刀剣乱舞短編
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【近侍バニー】
『審神者に向けた新たな装いのご案内』
そんなものが本丸に届いたのはとある昼下がりだった。
「近侍デザインバニー……」
書いてある文字をそのまま読み上げるが、理解が追いついていない。というよりも、脳が理解するのを拒否している。
これは私には関係のないお知らせのようだと、この案内をなかったことにしてしまうのは簡単だ。だが、興味をそそられてしまう理由がそこにはあった。
『販売を記念して、一着先行プレゼント。さらに、その場で着用していただくと各資材10000を支給』
資材10000。決して少なくはない、むしろ多すぎる量だ。万年厳しい資材状況の我が本丸にとっては喉から手が出るほど欲しい。だが、そのためにはバニー服を着用しなければいけない。私が。
好き好んでそんな格好をする趣味はないし、そういった格好をする自信もない。だが、それを揺るがすほどに、資材の支給は魅力的なオマケだ。
着るだけで、資材が手に入るのなら……。コスプレまがいの格好をするのも安いものだろう。
だが、それは誰にも見られないことが前提の話だ。
「主!ねえ、俺のデザインのにしてよ!ぜーったいに似合う!かわいいよ!」
「可愛いでいったら絶対に僕でしょー?僕とお揃いデザインの主さん、見てみたいなぁ……?」
「ええい、お前らうるさいぞ!」
やいのやいのと周りで騒ぐ彼らは、自分のデザインをと押し勧めてくる。それは構わない。ただ、らんらんと期待に輝く彼らの目が、着るだけでは逃がしてくれないことを物語っている。
なぜ、彼らに知られてしまったのか……。
政府からの頼りには、本丸に向けたものと審神者に向けたものとがある。今回のものは特に審神者に限定されたものではなかったため、みんなと一緒に見てしまったのだ。
「……着ません」
周りの騒ぎを全部拒否するつもりで、そうつぶやくと非難轟々だ。
「良いのですか、主!?資材10000は今後のことを考えても手に入れておくべきかと思います」
「そうだなぁ。10000は大きいと思うぞ」
だからバニーを着用しろ。言葉の外に、そんな気持ちがにじみ出ている。
「着てもいいよ!?でもその場合、私は自分の部屋で、こっそり、着ます!!着用が条件だもん、それでいいよね!?」
刀剣たちからは非難の視線が寄せられる。ただ、ダメだとは言えないみたいでこのまま押し切って何とかなりそうだ。
そうだ、何も彼らに見せる必要はない。条件は着用。ならば一人でこっそり着て、そのまま墓まで持っていけば良い。
「それはいけません!」
ポンっと煙と共に現れたのは、この本丸を担当する管狐、こんのすけだ。
「条件は着用ですが、それを本丸の刀剣男士に確認していただかないと、着用とはみなされません!資材の支給もありません!」
「なっ……!」
「ナイスこんのすけェ!」
ナイスとか言ったのは誰の声か。とにかく、私にとってはナイスでも何でもない。
「そ、そんなの、案内には書いてなかったじゃん!後付け!横暴!」
「そうは言われましても、こちらは政府にて決定されたルールですので……納得いただけないようでしたら不参加でも構いませんよ?」
「ぐ……むぅ……」
不参加、それはつまり資材10000を手放すということ。それがあるため、「じゃあ参加しない!」と言い切れないのがもどかしい。
「キャンペーンに参加されるのであれば、すぐにお取り寄せできますよ。この場で私が見届けますので、報酬もすぐに届くかと」
