一章
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私の審神者としての1日目は、慌ただしく過ぎた。新たな仲間とともに次の合戦場へ出陣したり、初めての遠征を行ったりと、あっという間に日が暮れてしまっていた。
山姥切さんと2人で始まった本丸は、たった数時間で12振にまで増えていた。
気がついたら外は暗く、もう夕飯の時間も過ぎた頃だった。12振なんてとんだ大家族だ。そんな量のご飯をどうやって用意したらいいものか悩んだ。それ以前にそもそも私は料理などろくにしたことがない。まともに作れる名のある料理といえばチャーハンくらいなものだ。
手伝いを申し出てくれた短刀たちと一緒に、何度かフライパンをふるい、全員分を作り終えた。
この人数でこれだ。これは普通に生活するのも一苦労だ。なにせ、刀剣男士というのは、現時点で60振ほどいるらしい。
「ご飯は当番制にして……でもみんなって料理とかできるのかなぁ」
マニュアルを傍に置きながらノートを広げる。学校以外でこんな風に真面目に机に向かうのは久しぶりなきがする。
食事のこと、部屋のこと、馬や畑の当番のこと、考えなければいけないことは今日だけで山積みになっている。一つずつ書き出して、解決策に頭をひねる。時刻はもう日付が変わってしばらくたつ。
キリがついたらやめようと思っていたが、そもそも問題が多すぎてキリのつけどころが見えてこない。審神者の部屋として充てがわれた本丸の端の部屋で頭を悩ませる。
「部屋割りもとりあえず私の部屋だけ決まったけど、みんなは雑魚寝だもんなぁ」
決め方に困ってしまったため、今日は仮ということで大広間にみんなで布団を敷いて寝てもらっているのだ。今剣さんたちは「わくわくしますね!」と楽しそうだったが、これからもずっとそういうわけには行かないだろう。
「はぁー、多すぎて処理できない」
頭の中がごちゃごちゃとしていて、声に出さないと酔って気持ち悪くなってしまいそうだった。誰もいない部屋に独り言を零し、自分の頭に整理をつける。
「まずは明日の朝ごはん……準備に時間がかかるから、逆算して早く起きて……」
ぶつぶつと口の中で含むように独り言をつぶやき続ける。だんだんと眠気が襲ってくるのがわかるが、こんなに散らかった頭では満足に睡眠を取れる気がしない。
「なぁ、起きてるか」
突然の自分以外の声に思考が止まる。襖の外から聞こえたそれは鶴丸さんの声だ。
「起きてますよ、どうぞ」
私の返事を待って、寝巻き姿の鶴丸さんが部屋へ入ってくる。
「どうかしたんですか?」
「いやな、寝るというのはどうやってやればいいものか考えていたら目が冴えてしまった。流石にもう寝ていると思ってたんだが、まさかまだ起きていたとはな。来てよかった」
「驚かせに来たんなら帰ってくださいね」
彼が昼間からたびたび私をからかって楽しんでいることは知っているので、初めに釘を刺しておく。
「驚かせるつもりなら声なんざかけないさ」
主人の、しかも女性の部屋に入るというのにそれはどうかと思うが、実際に行動に移されたわけではないので今回は目を瞑ることにする。いつかやられたらたまったものではないが。
「随分と勉強熱心なんだなぁ」
机の上に広げられたマニュアルとノートを見て、隣までやってきた鶴丸さんが感心したように言う。
「まだわからないことばかりなので、こうして考えていても解決しないことばかりで参っちゃいますよ……」
広げたページをパラパラとめくって中を読んでいるのであろうか。審神者マニュアルは彼らに見せても良いものなのかわからないので、さりげなく閉じさせてもらう。
「全部君が考えなきゃいけないものでもないだろう」
「そうですかね……やっぱり主としてみなさんをしっかりまとめなきゃって思うんですけど」
「確かに俺らは君についていくが、何もかもを任せるつもりはないぞ。むしろ俺らに任せてほしいもんだな」
そういって軽くぽんぽんと頭に手を乗せる。彼はふざけているところが目立つが、言うことはまともだ。
勝手に自分でなんとかしなければ、と思い込んでいたが、私は彼らを使役する立場だ。うまく使えずにいて自分が潰れてしまっては、それこそ主としていただけない。
「……もうお風呂にも入ったんですから、ぐちゃぐちゃにするのはなしですよ」
少し励まされたのだが、素直にお礼を言うのが恥ずかしくて、昼間のことを思い出し嫌味をいってみる。
「おぉっと、先手を打たれたか。残念だ」
本当にやるつもりだったのか、鶴丸さんの手が行き場を失くしたように中を掻く。やはりこの刀は人をからかって楽しむことが頭に常にあるらしい。
「明日、またみなさんに相談してみます」
「うん、それがいいな」
「それであの、鶴丸さんにさっそくお願いしてもいいですか」
