二章
名前変換
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本丸生活にも慣れたもので、会っていきなり共同生活が始まる彼らともなかなか上手くやれていると思う。
とはいってもやはり、個人差というのは存在する。それは人間関係の程度にも言えることで、特に仲が良いと言える刀剣がいる一方で、もう少し仲良く慣れたらいいのにと思う刀剣が入るのも事実だ。
馴れ合いなど必要ない。そう言われてしまうとなんとも言い返せない。確かに、審神者と刀。戦いにおいて、その主従関係が成立していれば、それ以上の関係というのは必要ないのかもしれない。刀剣である彼らに、人間の私の基準で仲良くなることを求めるのはただの勝手だろうか。
それでも、勝手だとしても、私はこれから決して短くない時間を共に過ごすもの同士、少しでも歩み寄れたらと思うのだ。
大倶利伽羅さんは、その筆頭だった。
「これは珍しい……」
廊下で出会った光景に思わずそんな感想が溢れる。
暖かい春の陽気の中で、すよすよと小さく寝息を立てているのは大倶利伽羅さんだった。こんな無防備な姿を晒しているのは珍しい。というより初めて見た気がする。
彼には、嫌われているということはないと思うが、あまり積極的に近寄らせてはもらえない。いつでも必要以上の接触は避けて、私でなくとも誰かと一緒にいるような姿を見ることは少ない。
そんな彼の無防備な姿に、いつもは叶わない距離を少しだけ詰めてみる。寝息を立てる彼の隣に腰掛けて様子を伺うが、どうやら起きる様子はないみたいだ。こんなところで眠ってしまうなんて、よほど疲れていたのだろうか。
大阪城を攻略するにあたり、博多さんを隊長とした第一陣は、次第に強くなる敵に苦戦を強いられるようになった。そこで、途中からは選手交代。主力のメンバーを交代で回しながらの第二陣に切り替えたのだ。大倶利伽羅さんはその中の一人で、何階層もの連続出陣のせいで、疲れも溜まっていたことだろう。
「お疲れ様です」
聞こえていないとわかっているが、そっと労いの言葉をかけてみる。
穏やかな顔で眠る彼は一体どんな夢を見ているんだろうか。思えば、いつでも無表情でこんなにも柔らかな顔を見たのは初めてかもしれない。
こうしてみると、燭台切さんや鶴丸さんに並んで随分と整った顔立ちをしている。伊達の刀はアイドル的なオーディションでもあるんだろうか。まあ、本丸の刀たちは伊達の刀に限らずみんな随分と整っているのだが。
そばで彼の顔を眺めるのにもぞもぞとしすぎてしまったのか、彼の眉間にぎゅっとシワが寄る。
やばい、起こしてしまう。
そう思った時には既に遅し。ぼんやりと開いた目がこちらを捉えた。
「あっ、おはようございます……」
逃げることも叶わなかったので、とりあえず挨拶をする。寝込みに隣にすり寄った何て思われたら、それこそ印象は最悪だ。また、仲良くなる道が遠のいた気がする。
てっきり、冷たい反応が返ってくるのではないかと身構えた。しかし、それはいつまでもやってこない。ぼんやりと私を見つめる瞳はどこかここではないところを見ているようで。もしかして寝ぼけている?
