勝手な未来
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「あれ、長谷部くん。もう帰ってきたんだ。随分早かったんだねぇ」
始まりは違和感とも呼べない、小さなものだった。
全ての部隊が出払っている本丸に、第一部隊が帰ってきた。予定よりも随分と早い帰還だった。
「どうしたんだい?何かあった……わけではなさそうだけど」
長谷部の様子を見るに、部隊に何かあったというわけではなさそうだった。そういった緊急性は感じられない。それならば、なぜこんなにも早い帰りなのか。
燭台切の質問に、長谷部は答える様子を見せない。燭台切のことなど、目に入っていないように、何かを探して通り過ぎていった。
一体どうしたんだろう。そうは思ったものの、その違和感は不安を感じるほどのものではなく、燭台切は首をかしげるだけに終わった。
同時刻。
「あれ、一兄です」
五虎退の声に顔をあげる面々。粟田口の兄弟たちだ。
「一兄は遠征に出ていたかと思うのですが……帰還の命令を?」
「ううん。出してないよ。どうしたんだろう、何かあったのかな」
前田の問いかけに、心当たりのない審神者は首をかしげる。
審神者の命令もなしに、遠征から帰還する理由など、あまり良いものは思いつかない。何かあったと考えるのが早いだろう。
「薬研兄さんたちの姿はありませんね。一兄は何か探しているようですが……主のことでしょうか?」
一緒に遠征に出ていた薬研や厚の姿は、一期のそばにはない。その一期は、何かを探すように、部屋の中を見て回っている。
「いちにーい!どうしたのー!」
一期に声をかけながら、乱が駆け寄って行く。
その声に振り返った一期は、乱の姿を確認して、そして、審神者に目を留めた。
一期と目が合うのを感じた審神者は、次の瞬間、乱に斬り掛かる一期の姿を理解できなかった。
「え」
口からは、小さく声が漏れただけだった。
一期一振が、一期一振だと思っていたものが、駆け寄った乱に斬りかかった。突然のことに、ましてや兄からの攻撃に、反応することができなかった乱はその攻撃を正面から受けてしまう。
兄が弟を切りつける。そんな受け入れがたい現実を飲み込むのに精一杯で、ただ倒れていく乱を見つめていることしかできなかった審神者を動かしたのは叫ぶような声だ。
「主さん逃げて……っ!!」
斬り捨てられ崩れ落ちながらも、乱はその目をこちらに向け、叫んだ。その言葉は審神者だけでなく、周りのものも動かした。
「主君、こちらです!」
いうのが早いか、手を引かれて、転がるすんでのところでなんとか足を動かす。
手を引いて前を走るのは前田。そして、審神者の後ろには平野と五虎退が続く。
「な、なんで……っ、い、いちにいが……乱兄さんが……」
走りながらも、その目には涙を浮かべる五虎退は、審神者同様、さきほどのことに気が動転しているらしい。それは何も五虎退だけではない。前田も、平野も、乱の声でなんとか我に返ったが、先ほどの光景が目に焼き付いて離れなかった。
「五虎退!あれは一兄ではありません!敵襲です!主をお守りすることを最優先に、いいですね!」
ぐずぐずと泣きべそをかいて、走るのもやっとな五虎退を平野が叱責する。
その平野も、あれは一期一振ではないと、自分に言い聞かせてやっと平然を装うことができていた。
「前田!どこへ向かいますか!」
「転移門へ向かいましょう!主君だけでも、別の時間へ逃すことができれば……!」
だが、一期一振を装った敵から逃げるように、建物から遠ざかって逃げる今、建物を挟んで反対側に位置する転移門からはどんどん距離が離れてしまっている。門へ向かうには、建物をぐるりと回り込んで反対側へ向かうか、屋内を突っ切って向こう側へ出るかのどちらかだ。
今、後ろに引き返すのは危険だとわかる。だが、敵襲があの一振だけでなかったとしたら、本丸中どこに危険が潜んでいるかわからない。その場合、敵との戦闘が避けられないことを考えれば、短刀が有利に動ける屋内戦に持ち込む方が良いと考えられる。
先ほどの敵との再遭遇のリスクを追って室内に入るべきか、決めあぐねているところへ飛び込んでくるのは鋭い声だ。
「敵襲だ!」
よく響くその声は和泉守のものだろうか。声が聞こえたのは建物を挟んだ向こうから、畑のあたりだろうか。
少なくとも、他にも敵はいることはわかった。おそらく部隊で攻め込んできたと考えていい。敵の数は未知数。そして不意打ちとはいえ、乱を一撃で斬り伏せた腕前。乱よりも練度の劣る前田たちではまともに太刀打ちできる相手かもわからない。
「室内に入りましょう」
