刀剣乱舞短編
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【嘘】
「私、審神者を引退することにしました」
審神者から突然告げられた事実。
「え……?何言って……」
「今日でこの本丸にいるのも最後です。みなさん、今までありがとうございました」
そう言って頭をさげる審神者の言葉を素直に受け入れられるものなど1人もいるはずがなかった。
「う、うそでしょ?なんで突然……」
ざわつく刀剣男士たちを置いて、広間を後にした審神者。
「よっっっっっし!みんな驚いてる!」
そう小声でつぶやくと小さくガッツポーズを決める。
今日はエイプリルフール。一年に一度嘘を吐いても良い日だ。彼らを驚かせるには何が良いかと考えて思いついたのがこれだ。
ルールとして、午後にはネタバラシをしなければいけない。今の時刻は11時を回ったところだ。もう少しだけ、みんなの反応を楽しむことができそうだ。審神者はニヤニヤするのをこらえて部屋に戻る。
期待したのだが、審神者を追ってきてくれる男士はいなかった。もっと理由を尋ねられたり、引き止められたりするものだと思っていた審神者は少しがっかりする。もしかして、自分はそんなに慕われていなかったのではないかと、よからぬ考えが頭をよぎる。
むしろ、自分が辞めることを喜んでいたらどうしようか。そう思ったら無性に寂しくなってきて、今しがた出てきたばかりの広間に急いで戻った。別に、少しくらい早くネタバラシをしたところで問題はないだろう。
「あ、主。もう少し待っててね」
広間に戻ると、何やら慌ただしく宴会のような準備をしている男士たちが目に入る。
「え、何してるの……?」
「主さまとのお別れ会の準備です!」
「主君の旅立ちを、ささやかながら祝わせてください」
「今まで審神者として、僕たちの主としてよく頑張ってくれたね」
「きっと君のことだから、何か考えがあってのことなんだろう?俺たちは応援するよ」
これはまずい。寂しがる彼らにネタバラシをして、この嘘は終わらせるつもりだったのに、なぜか彼らは楽しそうに準備を進めている。審神者を辞めることに関して、引き止めどころか、盛大に送り出すつもりのようだ。
「あ、あのさ……私が審神者やめちゃってもいいの……?」
「主が決めたことであれば、それに従うのが俺たちです。止めるなんてそんなこと、できるわけがないでしょう?」
いつだって一番の忠誠心を語る彼にそう言われてしまってはなんとも言えない。どうしたら良いのか。ここまでされて、「嘘でしたー」などとは言えない雰囲気だ。
「あ、えーと、でも私、みんなと離れるの寂しいな……なんて」
「いけませんな、主。心を強く持つのです」
「あのね?審神者、やめなくてもなんとかなるかもしれないなーって……」
「無理をすることはありませんよ。それで仕事が満足にできなくてはだめですから」
「ほら、まだみんなとやりたいことがあるし……」
「僕たちのことなら心配入りません!お気になさらず!」
なんとかやめないように、そちらの方向へ持って行きたいのだが、ことごとく言い負かされてしまう。まずい。このままでは本当にやめなければいけなくなってしまいそうだ。
それならば、一刻も早く嘘だったと言ってしまった方が傷は浅いのではないだろうか。ここまで準備させてしまって、激励の言葉までもらってしまって、怒られるのは覚悟している。でもそんなのは自分の蒔いた種だ、仕方ない。
それに、エイプリルフールなんて彼らには馴染みのないイベントだ。それを持ち込んでしまったのは審神者のミスだろう。
ネタバラシの覚悟を心に決めて、口を開く。
「あのね、みんな────」
「なーんてね、嘘だよ」
審神者の言葉は遮られた。今自分が言おうとしたことが、彼らの口から飛び出たことにびっくりする。
「嘘ついちゃってごめんね?」
「主さまが主さまでなくなっちゃうなんて、本当は寂しいです……」
「でも、先に嘘を吐いたのは君だもんね?」
「はっはっは、えいぷりるふーる、というやつだろう?俺がそんなイベントを逃すわけないじゃないか!」
得意げな顔で登場したのは鶴丸だ。
