刀剣乱舞短編
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【僕より仕事が大事なの!?】
「僕と仕事どっちが大事なの!?」
「誰の稼ぎで飯食ってんだ、とか言っとけばいいの?」
帰って早々、私を迎えたのはヒステリックに叫ぶ光忠だった。
めんどくさい奥様よろしく、定番の質問を投げかけてくる彼に、私も定番の答えを返してみる。
「別に君が働かなくても生活していけるじゃないか!それなのに、なんで……」
その答えは単純だ。
「私は仕事が好きだからだよ、知ってるでしょ」
私は根っからの仕事人間だ。それはもう、自他ともに認めるほどに。
審神者という仕事に抜擢された時も、現世での仕事は続けることを条件としてこれを引き受けたのだ。そのことはもちろん本丸みんなが知っていることだ。もちろん、目の前の燭台切光忠も例に漏れず。
「知ってるけど……でも……」
「でももだってもないよ。どうしたの、急に」
しゅんとしてしまった光忠は、いつもはこんなんじゃない。
遅く帰る私に温かいご飯を用意して、いつだって笑顔で待ってくれているのだ。それがあるから、私は仕事を終えてここに帰ってくる瞬間が好きだったりする。
それなのに、今日の光忠はどうしてしまったというのか。完璧な人妻のような男が、めんどくさい彼女のようになってしまうなんて。
「ううん、ごめん。なんでもないんだ。ご飯、できてるから食べてね。食器は流しに置いておいて」
そう言って部屋を出て行く背中は大きいのに随分と寂しそうだ。あぁ、そうか。
「ごめんね、光忠。最近、ゆっくり話もできてなかったよね」
ピクリ、と彼の肩が跳ねたような気がする。彼は出て行こうとした動きを止めてじっとしている。
「最近忙しくて帰りも遅かったし、帰ってもすぐ寝ちゃってたし。……寂しい思いさせちゃったよね」
「うん……寂しかったよ」
こちらを見ないまま、光忠はそれを肯定する。
「ごめん。ねえ、こっち来て」
ゆっくり振り返る光忠に手を広げて見せると、彼は素直に飛び込んできた。
「もぉおおお!!主ってば、僕をほったらかしにして!!寂しかったんだよ!?」
「ごめん、ごめんって」
ギュウウっとキツく抱きしめてくる光忠は可愛いが、流石に太刀の腕力は私の身が危うい。なんとか彼をなだめるべく、ポンポンと背中を撫でて落ち着かせる。
「君の帰りを待つのは嫌いじゃないけどね、でも帰ってきても全然構ってくれないじゃないか!流石に僕だって耐えられないよ……」
首元に頭をグリグリと押し付けられる。いつもしっかりしていてお母さんみたいな光忠がこんな風に甘えてくるなんて、珍しいものだと楽しむ余裕もなく、私は大柄な彼を支えて立っているだけで精一杯だ。そんなのはお構いなしといった感じで、彼はどんどん私に体重を預けてくる。
「光忠、わかった。わかったから、一旦離れよう?私、潰れちゃう」
ギブアップだ。どうにか彼に離れてもらおうと、強めに彼の背中をベシベシと叩く。
「やだ、離れない。このまま潰れてどこにも行けなくなっちゃえばいいんだよ」
不穏なことを言わないでほしい。彼の打撃力があれば本当にそれくらいできてしまいそうなのが恐ろしい。
離れるつもりはないと、さらに体重をかけてくる光忠に流石に耐えきれなくなって、体勢が崩れる。そのまま彼の重みで床に倒れこんでしまう。
「痛い。重い」
「ごめんね」
口ではそう言うものの、退く気は無いみたいだ。押し倒されるような姿勢のまま、彼は変わらず私をきつく抱きしめ続ける。
「みつただー?光忠のご飯、食べたいなぁ?」
「うん」
だめだ。返事はするものの、全く聞く耳を持たないといった様子。身動きも取れないこの状況で、解決方法といえば、彼が満足するのを待つほかないみたいだ。
彼のしたいように、身を任せ彼に抱かれ続ける。
光忠は飽きもせず、時折頭を押し付けては私を抱きしめ続ける。