都合のいいことばかりをいうこんのすけ。私には都合の悪いことばかりだ。
「こんなの進んで着る人がどこにいるのよ……」
「いらっしゃいますよ……ごく少数ですが」
「ほら!需要ないんじゃん!だからってこんな資材で釣るなんて……そもそも政府はなんでこんなの開発してるの!?」
「需要は見込めます。こちらは刀剣男士へ向けての商品ですからね。審神者様方には、着用していただくことで、今後の販売促進に貢献していただこうという狙いです。実物を見てしまえば、きっとご自分のデザインのものを着せたくなるでしょうから」
「なっ……!」
刀剣男士に向けての商品とは、なんとも抜け目のないことだ。
「現在実装されている刀剣男士のものはすべて取り揃えていますよお任せください」
用意がいいことで。
とはいっても、どんなデザインなのか見てみないことには何とも言えない。もしかしたら、あまり過激ではないものを選べるかもしれない。
「こんのすけ、着用画とか、そうじゃなくてもサンプルの写真とかないの?」
「ありませんね」
「なんでよ!」
「正式な販売前の商品ですので、そういったものはまだ購入用に用意されていないんですよ。そのために、直接審神者様から伺うよう、私が遣わされているんです」
つまりは、デザインを見ずに着るかどうかを選べということだ。もしかしたら、とんでもないものが届く可能性だってある。
「難易度が高すぎやしませんか……?」
「何もそう身構えずとも……ちょっと服を着替えるだけではありませんか」
その言葉に、黙っていた刀剣たちが口を挟み出す。
「主!ぜひ俺のものを……!迷われているのであれば、この長谷部を!」
「おい、長谷部ずるいよ!イメージデザインっていうんだから、可愛い方がいいんじゃない?ね、主!」
「白兎……というのも、なかなかいいんじゃないか?」
「すとっぷ、ストーーーーップ!」
思い思いに口を挟む彼らに待ったをかける。
「まず、露出の少ないものを選びたいです。なので、胸元がはだけていたりする人は安全のため省きます」
私の言葉にガッツポーズを決める面々。にこやかな顔をしているが、村正、あなたは真っ先に省かれる対象だ。自分の姿をよく鏡で確認してほしい。
「次に、イメージの面で、大人っぽかったりセクシーな人は除外です。そういうのが好きそうな人も」
ちらりと光忠を見やれば、僕!?と言った顔で驚いている。
「ちょっと、主!上から下まで、露出対策ばっちりだと思うんだけど!」
「ダメです。雰囲気がアウト」
「なんだい、それ!?」
嘆く光忠を、勝ち誇った顔で見下ろしている長谷部。自分も省かれていることには気づいていないらしい。長谷部は何となく、危険な香りがするからアウトだ。
「その他諸々、個人的に思うところを考えて……安全そうなところを提案すると、まず山姥切」
「お、おれか!?」
隅で沈黙を貫いていた彼は、驚いて顔をあげた。
「布がお揃いで、バニー自体の全容がほとんど見えないのでは、って予想」
もしそうだったら、確実に当たり枠だ。
「いや……バニー自体が布みたいにボロボロな、ダメージデザインってこともあるんじゃないか?破れて、露出が多かったりしてな?」
ニヤリと笑った薬研の言葉に、うっ、と言葉が詰まる。確かに、ないとは言い切れないのが怖いところだ。
「じゃ、じゃあ……あ!江雪とか!重厚な装備だし、本人もそういうのとは無縁な人だし、安心枠じゃない!?」
今度は、私の言葉に意を唱える人はいない。よし、これだ。これが正解だ!
