二章
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「大丈夫だ、行ってくる」
そんな彼らの言葉を信じていた。私は、彼らの強さを信頼していた。でも、実力差というのは願っただけでは埋まらない。
ボロボロになって帰ってきた第一部隊を迎えた私は、自分を責めずにはいられなかった。
大阪城地下。
50階にて信濃さんを入手し、調査は終了かと思われた。だが、その先にはまだまだ地下が深く続いていた。聞くところによれば、そのさらに奥には別の藤四郎兄弟がいるという。もちろん、それを狙わない手はない。
だが、50階にたどり着くまでに、すでに感じていた敵の強さ。ここから先の道のりだって、易しいものではないというのは簡単に想像できた。
怪我をして帰ってくることも多くなったここから先、出陣させることはただの無謀ではないだろうか。そう思っていた。だが、「任せてくれ」という彼らの頼もしさに私は甘えてしまった。後少し、もう少し、次の階くらいなら進めるかもしれない。それが重なり、重なり、そしてこの結果だ。
部隊はお互いを支えあうようにして、満身創痍で帰ってきた。すでに通信を通して彼らの敗北は伝わっていた。迎え入れる態勢は整っている。
それでも、その姿を目にしたら覚悟などは吹き飛んでしまった。血に濡れ、無残に切り裂かれた服。そこからは傷ついた肌が肉の色を晒しているのが見える。
目に見えて、誰よりも重傷だったのは山姥切さんだ。比較的傷の浅かった石切丸さんに半ば引きずられるようにして帰還した姿は、意識を繋ぎ止めているのがやっとの状態で、足もとすらおぼつかない様子だった。
「……すまない」
石切丸さんの肩を離れ、倒れこむようにしてこちらにやってきた山姥切さんは、耳元でか細くつぶやくと、その体から力が抜けた。そのまま体重を全て預けるように倒れこんでくる彼を支えることもできず、一緒になってその場に倒されてしまう。
傷口からとめどなく流れる血が、私の服をじっとりと濡らしていくのがわかる。血が、命が、こぼれ落ちていくその感覚に底知れぬ恐怖を感じた。
息が苦しくなる。これは重さのせいだろうか。呼吸が浅く、早くなっていく。
「早く怪我人は手入れ部屋へ!」
「山姥切を運ぶ、手を貸してくれ!」
誰かの飛ばした指示によって、山姥切さんの体が運ばれていく。重さから解放されてもなお、息は苦しいままだ。
「主!主……!」
強く揺さぶられてハッとする。そのまま腕を引かれて起こされる。
「平気かい?怪我は……ないようだね」
さっと私の怪我を確認して、歌仙さんがいう。
「一刻を争う、早く手入れ部屋へ」
「わ、私……私のせいで……」
じっとりと濡れた服が山姥切さんの傷の酷さを物語る。自分の采配ミスによる事の重大さがじわじわとのしかかってくる。
「悪いけど反省は後だ。今、君に出来ることをやるべきだろう。君がやらなきゃ、彼は折れる」
押しつぶされそうになった私を、無理矢理に引きずり出したのは歌仙さんだ。
折れる。それだけはダメだ。最悪の事態を考えると、咄嗟に体が動く。焦りと、後悔と、恐怖と、ごちゃ混ぜになった感情でうまく動かない足に転びそうになるが、それを歌仙さんが支えてくれる。
早く、早く手入れ部屋に向かわなくては。
「ごめん、ごめんなさい」
溢れてくる涙は悲しみか。悔しさか。手入れの邪魔にしかならないそれを必死にぬぐいながら、手入れ部屋に駆け込む。
時間にして、そんなに長くはなかったと思う。
でも、体感は実際の時間よりもずっと長くて。目の前の彼らを救うのに必死だった。
早急な手入れを必要とした山姥切さんだったが、折れていない以上、審神者の力ですっかり治ってしまうのだから不思議だ。あんなにもボロボロだった体は、人間ではありえない早さで傷が塞がっている。
第一部隊の他の面々はすでに手入れを終え、部屋を出ていた。この部屋に残っているのは私と山姥切さんだけだ。彼はまだ目を覚まさない。もう傷はほとんど癒えていて、服すらも修復されている。
