勝手な未来
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どれくらい泣いていただろう。
控えめに、ふすまの外から叩くような音がした。
その音に、涙を止めて警戒を強める。戸を一枚隔てて、向こうには遡行軍がいる。刀を持たない審神者には抵抗する術など何もない。それが、どれほど恐ろしいことか。
刀を失って初めて、彼らに心まで守られていたのだと実感する。彼らがいてくれたから、敵を前にしても恐れずに向き合うことができたのだ。
静かに開く襖から姿を見せたのは一振の打刀だった。
一礼して、中に入ってきた刀はそのまま審神者に向かってくる。
恐ろしさから、後ずさるように彼との距離を取ろうとした審神者だが、広くはない部屋だ。すぐに背中が壁にぶつかってしまう。
逃げ道をなくした審神者に、打刀は遠慮なしに距離を詰めてくる。
刀こそ退いていないものの、その表情のない顔からはなにも伺うことはできず、ただ目だけが怪しい光を放っている。
打刀の手が審神者に伸びる。
「ひ……っ!」
無意識に喉の奥が鳴る。打刀から顔を背け、体を小さく縮こませた。
覚悟した感触はやってこない。
荒い息を繰り返しながら、審神者はそっと顔をあげた。そこには伸ばしかけた手を途中で止めて、ただこちらを見つめる打刀の姿があった。
審神者と目が会うと、その手を引っ込めて、そして膝を審神者の前に膝をついた。視線を合わせ、まるで小さな生き物に「こわくない」とでも言い聞かせるように、そっと、ゆっくり、手のひらを審神者に差し出してきたのだ。
「な、なに……なんなの……?」
予想外の行動に審神者は困惑した。
遡行軍が、こんな風に人のようなことをするのか。人の姿をした刀。禍々しいことを除けば、それは刀剣男士のようにも見えた。
「私を、どうするつもり……?」
意思の疎通ができる。審神者はそう感じた。
だが、返事はない。
伸ばされた手は、引っ込められることなく審神者の反応を待っているようだった。それは敵意はないという意思表示ととって良いのか。しばらく考えたが、審神者はこの刀に付き合い様子を見てみることにした。
差し出された手に自分の手を重ねると、彼はそれを控えめにそっと握った。それはまるで壊れ物を扱うかのような優しい手つきで、とても目の前の化け物のような姿をした刀の行動とは思えなかった。
審神者の手をとった彼は、そのまま審神者の手を引いて立ち上がらせる。そして、そのまま審神者を部屋から連れ出そうとしているようだった。
審神者はおとなしく、彼に従うことにする。連れてこられたここがどこなのか、どんな状況なのか、わからないことは山ほどある。少なくとも、この打刀は手を出してくる様子はなさそうなので、彼に付いてあたりを偵察するのは適当な判断だろう。
左足をかばうように、彼の案内に従った。
すると、彼はそれに気づいたのか、審神者を支えるように、体を寄せてきた。先ほどまでより強めに引かれた手は、体重をかけても良いということだろうか。
敵意がないどころか優しさすら感じるその刀の行動に、ますます疑問は深まるが、確かにこの足では動くのに不便だ。様子を見ながら、慎重に彼に体を預けると、打刀は満足げに頷いて再び歩き出した。
2019.4.27
控えめに、ふすまの外から叩くような音がした。
その音に、涙を止めて警戒を強める。戸を一枚隔てて、向こうには遡行軍がいる。刀を持たない審神者には抵抗する術など何もない。それが、どれほど恐ろしいことか。
刀を失って初めて、彼らに心まで守られていたのだと実感する。彼らがいてくれたから、敵を前にしても恐れずに向き合うことができたのだ。
静かに開く襖から姿を見せたのは一振の打刀だった。
一礼して、中に入ってきた刀はそのまま審神者に向かってくる。
恐ろしさから、後ずさるように彼との距離を取ろうとした審神者だが、広くはない部屋だ。すぐに背中が壁にぶつかってしまう。
逃げ道をなくした審神者に、打刀は遠慮なしに距離を詰めてくる。
刀こそ退いていないものの、その表情のない顔からはなにも伺うことはできず、ただ目だけが怪しい光を放っている。
打刀の手が審神者に伸びる。
「ひ……っ!」
無意識に喉の奥が鳴る。打刀から顔を背け、体を小さく縮こませた。
覚悟した感触はやってこない。
荒い息を繰り返しながら、審神者はそっと顔をあげた。そこには伸ばしかけた手を途中で止めて、ただこちらを見つめる打刀の姿があった。
審神者と目が会うと、その手を引っ込めて、そして膝を審神者の前に膝をついた。視線を合わせ、まるで小さな生き物に「こわくない」とでも言い聞かせるように、そっと、ゆっくり、手のひらを審神者に差し出してきたのだ。
「な、なに……なんなの……?」
予想外の行動に審神者は困惑した。
遡行軍が、こんな風に人のようなことをするのか。人の姿をした刀。禍々しいことを除けば、それは刀剣男士のようにも見えた。
「私を、どうするつもり……?」
意思の疎通ができる。審神者はそう感じた。
だが、返事はない。
伸ばされた手は、引っ込められることなく審神者の反応を待っているようだった。それは敵意はないという意思表示ととって良いのか。しばらく考えたが、審神者はこの刀に付き合い様子を見てみることにした。
差し出された手に自分の手を重ねると、彼はそれを控えめにそっと握った。それはまるで壊れ物を扱うかのような優しい手つきで、とても目の前の化け物のような姿をした刀の行動とは思えなかった。
審神者の手をとった彼は、そのまま審神者の手を引いて立ち上がらせる。そして、そのまま審神者を部屋から連れ出そうとしているようだった。
審神者はおとなしく、彼に従うことにする。連れてこられたここがどこなのか、どんな状況なのか、わからないことは山ほどある。少なくとも、この打刀は手を出してくる様子はなさそうなので、彼に付いてあたりを偵察するのは適当な判断だろう。
左足をかばうように、彼の案内に従った。
すると、彼はそれに気づいたのか、審神者を支えるように、体を寄せてきた。先ほどまでより強めに引かれた手は、体重をかけても良いということだろうか。
敵意がないどころか優しさすら感じるその刀の行動に、ますます疑問は深まるが、確かにこの足では動くのに不便だ。様子を見ながら、慎重に彼に体を預けると、打刀は満足げに頷いて再び歩き出した。
2019.4.27