勝手な未来
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「報告、します……」
小さな声は震えて、言葉を紡ぐのがやっとだった。それでも、小さな刀はその震えを押さえ込んで、その事実を口にした。
「本丸は襲撃を受け、主さまが……殺されました」
伝えるべき事実を報告し、五虎退は堰を切ったように流れ出す涙を止めることなどできなかった。
本丸の主力が集まる部隊が出陣中に、それは起こった。
突然の、遡行軍による本丸襲撃。
本丸に残った刀達は、なんとか審神者を守ろうと奮闘した。短刀達は最後まで審神者のそばで彼女を守り、そして、その死を見届けることとなった。
「僕が、僕がいけなかったんです……!主さまを、離してしまったから……!僕が主さまから離れなければきっと……!」
一番最後まで審神者のそばで彼女を守り、最後には彼女を守るために敵と対峙した五虎退は自分の判断ミスを責めた。審神者の亡骸を前に、あふれる涙を止めようともせず泣き叫ぶ五虎退に声をかけられるものなどいなかった。
「近いうちに、この本丸には新しい審神者が配属されるでしょう。此度の件は非常に不幸な事故でしたが、みなさま気を落とされませんように。大丈夫です、次の主も良い方ですよ」
審神者を失い、光を失ったようなこの本丸において、ひどく似つかわしく無い笑顔でそう告げるのは、政府の役人を名乗る男だった。
「新しい主だと!?冗談じゃない!俺たちの主は……」
「死んだでしょう?」
掴みかかるような勢いで前に出た和泉守の言葉を遮って、役人はいう。
「死んだ人間に刀は振るえません。道具を道具として扱えない人間を主などとは呼べないでしょう。主が死ぬなど何も初めてのことではないでしょうに、何をそんなに狼狽える必要があるのです?」
審神者の死を何とも思っていないどころか、それを悲しむ刀剣達の心を逆なでするような言い方に、刀達の中で何かが弾けた。
「──刀を納めなさい。私を殺したところで、貴方達はこの本丸もろとも解体。政府への反逆者として、死後の主に泥を塗りたいのですか?」
死んでは主ではない、などと言っておきながら、今度は主をいいように使う。なんとも憎い言い方だ。だが、そんな男のいうことでも、死後の主に泥を塗るなど、そんなことがここの刀剣達にできるわけがなかった。
「賢明な判断ですね。理解がよくて助かります。それでは、後任の審神者に関してはまた追って連絡しましょう」
「いや、必要無い。俺たちは、新しい主を迎えるつもりなんて無い」
話は終わりだと、立ち去ろうとする男に、長谷部が宣言する。
「おや、つまり本丸の解体を望まれますか?勿体無いことではありますが、それを望むのなら致し方ありません。ではそのように手続きを────」
「必要無い。俺たちは、主の刀として在り続けるだけだ」
そんな長谷部の言葉に、男はあざ笑うようにして鼻で息をこぼす。
「ハッ……どうもお話を理解していただけないようですね……。貴方方の主は死んだ。それは事実だ、受け入れなさい」
「あぁ、そうだな。主は……死んだ」
ゆっくりと、その事実を飲み込むように、それを口にした。
審神者の死を認める発言に満足したのか、男はまた笑みを貼り付けてうんうんと頷いた。
「ええ、死んだんです。ですから……」
「だが、それを認めない……と言ったら?」
長谷部の言葉に、男は初めてその顔から笑みを決して、鋭い目で長谷部を射抜いた。
「俺たちがあの場にいたなら、きっと、もっと違う結果になっていたはずだ」
駆けつけたときには、もうすでに手遅れだった審神者の最期を思い出して、長谷部はその拳をぎゅっと握りしめた。
「歴史を変えることは認められません。ましてや、貴方達はそれを阻止する立場にあるはずだ。その刀が、ありもしない未来をかたるなど、どうかしている」
「どうかしている、か。そうかもしれない」
山姥切は、もう覚悟を決めているようだった。その強い意志のこもった瞳に、男は初めて、焦りを露わにした。
「歴史を変えるなど、あってはいけない!お前達は、主が守ってきたものを自らの手で塗り替えると、そういうことか!?」
余裕が崩れた男を、今度は長谷部が鼻で笑う番だった。
「もう、俺たちは、死んだあの人の刀ではないのだろう?ならばもう、あの人に従う必要は無いはずだ」
「……っ!貴様1人に何ができる!そんな勝手が通るはずが無いだろう!?」
「俺、1人?何を言っているあの人の刀は俺だけじゃ無いんでな」
長谷部の言葉に答えるように、そばに控えていた刀達はただ静かに男を見つめた。その瞳には、確かな覚悟が写っている。
「な、なっ……なんだと……」
「俺たちは行く。邪魔をするな」
男を押しのけ、門へ向かう長谷部。その後には他の刀剣達が続く。
「勝手に時間を超えるなど、許されることでは無いぞ!!」
「わかっている。あの人は……きっと怒るだろうな」
そういった長谷部の顔は、その人を思い浮かべているのかひどく穏やかだった。
「待て、待て……!」
長谷部に続く刀剣達も、その男の声を無視して門へ向かう。
みな、覚悟はできていた。
たとえこれが主の意志にそむく行いだとしても、刀剣達は己の感情に従い歴史を変えることを選んだのだ。その結果、主の死んだ未来に存在する自分たちの存在は無くなるとしても、主が生きた未来が続いていくのなら、後悔はなかった。