すっかり血が固まってしまい、ごわごわとした服ごと膝を抱え込む。手入れを終えた私に、みんなは休むようにと提案してくれたが、それを断った。ならばせめて服を着替えておいで、と歌仙さんに言われたが、今は一時だってここを離れたくなかった。山姥切さんが目覚めるまでここにいる、と言うと、彼はそれ以上は何も言わなかった。
手入れ中のことはあまり覚えていない。
ただ無我夢中で、傷を癒すことに専念した。私が送り出してしまったばっかりに傷を負って帰ってきた彼らに、私が出来ることなどそれくらいしかなかった。
誰も、私を責めなかった。当然だ。私は無理な出陣を命令したわけでも、ましてや彼らを傷つけたかったわけでもない。彼らは勝てるといった。私はそれを信じた。それだけだった。
ならば、私が彼らを信じたことが間違いだったのか。そうは思わないし、思いたくない。私は誰よりもこの本丸のみんなを信じている。
今回のことは、誰が悪いわけでもない。ただの事故だった。そう、誰もが納得しているのはわかっていた。
それでも、ボロボロになった彼らを見て、どこかに責任を押し付けないとやりきれない思いだった。今回のことは私の判断ミスが招いたことだ。そうやって、自分に責任を負わせることで、自分自身に気持ちをぶつけることで、やり場のない思いをなんとか押し殺した。
「そんな格好だと心臓に悪いな」
ふと、突然投げかけられた声に体がびくりと反応する。
当然その声は、部屋の中にいる山姥切さんから発せられたものだった。
「何かあったのかと心配するだろ」
体を起こして、膝を抱えたままの私にそっと触れた。
「……すまなかったな」
その言葉に、ぐっと押しとどめていたはずの涙が溢れた。
心配した。傷だらけの姿を見て血の気が引いた。もう助からないのか。そうなればもう会うことができないのか。
帰ってきた彼を見た時に、押し寄せてきた思いが再びやってくる。
「あのまま、戦いの中で朽ち果てるのなら、それも構わないと思った。でも、あんたの顔が浮かんだんだ。こうやって泣くあんたの顔が……そうしたら、そばに居てやりたくなった」
すくい上げるように、私の顔を持ち上げると、山姥切さんの手が涙を拭った。それでもとめどなく溢れてくる涙はどんどん顔を濡らしていく。
「戻ってこれてよかった。写しの俺にでも、涙を拭うことくらいはできるんだな」
「折れ、折れなくてっ……よかったぁ……っ!山姥切さんっ、山姥切さん……!!」
彼の顔を見て、溢れ出てきたものを止めることができなかった。上手く言葉にもならない嗚咽を漏らして、必死に彼の腕に縋り付いた。
そこに感じる確かな人の温もりに、言いようのない安心感を覚えた。
そんな私の頭には、そっと遠慮がちに触れた手が優しく髪を梳いた。私はそれにされるがままに身をまかせる。次第に慣れたように手つきを変えて、今度はしっかりと私の頭を撫でてくれる。
子どもみたいにみっともないかもしれない。でも、今はただこの時間が心地よくて、ただ彼に身を任せ続けた。
「俺たちは刀だ……折れることだってある。それでも戦い続けるのはそこに意味があるからだ。あんたが俺を必要とする限り、俺は刀を振るい続ける」
その言葉に、当然のことだが彼らを戦いから遠ざけることなどできないのだと痛感する。無論、そんなことをしようという気はない。ただ、全く考えなかったかというと嘘になる。
戦いに出るから傷を負う。ならば戦場になど行かなければ良い。それはとても単純で簡単な答えだった。しかし、そうはいかないのだから事は難しい。
彼らを戦線へと送り出しているのは紛れもない、審神者である私自身だ。それは政府から任せられた仕事のためで、歴史を守るために必要な事だ。
その私自身が、彼らを戦わせたくないなど、そんなわがままがどうして言えよう。言えるわけがない。勝手に呼び出しておいて、戦ってほしくないなんて、刀をなんだと思っているのか。