「鶴さんに協力してって言われた時はどうしようかと思ったけど……君がとんでもないことをいうから、つい乗ってしまったよね」
「そうだぞ!嘘を吐いたのは悪かったけど、ほんとは俺らだって嫌だったんだからな!」
「主、あまり人を悲しませるような嘘は関心しないよ」
「鶴丸殿がエイプリルフールの嘘だと教えてくれなければ、私も、弟たちも、貴方の言葉を信じていました」
「嘘だとわかっていなかったら、どんな手を使っても貴方を止めたでしょうね」
「主、嘘でもやめるなんて言わないで……?」
「ご、ごめんなさい……」
エイプリルフールの嘘は、彼らに仕返される形で終わりを告げた。
審神者の嘘は、鶴丸のおかげでみんなに見抜かれていたようだ。でもそのおかげで、みんなを深く悲しませるようなことにはならずに済んだらしい。嘘としては失敗に終わったが、これで良かったのかもしれない。
悲しむ反応が見たい、なんてみんなの気持ちを確かめるようなのは自分勝手でひどい嘘だったと反省する。
「まあ、久しぶりになかなかの驚きだったからなぁ。今回はお互い様ということで笑って終わろうじゃないか!」
「そうだね、僕たちも嘘を吐いたんだからおあいこだね」
もし、嘘だとバレていなかったら今頃笑ってはいられなかったかもしれない。そう思うと、審神者は自分の嘘を反省するとともに、鶴丸への感謝でいっぱいになる。
「ごめん、私、みんながどんな反応してくれるのかなって……」
「だから、もういいよって!」
「それに、俺たちもちょっと主の反応見て楽しんでたところあるからさ」
「焦ってる君の顔はなかなか面白かったぞ」
「しーっかりカメラに収めたき、ばっちりぜよ」
「おい、その写真後で俺にも寄越せ」
気になる会話が聞こえたことには一旦聞こえなかったふりをする。
お互い様、と言われてしまえば審神者も笑ってこの場を終えることしかできない。そうだ、そもそもエイプリルフールとは、嘘を笑って許してこそのものだ。
エイプリルフールに吐いた嘘は叶わなくなる、というのをどこかで聞いたことがある。それならば、今回の嘘がずっと本当にならなければ良いのに、と審神者は思う。審神者をやめるなんて、そんな日はずっとこないことを願って。
2019.4.1
「私、審神者を引退することにしました」
審神者から突然告げられた事実。
「え……?何言って……」
「今日でこの本丸にいるのも最後です。みなさん、今までありがとうございました」
そう言って頭をさげる審神者の言葉を素直に受け入れられるものなど1人もいるはずがなかった。
「う、うそでしょ?なんで突然……」
ざわつく刀剣男士たちを置いて、広間を後にした審神者。
「よっっっっっし!みんな驚いてる!」
そう小声でつぶやくと小さくガッツポーズを決める。
今日はエイプリルフール。一年に一度嘘を吐いても良い日だ。彼らを驚かせるには何が良いかと考えて思いついたのがこれだ。
ルールとして、午後にはネタバラシをしなければいけない。今の時刻は11時を回ったところだ。もう少しだけ、みんなの反応を楽しむことができそうだ。審神者はニヤニヤするのをこらえて部屋に戻る。
期待したのだが、審神者を追ってきてくれる男士はいなかった。もっと理由を尋ねられたり、引き止められたりするものだと思っていた審神者は少しがっかりする。もしかして、自分はそんなに慕われていなかったのではないかと、よからぬ考えが頭をよぎる。
むしろ、自分が辞めることを喜んでいたらどうしようか。そう思ったら無性に寂しくなってきて、今しがた出てきたばかりの広間に急いで戻った。別に、少しくらい早くネタバラシをしたところで問題はないだろう。
「あ、主。もう少し待っててね」
広間に戻ると、何やら慌ただしく宴会のような準備をしている男士たちが目に入る。
「え、何してるの……?」
「主さまとのお別れ会の準備です!」
「主君の旅立ちを、ささやかながら祝わせてください」
「今まで審神者として、僕たちの主としてよく頑張ってくれたね」
「きっと君のことだから、何か考えがあってのことなんだろう?俺たちは応援するよ」
これはまずい。寂しがる彼らにネタバラシをして、この嘘は終わらせるつもりだったのに、なぜか彼らは楽しそうに準備を進めている。審神者を辞めることに関して、引き止めどころか、盛大に送り出すつもりのようだ。