「あの……何か勘違いをしておられるようなのですが、此度のキャンペーンは『近侍バニー』でございます。ですので、お送りするものは、近侍のデザインになるのですが……」
それはつまり、私に選択の権利はないということだ。
「というわけで、こちらの本丸の近侍である前田藤四郎のものを用意しました。さ、どうぞ」
待って、と声を発する前にポンっという音とともに体に感じる違和感。一瞬のうちに行われたそれは政府の技術なのか。もっと別のことに活かしてほしいと思いつつ、この状況に私は声をあげるしかできなかった。
「うっわぁあああああああ!?」
「おぉー!!」
驚きと困惑の混ざった私の声に、周りの歓声が重なる。
自分の姿を見下ろすと、胸元の露出こそ少ないが、がっつりと足をむき出しにされている。これは、単純に恥ずかしい。
「しゅ、主君!」
自分のデザインを私によって着用されてしまった前田はというと、可愛らしく顔を赤く染め上げている。それでも、すぐに顔を引き締めるあたりが真面目な前田らしい。
「よ、よくお似合いです!」
「ありがとう……」
純真な前田にどうこういう気にもなれず、というか前田は全く悪くないので、その言葉は褒め言葉として素直に受け取っておく。
「もういいでしょ、こんのすけ……元に戻してよ」
「はい、大丈夫です。お召し物は自室の方に戻っているかと思いますので、着替えていただいていいですよ」
「はぁ?また一瞬で戻るんじゃないの?」
「そんな便利機能ありませんよ」
なぜ、さっきの早着替えができて、その逆ができないのか謎だ。ご丁寧に服を自室に送る機能よりも優先すべき機能があるだろう。
「もういい、わかった、戻って着替える!」
「おいおいおい、まだほんの一瞬じゃないか。俺のでないのが残念だが、うん。いいな」
戻ろうとした私を引き止め、ぐっとサムズアップして見せたのは鶴丸だ。その屈託のない笑顔には悪意とかそういうのが感じられないからたちが悪い。
「可愛いよ、主さん!」
「わっ、後ろはしっぽまで付いているんだね……いいね」
みんなが思い思いに感想を述べる。やめてほしい。じわじわとバニースーツを着ているという実感が襲ってきて恥ずかしい。
「うるさいうるさい!戻るよ、前田!」
「え、あっ、はい!」
鶴丸を押しのけて、自室へ急ぐ。
「こんのすけ、ちゃんと資材送ってよね!!」
こんな思いまでしたのだ。しっかりと釘を刺しておく。
「承知しておりますよ。それではみなさま、販売が開始しましたらぜひお買い求めください」
後ろで嫌な言葉が聞こえるが知らないふりだ。着ない。絶対に着ない。誰かが買ったって絶対に着てやるもんか。報酬もなしにこんな格好二度とするつもりはない。
自分の部屋に入って強く襖を閉める。招き入れられた前田は、付いて来たのはいいもののどうしていいか迷っているようだ。
「ごめんね、前田。とりあえずすぐ着替えるから、誰かこないように見ていてもらえる?」
「承知しました……その、主君!」
言われて部屋の前に待機しようとした前田がこちらを振り返った。
「その、このようなことを言われても嬉しくないかもしれませんが……僕が近侍で良かったと思いました。主君のバニー姿、とても……お似合いです!では、見張りの任に付きます!」
それだけ言うと、外にでてパタンと戸が閉められた。
正直、悪い気はしない。
自分の体に自信があるわけではないし、コスプレ趣味もないのだが、まっすぐと褒められれば少しばかり舞い上がってしまうものだ。
私にとっては等しくバニー衣装なのだが、彼らにとっては自分のデザインを着てもらうというところに何か感じるものがあるもかもしれない。
……気が向いたら、誉の褒美にしてやってもいいかも。
一瞬頭に浮かんだその考えを慌てて振り払った。
