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一章

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「それでは改めまして、山姥切さん。前田さん。出陣お疲れ様でした」

 前田さんの手入れが終わり、改めて出陣の成果を確認する。
 今回は一振の刀を入手したようだ。大きさからして、前田さんと同じ短刀だろう。
 三度目ともなれば、勝手もわかってきた。小さな刀に霊力を込めて宿った付喪神を顕現する。

「ぼくは、今剣!よしつねこうのまもりがたななんですよ!どうだ、すごいでしょう!」

 現れたのは、和服を着た小さな男の子だ。喋り方に残る幼さのせいか、前田さんよりも年は下のように見える。

「はじめまして、今剣さん。義経公ってあれだよね、源義経?それなら私も知ってるかも」

 あまり勉強は得意な方ではないので、歴史に自信はないが、さすがにその名くらいは知っていた。どのくらい前の時代に当たるのかはわからないが、それでも随分前の時代の人物なのは間違いない。そんな昔の人に仕えていた刀が、今こうして私の刀として現れたというのはなんとも不思議な感覚だ。

「わぁー!あるじさまのじだいでも、よしつねこうはしられているんですね!」

「うん、私でも知ってるくらいだから、めちゃくちゃ有名人だよ」

 元の主人のこととなると、嬉しいものなのだろう。今剣さんがぴょんぴょんと飛び跳ねると、その長い髪の毛が尻尾のように揺れて可愛らしい。


「さて、来てもらって早速で申し訳ないのですが、今剣さん。第一部隊へ配属します」

「はい!」

 元気の良い返事だ。見た目は小さな子供だが、その瞳はやる気に満ちていて、頼もしいことこの上ない。
 今剣さんを第一部隊に編成したはいいが、先ほどの前田さんの負傷を思い返し、彼にも怪我をさせてしまうのではないかと不安になる。
 彼らは刀なのだから、戦うのが本来の役割で、怪我をするというのも人とはまた違うというのもわかってはいるのだが、どうしてもそれは避けたいと思ってしまう。

「部隊の人数って増やせるのかな」

 困った時の審神者マニュアルだ。部隊編成に関しての項目を見つけ、文章を追えば、最大六振りまで編成できることがわかる。

「なるほど!それなら、戦力は大いに越したことはないよね!山姥切さん、鍛刀のお手伝いお願いします」


 短刀の2人を残し、山姥切さんと2人、鍛刀部屋に向かう。

「私が思うに、材料が多ければ大きな刀がくると思うんだよね」

 鍛刀のさいのレシピは自由に決めることができるらしい。

「大きいとなんか強そうじゃん?つまりけちけちしても仕方がないと思うわけよ」

「おい、別に止めないが本当にこれで良いんだな?」

資材を用意するのを手伝ってくれる山姥切はしつこく確認をしてくる。

「大丈夫!やっちゃいましょう!お願いします!」

 999、上限まで用意した資材を、依頼札とともに刀鍛冶の妖精さんに渡す。山盛りの資材をあっという間に仕上げていく妖精さん。待ち時間は3時間20分だ。

「え、えぇ!?ながっ!」

 前田さんの20分と比べて随分と長い。

「つまり、これは成功ってことでは!?」

 私は大興奮なのだが、対して隣の山姥切さんはどうも反応が薄い。

 3時間以上もおとなしく待っているわけにも行かないので、手伝い札を使い、鍛刀を完了させる。
 予想通り、山姥切さんよりも大きな刀がそこには完成していた。今まで通り、顕現を試みる。