それでも、彼らに傷ついてほしくないというのは曲げようのない本音だ。みんな無事に、帰ってきてくれることが何よりもの願いだ。
私にできること。彼らを戦へと送り出し、傷を負わせてしまう私にできること。
「絶対に、絶対に折れずに帰ってきて……。絶対、私が直すから。どんな怪我を負っても構わない……だから……折れるのだけはダメ……」
帰ってきた彼らをせめて癒せるように。彼らが帰る場所を作って待っていたい。
「あんたの命令なら、それに従うさ」
「命令とかじゃなくて、なんていうか……お願い」
お願い、という言い方をした私に山姥切さんは変わらず頷いてくれた。
「今回のことは、俺たちの責任でもある。自分たちの強さを過信して、まだ進めると判断したのは俺たちだ。あんたばっかりが自分を責める必要はない」
「うん……でもそれを許可したのは私だから。山姥切さんたちが悪いわけでもないよ」
そう、お互いに非があったのだし、止められなかったのもお互い様だ。
「もう、このことは終いだ」
「わかった。もう、言わない」
お互い、今日のことはこれ以上掘り返さないようにする。きっと、どれだけ言っても反省することしかできないだろうから。
「……いつまでこうしていればいい?」
口をつぐんでしばらく。山姥切さんの方から声をかけられる。こうして、というのは今の状況のことだろう。
お互い、それなりに近い距離で見つめ合っている光景は、はたから見たらどう映るだろうか。
「……もうちょっと」
それだけ返して、山姥切さんの顔を見ないようにその胸元に頭を預けた。さすがに、顔を付き合わせたままというのは恥ずかしい部分が勝る。
一瞬、彼の体が緊張するのがわかった。それでも、何も言わずに力を抜くと、そのまま私を受け入れてくれた。
彼の心臓の音を感じて、ああ生きているんだななんて当たり前の感想が浮かんだ。でも、その当たり前がここに居てくれることに、言いようのない嬉しさを感じた。
2019.6.9
そんな彼らの言葉を信じていた。私は、彼らの強さを信頼していた。でも、実力差というのは願っただけでは埋まらない。
ボロボロになって帰ってきた第一部隊を迎えた私は、自分を責めずにはいられなかった。
大阪城地下。
50階にて信濃さんを入手し、調査は終了かと思われた。だが、その先にはまだまだ地下が深く続いていた。聞くところによれば、そのさらに奥には別の藤四郎兄弟がいるという。もちろん、それを狙わない手はない。
だが、50階にたどり着くまでに、すでに感じていた敵の強さ。ここから先の道のりだって、易しいものではないというのは簡単に想像できた。
怪我をして帰ってくることも多くなったここから先、出陣させることはただの無謀ではないだろうか。そう思っていた。だが、「任せてくれ」という彼らの頼もしさに私は甘えてしまった。後少し、もう少し、次の階くらいなら進めるかもしれない。それが重なり、重なり、そしてこの結果だ。
部隊はお互いを支えあうようにして、満身創痍で帰ってきた。すでに通信を通して彼らの敗北は伝わっていた。迎え入れる態勢は整っている。
それでも、その姿を目にしたら覚悟などは吹き飛んでしまった。血に濡れ、無残に切り裂かれた服。そこからは傷ついた肌が肉の色を晒しているのが見える。
目に見えて、誰よりも重傷だったのは山姥切さんだ。比較的傷の浅かった石切丸さんに半ば引きずられるようにして帰還した姿は、意識を繋ぎ止めているのがやっとの状態で、足もとすらおぼつかない様子だった。
「……すまない」
石切丸さんの肩を離れ、倒れこむようにしてこちらにやってきた山姥切さんは、耳元でか細くつぶやくと、その体から力が抜けた。そのまま体重を全て預けるように倒れこんでくる彼を支えることもできず、一緒になってその場に倒されてしまう。
