一章
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「これより緊急会議を行う!」
長谷部の一声で会議が始まる。
重々しい空気の中始まった会議に挑む面々は皆、神妙な面持ちだ。張り詰めた空気から、ことに対する真剣さが伺える。
「議題は……主の生誕祭についてだ!」
そう高らかに宣言する長谷部。内容に反して、その表情は真剣そのものだ。それは長谷部だけではない。
「正直……かなり厳しいね。期限は明日、準備には時間が少なすぎるよ……」
「主が明日、出かけてくれるのが不幸中の幸いと言ったところかな……。その間にできる限りのことはやろう」
この本丸で厨房をとり仕切る二大巨頭、燭台切と歌仙が頷きあう。
「ケーキを用意するには材料が足りないから、明日主が本丸を出てから買いに行くことにしよう」
「それ以外はなんとかしてみせるよ」
頼もしい料理番のおかげで、食事の面に関しては問題なさそうだ。
「よし、料理に関しては任せる。問題は、お祝いの準備だ。盛大に越したことはないが、明日、主の出発から帰宅までの間で可能な準備の範囲で意見を出すように」
長谷部のその注文の多い議題に、皆頭を悩ませる。
「部屋を飾り付けてパーティー、ってのがありがちだけど、間違いはないよね。デコっちゃうのは俺得意だよ」
「ふむ、飾り付けは必要だな。今夜中に用意して、明日はすぐに取りかかれるようにしよう」
提案の採用に喜ぶ加州は、すでにどんな飾り付けをしようかと楽しそうに考え始める。その間にも会議はどんどん進んでいく。
「王道を行くのはいいけど、なにかこう、印象に残るものがほしいところだね……」
「うーん……何か雅にもてなす方法はないだろうか」
再び皆が黙り込み、部屋の中に夜風が吹き込む。春の夜はまだ冷える。随分と冷たい風が吹き込んでいるが、それを気に止めるものはいない。
ふと、風に乗せられて花びらが舞い込む。ひらりと机に舞い降りた花びらは当然、刀剣たちの目にも止まる。
「桜……」
誰かがそう呟く。
「ねえ、庭の桜、ちょうど見頃だよね」
「あぁ……夜桜というのも乙なものだよね」
彼らの心は決まったようだ。互いに顔を見合わせて、その顔を期待にほころばせる。
「主の生誕祭は庭の桜の木にて執りおこなう!料理担当は燭台切、歌仙。飾り付けは加州。お前たちに司令塔を任せる。必ずや、主にお喜びいただけるものにするぞ!」
熱のこもった長谷部の言葉に、いつもならば苦笑いが帰ってくるのだろうが、今日は違う。皆、気持ちは一緒だ。
「オーケー、任せてよ」
「腕がなるね」
「可愛くデコっちゃうからねー!」
それぞれが思い思いにやる気を口にする。どうやら今夜の会議はこれでお開きらしい。そんな雰囲気に、しっかりと終わりが宣言されたわけではないが、各々に席を立つ。
「あぁそうだお前たち。くれぐれも、主には悟られぬように」
最後に長谷部が念を押して注意するのを忘れない。短刀たちや、三日月や鶴丸はいないため、心配はないと思うが、一応念のためだ。
そうして、深夜に繰り広げられた秘密の会議は静かに幕を閉じた。それぞれの部屋で明日に備えてできる限りの準備をする。
「ちょっと清光!明かり消してよ、眠れないんだけど!」
布団の中から顔だけを出して、そう抗議する大和守だが、加州はそれを聞き入れるつもりなどないようだ。
「あー、悪いけど気になるなら他の部屋の世話にでもなってよ。どうしてもやらなきゃいけないから」
顔も上げずに手元の作業に集中する加州の様子が気になるのか、大和守が布団から這い出てきてその手元を覗き込む。
「なにこれ」
「明日の準備」
その返答に首をかしげる大和守。一体明日、何があるのかといった顔だ。
「明日、主の誕生日。聞いてたでしょ?」
「あぁ、聞いてたけど……主明日は本丸にいないんでしょ」
「だから、その間に準備するんじゃん。俺、飾り付け担当になったから、やるからには可愛くしないとねー」
「ふぅん……なに?これを作ればいいの?」
加州の手元を見て、同じように真似始める。
「なに?手伝ってくれるの?」
「別に、主のためならやろうと思って」
「お前のためじゃないからな」と念を押しているのは、照れ隠しだろうか。
加州と大和守の部屋とは別に、遅くまで明かりの灯っている部屋が隣にもう1つ。
「せっかくだから、主の好きなものを作ってあげたいよね」
「そうだね……しかし、外で食べやすいものでないと……」
厨房担当の燭台切と歌仙の部屋だ。
幸いにもここは2人部屋。同室のものに咎められることもなく、存分に話し合いを広げられる。
「やっぱりお重に詰めてお花見弁当にしちゃうのが、見栄えもいいし、運びやすいかな」
「うん、そうしよう。ケーキは別に用意しておいて、あとで運ぼうか」
「サプライズ登場ってわけだね。かっこよく決めたいよね!」