いや、二度とこの服は着ない。他の人のデザインも着ない。うちの本丸にはバニー禁止令を発令しよう。
廊下から聞こえてきた前田と他の刀たちの攻防を聞きながら、心に固く誓った。
***
「見てくれ主!正式にばにー、とやらが発売されたぞ!」
「そうですか」
「興味なしか!」
ちらりと見た画面にはいろんなバニー衣装がずらり。鶴丸が見せてきたそのページには太刀のものが並んでいるらしいが、そのどれもが胸を大胆に強調していて、中にはあらぬところに穴が空いたデザインのものもある。
前田が近侍で良かった。彼の良心的なデザインにひっそりと感謝した。
2019.8.10
『審神者に向けた新たな装いのご案内』
そんなものが本丸に届いたのはとある昼下がりだった。
「近侍デザインバニー……」
書いてある文字をそのまま読み上げるが、理解が追いついていない。というよりも、脳が理解するのを拒否している。
これは私には関係のないお知らせのようだと、この案内をなかったことにしてしまうのは簡単だ。だが、興味をそそられてしまう理由がそこにはあった。
『販売を記念して、一着先行プレゼント。さらに、その場で着用していただくと各資材10000を支給』
資材10000。決して少なくはない、むしろ多すぎる量だ。万年厳しい資材状況の我が本丸にとっては喉から手が出るほど欲しい。だが、そのためにはバニー服を着用しなければいけない。私が。
好き好んでそんな格好をする趣味はないし、そういった格好をする自信もない。だが、それを揺るがすほどに、資材の支給は魅力的なオマケだ。
着るだけで、資材が手に入るのなら……。コスプレまがいの格好をするのも安いものだろう。
だが、それは誰にも見られないことが前提の話だ。
「主!ねえ、俺のデザインのにしてよ!ぜーったいに似合う!かわいいよ!」
「可愛いでいったら絶対に僕でしょー?僕とお揃いデザインの主さん、見てみたいなぁ……?」
「ええい、お前らうるさいぞ!」
やいのやいのと周りで騒ぐ彼らは、自分のデザインをと押し勧めてくる。それは構わない。ただ、らんらんと期待に輝く彼らの目が、着るだけでは逃がしてくれないことを物語っている。
なぜ、彼らに知られてしまったのか……。
政府からの頼りには、本丸に向けたものと審神者に向けたものとがある。今回のものは特に審神者に限定されたものではなかったため、みんなと一緒に見てしまったのだ。
「……着ません」
周りの騒ぎを全部拒否するつもりで、そうつぶやくと非難轟々だ。
「良いのですか、主!?資材10000は今後のことを考えても手に入れておくべきかと思います」
「そうだなぁ。10000は大きいと思うぞ」
だからバニーを着用しろ。言葉の外に、そんな気持ちがにじみ出ている。
「着てもいいよ!?でもその場合、私は自分の部屋で、こっそり、着ます!!着用が条件だもん、それでいいよね!?」
刀剣たちからは非難の視線が寄せられる。ただ、ダメだとは言えないみたいでこのまま押し切って何とかなりそうだ。
そうだ、何も彼らに見せる必要はない。条件は着用。ならば一人でこっそり着て、そのまま墓まで持っていけば良い。
「それはいけません!」
ポンっと煙と共に現れたのは、この本丸を担当する管狐、こんのすけだ。
「条件は着用ですが、それを本丸の刀剣男士に確認していただかないと、着用とはみなされません!資材の支給もありません!」
「なっ……!」
「ナイスこんのすけェ!」
ナイスとか言ったのは誰の声か。とにかく、私にとってはナイスでも何でもない。
「そ、そんなの、案内には書いてなかったじゃん!後付け!横暴!」
「そうは言われましても、こちらは政府にて決定されたルールですので……納得いただけないようでしたら不参加でも構いませんよ?」
「ぐ……むぅ……」