傷口からとめどなく流れる血が、私の服をじっとりと濡らしていくのがわかる。血が、命が、こぼれ落ちていくその感覚に底知れぬ恐怖を感じた。
息が苦しくなる。これは重さのせいだろうか。呼吸が浅く、早くなっていく。
「早く怪我人は手入れ部屋へ!」
「山姥切を運ぶ、手を貸してくれ!」
誰かの飛ばした指示によって、山姥切さんの体が運ばれていく。重さから解放されてもなお、息は苦しいままだ。
「主!主……!」
強く揺さぶられてハッとする。そのまま腕を引かれて起こされる。
「平気かい?怪我は……ないようだね」
さっと私の怪我を確認して、歌仙さんがいう。
「一刻を争う、早く手入れ部屋へ」
「わ、私……私のせいで……」
じっとりと濡れた服が山姥切さんの傷の酷さを物語る。自分の采配ミスによる事の重大さがじわじわとのしかかってくる。
「悪いけど反省は後だ。今、君に出来ることをやるべきだろう。君がやらなきゃ、彼は折れる」
押しつぶされそうになった私を、無理矢理に引きずり出したのは歌仙さんだ。
折れる。それだけはダメだ。最悪の事態を考えると、咄嗟に体が動く。焦りと、後悔と、恐怖と、ごちゃ混ぜになった感情でうまく動かない足に転びそうになるが、それを歌仙さんが支えてくれる。
早く、早く手入れ部屋に向かわなくては。
「ごめん、ごめんなさい」
溢れてくる涙は悲しみか。悔しさか。手入れの邪魔にしかならないそれを必死にぬぐいながら、手入れ部屋に駆け込む。
時間にして、そんなに長くはなかったと思う。
でも、体感は実際の時間よりもずっと長くて。目の前の彼らを救うのに必死だった。
早急な手入れを必要とした山姥切さんだったが、折れていない以上、審神者の力ですっかり治ってしまうのだから不思議だ。あんなにもボロボロだった体は、人間ではありえない早さで傷が塞がっている。
第一部隊の他の面々はすでに手入れを終え、部屋を出ていた。この部屋に残っているのは私と山姥切さんだけだ。彼はまだ目を覚まさない。もう傷はほとんど癒えていて、服すらも修復されている。
すっかり血が固まってしまい、ごわごわとした服ごと膝を抱え込む。手入れを終えた私に、みんなは休むようにと提案してくれたが、それを断った。ならばせめて服を着替えておいで、と歌仙さんに言われたが、今は一時だってここを離れたくなかった。山姥切さんが目覚めるまでここにいる、と言うと、彼はそれ以上は何も言わなかった。
手入れ中のことはあまり覚えていない。
ただ無我夢中で、傷を癒すことに専念した。私が送り出してしまったばっかりに傷を負って帰ってきた彼らに、私が出来ることなどそれくらいしかなかった。
誰も、私を責めなかった。当然だ。私は無理な出陣を命令したわけでも、ましてや彼らを傷つけたかったわけでもない。彼らは勝てるといった。私はそれを信じた。それだけだった。
ならば、私が彼らを信じたことが間違いだったのか。そうは思わないし、思いたくない。私は誰よりもこの本丸のみんなを信じている。
今回のことは、誰が悪いわけでもない。ただの事故だった。そう、誰もが納得しているのはわかっていた。
それでも、ボロボロになった彼らを見て、どこかに責任を押し付けないとやりきれない思いだった。今回のことは私の判断ミスが招いたことだ。そうやって、自分に責任を負わせることで、自分自身に気持ちをぶつけることで、やり場のない思いをなんとか押し殺した。
「そんな格好だと心臓に悪いな」
ふと、突然投げかけられた声に体がびくりと反応する。
当然その声は、部屋の中にいる山姥切さんから発せられたものだった。
「何かあったのかと心配するだろ」
体を起こして、膝を抱えたままの私にそっと触れた。
「……すまなかったな」
その言葉に、ぐっと押しとどめていたはずの涙が溢れた。
心配した。傷だらけの姿を見て血の気が引いた。もう助からないのか。そうなればもう会うことができないのか。
帰ってきた彼を見た時に、押し寄せてきた思いが再びやってくる。