「俺たちは今、貴方の刀では無い……。見ず知らずの刀の勝手など、貴方は知らなくていいんだ……」
2019.5.4
小さな声は震えて、言葉を紡ぐのがやっとだった。それでも、小さな刀はその震えを押さえ込んで、その事実を口にした。
「本丸は襲撃を受け、主さまが……殺されました」
伝えるべき事実を報告し、五虎退は堰を切ったように流れ出す涙を止めることなどできなかった。
本丸の主力が集まる部隊が出陣中に、それは起こった。
突然の、遡行軍による本丸襲撃。
本丸に残った刀達は、なんとか審神者を守ろうと奮闘した。短刀達は最後まで審神者のそばで彼女を守り、そして、その死を見届けることとなった。
「僕が、僕がいけなかったんです……!主さまを、離してしまったから……!僕が主さまから離れなければきっと……!」
一番最後まで審神者のそばで彼女を守り、最後には彼女を守るために敵と対峙した五虎退は自分の判断ミスを責めた。審神者の亡骸を前に、あふれる涙を止めようともせず泣き叫ぶ五虎退に声をかけられるものなどいなかった。
「近いうちに、この本丸には新しい審神者が配属されるでしょう。此度の件は非常に不幸な事故でしたが、みなさま気を落とされませんように。大丈夫です、次の主も良い方ですよ」
審神者を失い、光を失ったようなこの本丸において、ひどく似つかわしく無い笑顔でそう告げるのは、政府の役人を名乗る男だった。
「新しい主だと!?冗談じゃない!俺たちの主は……」
「死んだでしょう?」
掴みかかるような勢いで前に出た和泉守の言葉を遮って、役人はいう。
「死んだ人間に刀は振るえません。道具を道具として扱えない人間を主などとは呼べないでしょう。主が死ぬなど何も初めてのことではないでしょうに、何をそんなに狼狽える必要があるのです?」
審神者の死を何とも思っていないどころか、それを悲しむ刀剣達の心を逆なでするような言い方に、刀達の中で何かが弾けた。
「──刀を納めなさい。私を殺したところで、貴方達はこの本丸もろとも解体。政府への反逆者として、死後の主に泥を塗りたいのですか?」
死んでは主ではない、などと言っておきながら、今度は主をいいように使う。なんとも憎い言い方だ。だが、そんな男のいうことでも、死後の主に泥を塗るなど、そんなことがここの刀剣達にできるわけがなかった。
「賢明な判断ですね。理解がよくて助かります。それでは、後任の審神者に関してはまた追って連絡しましょう」
「いや、必要無い。俺たちは、新しい主を迎えるつもりなんて無い」
話は終わりだと、立ち去ろうとする男に、長谷部が宣言する。
「おや、つまり本丸の解体を望まれますか?勿体無いことではありますが、それを望むのなら致し方ありません。ではそのように手続きを────」
「必要無い。俺たちは、主の刀として在り続けるだけだ」
そんな長谷部の言葉に、男はあざ笑うようにして鼻で息をこぼす。
「ハッ……どうもお話を理解していただけないようですね……。貴方方の主は死んだ。それは事実だ、受け入れなさい」
「あぁ、そうだな。主は……死んだ」
ゆっくりと、その事実を飲み込むように、それを口にした。
審神者の死を認める発言に満足したのか、男はまた笑みを貼り付けてうんうんと頷いた。
「ええ、死んだんです。ですから……」
「だが、それを認めない……と言ったら?」
長谷部の言葉に、男は初めてその顔から笑みを決して、鋭い目で長谷部を射抜いた。
「俺たちがあの場にいたなら、きっと、もっと違う結果になっていたはずだ」
駆けつけたときには、もうすでに手遅れだった審神者の最期を思い出して、長谷部はその拳をぎゅっと握りしめた。
「歴史を変えることは認められません。ましてや、貴方達はそれを阻止する立場にあるはずだ。その刀が、ありもしない未来をかたるなど、どうかしている」
「どうかしている、か。そうかもしれない」
山姥切は、もう覚悟を決めているようだった。その強い意志のこもった瞳に、男は初めて、焦りを露わにした。
「歴史を変えるなど、あってはいけない!お前達は、主が守ってきたものを自らの手で塗り替えると、そういうことか!?」
余裕が崩れた男を、今度は長谷部が鼻で笑う番だった。
「もう、俺たちは、死んだあの人の刀ではないのだろう?ならばもう、あの人に従う必要は無いはずだ」
「……っ!貴様1人に何ができる!そんな勝手が通るはずが無いだろう!?」
「俺、1人?何を言っているあの人の刀は俺だけじゃ無いんでな」
長谷部の言葉に答えるように、そばに控えていた刀達はただ静かに男を見つめた。その瞳には、確かな覚悟が写っている。
「な、なっ……なんだと……」
「俺たちは行く。邪魔をするな」
男を押しのけ、門へ向かう長谷部。その後には他の刀剣達が続く。
「勝手に時間を超えるなど、許されることでは無いぞ!!」
「わかっている。あの人は……きっと怒るだろうな」
そういった長谷部の顔は、その人を思い浮かべているのかひどく穏やかだった。
「待て、待て……!」
長谷部に続く刀剣達も、その男の声を無視して門へ向かう。
みな、覚悟はできていた。
たとえこれが主の意志にそむく行いだとしても、刀剣達は己の感情に従い歴史を変えることを選んだのだ。その結果、主の死んだ未来に存在する自分たちの存在は無くなるとしても、主が生きた未来が続いていくのなら、後悔はなかった。
「俺たちは今、貴方の刀では無い……。見ず知らずの刀の勝手など、貴方は知らなくていいんだ……」
2019.5.4