二章
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「帰ったよ、主」
「どうぞ、お納め下さい!」
「お、おぉ……」
夜戦部隊の活躍は目覚しい。疲れ知らずの彼らは出陣を繰り返し確実にレベルアップをしている。それだけでも十分すぎる成果だ。
興奮気味に前田さんが差し出す刀。おそらくは太刀だろうか。なんだかやけにみんな目を輝かせている気がする。いや、みんなというわけでもないか。
でも、骨喰さんまでもが顔にこそ出さないものの前田さんの手にした刀を気にしているように見える。
そんな期待に応えなければ、というのもあって早急に顕現に取り掛かる。
前田さんから刀を受け取り、いつものように霊力をこめればそれは人の形となる。
「私は一期一振」
「い、いちにい!」
彼が現れると、真っ先に五虎退さんが声を上げた。
「おや、五虎退。前田に骨喰、鯰尾も。弟たちが世話になっているようですな」
噂にはよく聞いていた。『いち兄』の登場だ。
彼らがそわそわしていた理由がよくわかった。待ち焦がれていたいち兄との対面が叶ったのだ。
「いえ、こちらこそみなさんには助けられてばかりです。この本丸の審神者です。よろしくお願いします、一期さん」
「はい。弟達共々、よろしくお願い申し上げます」
物腰の柔らかな彼はにこやかに微笑む。さすがお兄さんといった雰囲気だ。
「みなさん、一期さんがくるの楽しみにしてたんですよ」
「そうでしたか。それは早く皆にも会いたいですね」
ここで話していても仕方がない。少しでも早く粟田口の子達に会わせてあげたい。それは一期さん本人も、そしてここにいる彼らも同じようだ。
「きっとみんな驚きますよ」
「そうですねー。いち兄、今夜は寝られませんよ」
そんな鯰尾さんの言葉に一期さんはクスクスと笑う。
「それは、お手柔らかにお願いしたいね」
微笑ましい、兄弟の姿だ。
みんなあまり似ているとは言えないけど、それでも雰囲気は間違いなく家族だ。揃いの服を着ているのもあるかもしれないが、同じ刀派であるというのがよくわかる。
一期さんを連れ、他の兄弟に会いに行った粟田口を見送る。
「きょうだいですか、なかがよさそうで、いいですね!」
私の気持ちを代弁するように、今剣さんが言う。
「今剣さんは、兄弟とかいないの?」
「うーん、きょうだいとはちがいますけど……岩融や三条はいっしょにいることがおおいですね!」
同じ刀派=兄弟、と言うわけではないが、やはりある程度は親しいみたいだ。確かに、今剣さんは岩融さんとよく一緒にいる気がする。大小の凸凹コンビはよく目立つ。
「小夜はおにいさんがいますよね。やっぱりあえたのは、うれしかったですか?」
「僕?僕は……どうなんだろう」
今剣さんからの質問に、小夜さんは少し言葉を詰まらせる。
左文字兄弟は粟田口に比べると物静かだ。一緒にいることは比較的に多い気がするが、なんといか、和気藹々とした感じは見受けられない。それでも、決して仲が悪いということはないはずだ。少なくとも、お兄さん達は小夜さんが好きでたまらないと思う。
「嬉しかった……と、思う。兄様達とはすぐに会えたから、待ち焦がれる気持ちはわからないけど……でも、もし、僕が彼らのような立場だったら、きっと同じように喜んだと思う」
「小夜もおにいさんがすきなんですね!」
「……うん」
少し照れたように頷く小夜さんに心がじーんと暖かくなるのを感じる。多分これをお兄様方が見たら卒倒するんじゃないだろうか。私ですら結構な破壊力だ。
「あるじさまは、おにいさんのこと、すきですか?」
「私?は、ひとりっこだけど」
思わぬパスに私は首を振る。
「あれ、鳴狐がおにいさんなんじゃないんですか?」
キョトンとして首を傾げる今剣さんに慌てる。
「ちょ、どこでそれを……」
「秋田たちにききました!」