だとしたら、この場を誤魔化して離れられるかもしれない。好感度ダウンイベントは回避できそうだ。
「それでは私は失礼しま……ひゃっ!?」
立ち上がろうとしたところへ、肩にのしかかる暖かな重み。確認せずともわかるそれは鼻を擦り寄せるようにしたあとぼそりとつぶやいた。
「春の匂いだ……」
「は、はぁ!?あの、あのー……?」
至近距離で聞こえる大倶利伽羅さんの声に、彼を起こすまいとしていたことなど忘れて大きな声を出してしまう。だが、そんな気遣いも必要なかったようで、彼はまたすよすよと眠りについてしまったようだ。
よかった。と思いたい。だが、彼が寝付いてしまった位置が問題だった。
「大倶利伽羅さーん……」
私は彼に起きて欲しいのか、欲しくないのか。呼び掛けるには小さすぎる声で彼の名前を呼んだ。
起こしてしまえばあまり良い印象を与えない気はするのだが、それでも起きてもらわないと動くことができない。彼の頭は、すり寄せたままに私の肩に乗っている。
このまま動いて落としてしまう……というのは最悪の選択だろう。起こしたことと、落としたことと、ダブルで睨まれそうだ。
最善策は、現状維持。そう判断して、なるべく動かないように呼吸にすら気を遣う。そうしていると何故かやたらと緊張してきた。改めて思えば、大倶利伽羅さんと今までにないくらいに接近している。とはいっても彼は寝ているのだが、それさえ抜きにすればまたとない急接近だ。
だが、それを喜んでいる余裕など当然なかった。
「あれ……主、と伽羅ちゃん?」
ふと、後ろからかけられた声にビクリと反応する。だが、肩に乗る重みを思い出して、そっと首だけで振り返った。
そこにいたのは燭台切さんだ。
「……お邪魔だったかな」
良い笑顔で親指を立ててみせる。整った顔の微笑みは見ていて幸せになれるが、違う。そういうことではない。
「違います、助けてください」
「あはは、ごめんごめん。それにしても珍しい組み合わせだよね、仲良くお昼寝なんて」
「だから、違います」
謝りながら、なおも勘違いなのかわざとなのかボケを続ける燭台切さんに、なんとか助けを求める。
「燭台切さん、このポジション変わってください。起きたら絶対気まずいので、寝てるうちにそっと入れ替わりましょう、ね?」
「えー……それ、僕だって気まずいと思うんだけど」
そこは仲良しの同じ伊達どうし、どうとでもなるだろう。燭台切さんの肩に頭を預けて眠る大倶利伽羅さんとは、なんともおかしい光景ではあるが、きっと大丈夫だ。兄弟みたいで微笑ましいと思う、多分。
「それに、僕、やらなきゃいけないことがあるからさ。悪いけど主、付き合ってあげて」
「なっ、ちょっと!燭台切さん!」
あっさりと見捨てられた。燭台切さんはごめんね、と言いながらも去って行ってしまう。見捨てられた私はその場に立ち尽くす、いや座り尽くすことしかできない。
身動きの取れない状態で、ポカポカと暖かい陽気に照らされる。そうすると、だんだん眠気が襲ってくる。
どうせここでぼーっとしているしかないのなら、私も少しだけ寝てしまおうか。そう思ってからは早かった。目を閉じると吸い込まれるように意識が飛んでいく。
太陽の暖かさと、肩に触れる温もりに心地よく誘い込まれていく。
2019.5.21
とはいってもやはり、個人差というのは存在する。それは人間関係の程度にも言えることで、特に仲が良いと言える刀剣がいる一方で、もう少し仲良く慣れたらいいのにと思う刀剣が入るのも事実だ。
馴れ合いなど必要ない。そう言われてしまうとなんとも言い返せない。確かに、審神者と刀。戦いにおいて、その主従関係が成立していれば、それ以上の関係というのは必要ないのかもしれない。刀剣である彼らに、人間の私の基準で仲良くなることを求めるのはただの勝手だろうか。
それでも、勝手だとしても、私はこれから決して短くない時間を共に過ごすもの同士、少しでも歩み寄れたらと思うのだ。
大倶利伽羅さんは、その筆頭だった。
「これは珍しい……」
廊下で出会った光景に思わずそんな感想が溢れる。
暖かい春の陽気の中で、すよすよと小さく寝息を立てているのは大倶利伽羅さんだった。こんな無防備な姿を晒しているのは珍しい。というより初めて見た気がする。
彼には、嫌われているということはないと思うが、あまり積極的に近寄らせてはもらえない。いつでも必要以上の接触は避けて、私でなくとも誰かと一緒にいるような姿を見ることは少ない。
そんな彼の無防備な姿に、いつもは叶わない距離を少しだけ詰めてみる。寝息を立てる彼の隣に腰掛けて様子を伺うが、どうやら起きる様子はないみたいだ。こんなところで眠ってしまうなんて、よほど疲れていたのだろうか。
大阪城を攻略するにあたり、博多さんを隊長とした第一陣は、次第に強くなる敵に苦戦を強いられるようになった。そこで、途中からは選手交代。主力のメンバーを交代で回しながらの第二陣に切り替えたのだ。大倶利伽羅さんはその中の一人で、何階層もの連続出陣のせいで、疲れも溜まっていたことだろう。
「お疲れ様です」
聞こえていないとわかっているが、そっと労いの言葉をかけてみる。
穏やかな顔で眠る彼は一体どんな夢を見ているんだろうか。思えば、いつでも無表情でこんなにも柔らかな顔を見たのは初めてかもしれない。
こうしてみると、燭台切さんや鶴丸さんに並んで随分と整った顔立ちをしている。伊達の刀はアイドル的なオーディションでもあるんだろうか。まあ、本丸の刀たちは伊達の刀に限らずみんな随分と整っているのだが。
そばで彼の顔を眺めるのにもぞもぞとしすぎてしまったのか、彼の眉間にぎゅっとシワが寄る。
やばい、起こしてしまう。
そう思った時には既に遅し。ぼんやりと開いた目がこちらを捉えた。
「あっ、おはようございます……」
逃げることも叶わなかったので、とりあえず挨拶をする。寝込みに隣にすり寄った何て思われたら、それこそ印象は最悪だ。また、仲良くなる道が遠のいた気がする。
てっきり、冷たい反応が返ってくるのではないかと身構えた。しかし、それはいつまでもやってこない。ぼんやりと私を見つめる瞳はどこかここではないところを見ているようで。もしかして寝ぼけている?