不参加、それはつまり資材10000を手放すということ。それがあるため、「じゃあ参加しない!」と言い切れないのがもどかしい。
「キャンペーンに参加されるのであれば、すぐにお取り寄せできますよ。この場で私が見届けますので、報酬もすぐに届くかと」
都合のいいことばかりをいうこんのすけ。私には都合の悪いことばかりだ。
「こんなの進んで着る人がどこにいるのよ……」
「いらっしゃいますよ……ごく少数ですが」
「ほら!需要ないんじゃん!だからってこんな資材で釣るなんて……そもそも政府はなんでこんなの開発してるの!?」
「需要は見込めます。こちらは刀剣男士へ向けての商品ですからね。審神者様方には、着用していただくことで、今後の販売促進に貢献していただこうという狙いです。実物を見てしまえば、きっとご自分のデザインのものを着せたくなるでしょうから」
「なっ……!」
刀剣男士に向けての商品とは、なんとも抜け目のないことだ。
「現在実装されている刀剣男士のものはすべて取り揃えていますよお任せください」
用意がいいことで。
とはいっても、どんなデザインなのか見てみないことには何とも言えない。もしかしたら、あまり過激ではないものを選べるかもしれない。
「こんのすけ、着用画とか、そうじゃなくてもサンプルの写真とかないの?」
「ありませんね」
「なんでよ!」
「正式な販売前の商品ですので、そういったものはまだ購入用に用意されていないんですよ。そのために、直接審神者様から伺うよう、私が遣わされているんです」
つまりは、デザインを見ずに着るかどうかを選べということだ。もしかしたら、とんでもないものが届く可能性だってある。
「難易度が高すぎやしませんか……?」
「何もそう身構えずとも……ちょっと服を着替えるだけではありませんか」
その言葉に、黙っていた刀剣たちが口を挟み出す。
「主!ぜひ俺のものを……!迷われているのであれば、この長谷部を!」
「おい、長谷部ずるいよ!イメージデザインっていうんだから、可愛い方がいいんじゃない?ね、主!」
「白兎……というのも、なかなかいいんじゃないか?」
「すとっぷ、ストーーーーップ!」
思い思いに口を挟む彼らに待ったをかける。
「まず、露出の少ないものを選びたいです。なので、胸元がはだけていたりする人は安全のため省きます」
私の言葉にガッツポーズを決める面々。にこやかな顔をしているが、村正、あなたは真っ先に省かれる対象だ。自分の姿をよく鏡で確認してほしい。
「次に、イメージの面で、大人っぽかったりセクシーな人は除外です。そういうのが好きそうな人も」
ちらりと光忠を見やれば、僕!?と言った顔で驚いている。
「ちょっと、主!上から下まで、露出対策ばっちりだと思うんだけど!」
「ダメです。雰囲気がアウト」
「なんだい、それ!?」
嘆く光忠を、勝ち誇った顔で見下ろしている長谷部。自分も省かれていることには気づいていないらしい。長谷部は何となく、危険な香りがするからアウトだ。
「その他諸々、個人的に思うところを考えて……安全そうなところを提案すると、まず山姥切」
「お、おれか!?」
隅で沈黙を貫いていた彼は、驚いて顔をあげた。
「布がお揃いで、バニー自体の全容がほとんど見えないのでは、って予想」
もしそうだったら、確実に当たり枠だ。
「いや……バニー自体が布みたいにボロボロな、ダメージデザインってこともあるんじゃないか?破れて、露出が多かったりしてな?」
ニヤリと笑った薬研の言葉に、うっ、と言葉が詰まる。確かに、ないとは言い切れないのが怖いところだ。
「じゃ、じゃあ……あ!江雪とか!重厚な装備だし、本人もそういうのとは無縁な人だし、安心枠じゃない!?」
今度は、私の言葉に意を唱える人はいない。よし、これだ。これが正解だ!
