二章
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「よぉっし!大阪城でもなんでも、まかせときんしゃい!」
「お願いします!レッツ小判集めー!」
「おー!」と一緒に腕を突き上げて気合を入れる。
初めての隊長の任についた博多さんが向かうのは大阪城だ。期間限定で開催されているイベントのマップで、どんどん地下へと潜っていく特殊なマップらしい。そのイベントマップに博多さんをメンバーに加えて出陣すると。なんと小判ががっぽがっぽだという。
決して潤っているとは言えない我が本丸。なんでも蓄えられるものは蓄えておきたい。それは小判も例外ではない。多く集められるというのなら、それを実行しない手はない。
この日のために、博多さんは出陣を繰り返して強くなった。十分とは言えないが、それでもある程度のところまでは通用するだろう。
「では第一陣、お願いします!いのちだいじに、で刀装が失くなったり怪我をしたら必ず帰還をお願いします。頼んだよ、隊長!」
博多さんを始め、最初に出陣する第一部隊の面々にエールを送る。
頼もしいガッツポーズとともに門を出て行った彼らを見送って、私は端末で進軍の様子を確認しながら、粟田口の子達とのおしゃべりに興じていた。
「大阪城にいる信濃さんもみんなの兄弟なんだね」
またしても粟田口派の短刀だというのだから驚きだ。一体何振いるんだ、粟田口。
「は、はい!会えるの……楽しみです!」
兄弟が増えるのはやっぱり嬉しいらしい。そわそわと期待を隠しきれない様子の彼らに、私の方も俄然やる気が湧いてくる。
「こうしてみると、僕はかなり遅い方だったみたいですね。こうやって兄弟に迎えられるというのは賑やかで良いものです」
そう言ってにっこりと笑うのは、平野さん。一番最近やってきた粟田口兄弟の短刀だ。前田さんによく似たその容姿は本当に兄弟と呼ぶのがぴったりだ。少し濃い髪色と、短く切りそろえられた髪の毛が、前田さんよりも少し凛とした雰囲気を感じさせる美少年だ。
「僕たちも随分揃ってきましたよね!」
「そうですね。こうして兄弟が揃うのは喜ばしいですね」
最初の頃に本丸に顕現された秋田と前田がそれぞれにそう言う。本丸にいる兄弟刀の中でも特に兄弟の多い彼らは仲が良く、ともに行動している姿もよく見かける。現時点で11振いる粟田口派の刀たちは、まだこれでも全員ではないみたいだ。実装されている刀の中でも入手が困難なものたちは未だこの本丸にはいない。全員集まると何振になるんだろうか。
これだけ揃うと、ここにはいない兄弟たちに会いたい気持ちも強くなるんじゃないだろうか。特に、彼らがたびたび口にする「いち兄」と呼ばれる刀は早く顕現してやりたいと思っている。
一期一振。粟田口派の太刀だ。刀剣たちの中でもレア度が高く入手が難しいらしい。事実、うちの本丸にはまだ現れてくれない。
「いち兄さん、早く私も会ってみたいなぁ」
そんな私のつぶやきに、何人かがパッと顔を華やかせる。
「僕も、早くいち兄と主さまと一緒に過ごせる日がきてほしいです!」
「き、きっと楽しいと思います……!」
幸せな想像を膨らませる彼らに、私の方まで笑顔にされてしまう。これは、なんとしてでもいち兄をお迎えしなければいけない。
「ねーねー、主さんには兄弟とかいないの?」
「うん?いないよ、一人っ子」
乱さんからの質問にそう答えると、それまでおとなしくしていたキツネさんがここぞとばかりに声を張り上げた。
「主殿にご兄弟はおりませんが、僭越ながら鳴狐が主殿の兄を務めさせていただいておりますよぅ!」
「なっ……!」
突然の予期せぬところからのカミングアウトにとっさに声も出ない。
「えっ、なにそれ!?どういうこと、主さん!」
面白いものを見つけたと言わんばかりに目を輝かせる乱さんが急に怖く見える。
「鳴狐さんが、主さまのお兄さんなんですか……?」
「ごっこ遊びなら、僕は主君の弟がいいです!」
こちらは純粋な五虎退さんと秋田さん。そういうわけではないのだが、勘違いしてくれる分にはありがたい。そして弟になりたいという申し出も同時にありがたく受け取っておきたい。こんな可愛らしい弟たちなら大歓迎だ。
二人に癒されているが、横からの追求は止まない。乱さんは逃がしてくれないらしい。
「あー、あのですね……」
うんうん、と聞く態勢に入った乱さんは目を爛々と輝かせている。そんなに期待されても、大して面白い答えがあるわけではないのでどうも言いづらい。それになんだか恥ずかしい。
「大切な妹、困らせたらだめだぞ」
言いよどむ私を、後ろから引き寄せたのは鳴さんだった。乱さんから離すように、肩に腕を回して自分の方に引き寄せてくれたみたいだ。