「あのまま、戦いの中で朽ち果てるのなら、それも構わないと思った。でも、あんたの顔が浮かんだんだ。こうやって泣くあんたの顔が……そうしたら、そばに居てやりたくなった」
すくい上げるように、私の顔を持ち上げると、山姥切さんの手が涙を拭った。それでもとめどなく溢れてくる涙はどんどん顔を濡らしていく。
「戻ってこれてよかった。写しの俺にでも、涙を拭うことくらいはできるんだな」
「折れ、折れなくてっ……よかったぁ……っ!山姥切さんっ、山姥切さん……!!」
彼の顔を見て、溢れ出てきたものを止めることができなかった。上手く言葉にもならない嗚咽を漏らして、必死に彼の腕に縋り付いた。
そこに感じる確かな人の温もりに、言いようのない安心感を覚えた。
そんな私の頭には、そっと遠慮がちに触れた手が優しく髪を梳いた。私はそれにされるがままに身をまかせる。次第に慣れたように手つきを変えて、今度はしっかりと私の頭を撫でてくれる。
子どもみたいにみっともないかもしれない。でも、今はただこの時間が心地よくて、ただ彼に身を任せ続けた。
「俺たちは刀だ……折れることだってある。それでも戦い続けるのはそこに意味があるからだ。あんたが俺を必要とする限り、俺は刀を振るい続ける」
その言葉に、当然のことだが彼らを戦いから遠ざけることなどできないのだと痛感する。無論、そんなことをしようという気はない。ただ、全く考えなかったかというと嘘になる。
戦いに出るから傷を負う。ならば戦場になど行かなければ良い。それはとても単純で簡単な答えだった。しかし、そうはいかないのだから事は難しい。
彼らを戦線へと送り出しているのは紛れもない、審神者である私自身だ。それは政府から任せられた仕事のためで、歴史を守るために必要な事だ。
その私自身が、彼らを戦わせたくないなど、そんなわがままがどうして言えよう。言えるわけがない。勝手に呼び出しておいて、戦ってほしくないなんて、刀をなんだと思っているのか。
それでも、彼らに傷ついてほしくないというのは曲げようのない本音だ。みんな無事に、帰ってきてくれることが何よりもの願いだ。
私にできること。彼らを戦へと送り出し、傷を負わせてしまう私にできること。
「絶対に、絶対に折れずに帰ってきて……。絶対、私が直すから。どんな怪我を負っても構わない……だから……折れるのだけはダメ……」
帰ってきた彼らをせめて癒せるように。彼らが帰る場所を作って待っていたい。
「あんたの命令なら、それに従うさ」
「命令とかじゃなくて、なんていうか……お願い」
お願い、という言い方をした私に山姥切さんは変わらず頷いてくれた。
「今回のことは、俺たちの責任でもある。自分たちの強さを過信して、まだ進めると判断したのは俺たちだ。あんたばっかりが自分を責める必要はない」
「うん……でもそれを許可したのは私だから。山姥切さんたちが悪いわけでもないよ」
そう、お互いに非があったのだし、止められなかったのもお互い様だ。
「もう、このことは終いだ」
「わかった。もう、言わない」
お互い、今日のことはこれ以上掘り返さないようにする。きっと、どれだけ言っても反省することしかできないだろうから。
「……いつまでこうしていればいい?」
口をつぐんでしばらく。山姥切さんの方から声をかけられる。こうして、というのは今の状況のことだろう。
お互い、それなりに近い距離で見つめ合っている光景は、はたから見たらどう映るだろうか。
「……もうちょっと」
それだけ返して、山姥切さんの顔を見ないようにその胸元に頭を預けた。さすがに、顔を付き合わせたままというのは恥ずかしい部分が勝る。
一瞬、彼の体が緊張するのがわかった。それでも、何も言わずに力を抜くと、そのまま私を受け入れてくれた。
彼の心臓の音を感じて、ああ生きているんだななんて当たり前の感想が浮かんだ。でも、その当たり前がここに居てくれることに、言いようのない嬉しさを感じた。
2019.6.9