だとしたら、この場を誤魔化して離れられるかもしれない。好感度ダウンイベントは回避できそうだ。
「それでは私は失礼しま……ひゃっ!?」
立ち上がろうとしたところへ、肩にのしかかる暖かな重み。確認せずともわかるそれは鼻を擦り寄せるようにしたあとぼそりとつぶやいた。
「春の匂いだ……」
「は、はぁ!?あの、あのー……?」
至近距離で聞こえる大倶利伽羅さんの声に、彼を起こすまいとしていたことなど忘れて大きな声を出してしまう。だが、そんな気遣いも必要なかったようで、彼はまたすよすよと眠りについてしまったようだ。
よかった。と思いたい。だが、彼が寝付いてしまった位置が問題だった。
「大倶利伽羅さーん……」
私は彼に起きて欲しいのか、欲しくないのか。呼び掛けるには小さすぎる声で彼の名前を呼んだ。
起こしてしまえばあまり良い印象を与えない気はするのだが、それでも起きてもらわないと動くことができない。彼の頭は、すり寄せたままに私の肩に乗っている。
このまま動いて落としてしまう……というのは最悪の選択だろう。起こしたことと、落としたことと、ダブルで睨まれそうだ。
最善策は、現状維持。そう判断して、なるべく動かないように呼吸にすら気を遣う。そうしていると何故かやたらと緊張してきた。改めて思えば、大倶利伽羅さんと今までにないくらいに接近している。とはいっても彼は寝ているのだが、それさえ抜きにすればまたとない急接近だ。
だが、それを喜んでいる余裕など当然なかった。
「あれ……主、と伽羅ちゃん?」
ふと、後ろからかけられた声にビクリと反応する。だが、肩に乗る重みを思い出して、そっと首だけで振り返った。
そこにいたのは燭台切さんだ。
「……お邪魔だったかな」
良い笑顔で親指を立ててみせる。整った顔の微笑みは見ていて幸せになれるが、違う。そういうことではない。
「違います、助けてください」
「あはは、ごめんごめん。それにしても珍しい組み合わせだよね、仲良くお昼寝なんて」
「だから、違います」
謝りながら、なおも勘違いなのかわざとなのかボケを続ける燭台切さんに、なんとか助けを求める。
「燭台切さん、このポジション変わってください。起きたら絶対気まずいので、寝てるうちにそっと入れ替わりましょう、ね?」
「えー……それ、僕だって気まずいと思うんだけど」
そこは仲良しの同じ伊達どうし、どうとでもなるだろう。燭台切さんの肩に頭を預けて眠る大倶利伽羅さんとは、なんともおかしい光景ではあるが、きっと大丈夫だ。兄弟みたいで微笑ましいと思う、多分。
「それに、僕、やらなきゃいけないことがあるからさ。悪いけど主、付き合ってあげて」
「なっ、ちょっと!燭台切さん!」
あっさりと見捨てられた。燭台切さんはごめんね、と言いながらも去って行ってしまう。見捨てられた私はその場に立ち尽くす、いや座り尽くすことしかできない。
身動きの取れない状態で、ポカポカと暖かい陽気に照らされる。そうすると、だんだん眠気が襲ってくる。
どうせここでぼーっとしているしかないのなら、私も少しだけ寝てしまおうか。そう思ってからは早かった。目を閉じると吸い込まれるように意識が飛んでいく。
太陽の暖かさと、肩に触れる温もりに心地よく誘い込まれていく。
2019.5.21