だが、この場においてそれは得策だったかどうかは怪しい。乱さんが口に手を当て大袈裟に反応している。得策ではなかった。
「あのっ、鳴さん。誤解を招きます、やめよう」
「主は妹、嫌だった?」
悲しそうにシュンとして首をかしげる鳴さんは、恐らく素でそれをやっているのだから恐ろしい。そんな顔をされて突っぱねられるほど私は鳴さんへの好感度が低くない。
「嫌じゃないけど、けど!うぅ……もー!」
「ならよかった。鳴狐も嫌じゃないぞ」
観念したくないが、うまく誤魔化しもきかなくなったこの状況で折れたのは私だった。ええ、認めます。鳴さんは私のお兄さんポジションです、そういうことになっています。
「……鳴狐さんってそんなによく喋るんだ」
せっかく観念したのに、乱さんの関心は別のところに移っているようだった。
「そうですね、僕も初めて見たかもしれないです」
それは乱さんだけではなく、皆鳴狐さんが存外よくしゃべることに驚いているようだ。気持ちはわかる。私も最初は彼がよく喋ってくれることに驚いたものだ。
「キツネはよく喋るのを我慢してるな?」
「いつもはうるさいくらいに喋るのにな!」
「おや、私はこれでもきちんと立場を弁えておりますゆえ、無粋な真似はいたしませんよぅ。ねえ、鳴狐?」
「そうだったかな」
胸を張って答えるキツネさんだが、鳴さんの返事はどこか曖昧だ。その反応に「あれぇ!?」と声をあげて抗議しているキツネさん。
そんな二人の言い合い……という表現は少し違う。一方的にキツネさんが抗議をたて並べる中で、隣に寄ってきた乱さんがこっそりと耳打ちしてくる。
「鳴狐さん、主さんの前では特別、なんだね」
「え?」
そう言って楽しそうに笑う乱さんの真意が読めず、思わず首をかしげる。
「主さんのこと、特別に思ってるからそういう態度ってことだと思うんだけどなぁ」
「うーん?信頼されてるってこと?だとしたら嬉しいなぁ」
自分なりに特別の意味を解釈してみる。彼らですらあまり見たことがないという鳴狐さんが自ら喋る姿を私の前ではよく見せてくれるというのは、信頼の形だと思うと喜ばしいことだ。他の人よりも上だ、などと張り合うつもりも比べるつもりもないが、こうして形に現れているのだとしたら嬉しい限りだ。
「そうだね、うん。そういうことでいいんじゃない?」
少し含みのある言い方が気になるが、勝手でもなんでも私が嬉しいのだからそれでいいや、ということに落ち着く。
私にだけ特別、なんていうのはちょっと優越感に浸れる響きだ。
2019.5.16
「お願いします!レッツ小判集めー!」
「おー!」と一緒に腕を突き上げて気合を入れる。
初めての隊長の任についた博多さんが向かうのは大阪城だ。期間限定で開催されているイベントのマップで、どんどん地下へと潜っていく特殊なマップらしい。そのイベントマップに博多さんをメンバーに加えて出陣すると。なんと小判ががっぽがっぽだという。
決して潤っているとは言えない我が本丸。なんでも蓄えられるものは蓄えておきたい。それは小判も例外ではない。多く集められるというのなら、それを実行しない手はない。
この日のために、博多さんは出陣を繰り返して強くなった。十分とは言えないが、それでもある程度のところまでは通用するだろう。
「では第一陣、お願いします!いのちだいじに、で刀装が失くなったり怪我をしたら必ず帰還をお願いします。頼んだよ、隊長!」
博多さんを始め、最初に出陣する第一部隊の面々にエールを送る。
頼もしいガッツポーズとともに門を出て行った彼らを見送って、私は端末で進軍の様子を確認しながら、粟田口の子達とのおしゃべりに興じていた。
「大阪城にいる信濃さんもみんなの兄弟なんだね」
またしても粟田口派の短刀だというのだから驚きだ。一体何振いるんだ、粟田口。
「は、はい!会えるの……楽しみです!」
兄弟が増えるのはやっぱり嬉しいらしい。そわそわと期待を隠しきれない様子の彼らに、私の方も俄然やる気が湧いてくる。
「こうしてみると、僕はかなり遅い方だったみたいですね。こうやって兄弟に迎えられるというのは賑やかで良いものです」
そう言ってにっこりと笑うのは、平野さん。一番最近やってきた粟田口兄弟の短刀だ。前田さんによく似たその容姿は本当に兄弟と呼ぶのがぴったりだ。少し濃い髪色と、短く切りそろえられた髪の毛が、前田さんよりも少し凛とした雰囲気を感じさせる美少年だ。
「僕たちも随分揃ってきましたよね!」
「そうですね。こうして兄弟が揃うのは喜ばしいですね」
最初の頃に本丸に顕現された秋田と前田がそれぞれにそう言う。本丸にいる兄弟刀の中でも特に兄弟の多い彼らは仲が良く、ともに行動している姿もよく見かける。現時点で11振いる粟田口派の刀たちは、まだこれでも全員ではないみたいだ。実装されている刀の中でも入手が困難なものたちは未だこの本丸にはいない。全員集まると何振になるんだろうか。
