二章
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政府からの知らせを前に、空気が張り詰める。
緊張したその室内で顔を向かい合わせて座るのは、私と歌仙さんだ。
「信じてください……今回は、今回こそは、絶対にやりませんから……」
「まだ僕は何も言っていないんだけどね」
彼の目を見ることができずに、視線をそらしながら言ったそれに、歌仙さんがぴしゃりと言葉を返す。
今、私たちの間に置かれているのは政府からの便りだ。その内容は新しいイベントの開催を知らせるもので、日付は今日からとなっている。
「別にイベントを楽しんでくれるのは構わない。ただ、節度というものをもって、無茶な鍛刀はしないこと。……いいね?」
念を押して歌仙さんが確認する。
鍛刀イベントで、本丸中の資材という資材を溶かしきった前科のある私に、それだけきつく言われるのは当然のことである。
もちろん私だってさすがにやりすぎたと反省はしているし、資材の重要性だってわかっている。でもイベントという楽しそうな響き。ここでしか入手できない刀。そして何より、出るか出ないかは運次第という博打感。それがどうも心をくすぐるのだ。
それに今回は、次に開催されるイベントにおいて、活躍する刀だというのだから、入手に力が入るのも仕方ないと思う。
「はい!無理はしない程度に、頑張って鍛刀します!」
歌仙さんの許可を得て、意気揚々と鍛刀部屋へと向かう。
今回期間限定で鍛刀が可能となるのは博多藤四郎。その名の通り、粟田口兄弟の短刀の一振だ。
前回、無策で挑んであえなく失敗に終わった数珠丸さん事件をただの苦い思い出にするつもりはない。今回は、それを生かしてきちんと作戦を立てて挑むつもりだ。
「前田さーん!お手伝いお願いします!」
鍛刀部屋へと向かう途中、庭にいた彼に声をかける。これが作戦1つ目だ。名付けるならば、『兄弟で誘い出そう作戦』だ。
同じ粟田口派である前田さんに手伝ってもらって、博多さんをおびき出そうという作戦だ。兄弟ならば何か引かれるものがあるかもしれない。多分。
「はい!なんでもおまかせください!」
私の声を聞いて、駆け寄ってきてくれた彼と一緒に鍛刀部屋へと向かう。
「なんだか楽しそうですね?」
「ふふーん、そう見える?なんてったって、今回は秘策があるんだよー」
前田さんの言葉に、私は自信たっぷりに答える。
「それは心強いです!僕も、兄弟に会えるのが楽しみです」
そんな私を手放しに持ち上げてくれる前田さん。彼は本当に良い子だ。
到着した鍛刀部屋で、「秘策とは?」と尋ねる彼に、私は1つのレシピを見せた。
「100、460、100、460。これが秘密のレシピ!」
「なるほど……その数には何か意味が?」
「最初の二桁を見てみて。10、46、とお、しろ。藤四郎、ってね!」
いわゆるダジャレだ。ただの語呂合わせでしかないのだが、馬鹿にはできない。実際に鍛刀が多数報告されている優良なレシピなのだ。
嘘か本当かはやってみればわかるはずだ。無策で挑むよりもきっと良いだろう。
「藤四郎……なるほど、兄弟の名前にかけているわけですね。理解しました!僕も少しでもお力添えができるよう頑張りますね!」
語呂合わせのレシピを馬鹿にするでもなく、全力の協力を申し出てくれる前田さんには感謝しかない。そんな彼の頑張りを無下にしないためにも、今回は早めの入手を目指したい。
「それでは、一発目……いきます……!」
「おや、随分早い戻りだね」
廊下で鉢合わせた歌仙さんに声をかけられる。
「もう鍛刀は気が済んだのかい?……まさか、もう使い切ったとか言わないだろうね!?」
最悪なことを考えて顔を青くする歌仙さんは見ていて面白い。ぶつぶつと遠征を回す準備をしなければ……と呟いているが、その心配には及ばない。
「ふっふっふ……見て驚かないでくださいよ……じゃじゃーん!」
言いながら、体を横にそらす。私の後ろに隠すようにしていたのは、今回の鍛刀のお目当てであった博多藤四郎さんだ。
「なっ……いったいどれだけの資材を使ったんだい!?」
「ちょっと、私が使い込むの前提で話すのやめてください!なんとですね……今回は一発ですよ、一発!藤四郎レシピは本物だったー!」