粟田口のちびっこたちめ……。そういえば、特別口止めをした覚えがない。それゆえに彼らを責めることはできないが、果たしてこれはどこまで広まってしまっているのか。刀の一人を兄に仕立て上げた悲しい一人っ子のレッテルを貼られていないことを祈るばかりだ。
「……一期さんには内緒ね」
「どうしてですか?」
鳴狐さんとは兄弟ではないと聞いたが、それでも同じ刀派。親戚のようなものだろう。その一期に白い目で見られるというのは避けたい。なんというか、あの物腰穏やかな好青年に冷たい目で見られるというのはダメージが大きそうだ。あとですぐに粟田口たちにも根回しするとしよう。
「どうしても。……お願いします」
「……?わかりました」
頭を下げると、なぜだかわからないようだが了承してくれた今剣さん。
「ねえ、なぜ鳴狐さんが兄なの?」
そして、ここに新たに噂を聞いてしまった人が一人。小夜さんが袖を引いて尋ねてくる。
「えーと……成り行きで……?一人っ子の私に甘える場を提供してくださったというか……とにかく、あまり声を大にしていうつもりはなくてね……?」
「ふぅん……よくわからないけれど、内緒なんだね」
「理解が早くて助かります」
きっと小夜さんは約束を守ってくれることだろう。どこまで広まっているのか知らないが、これ以上の拡散はないことを願うばかりだ。
「確かに、あなたの兄になりたいという人は多そうだものね」
「え?どういうこと?」
「それが困るから、内緒にしてほしいんじゃないの?」
そんなことは考えてもいなかった。まあ確かに、これ以上兄が増えるのは望んでいないし、それでいいか。
「あにはひつようありませんか……それならおとうとなんて、どうですか?」
今剣さんがしばし腕を組んだかと思うと、パッと笑顔でそう言った。弟だって?
「ぼく、あるじさまのおとうとになら、なりたいです!」
「え、いや、とくに募集していないんだけど……」
「ダメですか……?」
見るからにしゅんとしてしまう今剣さんに罪悪感がわいてくる。
それこそ、短刀の言うことだ。おままごとのようなことだろう。あまり無下に断ってしまうのも心が痛い。
しかし、なんやかんやとこのまま家族が増えていきそうな予感がする。受け入れてしまえば、以後断ることが断然難しくなるだろう。
「ダメじゃないよ。けど、私は今剣さんも、小夜さんも、短刀のみんなを弟みたいに思ってるんだけどなぁ……?」
そう、わざわざ立候補なんてしなくても、私は十分みんなのことを可愛い弟のように思っている。
「ほんとうですか!?」
パッと今剣さんの顔が明るくなる。
「ふふっ、あるじさまが、ねえさまです!」
嬉しそうに周りをぴょんぴょんと跳ねる。うん、可愛い弟だ。
「ねぇ、僕も、弟なの?」
横から小夜さんが見上げて訪ねてくる。
「うん、私はそう思ってるよ。小夜さんさえ嫌じゃなければ」
「そう。……嫌じゃないよ」
そう言ってくれた小夜さんの頭を撫でる。そのまま身を委ねてくれるのでなんとも可愛らしい。
「えへへ、可愛い弟に囲まれて、一期さんにも負けない幸せだよね」
***
結論から話すと、一期さんには鳴狐さんとの関係がばれた。
この言い方だとただならぬ関係みたいに聞こえるけど、例の兄妹の件だ。あとですればいいと思っていた口止めは、すでに手遅れだった。
粟田口の短刀たちは、念願の一期さんの顕現に大喜びして、今までの話をたくさんしたみたいだ。その中で私たちのことも話題に上がったのだというのを、後で薬研さんに聞いた。
「弟たちとも、鳴狐殿とも仲がよろしいようでなによりですな」
とは、一期さんからもらった言葉だ。
幸い、変な目で見られることはなかった。微笑ましいおままごとの延長として捉えてくれたみたいで何よりだ。
さらには「私では頼りないやもしれませんが、どうぞいつでも頼っていただきたい」といち兄さんからのありがたいお言葉も頂戴した。さすが兄弟をまとめる長兄だけある。笑顔がとてもロイヤルだった。