その前田の決断に異論を唱えるものはいない。4人は身を小さくして、敵と遭遇しないことを願いながら、静かに、足早に、建物の中を進んでいった。
2019.4.24
始まりは違和感とも呼べない、小さなものだった。
全ての部隊が出払っている本丸に、第一部隊が帰ってきた。予定よりも随分と早い帰還だった。
「どうしたんだい?何かあった……わけではなさそうだけど」
長谷部の様子を見るに、部隊に何かあったというわけではなさそうだった。そういった緊急性は感じられない。それならば、なぜこんなにも早い帰りなのか。
燭台切の質問に、長谷部は答える様子を見せない。燭台切のことなど、目に入っていないように、何かを探して通り過ぎていった。
一体どうしたんだろう。そうは思ったものの、その違和感は不安を感じるほどのものではなく、燭台切は首をかしげるだけに終わった。
同時刻。
「あれ、一兄です」
五虎退の声に顔をあげる面々。粟田口の兄弟たちだ。
「一兄は遠征に出ていたかと思うのですが……帰還の命令を?」
「ううん。出してないよ。どうしたんだろう、何かあったのかな」
前田の問いかけに、心当たりのない審神者は首をかしげる。
審神者の命令もなしに、遠征から帰還する理由など、あまり良いものは思いつかない。何かあったと考えるのが早いだろう。
「薬研兄さんたちの姿はありませんね。一兄は何か探しているようですが……主のことでしょうか?」
一緒に遠征に出ていた薬研や厚の姿は、一期のそばにはない。その一期は、何かを探すように、部屋の中を見て回っている。
「いちにーい!どうしたのー!」
一期に声をかけながら、乱が駆け寄って行く。
その声に振り返った一期は、乱の姿を確認して、そして、審神者に目を留めた。
一期と目が合うのを感じた審神者は、次の瞬間、乱に斬り掛かる一期の姿を理解できなかった。
「え」
口からは、小さく声が漏れただけだった。
一期一振が、一期一振だと思っていたものが、駆け寄った乱に斬りかかった。突然のことに、ましてや兄からの攻撃に、反応することができなかった乱はその攻撃を正面から受けてしまう。
兄が弟を切りつける。そんな受け入れがたい現実を飲み込むのに精一杯で、ただ倒れていく乱を見つめていることしかできなかった審神者を動かしたのは叫ぶような声だ。
「主さん逃げて……っ!!」
斬り捨てられ崩れ落ちながらも、乱はその目をこちらに向け、叫んだ。その言葉は審神者だけでなく、周りのものも動かした。
「主君、こちらです!」
いうのが早いか、手を引かれて、転がるすんでのところでなんとか足を動かす。
手を引いて前を走るのは前田。そして、審神者の後ろには平野と五虎退が続く。
「な、なんで……っ、い、いちにいが……乱兄さんが……」
走りながらも、その目には涙を浮かべる五虎退は、審神者同様、さきほどのことに気が動転しているらしい。それは何も五虎退だけではない。前田も、平野も、乱の声でなんとか我に返ったが、先ほどの光景が目に焼き付いて離れなかった。
「五虎退!あれは一兄ではありません!敵襲です!主をお守りすることを最優先に、いいですね!」
ぐずぐずと泣きべそをかいて、走るのもやっとな五虎退を平野が叱責する。
その平野も、あれは一期一振ではないと、自分に言い聞かせてやっと平然を装うことができていた。
「前田!どこへ向かいますか!」
「転移門へ向かいましょう!主君だけでも、別の時間へ逃すことができれば……!」
だが、一期一振を装った敵から逃げるように、建物から遠ざかって逃げる今、建物を挟んで反対側に位置する転移門からはどんどん距離が離れてしまっている。門へ向かうには、建物をぐるりと回り込んで反対側へ向かうか、屋内を突っ切って向こう側へ出るかのどちらかだ。
今、後ろに引き返すのは危険だとわかる。だが、敵襲があの一振だけでなかったとしたら、本丸中どこに危険が潜んでいるかわからない。その場合、敵との戦闘が避けられないことを考えれば、短刀が有利に動ける屋内戦に持ち込む方が良いと考えられる。
先ほどの敵との再遭遇のリスクを追って室内に入るべきか、決めあぐねているところへ飛び込んでくるのは鋭い声だ。
「敵襲だ!」
よく響くその声は和泉守のものだろうか。声が聞こえたのは建物を挟んだ向こうから、畑のあたりだろうか。
少なくとも、他にも敵はいることはわかった。おそらく部隊で攻め込んできたと考えていい。敵の数は未知数。そして不意打ちとはいえ、乱を一撃で斬り伏せた腕前。乱よりも練度の劣る前田たちではまともに太刀打ちできる相手かもわからない。
「室内に入りましょう」
その前田の決断に異論を唱えるものはいない。4人は身を小さくして、敵と遭遇しないことを願いながら、静かに、足早に、建物の中を進んでいった。
2019.4.24