どれだけそうしていただろうか。時間にしたらそんなには経っていないのだろうが、何もせずじっと抱かれ続けるというのは、とても時間が流れるのがゆっくりに感じるものだ。耐えきれなくなった私のお腹がぐぅ、となった。
「ごめんね、主。本当はこんなことしたくなかったんだ」
光忠の拘束の力が弱まった。そのままそっと、私から腕を離す。
「めんどくさいでしょ、僕」
そう言って自嘲気味に笑う彼にいつものかっこよさはない。自信なさげに逸らされた瞳は少し潤んで揺れている。
「君が疲れているのはわかってるし、ちゃんと迎えてあげなきゃって思ってたんだけど……呆れた?」
「全然。むしろちょっと嬉しかった」
「えっ」
驚いた光忠の顔を挟み込んで、その長めの髪の毛をわしゃわしゃとかき混ぜた。
「可愛い光忠が見れたからね!よーしよしよし!」
「わっ、わっ、主!ボサボサになっちゃうでしょ!」
「それに、謝らなきゃいけないのは私だよ。私、光忠に甘えてたね」
いつでも変わらずに、温かいご飯を用意して私の帰りを待ってくれている光忠。その存在がもうあたりまえのようになっていた。だからこそ、私はそのありがたさをわかっていなかったのだ。
「寂しい思いさせてごめんね。光忠、いつもありがとう」
「主……っ」
光忠はまたガバっと私に抱きついた。
「本っ当に、君ってずるい!そんなこと言われたら僕、いつまででも君の帰りを待ち続けられちゃうよ」
「そんなことしないよ、ちゃんと帰ってくるから。光忠のご飯、食べたいしね」
タイミングを見計らったように、また私のお腹が音を立てる。
「ふふっ、ご飯食べようか。用意するね」
さっと立ち上がって私を起こしてくれる光忠は、もうすでにいつものかっこいい光忠だ。
「さ、早く行こう」
でも、ぎゅっと握った手を離そうとしないのは、まだ甘えたが延長しているのだろうか。
寂しい思いをさせてしまったのだから、今日は気がすむまでうんと甘やかしてあげよう。そう密かに心の中に決めて、私は光忠の手を強く握り返した。
「お腹すいたー!今日のご飯は?」
「さーて、何だと思う?」
2019.3.8
「僕と仕事どっちが大事なの!?」
「誰の稼ぎで飯食ってんだ、とか言っとけばいいの?」
帰って早々、私を迎えたのはヒステリックに叫ぶ光忠だった。
めんどくさい奥様よろしく、定番の質問を投げかけてくる彼に、私も定番の答えを返してみる。
「別に君が働かなくても生活していけるじゃないか!それなのに、なんで……」
その答えは単純だ。
「私は仕事が好きだからだよ、知ってるでしょ」
私は根っからの仕事人間だ。それはもう、自他ともに認めるほどに。
審神者という仕事に抜擢された時も、現世での仕事は続けることを条件としてこれを引き受けたのだ。そのことはもちろん本丸みんなが知っていることだ。もちろん、目の前の燭台切光忠も例に漏れず。
「知ってるけど……でも……」
「でももだってもないよ。どうしたの、急に」
しゅんとしてしまった光忠は、いつもはこんなんじゃない。
遅く帰る私に温かいご飯を用意して、いつだって笑顔で待ってくれているのだ。それがあるから、私は仕事を終えてここに帰ってくる瞬間が好きだったりする。
それなのに、今日の光忠はどうしてしまったというのか。完璧な人妻のような男が、めんどくさい彼女のようになってしまうなんて。
「ううん、ごめん。なんでもないんだ。ご飯、できてるから食べてね。食器は流しに置いておいて」
そう言って部屋を出て行く背中は大きいのに随分と寂しそうだ。あぁ、そうか。
「ごめんね、光忠。最近、ゆっくり話もできてなかったよね」
ピクリ、と彼の肩が跳ねたような気がする。彼は出て行こうとした動きを止めてじっとしている。
「最近忙しくて帰りも遅かったし、帰ってもすぐ寝ちゃってたし。……寂しい思いさせちゃったよね」
「うん……寂しかったよ」
こちらを見ないまま、光忠はそれを肯定する。
「ごめん。ねえ、こっち来て」
ゆっくり振り返る光忠に手を広げて見せると、彼は素直に飛び込んできた。