もういっそ、私も粟田口に入れてしまおうかと考えてしまったくらいだ。
2019.7.14
「どうぞ、お納め下さい!」
「お、おぉ……」
夜戦部隊の活躍は目覚しい。疲れ知らずの彼らは出陣を繰り返し確実にレベルアップをしている。それだけでも十分すぎる成果だ。
興奮気味に前田さんが差し出す刀。おそらくは太刀だろうか。なんだかやけにみんな目を輝かせている気がする。いや、みんなというわけでもないか。
でも、骨喰さんまでもが顔にこそ出さないものの前田さんの手にした刀を気にしているように見える。
そんな期待に応えなければ、というのもあって早急に顕現に取り掛かる。
前田さんから刀を受け取り、いつものように霊力をこめればそれは人の形となる。
「私は一期一振」
「い、いちにい!」
彼が現れると、真っ先に五虎退さんが声を上げた。
「おや、五虎退。前田に骨喰、鯰尾も。弟たちが世話になっているようですな」
噂にはよく聞いていた。『いち兄』の登場だ。
彼らがそわそわしていた理由がよくわかった。待ち焦がれていたいち兄との対面が叶ったのだ。
「いえ、こちらこそみなさんには助けられてばかりです。この本丸の審神者です。よろしくお願いします、一期さん」
「はい。弟達共々、よろしくお願い申し上げます」
物腰の柔らかな彼はにこやかに微笑む。さすがお兄さんといった雰囲気だ。
「みなさん、一期さんがくるの楽しみにしてたんですよ」
「そうでしたか。それは早く皆にも会いたいですね」
ここで話していても仕方がない。少しでも早く粟田口の子達に会わせてあげたい。それは一期さん本人も、そしてここにいる彼らも同じようだ。
「きっとみんな驚きますよ」
「そうですねー。いち兄、今夜は寝られませんよ」
そんな鯰尾さんの言葉に一期さんはクスクスと笑う。
「それは、お手柔らかにお願いしたいね」
微笑ましい、兄弟の姿だ。
みんなあまり似ているとは言えないけど、それでも雰囲気は間違いなく家族だ。揃いの服を着ているのもあるかもしれないが、同じ刀派であるというのがよくわかる。
一期さんを連れ、他の兄弟に会いに行った粟田口を見送る。
「きょうだいですか、なかがよさそうで、いいですね!」
私の気持ちを代弁するように、今剣さんが言う。
「今剣さんは、兄弟とかいないの?」
「うーん、きょうだいとはちがいますけど……岩融や三条はいっしょにいることがおおいですね!」
同じ刀派=兄弟、と言うわけではないが、やはりある程度は親しいみたいだ。確かに、今剣さんは岩融さんとよく一緒にいる気がする。大小の凸凹コンビはよく目立つ。
「小夜はおにいさんがいますよね。やっぱりあえたのは、うれしかったですか?」
「僕?僕は……どうなんだろう」
今剣さんからの質問に、小夜さんは少し言葉を詰まらせる。
左文字兄弟は粟田口に比べると物静かだ。一緒にいることは比較的に多い気がするが、なんといか、和気藹々とした感じは見受けられない。それでも、決して仲が悪いということはないはずだ。少なくとも、お兄さん達は小夜さんが好きでたまらないと思う。
「嬉しかった……と、思う。兄様達とはすぐに会えたから、待ち焦がれる気持ちはわからないけど……でも、もし、僕が彼らのような立場だったら、きっと同じように喜んだと思う」
「小夜もおにいさんがすきなんですね!」
「……うん」
少し照れたように頷く小夜さんに心がじーんと暖かくなるのを感じる。多分これをお兄様方が見たら卒倒するんじゃないだろうか。私ですら結構な破壊力だ。
「あるじさまは、おにいさんのこと、すきですか?」
「私?は、ひとりっこだけど」
思わぬパスに私は首を振る。
「あれ、鳴狐がおにいさんなんじゃないんですか?」
キョトンとして首を傾げる今剣さんに慌てる。
「ちょ、どこでそれを……」
「秋田たちにききました!」