「あの……何か勘違いをしておられるようなのですが、此度のキャンペーンは『近侍バニー』でございます。ですので、お送りするものは、近侍のデザインになるのですが……」
それはつまり、私に選択の権利はないということだ。
「というわけで、こちらの本丸の近侍である前田藤四郎のものを用意しました。さ、どうぞ」
待って、と声を発する前にポンっという音とともに体に感じる違和感。一瞬のうちに行われたそれは政府の技術なのか。もっと別のことに活かしてほしいと思いつつ、この状況に私は声をあげるしかできなかった。
「うっわぁあああああああ!?」
「おぉー!!」
驚きと困惑の混ざった私の声に、周りの歓声が重なる。
自分の姿を見下ろすと、胸元の露出こそ少ないが、がっつりと足をむき出しにされている。これは、単純に恥ずかしい。
「しゅ、主君!」
自分のデザインを私によって着用されてしまった前田はというと、可愛らしく顔を赤く染め上げている。それでも、すぐに顔を引き締めるあたりが真面目な前田らしい。
「よ、よくお似合いです!」
「ありがとう……」
純真な前田にどうこういう気にもなれず、というか前田は全く悪くないので、その言葉は褒め言葉として素直に受け取っておく。
「もういいでしょ、こんのすけ……元に戻してよ」
「はい、大丈夫です。お召し物は自室の方に戻っているかと思いますので、着替えていただいていいですよ」
「はぁ?また一瞬で戻るんじゃないの?」
「そんな便利機能ありませんよ」
なぜ、さっきの早着替えができて、その逆ができないのか謎だ。ご丁寧に服を自室に送る機能よりも優先すべき機能があるだろう。
「もういい、わかった、戻って着替える!」
「おいおいおい、まだほんの一瞬じゃないか。俺のでないのが残念だが、うん。いいな」
戻ろうとした私を引き止め、ぐっとサムズアップして見せたのは鶴丸だ。その屈託のない笑顔には悪意とかそういうのが感じられないからたちが悪い。
「可愛いよ、主さん!」
「わっ、後ろはしっぽまで付いているんだね……いいね」
みんなが思い思いに感想を述べる。やめてほしい。じわじわとバニースーツを着ているという実感が襲ってきて恥ずかしい。
「うるさいうるさい!戻るよ、前田!」
「え、あっ、はい!」
鶴丸を押しのけて、自室へ急ぐ。
「こんのすけ、ちゃんと資材送ってよね!!」
こんな思いまでしたのだ。しっかりと釘を刺しておく。
「承知しておりますよ。それではみなさま、販売が開始しましたらぜひお買い求めください」
後ろで嫌な言葉が聞こえるが知らないふりだ。着ない。絶対に着ない。誰かが買ったって絶対に着てやるもんか。報酬もなしにこんな格好二度とするつもりはない。
自分の部屋に入って強く襖を閉める。招き入れられた前田は、付いて来たのはいいもののどうしていいか迷っているようだ。
「ごめんね、前田。とりあえずすぐ着替えるから、誰かこないように見ていてもらえる?」
「承知しました……その、主君!」
言われて部屋の前に待機しようとした前田がこちらを振り返った。
「その、このようなことを言われても嬉しくないかもしれませんが……僕が近侍で良かったと思いました。主君のバニー姿、とても……お似合いです!では、見張りの任に付きます!」
それだけ言うと、外にでてパタンと戸が閉められた。
正直、悪い気はしない。
自分の体に自信があるわけではないし、コスプレ趣味もないのだが、まっすぐと褒められれば少しばかり舞い上がってしまうものだ。
私にとっては等しくバニー衣装なのだが、彼らにとっては自分のデザインを着てもらうというところに何か感じるものがあるもかもしれない。
……気が向いたら、誉の褒美にしてやってもいいかも。
一瞬頭に浮かんだその考えを慌てて振り払った。
いや、二度とこの服は着ない。他の人のデザインも着ない。うちの本丸にはバニー禁止令を発令しよう。
廊下から聞こえてきた前田と他の刀たちの攻防を聞きながら、心に固く誓った。
***
「見てくれ主!正式にばにー、とやらが発売されたぞ!」
「そうですか」
「興味なしか!」
ちらりと見た画面にはいろんなバニー衣装がずらり。鶴丸が見せてきたそのページには太刀のものが並んでいるらしいが、そのどれもが胸を大胆に強調していて、中にはあらぬところに穴が空いたデザインのものもある。
前田が近侍で良かった。彼の良心的なデザインにひっそりと感謝した。
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