彼のアドバイスを参考に、さっそく彼に仕事を任せてみようと思う。
「明日、朝ごはんを用意するのを手伝ってもらいたいんです。私だけでは、どれだけ早起きしても大変だと思うので……」
「そんなことか、お安い御用だな」
快諾してくれる彼にほっとする。
「それなら早く寝ないとな、もうそんなに寝ていられないぞ」
「うん。もう寝ます。あ、鶴丸さんは寝られますか?」
彼が部屋に来た時に言っていたことを思い出して尋ねる。彼のいいぶりからして、まるで人の体にまだ慣れていないような、そんな雰囲気を感じた。彼らにとって睡眠をとるというのは、馴染みのない習慣なのかもしれない。他の刀は普通に寝ているであろうことを考えると、きっと難しいことではないのだろう。しかし、眠れないと悩む彼を置いて自分は布団に入るというのは気がひけるものだ。
「あぁ、平気だ。君と話していたら眠気と言うやつがきた。これなら寝られるだろうさ」
鶴丸さんは「おやすみ」と後手に手を振って部屋から出て行く。それを確認してから、すでに用意されていた布団に潜り込んだ。前田さんが就寝前に整えてくれたものだ。
布団で首まですっぽり覆って目を閉じる。そして起きてからのことを考える。
朝ごはんの準備をして、みんなでご飯を食べたら、こなせる日課をこなして学校に行かなければいけない。
審神者という仕事を引き受けはしたが、私の本業は学生だ。もちろん政府からの任命を受けた時点で審神者の仕事に専念することもできたし、そうする人が多いとは聞いた。だが、簡単に高校をやめる選択はできなかった。それに、本丸と現世は審神者であればいつでも行き来できると聞いた。ここが家のようなものだと思えば、普通に学校生活を送るのに支障はないはずだ。
高校を卒業したら、審神者という仕事に専念するつもりでいる。だから今は、なんとか高校生と審神者と両立させたいのだ。
刀剣たちには、私が朝と夕方以降しかこの本丸にいられないことは伝えた。それでもちゃんと審神者としての責務は果たす、と宣言した以上甘えることは許されないと思っている。
きちんと日課をこなして、成果もあげる。他の本丸と比べられたときに、胸を張れるような本丸でありたいのだ。そのためには、私は審神者として刀剣たちに恥じない働きをしなければいけない。彼らの主として不足のないように、ちゃんとした審神者でありたいのだ。
やらなければいけないことはいくらでも思いつく。それらを考えていれば、次第に思考は鈍く、暗いところへと落ちていく。完全に眠りにつくまで大して時間はかからなかった。
山姥切さんと2人で始まった本丸は、たった数時間で12振にまで増えていた。
気がついたら外は暗く、もう夕飯の時間も過ぎた頃だった。12振なんてとんだ大家族だ。そんな量のご飯をどうやって用意したらいいものか悩んだ。それ以前にそもそも私は料理などろくにしたことがない。まともに作れる名のある料理といえばチャーハンくらいなものだ。
手伝いを申し出てくれた短刀たちと一緒に、何度かフライパンをふるい、全員分を作り終えた。
この人数でこれだ。これは普通に生活するのも一苦労だ。なにせ、刀剣男士というのは、現時点で60振ほどいるらしい。
「ご飯は当番制にして……でもみんなって料理とかできるのかなぁ」
マニュアルを傍に置きながらノートを広げる。学校以外でこんな風に真面目に机に向かうのは久しぶりなきがする。
食事のこと、部屋のこと、馬や畑の当番のこと、考えなければいけないことは今日だけで山積みになっている。一つずつ書き出して、解決策に頭をひねる。時刻はもう日付が変わってしばらくたつ。
キリがついたらやめようと思っていたが、そもそも問題が多すぎてキリのつけどころが見えてこない。審神者の部屋として充てがわれた本丸の端の部屋で頭を悩ませる。
「部屋割りもとりあえず私の部屋だけ決まったけど、みんなは雑魚寝だもんなぁ」
決め方に困ってしまったため、今日は仮ということで大広間にみんなで布団を敷いて寝てもらっているのだ。今剣さんたちは「わくわくしますね!」と楽しそうだったが、これからもずっとそういうわけには行かないだろう。
「はぁー、多すぎて処理できない」
頭の中がごちゃごちゃとしていて、声に出さないと酔って気持ち悪くなってしまいそうだった。誰もいない部屋に独り言を零し、自分の頭に整理をつける。
「まずは明日の朝ごはん……準備に時間がかかるから、逆算して早く起きて……」
ぶつぶつと口の中で含むように独り言をつぶやき続ける。だんだんと眠気が襲ってくるのがわかるが、こんなに散らかった頭では満足に睡眠を取れる気がしない。
「なぁ、起きてるか」
突然の自分以外の声に思考が止まる。襖の外から聞こえたそれは鶴丸さんの声だ。
「起きてますよ、どうぞ」
私の返事を待って、寝巻き姿の鶴丸さんが部屋へ入ってくる。