そう、なんと今回はまさかの一発での鍛刀に成功したのだ。もちろん願っていたことではあるが、まさか本当に成功してしまうとは思わなかった。長期戦を覚悟していた部分もあったおかげで、彼を顕現した時には喜びよりも驚きの方が勝っていたほどだ。
今こうして、やっと博多さんを入手した喜びを噛み締めて、テンションは最高潮に達している。
「賑やかな主ばい……こんなにも歓迎されるとちょっと恥ずかしかぁ……」
私のテンションの上がりように、若干遅れをとったかのような博多さんだが、その顔はにこにこしているので問題なし。新しい藤四郎兄弟の登場に私は万々歳。そして前田さんも、どこか落ち着きなくそわそわしているのはきっと兄弟を迎えられたことを嬉しく思っているのだろう。そんな彼を見て、さらに万々歳だ。
「はぁ……それならよかったよ。僕はまた、あの遠征地獄の日々がやってくるのかと……」
いつぞやの連続遠征の日々を思い出したのか、顔をしかめる歌仙さんに苦笑いで返すことしかできない。その節は申し訳なかったと思っているのだ。きっとこれからもそれを思い出させてしまう時がやってくる気がするので、心の中で先に謝罪をしておく。ごめんなさい。
「あっ、長谷部!この本丸には長谷部がおると!?」
博多さんが、長谷部さんの姿を見つけて、私の服の裾をひっぱった。
「あれ、知り合いなの?」
「元の主の馴染みです。久しいな、博多」
私の質問に、博多さんの声でこちらに寄ってきた長谷部さんが答える。
元の主の繋がりってことは、織田信長だろうか。確か前に、長谷部さんとそんな話をしたことがあった。
勝手にそうだろうなと納得して、それなら!と二人に提案をする。
「長谷部さんに博多さんのお世話係を任せてもいいですか?実は、博多さんが次のイベントで重要になってくるらしくて、レベリングを重点的に行いたいんですけど……」
「おぉー!強くなれると!?長谷部、俺からも頼むばい!」
私たちのお願いに、長谷部さんは笑顔で応じてくれる。
「ええ、もちろん。主命とあらば、なんなりと」
「かぁー、相変わらず長谷部は仕事人ばい」
そんな博多さんのつぶやきに、長谷部さんは元の主のところでもこんな感じだったのかと、ちょっとおもしろくなる。溢れた私の笑みをどう受け取ったのかわからないが、やたらとキラキラした笑顔を長谷部さんに向けられる。
「お任せください。最良の結果をお持ちします。行くぞ、博多!出陣準備だ!」
そして、その顔を豹変させて博多さんに指示を出す。それはまさに仕事人の顔といったところか。部下に対する上司の態度というのはこんな感じなのかもしれない。
「ひゃ、ひゃい!」
長谷部さんの迫力に圧されたのか、博多さんが反射的に返事をしている。
ずんずんと行ってしまう長谷部さんの背中を追いかけて行く博多さんの「待つばーい」という声が遠ざかっていく。
長谷部さんに任せておけば、きっと完璧な仕事をしてくれることに間違いはないだろうが、その内容は少々不安だ。スパルタ教育をするのが簡単に想像できてしまう。
「心配だなぁ……前田さん、他の粟田口も一緒に第一部隊で出陣してもらってもいいですか?」
「もちろんです。では、僕も準備してきますね」
失礼します、と頭を下げて去っていく前田さんを見送る。私も、出陣場所を確認しておかなければいけない。
「それじゃあ私も部屋に戻りますね、歌仙さん」
「あぁ、僕は夕餉の支度をしてくるよ。今日は博多の歓迎会だね」
歓迎会の言葉に、豪華な料理が並ぶことに期待が高まる。
「え!今日のメニューなんですか!?私ハンバーグが食べたいです!」
「博多の歓迎会だと言ってるだろう。どうして君がリクエストするんだい」
呆れた顔でため息をついて歌仙さんが厨の方へ行ってしまう。確かに、歌仙さんの行っていることは正しいのだが、ハンバーグなら子供人気ナンバー1と言っても過言ではないし、博多さんにも喜んでもらえると思う。
と、心の中で反論を並べても、それを直接歌仙さんにぶつけに行く勇気はないので、おとなしく執務室へと戻る。
その晩、夕食にはハンバーグが並んでいて、歌仙さん曰く「喜んでもらえそうなメニューを選んだだけだ」そうだが、理由はどうであれ嬉しいことに変わりはない。これだから歌仙さんが大好きだ。