「もぉおおお!!主ってば、僕をほったらかしにして!!寂しかったんだよ!?」
「ごめん、ごめんって」
ギュウウっとキツく抱きしめてくる光忠は可愛いが、流石に太刀の腕力は私の身が危うい。なんとか彼をなだめるべく、ポンポンと背中を撫でて落ち着かせる。
「君の帰りを待つのは嫌いじゃないけどね、でも帰ってきても全然構ってくれないじゃないか!流石に僕だって耐えられないよ……」
首元に頭をグリグリと押し付けられる。いつもしっかりしていてお母さんみたいな光忠がこんな風に甘えてくるなんて、珍しいものだと楽しむ余裕もなく、私は大柄な彼を支えて立っているだけで精一杯だ。そんなのはお構いなしといった感じで、彼はどんどん私に体重を預けてくる。
「光忠、わかった。わかったから、一旦離れよう?私、潰れちゃう」
ギブアップだ。どうにか彼に離れてもらおうと、強めに彼の背中をベシベシと叩く。
「やだ、離れない。このまま潰れてどこにも行けなくなっちゃえばいいんだよ」
不穏なことを言わないでほしい。彼の打撃力があれば本当にそれくらいできてしまいそうなのが恐ろしい。
離れるつもりはないと、さらに体重をかけてくる光忠に流石に耐えきれなくなって、体勢が崩れる。そのまま彼の重みで床に倒れこんでしまう。
「痛い。重い」
「ごめんね」
口ではそう言うものの、退く気は無いみたいだ。押し倒されるような姿勢のまま、彼は変わらず私をきつく抱きしめ続ける。
「みつただー?光忠のご飯、食べたいなぁ?」
「うん」
だめだ。返事はするものの、全く聞く耳を持たないといった様子。身動きも取れないこの状況で、解決方法といえば、彼が満足するのを待つほかないみたいだ。
彼のしたいように、身を任せ彼に抱かれ続ける。
光忠は飽きもせず、時折頭を押し付けては私を抱きしめ続ける。
どれだけそうしていただろうか。時間にしたらそんなには経っていないのだろうが、何もせずじっと抱かれ続けるというのは、とても時間が流れるのがゆっくりに感じるものだ。耐えきれなくなった私のお腹がぐぅ、となった。
「ごめんね、主。本当はこんなことしたくなかったんだ」
光忠の拘束の力が弱まった。そのままそっと、私から腕を離す。
「めんどくさいでしょ、僕」
そう言って自嘲気味に笑う彼にいつものかっこよさはない。自信なさげに逸らされた瞳は少し潤んで揺れている。
「君が疲れているのはわかってるし、ちゃんと迎えてあげなきゃって思ってたんだけど……呆れた?」
「全然。むしろちょっと嬉しかった」
「えっ」
驚いた光忠の顔を挟み込んで、その長めの髪の毛をわしゃわしゃとかき混ぜた。
「可愛い光忠が見れたからね!よーしよしよし!」
「わっ、わっ、主!ボサボサになっちゃうでしょ!」
「それに、謝らなきゃいけないのは私だよ。私、光忠に甘えてたね」
いつでも変わらずに、温かいご飯を用意して私の帰りを待ってくれている光忠。その存在がもうあたりまえのようになっていた。だからこそ、私はそのありがたさをわかっていなかったのだ。
「寂しい思いさせてごめんね。光忠、いつもありがとう」
「主……っ」
光忠はまたガバっと私に抱きついた。
「本っ当に、君ってずるい!そんなこと言われたら僕、いつまででも君の帰りを待ち続けられちゃうよ」
「そんなことしないよ、ちゃんと帰ってくるから。光忠のご飯、食べたいしね」
タイミングを見計らったように、また私のお腹が音を立てる。
「ふふっ、ご飯食べようか。用意するね」
さっと立ち上がって私を起こしてくれる光忠は、もうすでにいつものかっこいい光忠だ。
「さ、早く行こう」
でも、ぎゅっと握った手を離そうとしないのは、まだ甘えたが延長しているのだろうか。
寂しい思いをさせてしまったのだから、今日は気がすむまでうんと甘やかしてあげよう。そう密かに心の中に決めて、私は光忠の手を強く握り返した。
「お腹すいたー!今日のご飯は?」
「さーて、何だと思う?」
2019.3.8