「あ、あのさ……私が審神者やめちゃってもいいの……?」
「主が決めたことであれば、それに従うのが俺たちです。止めるなんてそんなこと、できるわけがないでしょう?」
いつだって一番の忠誠心を語る彼にそう言われてしまってはなんとも言えない。どうしたら良いのか。ここまでされて、「嘘でしたー」などとは言えない雰囲気だ。
「あ、えーと、でも私、みんなと離れるの寂しいな……なんて」
「いけませんな、主。心を強く持つのです」
「あのね?審神者、やめなくてもなんとかなるかもしれないなーって……」
「無理をすることはありませんよ。それで仕事が満足にできなくてはだめですから」
「ほら、まだみんなとやりたいことがあるし……」
「僕たちのことなら心配入りません!お気になさらず!」
なんとかやめないように、そちらの方向へ持って行きたいのだが、ことごとく言い負かされてしまう。まずい。このままでは本当にやめなければいけなくなってしまいそうだ。
それならば、一刻も早く嘘だったと言ってしまった方が傷は浅いのではないだろうか。ここまで準備させてしまって、激励の言葉までもらってしまって、怒られるのは覚悟している。でもそんなのは自分の蒔いた種だ、仕方ない。
それに、エイプリルフールなんて彼らには馴染みのないイベントだ。それを持ち込んでしまったのは審神者のミスだろう。
ネタバラシの覚悟を心に決めて、口を開く。
「あのね、みんな────」
「なーんてね、嘘だよ」
審神者の言葉は遮られた。今自分が言おうとしたことが、彼らの口から飛び出たことにびっくりする。
「嘘ついちゃってごめんね?」
「主さまが主さまでなくなっちゃうなんて、本当は寂しいです……」
「でも、先に嘘を吐いたのは君だもんね?」
「はっはっは、えいぷりるふーる、というやつだろう?俺がそんなイベントを逃すわけないじゃないか!」
得意げな顔で登場したのは鶴丸だ。
「鶴さんに協力してって言われた時はどうしようかと思ったけど……君がとんでもないことをいうから、つい乗ってしまったよね」
「そうだぞ!嘘を吐いたのは悪かったけど、ほんとは俺らだって嫌だったんだからな!」
「主、あまり人を悲しませるような嘘は関心しないよ」
「鶴丸殿がエイプリルフールの嘘だと教えてくれなければ、私も、弟たちも、貴方の言葉を信じていました」
「嘘だとわかっていなかったら、どんな手を使っても貴方を止めたでしょうね」
「主、嘘でもやめるなんて言わないで……?」
「ご、ごめんなさい……」
エイプリルフールの嘘は、彼らに仕返される形で終わりを告げた。
審神者の嘘は、鶴丸のおかげでみんなに見抜かれていたようだ。でもそのおかげで、みんなを深く悲しませるようなことにはならずに済んだらしい。嘘としては失敗に終わったが、これで良かったのかもしれない。
悲しむ反応が見たい、なんてみんなの気持ちを確かめるようなのは自分勝手でひどい嘘だったと反省する。
「まあ、久しぶりになかなかの驚きだったからなぁ。今回はお互い様ということで笑って終わろうじゃないか!」
「そうだね、僕たちも嘘を吐いたんだからおあいこだね」
もし、嘘だとバレていなかったら今頃笑ってはいられなかったかもしれない。そう思うと、審神者は自分の嘘を反省するとともに、鶴丸への感謝でいっぱいになる。
「ごめん、私、みんながどんな反応してくれるのかなって……」
「だから、もういいよって!」
「それに、俺たちもちょっと主の反応見て楽しんでたところあるからさ」
「焦ってる君の顔はなかなか面白かったぞ」
「しーっかりカメラに収めたき、ばっちりぜよ」
「おい、その写真後で俺にも寄越せ」
気になる会話が聞こえたことには一旦聞こえなかったふりをする。
お互い様、と言われてしまえば審神者も笑ってこの場を終えることしかできない。そうだ、そもそもエイプリルフールとは、嘘を笑って許してこそのものだ。
エイプリルフールに吐いた嘘は叶わなくなる、というのをどこかで聞いたことがある。それならば、今回の嘘がずっと本当にならなければ良いのに、と審神者は思う。審神者をやめるなんて、そんな日はずっとこないことを願って。
2019.4.1