2019.5.12
緊張したその室内で顔を向かい合わせて座るのは、私と歌仙さんだ。
「信じてください……今回は、今回こそは、絶対にやりませんから……」
「まだ僕は何も言っていないんだけどね」
彼の目を見ることができずに、視線をそらしながら言ったそれに、歌仙さんがぴしゃりと言葉を返す。
今、私たちの間に置かれているのは政府からの便りだ。その内容は新しいイベントの開催を知らせるもので、日付は今日からとなっている。
「別にイベントを楽しんでくれるのは構わない。ただ、節度というものをもって、無茶な鍛刀はしないこと。……いいね?」
念を押して歌仙さんが確認する。
鍛刀イベントで、本丸中の資材という資材を溶かしきった前科のある私に、それだけきつく言われるのは当然のことである。
もちろん私だってさすがにやりすぎたと反省はしているし、資材の重要性だってわかっている。でもイベントという楽しそうな響き。ここでしか入手できない刀。そして何より、出るか出ないかは運次第という博打感。それがどうも心をくすぐるのだ。
それに今回は、次に開催されるイベントにおいて、活躍する刀だというのだから、入手に力が入るのも仕方ないと思う。
「はい!無理はしない程度に、頑張って鍛刀します!」
歌仙さんの許可を得て、意気揚々と鍛刀部屋へと向かう。
今回期間限定で鍛刀が可能となるのは博多藤四郎。その名の通り、粟田口兄弟の短刀の一振だ。
前回、無策で挑んであえなく失敗に終わった数珠丸さん事件をただの苦い思い出にするつもりはない。今回は、それを生かしてきちんと作戦を立てて挑むつもりだ。
「前田さーん!お手伝いお願いします!」
鍛刀部屋へと向かう途中、庭にいた彼に声をかける。これが作戦1つ目だ。名付けるならば、『兄弟で誘い出そう作戦』だ。
同じ粟田口派である前田さんに手伝ってもらって、博多さんをおびき出そうという作戦だ。兄弟ならば何か引かれるものがあるかもしれない。多分。
「はい!なんでもおまかせください!」
私の声を聞いて、駆け寄ってきてくれた彼と一緒に鍛刀部屋へと向かう。
「なんだか楽しそうですね?」
「ふふーん、そう見える?なんてったって、今回は秘策があるんだよー」
前田さんの言葉に、私は自信たっぷりに答える。
「それは心強いです!僕も、兄弟に会えるのが楽しみです」
そんな私を手放しに持ち上げてくれる前田さん。彼は本当に良い子だ。
到着した鍛刀部屋で、「秘策とは?」と尋ねる彼に、私は1つのレシピを見せた。
「100、460、100、460。これが秘密のレシピ!」
「なるほど……その数には何か意味が?」
「最初の二桁を見てみて。10、46、とお、しろ。藤四郎、ってね!」
いわゆるダジャレだ。ただの語呂合わせでしかないのだが、馬鹿にはできない。実際に鍛刀が多数報告されている優良なレシピなのだ。
嘘か本当かはやってみればわかるはずだ。無策で挑むよりもきっと良いだろう。
「藤四郎……なるほど、兄弟の名前にかけているわけですね。理解しました!僕も少しでもお力添えができるよう頑張りますね!」
語呂合わせのレシピを馬鹿にするでもなく、全力の協力を申し出てくれる前田さんには感謝しかない。そんな彼の頑張りを無下にしないためにも、今回は早めの入手を目指したい。
「それでは、一発目……いきます……!」
「おや、随分早い戻りだね」
廊下で鉢合わせた歌仙さんに声をかけられる。
「もう鍛刀は気が済んだのかい?……まさか、もう使い切ったとか言わないだろうね!?」
最悪なことを考えて顔を青くする歌仙さんは見ていて面白い。ぶつぶつと遠征を回す準備をしなければ……と呟いているが、その心配には及ばない。
「ふっふっふ……見て驚かないでくださいよ……じゃじゃーん!」
言いながら、体を横にそらす。私の後ろに隠すようにしていたのは、今回の鍛刀のお目当てであった博多藤四郎さんだ。
「なっ……いったいどれだけの資材を使ったんだい!?」
「ちょっと、私が使い込むの前提で話すのやめてください!なんとですね……今回は一発ですよ、一発!藤四郎レシピは本物だったー!」