「よっ。鶴丸国永だ。俺みたいなのが来て驚いたか?」

 弾けた花びらの中に現れた白。身につけている着物から、本人まで、すべて真っ白だ。

「しっ………………ろ、白ぉ!!」

「はははっ、随分と反応の良い主だなぁ!こりゃ驚ろかしがいがありそうだ」
 
 真っ白な装いと、細身の体に抱いた「儚そう」という第一印象が覆るまで一瞬だった。豪快に笑って見せる彼にはどこか図太そうな雰囲気を感じる。

「戦場でもしぶとく戦ってくれそう……」

「ん?戦か?任せておけ。先陣切って空気を掴むぜ」

 何はともあれ、頼もしいことこの上ない。彼の刀種は『太刀』だ。打刀である山姥切さんよりもやはり大きい。やはりケチらなくて正解だったようだ。


「それでは、第一部隊のみなさん。出陣お願いします」

 新たに今剣さんと鶴丸さんを隊に加え、4人での出陣だ。先ほど怪我を治したばかりだというのに、前田さんもまた出陣していくのだ。

「怪我には気をつけてくださいね」

「やっぱり君は面白いことを言うんだなぁ」

 鶴丸さんはそう言って笑う。刀からすると、やはり怪我の心配など余計なお世話なのだろうか。

「なぁに、主の命令だ。怪我一つなく、帰ってきてやるさ」

 ぽんぽんと頭に手を乗せられ彼の顔を見れば、その目はやる気に満ちていた。白い衣装が夕暮れの光によく映える。なんと堂々とした輝きだろうか。

「良い結果を持ち帰ります!」

「まっててくださいね、あるじさま!」

「それじゃあ、行ってくる」

 各々が出発の言葉を口にして、転移門を潜っていく。私にできるのは彼らを見守り、無事を祈るだけだ。
 彼らの出て行った門をただ見つめているだけでも時間は過ぎていく。今できることをやるべきだ。まだほとんど目を通せていない審神者マニュアルをパラパラとめくってみるが、内容はてんで頭に入ってこない。静かな本丸が、無性に落ち着かない。
 こんなにも広い場所に、私ただ1人だけというのがなんだかひどく心細く思えてきた。出陣というのは審神者が主にこなす仕事の一つだ。毎回こんなことでは身がもたなくなってしまいそうだと、自分で少し呆れてしまう。

 彼らの現在の進行状況を確かめるべく、タブレット端末に目をやる。古風な本丸の作りに対して、それはどこか違和感を放っている。
 審神者に支給されるこの端末で、出陣先の状況が確認できるのだと、一番最初にこんのすけに手渡され説明を受けた。他にも本丸の状態や、刀剣たちの様子など、一目で確認できる便利なものらしい。現世でのスマホによく似たそれは、手に馴染みが良い。

 画面を操作して、彼らの様子を確認すれば、今、戦いを終えようか、というところだった。慌てて、彼らを迎えるべく、門のある玄関前へと向かう。
 ちょうどのタイミングで、門の扉が開く。一番に入ってきた山姥切さんの顔を見て、ほっと胸をなでおろした。ほんの数十分のことだが、なぜかひどくホッとしたのだ。

「おかえりなさい」

「あぁ、帰った」

 山姥切さんの返事は短くそっけないが、それでもしっかり目をみて、帰ってきたことを伝えてくれた。

「主君!無事に帰りましたよ!」

「みてくださいあるじさまー!」

 その後ろに続いて、短刀2人がそれぞれ小さな刀を抱えて駆けて来る。

「お疲れ様でした!怪我してなくてよかったー!」

 2人を迎え、よくやったと頭を撫でれば嬉しそうに笑ってくれる。

「君も留守番ご苦労だったな」

 そして次は私が頭を撫でられる番だった。

「鶴丸さん!?」

「1人の留守番はさみしくはなかったか?」

 からかい半分で聞いてくる彼の言葉だが、若干思うところがあるので跳ね除けることができない。そんな私を面白く思ったのか、頭を撫でる手がだんだんと荒くなっていく。

「ちょ、ちょっと!ボサボサなんですけど!」

「ふはっ、良いじゃないか、似合うぞ」

 完全にバカにしているであろう鶴丸さんは随分と楽しそうだ。

「おい、いつまでそうしてるつもりだ。戦果を報告するぞ」

 私たちをおいて中に入ろうとしていた山姥切さんが呆れたように声を駆けて来る。彼にそういう目でみられるのはもう何度目かになるが、主としては少し情けなくなる。気をつけなければいつか愛想をつかされてしまうかもしれない。

「鶴丸さんのせいですよ!山姥切さんに愛想つかされたらどうするんですか」

 自分は悪くない、と彼に罪を押し付けて山姥切の後を追う。何も本当にそんな心配はまだしていないし、彼のことも本気で咎めるつもりはない。
 鶴丸さんもそれはわかっているようで、たいして気にしていない様子だ。

「愛想なんかつかさない、いや、つかすなんてできないさ」

「ん?何かいいました?」

「……いーや!早く行かないと山姥切がふてくされるぞ!」

 何か聞こえたような気がして、振り返るが、相変わらず茶化すだけの鶴丸さんだ。
 私のすぐ隣を挟んでいる短刀2人と、一緒に山姥切が待つであろう、今まで集まるのに使っていた部屋へ向かう。

「新たな仲間を入手したんです」

「はやくあいたいですね!」

 彼らが持つ短刀がその仲間だろう。山姥切さんにも立ち会ってもらって、また顕現しよう。こうして仲間が増えていくのは随分と心強い。新たな二振も第一部隊へ配属し、より一層強い戦力で出陣ができることだろう。

「やっときたか。戦果の報告だ」
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