ている。たとえそれが審神者を悲しませることになろうとも、審神者の未来に自分がいなくても、それでも守り抜くのが刀の役目だと。
「いつでも出陣の準備はできている。行くなら声をかけろ」
それだけ言うと、大倶利伽羅は山姥切を追い越して、すたすたと先を歩いて行ってしまう。
「お、おい!これは俺が……!」
「あいつを救いたいのはあんただけじゃない。知らないところで、勝手にいなくなられるなんて、ごめんだ」
山姥切だけではない。審神者と過ごす中で、道具として振るわれるだけでなく、彼女を守りたいとそう思っていたのは皆同じだ。
それは、第一部隊を始め、審神者の危機に駆けつけることすらできなかった多くの刀が考えていることだ。そして、審神者のそばにいながら、最後の最後で彼女を1人にしてしまった刀も。
審神者の消息がつかめるまで、本丸にて待機。
その指示を受け入れた本丸は静かな夜を迎えていた。だが、それぞれの胸の中で確かな覚悟がひとつ、またひとつと固まっていく。
審神者が助かるのなら、たとえもう主のもとに帰れないとしても、主の刀としてその身を尽くそうと。
2019.4.30