粟田口のちびっこたちめ……。そういえば、特別口止めをした覚えがない。それゆえに彼らを責めることはできないが、果たしてこれはどこまで広まってしまっているのか。刀の一人を兄に仕立て上げた悲しい一人っ子のレッテルを貼られていないことを祈るばかりだ。
「……一期さんには内緒ね」
「どうしてですか?」
鳴狐さんとは兄弟ではないと聞いたが、それでも同じ刀派。親戚のようなものだろう。その一期に白い目で見られるというのは避けたい。なんというか、あの物腰穏やかな好青年に冷たい目で見られるというのはダメージが大きそうだ。あとですぐに粟田口たちにも根回しするとしよう。
「どうしても。……お願いします」
「……?わかりました」
頭を下げると、なぜだかわからないようだが了承してくれた今剣さん。
「ねえ、なぜ鳴狐さんが兄なの?」
そして、ここに新たに噂を聞いてしまった人が一人。小夜さんが袖を引いて尋ねてくる。
「えーと……成り行きで……?一人っ子の私に甘える場を提供してくださったというか……とにかく、あまり声を大にしていうつもりはなくてね……?」
「ふぅん……よくわからないけれど、内緒なんだね」
「理解が早くて助かります」
きっと小夜さんは約束を守ってくれることだろう。どこまで広まっているのか知らないが、これ以上の拡散はないことを願うばかりだ。
「確かに、あなたの兄になりたいという人は多そうだものね」
「え?どういうこと?」
「それが困るから、内緒にしてほしいんじゃないの?」
そんなことは考えてもいなかった。まあ確かに、これ以上兄が増えるのは望んでいないし、それでいいか。
「あにはひつようありませんか……それならおとうとなんて、どうですか?」
今剣さんがしばし腕を組んだかと思うと、パッと笑顔でそう言った。弟だって?
「ぼく、あるじさまのおとうとになら、なりたいです!」
「え、いや、とくに募集していないんだけど……」
「ダメですか……?」
見るからにしゅんとしてしまう今剣さんに罪悪感がわいてくる。
それこそ、短刀の言うことだ。おままごとのようなことだろう。あまり無下に断ってしまうのも心が痛い。
しかし、なんやかんやとこのまま家族が増えていきそうな予感がする。受け入れてしまえば、以後断ることが断然難しくなるだろう。
「ダメじゃないよ。けど、私は今剣さんも、小夜さんも、短刀のみんなを弟みたいに思ってるんだけどなぁ……?」
そう、わざわざ立候補なんてしなくても、私は十分みんなのことを可愛い弟のように思っている。
「ほんとうですか!?」
パッと今剣さんの顔が明るくなる。
「ふふっ、あるじさまが、ねえさまです!」
嬉しそうに周りをぴょんぴょんと跳ねる。うん、可愛い弟だ。
「ねぇ、僕も、弟なの?」
横から小夜さんが見上げて訪ねてくる。
「うん、私はそう思ってるよ。小夜さんさえ嫌じゃなければ」
「そう。……嫌じゃないよ」
そう言ってくれた小夜さんの頭を撫でる。そのまま身を委ねてくれるのでなんとも可愛らしい。
「えへへ、可愛い弟に囲まれて、一期さんにも負けない幸せだよね」
***
結論から話すと、一期さんには鳴狐さんとの関係がばれた。
この言い方だとただならぬ関係みたいに聞こえるけど、例の兄妹の件だ。あとですればいいと思っていた口止めは、すでに手遅れだった。
粟田口の短刀たちは、念願の一期さんの顕現に大喜びして、今までの話をたくさんしたみたいだ。その中で私たちのことも話題に上がったのだというのを、後で薬研さんに聞いた。
「弟たちとも、鳴狐殿とも仲がよろしいようでなによりですな」
とは、一期さんからもらった言葉だ。
幸い、変な目で見られることはなかった。微笑ましいおままごとの延長として捉えてくれたみたいで何よりだ。
さらには「私では頼りないやもしれませんが、どうぞいつでも頼っていただきたい」といち兄さんからのありがたいお言葉も頂戴した。さすが兄弟をまとめる長兄だけある。笑顔がとてもロイヤルだった。
もういっそ、私も粟田口に入れてしまおうかと考えてしまったくらいだ。
2019.7.14