そう、なんと今回はまさかの一発での鍛刀に成功したのだ。もちろん願っていたことではあるが、まさか本当に成功してしまうとは思わなかった。長期戦を覚悟していた部分もあったおかげで、彼を顕現した時には喜びよりも驚きの方が勝っていたほどだ。
今こうして、やっと博多さんを入手した喜びを噛み締めて、テンションは最高潮に達している。
「賑やかな主ばい……こんなにも歓迎されるとちょっと恥ずかしかぁ……」
私のテンションの上がりように、若干遅れをとったかのような博多さんだが、その顔はにこにこしているので問題なし。新しい藤四郎兄弟の登場に私は万々歳。そして前田さんも、どこか落ち着きなくそわそわしているのはきっと兄弟を迎えられたことを嬉しく思っているのだろう。そんな彼を見て、さらに万々歳だ。
「はぁ……それならよかったよ。僕はまた、あの遠征地獄の日々がやってくるのかと……」
いつぞやの連続遠征の日々を思い出したのか、顔をしかめる歌仙さんに苦笑いで返すことしかできない。その節は申し訳なかったと思っているのだ。きっとこれからもそれを思い出させてしまう時がやってくる気がするので、心の中で先に謝罪をしておく。ごめんなさい。
「あっ、長谷部!この本丸には長谷部がおると!?」
博多さんが、長谷部さんの姿を見つけて、私の服の裾をひっぱった。
「あれ、知り合いなの?」
「元の主の馴染みです。久しいな、博多」
私の質問に、博多さんの声でこちらに寄ってきた長谷部さんが答える。
元の主の繋がりってことは、織田信長だろうか。確か前に、長谷部さんとそんな話をしたことがあった。
勝手にそうだろうなと納得して、それなら!と二人に提案をする。
「長谷部さんに博多さんのお世話係を任せてもいいですか?実は、博多さんが次のイベントで重要になってくるらしくて、レベリングを重点的に行いたいんですけど……」
「おぉー!強くなれると!?長谷部、俺からも頼むばい!」
私たちのお願いに、長谷部さんは笑顔で応じてくれる。
「ええ、もちろん。主命とあらば、なんなりと」
「かぁー、相変わらず長谷部は仕事人ばい」
そんな博多さんのつぶやきに、長谷部さんは元の主のところでもこんな感じだったのかと、ちょっとおもしろくなる。溢れた私の笑みをどう受け取ったのかわからないが、やたらとキラキラした笑顔を長谷部さんに向けられる。
「お任せください。最良の結果をお持ちします。行くぞ、博多!出陣準備だ!」
そして、その顔を豹変させて博多さんに指示を出す。それはまさに仕事人の顔といったところか。部下に対する上司の態度というのはこんな感じなのかもしれない。
「ひゃ、ひゃい!」
長谷部さんの迫力に圧されたのか、博多さんが反射的に返事をしている。
ずんずんと行ってしまう長谷部さんの背中を追いかけて行く博多さんの「待つばーい」という声が遠ざかっていく。
長谷部さんに任せておけば、きっと完璧な仕事をしてくれることに間違いはないだろうが、その内容は少々不安だ。スパルタ教育をするのが簡単に想像できてしまう。
「心配だなぁ……前田さん、他の粟田口も一緒に第一部隊で出陣してもらってもいいですか?」
「もちろんです。では、僕も準備してきますね」
失礼します、と頭を下げて去っていく前田さんを見送る。私も、出陣場所を確認しておかなければいけない。
「それじゃあ私も部屋に戻りますね、歌仙さん」
「あぁ、僕は夕餉の支度をしてくるよ。今日は博多の歓迎会だね」
歓迎会の言葉に、豪華な料理が並ぶことに期待が高まる。
「え!今日のメニューなんですか!?私ハンバーグが食べたいです!」
「博多の歓迎会だと言ってるだろう。どうして君がリクエストするんだい」
呆れた顔でため息をついて歌仙さんが厨の方へ行ってしまう。確かに、歌仙さんの行っていることは正しいのだが、ハンバーグなら子供人気ナンバー1と言っても過言ではないし、博多さんにも喜んでもらえると思う。
と、心の中で反論を並べても、それを直接歌仙さんにぶつけに行く勇気はないので、おとなしく執務室へと戻る。
その晩、夕食にはハンバーグが並んでいて、歌仙さん曰く「喜んでもらえそうなメニューを選んだだけだ」そうだが、理由はどうであれ嬉しいことに変わりはない。これだから歌仙さんが大好きだ。
2019.5.12