「どうかしたんですか?」
「いやな、寝るというのはどうやってやればいいものか考えていたら目が冴えてしまった。流石にもう寝ていると思ってたんだが、まさかまだ起きていたとはな。来てよかった」
「驚かせに来たんなら帰ってくださいね」
彼が昼間からたびたび私をからかって楽しんでいることは知っているので、初めに釘を刺しておく。
「驚かせるつもりなら声なんざかけないさ」
主人の、しかも女性の部屋に入るというのにそれはどうかと思うが、実際に行動に移されたわけではないので今回は目を瞑ることにする。いつかやられたらたまったものではないが。
「随分と勉強熱心なんだなぁ」
机の上に広げられたマニュアルとノートを見て、隣までやってきた鶴丸さんが感心したように言う。
「まだわからないことばかりなので、こうして考えていても解決しないことばかりで参っちゃいますよ……」
広げたページをパラパラとめくって中を読んでいるのであろうか。審神者マニュアルは彼らに見せても良いものなのかわからないので、さりげなく閉じさせてもらう。
「全部君が考えなきゃいけないものでもないだろう」
「そうですかね……やっぱり主としてみなさんをしっかりまとめなきゃって思うんですけど」
「確かに俺らは君についていくが、何もかもを任せるつもりはないぞ。むしろ俺らに任せてほしいもんだな」
そういって軽くぽんぽんと頭に手を乗せる。彼はふざけているところが目立つが、言うことはまともだ。
勝手に自分でなんとかしなければ、と思い込んでいたが、私は彼らを使役する立場だ。うまく使えずにいて自分が潰れてしまっては、それこそ主としていただけない。
「……もうお風呂にも入ったんですから、ぐちゃぐちゃにするのはなしですよ」
少し励まされたのだが、素直にお礼を言うのが恥ずかしくて、昼間のことを思い出し嫌味をいってみる。
「おぉっと、先手を打たれたか。残念だ」
本当にやるつもりだったのか、鶴丸さんの手が行き場を失くしたように中を掻く。やはりこの刀は人をからかって楽しむことが頭に常にあるらしい。
「明日、またみなさんに相談してみます」
「うん、それがいいな」
「それであの、鶴丸さんにさっそくお願いしてもいいですか」
彼のアドバイスを参考に、さっそく彼に仕事を任せてみようと思う。
「明日、朝ごはんを用意するのを手伝ってもらいたいんです。私だけでは、どれだけ早起きしても大変だと思うので……」
「そんなことか、お安い御用だな」
快諾してくれる彼にほっとする。
「それなら早く寝ないとな、もうそんなに寝ていられないぞ」
「うん。もう寝ます。あ、鶴丸さんは寝られますか?」
彼が部屋に来た時に言っていたことを思い出して尋ねる。彼のいいぶりからして、まるで人の体にまだ慣れていないような、そんな雰囲気を感じた。彼らにとって睡眠をとるというのは、馴染みのない習慣なのかもしれない。他の刀は普通に寝ているであろうことを考えると、きっと難しいことではないのだろう。しかし、眠れないと悩む彼を置いて自分は布団に入るというのは気がひけるものだ。
「あぁ、平気だ。君と話していたら眠気と言うやつがきた。これなら寝られるだろうさ」
鶴丸さんは「おやすみ」と後手に手を振って部屋から出て行く。それを確認してから、すでに用意されていた布団に潜り込んだ。前田さんが就寝前に整えてくれたものだ。
布団で首まですっぽり覆って目を閉じる。そして起きてからのことを考える。
朝ごはんの準備をして、みんなでご飯を食べたら、こなせる日課をこなして学校に行かなければいけない。
審神者という仕事を引き受けはしたが、私の本業は学生だ。もちろん政府からの任命を受けた時点で審神者の仕事に専念することもできたし、そうする人が多いとは聞いた。だが、簡単に高校をやめる選択はできなかった。それに、本丸と現世は審神者であればいつでも行き来できると聞いた。ここが家のようなものだと思えば、普通に学校生活を送るのに支障はないはずだ。
高校を卒業したら、審神者という仕事に専念するつもりでいる。だから今は、なんとか高校生と審神者と両立させたいのだ。
刀剣たちには、私が朝と夕方以降しかこの本丸にいられないことは伝えた。それでもちゃんと審神者としての責務は果たす、と宣言した以上甘えることは許されないと思っている。
きちんと日課をこなして、成果もあげる。他の本丸と比べられたときに、胸を張れるような本丸でありたいのだ。そのためには、私は審神者として刀剣たちに恥じない働きをしなければいけない。彼らの主として不足のないように、ちゃんとした審神者でありたいのだ。
やらなければいけないことはいくらでも思いつく。それらを考えていれば、次第に思考は鈍く、暗いところへと落ちていく。完全に眠りにつくまで大して時間はかからなかった。