勝手な未来
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いつの間にか気を失っていたらしい。
目を覚まして最初に飛び込んきたのは慣れた木の板の天井。そして、布団の感触。それはまるで、いつも通りの朝が来たのだと錯覚するような感覚だった。
だが、左太ももに走る痛みが、審神者を現実へと引き戻した。
ハッと全てを思い出して覚醒した頭で、飛び起き周りを確認する。そこは審神者の自室によく似ていた。周りには誰もいないようだ。
布団から抜け出すと、痛む太ももには綺麗な包帯が巻かれている。誰かが手当をしてくれたのだ。一体誰が。
ここに来るまでの記憶ははっきりしている。
審神者の本丸は突然の襲撃を受けた。主力メンバーが出払っていたところへの奇襲。無力な審神者はただ、逃げ出すことしかできず、ついにはそれすらも叶わず敵に捕まってしまったのだ。
短刀に拘束され、周りを取り囲まれて、逃げ出すことは不可能だと悟った。そのまま、彼らに連れられて山の中を移動した気がする。その辺りで気を失ったのだろう。そこから次の記憶は、さきほど目覚めたところまで飛ぶ。
記憶を頼りにするならば、審神者をここへ連れてきたのは、審神者を連れ去った遡行軍だろう。だが、目的がわからない。
本丸が襲撃を受ける、という事例はいくつも報告がある。珍しいことではあるが、ありえない話ではないのだ。
襲撃の目的は審神者の排除。遡行軍からしてみれば、正しい歴史を守ろうとする審神者たちは敵だ。それを根元から潰そうというのが彼らの目的だろう。現に、襲撃された本丸は返り討ちにするか、審神者が討ち取られて敗北するか、どちらかの運命をたどっている。
そこが、今回の襲撃における不可解な点だった。
審神者は、殺されることなく、誘拐されたのだ。そして、今もこうして命があるまま、傷の手当てまでされているではないか。現時点で、彼らには審神者を殺すつもりはないように思える。
一体、審神者を攫った遡行軍の目的とはなんなのか。
考えられるのは、人質という線だ。
審神者を殺したところで、また新たな審神者が本丸を引き継ぐことになれば、結局襲撃は意味をなさない。それならば、人質をとり、条件を突きつける方が良いと判断したのかもしれない。
しかし、それは間違いだ。
政府にとって、たった1人の審神者の命など、取るに足らないものだろう。命と引き換えに何か条件をつけたところで、彼らがそれを飲むなどとは到底思えない。そうなれば、用済みになった審神者に待つのは死。結局、殺されて終わってしまうのだろう。
「みんなは、無事かな……」
審神者をさらうことが目的だったおかげか、遡行軍は簡単に引き上げてくれた。本丸に残っていた練度の低い刀たちではとても勝てる戦いではなかった。決着をつけずに、引いてくれたことには少し安心している。
だが、心配なのは酷く傷ついた姿を確認した刀たちだ。
乱は無事だろうか。敵の太刀の攻撃をまともに食らって、人ならば命はないであろう大怪我を負っていた。最後に確認した姿は、まだ手入れが間に合うようだったが、あの後、敵のたちが彼を見逃してくれただろうか。
嫌な想像が頭を埋め尽くす。
いや、きっと大丈夫だ。敵の太刀は審神者たちを追いかける方を選んだようだった。きっと乱は、別の誰かに発見されて保護されているはずだ。そうに違いない。
そう思わないと心が押しつぶされてしまいそうだ。
前田は、あの小さく凛々しい刀は無事に大太刀を倒せたのだろうか。彼は約束はきちんと守る刀だ。折れたなどとは思っていない。思いたくない。
背後から聞こえた苦しげな声と、打ち付けられる鈍い音を振り払って、彼が向けてくれる笑顔を思い出す。きっと、きっと無事だ。賢い前田さんは無謀に命を投げ打つことなどしない。誰よりも、逃げて生きることを優先させてくれた彼が、そう簡単に死ぬはずがない。
「みんなに……会いたいよ……」
ぽつりと、本音が溢れる。
ただ、その無事な姿を見て安心したかった。その傷を癒してやりたかった。
視界がゆらゆらと滲んで、手のひらに熱いものが落ちた。次から次へと零れ落ちるそれは止まることなく審神者の手を、着物を濡らした。
