染められたい
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『染められたい』1/2
「ったく、毎日毎日寒くて嫌になるな」
「文句言うなら着いてこなければいいのに」
「あーん?お前が大人しく俺様の車に送られりゃいい話だろうが」
誰があんな車に送られたいと思うのか。あんなのが家の前に停まった日にはお母さんが卒倒してしまう。
「だいだい私一言も送って、なんて頼んだ覚えないけど?」
勝手に着いてきているくせにぶつくさと文句を言う跡部に少し強めに当たってしまう。
「いいだろ、俺がしたくてしてるんだ」
そういうストレートな物言いは心臓に悪い。彼の苦手なところの一つだ。
ここ一ヶ月ほど、毎日のようにこうして彼と帰り道を共にしている。「車で家まで送る」という彼の誘いを断ったら、毎日のように歩いて着いてくるのだ。正直驚いた。あの跡部景吾が普通の中学生のように徒歩20分の道のりを、隣を歩いているのだ。
「毎日送り迎え付きのお坊ちゃまにはこの寒さは堪えるんじゃないの」
「そう思うなら大人しく送られればいいだろ」
頑なに私と帰ることにこだわる彼にこれ以上は言えなくなる。別に、本気で邪魔だとは思ってない。むしろ、根気よく一ヶ月もこうして一緒に帰ってくれている彼に、少しだけだが惹かれている部分もある。まだ一度も素直にお礼すら言えていないのだが。
「…っえくしっ!」
控えめなくしゃみのあと、ズビっと鼻をすする音が聞こえる。
「寒そうね」
「寒いんだよ」
確かに、彼の格好は少し寒そうだ。朝の冷え込みに堪えるために完全防備の私と比べて、彼は随分と高そうなコートを一枚羽織っているだけだ。
「ほら、ちょっと頭かがめて」
「あん?なんだ?」
そういいながらも素直に腰をおる彼の首に、マフラーを巻きつける。
「ちょっとはマシでしょ。風邪なんかひかれたら嫌だから」
言い訳のようにそう言ってさっさと先を歩き出す。別に彼のためにしたわけじゃない。風邪なんかひいて私のせいにされたらたまったもんじゃないからだ。
「おい」
くいっと後ろから手を引かれるが、反応を見るのが照れくさくてそのまま前を歩く。
「そんな安物じゃ嫌かもしれないけど、我慢してよね」
今度はさっきよりも強めに腕を引かれる。さすがにスルーして歩くことはできずに彼に引き寄せられてしまった。
「嫌じゃねぇよ。あったかい」
そう言った彼の顔は心なしか赤い。つられてこっちまで照れてしまいそうだ。
首に巻かれたピンクのマフラーは異様な存在感を放っている。キラキラとした彼のオーラの中で明らかに浮いている。それが彼が私のものをつけている、という実感になって襲ってくる。
「それ、返さなくていいから。帰ったら捨てるなりして。じゃあ!」
じわじわと襲い来る謎の満足感のような何かに耐えられずに、捨て台詞のように言い残すとその場から走って帰った。これ以上あのマフラーをつけている彼を見ていたらなんだか変になりそうだった。
「なるほど、これは悪くねぇ」
思いがけずもらった、彼女のマフラーを握る。贈り物、というには色気がないが、事実初めて彼女からもらったものだった。
彼女のものを所有している。それはなにか不思議な特別感があった。それはきっとお金では買えない価値を秘めているからだろう。お世辞にもいいものとは言えないこのマフラーは、彼女からもらったという事実だけで、俺にとって何よりも大切なものになったのだ。
「あいつに新しいマフラーをプレゼントしてやるか」
2019.1.20
「ったく、毎日毎日寒くて嫌になるな」
「文句言うなら着いてこなければいいのに」
「あーん?お前が大人しく俺様の車に送られりゃいい話だろうが」
誰があんな車に送られたいと思うのか。あんなのが家の前に停まった日にはお母さんが卒倒してしまう。
「だいだい私一言も送って、なんて頼んだ覚えないけど?」
勝手に着いてきているくせにぶつくさと文句を言う跡部に少し強めに当たってしまう。
「いいだろ、俺がしたくてしてるんだ」
そういうストレートな物言いは心臓に悪い。彼の苦手なところの一つだ。
ここ一ヶ月ほど、毎日のようにこうして彼と帰り道を共にしている。「車で家まで送る」という彼の誘いを断ったら、毎日のように歩いて着いてくるのだ。正直驚いた。あの跡部景吾が普通の中学生のように徒歩20分の道のりを、隣を歩いているのだ。
「毎日送り迎え付きのお坊ちゃまにはこの寒さは堪えるんじゃないの」
「そう思うなら大人しく送られればいいだろ」
頑なに私と帰ることにこだわる彼にこれ以上は言えなくなる。別に、本気で邪魔だとは思ってない。むしろ、根気よく一ヶ月もこうして一緒に帰ってくれている彼に、少しだけだが惹かれている部分もある。まだ一度も素直にお礼すら言えていないのだが。
「…っえくしっ!」
控えめなくしゃみのあと、ズビっと鼻をすする音が聞こえる。
「寒そうね」
「寒いんだよ」
確かに、彼の格好は少し寒そうだ。朝の冷え込みに堪えるために完全防備の私と比べて、彼は随分と高そうなコートを一枚羽織っているだけだ。
「ほら、ちょっと頭かがめて」
「あん?なんだ?」
そういいながらも素直に腰をおる彼の首に、マフラーを巻きつける。
「ちょっとはマシでしょ。風邪なんかひかれたら嫌だから」
言い訳のようにそう言ってさっさと先を歩き出す。別に彼のためにしたわけじゃない。風邪なんかひいて私のせいにされたらたまったもんじゃないからだ。
「おい」
くいっと後ろから手を引かれるが、反応を見るのが照れくさくてそのまま前を歩く。
「そんな安物じゃ嫌かもしれないけど、我慢してよね」
今度はさっきよりも強めに腕を引かれる。さすがにスルーして歩くことはできずに彼に引き寄せられてしまった。
「嫌じゃねぇよ。あったかい」
そう言った彼の顔は心なしか赤い。つられてこっちまで照れてしまいそうだ。
首に巻かれたピンクのマフラーは異様な存在感を放っている。キラキラとした彼のオーラの中で明らかに浮いている。それが彼が私のものをつけている、という実感になって襲ってくる。
「それ、返さなくていいから。帰ったら捨てるなりして。じゃあ!」
じわじわと襲い来る謎の満足感のような何かに耐えられずに、捨て台詞のように言い残すとその場から走って帰った。これ以上あのマフラーをつけている彼を見ていたらなんだか変になりそうだった。
「なるほど、これは悪くねぇ」
思いがけずもらった、彼女のマフラーを握る。贈り物、というには色気がないが、事実初めて彼女からもらったものだった。
彼女のものを所有している。それはなにか不思議な特別感があった。それはきっとお金では買えない価値を秘めているからだろう。お世辞にもいいものとは言えないこのマフラーは、彼女からもらったという事実だけで、俺にとって何よりも大切なものになったのだ。
「あいつに新しいマフラーをプレゼントしてやるか」
2019.1.20
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