これだけ揃うと、ここにはいない兄弟たちに会いたい気持ちも強くなるんじゃないだろうか。特に、彼らがたびたび口にする「いち兄」と呼ばれる刀は早く顕現してやりたいと思っている。
一期一振。粟田口派の太刀だ。刀剣たちの中でもレア度が高く入手が難しいらしい。事実、うちの本丸にはまだ現れてくれない。
「いち兄さん、早く私も会ってみたいなぁ」
そんな私のつぶやきに、何人かがパッと顔を華やかせる。
「僕も、早くいち兄と主さまと一緒に過ごせる日がきてほしいです!」
「き、きっと楽しいと思います……!」
幸せな想像を膨らませる彼らに、私の方まで笑顔にされてしまう。これは、なんとしてでもいち兄をお迎えしなければいけない。
「ねーねー、主さんには兄弟とかいないの?」
「うん?いないよ、一人っ子」
乱さんからの質問にそう答えると、それまでおとなしくしていたキツネさんがここぞとばかりに声を張り上げた。
「主殿にご兄弟はおりませんが、僭越ながら鳴狐が主殿の兄を務めさせていただいておりますよぅ!」
「なっ……!」
突然の予期せぬところからのカミングアウトにとっさに声も出ない。
「えっ、なにそれ!?どういうこと、主さん!」
面白いものを見つけたと言わんばかりに目を輝かせる乱さんが急に怖く見える。
「鳴狐さんが、主さまのお兄さんなんですか……?」
「ごっこ遊びなら、僕は主君の弟がいいです!」
こちらは純粋な五虎退さんと秋田さん。そういうわけではないのだが、勘違いしてくれる分にはありがたい。そして弟になりたいという申し出も同時にありがたく受け取っておきたい。こんな可愛らしい弟たちなら大歓迎だ。
二人に癒されているが、横からの追求は止まない。乱さんは逃がしてくれないらしい。
「あー、あのですね……」
うんうん、と聞く態勢に入った乱さんは目を爛々と輝かせている。そんなに期待されても、大して面白い答えがあるわけではないのでどうも言いづらい。それになんだか恥ずかしい。
「大切な妹、困らせたらだめだぞ」
言いよどむ私を、後ろから引き寄せたのは鳴さんだった。乱さんから離すように、肩に腕を回して自分の方に引き寄せてくれたみたいだ。
だが、この場においてそれは得策だったかどうかは怪しい。乱さんが口に手を当て大袈裟に反応している。得策ではなかった。
「あのっ、鳴さん。誤解を招きます、やめよう」
「主は妹、嫌だった?」
悲しそうにシュンとして首をかしげる鳴さんは、恐らく素でそれをやっているのだから恐ろしい。そんな顔をされて突っぱねられるほど私は鳴さんへの好感度が低くない。
「嫌じゃないけど、けど!うぅ……もー!」
「ならよかった。鳴狐も嫌じゃないぞ」
観念したくないが、うまく誤魔化しもきかなくなったこの状況で折れたのは私だった。ええ、認めます。鳴さんは私のお兄さんポジションです、そういうことになっています。
「……鳴狐さんってそんなによく喋るんだ」
せっかく観念したのに、乱さんの関心は別のところに移っているようだった。
「そうですね、僕も初めて見たかもしれないです」
それは乱さんだけではなく、皆鳴狐さんが存外よくしゃべることに驚いているようだ。気持ちはわかる。私も最初は彼がよく喋ってくれることに驚いたものだ。
「キツネはよく喋るのを我慢してるな?」
「いつもはうるさいくらいに喋るのにな!」
「おや、私はこれでもきちんと立場を弁えておりますゆえ、無粋な真似はいたしませんよぅ。ねえ、鳴狐?」
「そうだったかな」
胸を張って答えるキツネさんだが、鳴さんの返事はどこか曖昧だ。その反応に「あれぇ!?」と声をあげて抗議しているキツネさん。
そんな二人の言い合い……という表現は少し違う。一方的にキツネさんが抗議をたて並べる中で、隣に寄ってきた乱さんがこっそりと耳打ちしてくる。
「鳴狐さん、主さんの前では特別、なんだね」
「え?」
そう言って楽しそうに笑う乱さんの真意が読めず、思わず首をかしげる。
「主さんのこと、特別に思ってるからそういう態度ってことだと思うんだけどなぁ」
「うーん?信頼されてるってこと?だとしたら嬉しいなぁ」
自分なりに特別の意味を解釈してみる。彼らですらあまり見たことがないという鳴狐さんが自ら喋る姿を私の前ではよく見せてくれるというのは、信頼の形だと思うと喜ばしいことだ。他の人よりも上だ、などと張り合うつもりも比べるつもりもないが、こうして形に現れているのだとしたら嬉しい限りだ。
「そうだね、うん。そういうことでいいんじゃない?」
少し含みのある言い方が気になるが、勝手でもなんでも私が嬉しいのだからそれでいいや、ということに落ち着く。
私にだけ特別、なんていうのはちょっと優越感に浸れる響きだ。
2019.5.16