2019.4.26
目を覚まして最初に飛び込んきたのは慣れた木の板の天井。そして、布団の感触。それはまるで、いつも通りの朝が来たのだと錯覚するような感覚だった。
だが、左太ももに走る痛みが、審神者を現実へと引き戻した。
ハッと全てを思い出して覚醒した頭で、飛び起き周りを確認する。そこは審神者の自室によく似ていた。周りには誰もいないようだ。
布団から抜け出すと、痛む太ももには綺麗な包帯が巻かれている。誰かが手当をしてくれたのだ。一体誰が。
ここに来るまでの記憶ははっきりしている。
審神者の本丸は突然の襲撃を受けた。主力メンバーが出払っていたところへの奇襲。無力な審神者はただ、逃げ出すことしかできず、ついにはそれすらも叶わず敵に捕まってしまったのだ。
短刀に拘束され、周りを取り囲まれて、逃げ出すことは不可能だと悟った。そのまま、彼らに連れられて山の中を移動した気がする。その辺りで気を失ったのだろう。そこから次の記憶は、さきほど目覚めたところまで飛ぶ。
記憶を頼りにするならば、審神者をここへ連れてきたのは、審神者を連れ去った遡行軍だろう。だが、目的がわからない。
本丸が襲撃を受ける、という事例はいくつも報告がある。珍しいことではあるが、ありえない話ではないのだ。
襲撃の目的は審神者の排除。遡行軍からしてみれば、正しい歴史を守ろうとする審神者たちは敵だ。それを根元から潰そうというのが彼らの目的だろう。現に、襲撃された本丸は返り討ちにするか、審神者が討ち取られて敗北するか、どちらかの運命をたどっている。
そこが、今回の襲撃における不可解な点だった。
審神者は、殺されることなく、誘拐されたのだ。そして、今もこうして命があるまま、傷の手当てまでされているではないか。現時点で、彼らには審神者を殺すつもりはないように思える。
一体、審神者を攫った遡行軍の目的とはなんなのか。
考えられるのは、人質という線だ。
審神者を殺したところで、また新たな審神者が本丸を引き継ぐことになれば、結局襲撃は意味をなさない。それならば、人質をとり、条件を突きつける方が良いと判断したのかもしれない。
しかし、それは間違いだ。
政府にとって、たった1人の審神者の命など、取るに足らないものだろう。命と引き換えに何か条件をつけたところで、彼らがそれを飲むなどとは到底思えない。そうなれば、用済みになった審神者に待つのは死。結局、殺されて終わってしまうのだろう。
「みんなは、無事かな……」
審神者をさらうことが目的だったおかげか、遡行軍は簡単に引き上げてくれた。本丸に残っていた練度の低い刀たちではとても勝てる戦いではなかった。決着をつけずに、引いてくれたことには少し安心している。
だが、心配なのは酷く傷ついた姿を確認した刀たちだ。
乱は無事だろうか。敵の太刀の攻撃をまともに食らって、人ならば命はないであろう大怪我を負っていた。最後に確認した姿は、まだ手入れが間に合うようだったが、あの後、敵のたちが彼を見逃してくれただろうか。
嫌な想像が頭を埋め尽くす。
いや、きっと大丈夫だ。敵の太刀は審神者たちを追いかける方を選んだようだった。きっと乱は、別の誰かに発見されて保護されているはずだ。そうに違いない。
そう思わないと心が押しつぶされてしまいそうだ。
前田は、あの小さく凛々しい刀は無事に大太刀を倒せたのだろうか。彼は約束はきちんと守る刀だ。折れたなどとは思っていない。思いたくない。
背後から聞こえた苦しげな声と、打ち付けられる鈍い音を振り払って、彼が向けてくれる笑顔を思い出す。きっと、きっと無事だ。賢い前田さんは無謀に命を投げ打つことなどしない。誰よりも、逃げて生きることを優先させてくれた彼が、そう簡単に死ぬはずがない。
「みんなに……会いたいよ……」
ぽつりと、本音が溢れる。
ただ、その無事な姿を見て安心したかった。その傷を癒してやりたかった。
視界がゆらゆらと滲んで、手のひらに熱いものが落ちた。次から次へと零れ落ちるそれは止まることなく審神者の手を、着物を濡らした。
2019.4.26