どちらも、その顔は審神者のことを思ってか頬が緩んでいる。思い浮かべるのは、審神者の喜ぶ反応だ。そのことを思えば自然と準備には力が入るもの。いつもならば、もうとっくに寝ている時間なのだが、そんなことは気にならない。最愛の主のために、最高のお祝いをしたいという気持ちは眠気なんて吹き飛ばして、結局話し合いは朝方まで続くことになるのだ。
「それじゃあ、いってくるねー!」
10時過ぎ、審神者が意気揚々と本丸を出て行く。
いつも学校に行く時とは違って、しっかりと着飾っている姿は、見慣れないがだからこそ新鮮で可愛らしい。
加州が手がけた爪を始め、燭台切のヘアアレンジに、乱の見立てた服で今日の審神者は何割も増して可愛く見える。そんなおしゃれをした審神者を外に送り出すのは、見せびらかしたい気持ちもありつつ、人に見せたくなくもある。せっかく可愛くなった姿は、自分たちのためのものではないというのは少々複雑な気持ちだ。
「あはは、なんか気合入れすぎかなぁ」
直前になって、そんなことを言い出す審神者に皆が口々に言う。
「そんなことないって!主の可愛さが最高に引き立ってるよ!」
「本日の主役だもの、派手なくらいでちょうどいいよ」
「最高にカワイイよ、主さん!悪い男の人に連れ去られたりしないか僕心配だよー……絶対に付いていちゃダメだからね!?」
手をとって、しっかりと注意をする乱に審神者は苦笑いだ。
「子供じゃないんだから、大丈夫だよ」
「僕たちからしたら、主さんなんてまだまだ小さい子供なんだからね!とにかく絶対に気をつけて!」
そこまで言われれば、おとなしく「はい」と返事をするほかない。
何人かに見送られて、審神者が現世への門を潜って、その姿が見えなくなる。完全に門が閉じきったところで、それまで笑顔で見送っていた刀剣たちの顔がぐっと引き締まる。
「よし、準備開始!乱くんは僕と買い出しね」
「はーい!もうすぐにいけるよ!」
主を見送ったその足で、すぐさま買い出しに向かう燭台切と乱。
「はい、力持ち集合!これ、桜のところまで運んでくれる?そんで、短刀たちはこれをこうやって……」
飾り付けを任された加州は、テキパキと指示を出して、順調に会場の準備を進めていく。
ほかの刀たちも、計画を聞かされて、皆それぞれの仕事こなしていく。その表情はどれも楽しそうで、期待に満ち溢れている。これで主は喜んでくれるだろうか、一体どんな反応をしてくれるんだろう。そんなことを考えながら、審神者のいない本丸で、秘密の準備は着実に進んでいった。
2019.4.17
長谷部の一声で会議が始まる。
重々しい空気の中始まった会議に挑む面々は皆、神妙な面持ちだ。張り詰めた空気から、ことに対する真剣さが伺える。
「議題は……主の生誕祭についてだ!」
そう高らかに宣言する長谷部。内容に反して、その表情は真剣そのものだ。それは長谷部だけではない。
「正直……かなり厳しいね。期限は明日、準備には時間が少なすぎるよ……」
「主が明日、出かけてくれるのが不幸中の幸いと言ったところかな……。その間にできる限りのことはやろう」
この本丸で厨房をとり仕切る二大巨頭、燭台切と歌仙が頷きあう。
「ケーキを用意するには材料が足りないから、明日主が本丸を出てから買いに行くことにしよう」
「それ以外はなんとかしてみせるよ」
頼もしい料理番のおかげで、食事の面に関しては問題なさそうだ。
「よし、料理に関しては任せる。問題は、お祝いの準備だ。盛大に越したことはないが、明日、主の出発から帰宅までの間で可能な準備の範囲で意見を出すように」
長谷部のその注文の多い議題に、皆頭を悩ませる。
「部屋を飾り付けてパーティー、ってのがありがちだけど、間違いはないよね。デコっちゃうのは俺得意だよ」
「ふむ、飾り付けは必要だな。今夜中に用意して、明日はすぐに取りかかれるようにしよう」
提案の採用に喜ぶ加州は、すでにどんな飾り付けをしようかと楽しそうに考え始める。その間にも会議はどんどん進んでいく。
「王道を行くのはいいけど、なにかこう、印象に残るものがほしいところだね……」
「うーん……何か雅にもてなす方法はないだろうか」
再び皆が黙り込み、部屋の中に夜風が吹き込む。春の夜はまだ冷える。随分と冷たい風が吹き込んでいるが、それを気に止めるものはいない。
ふと、風に乗せられて花びらが舞い込む。ひらりと机に舞い降りた花びらは当然、刀剣たちの目にも止まる。
「桜……」
誰かがそう呟く。
「ねえ、庭の桜、ちょうど見頃だよね」
「あぁ……夜桜というのも乙なものだよね」
彼らの心は決まったようだ。互いに顔を見合わせて、その顔を期待にほころばせる。
「主の生誕祭は庭の桜の木にて執りおこなう!料理担当は燭台切、歌仙。飾り付けは加州。お前たちに司令塔を任せる。必ずや、主にお喜びいただけるものにするぞ!」
熱のこもった長谷部の言葉に、いつもならば苦笑いが帰ってくるのだろうが、今日は違う。皆、気持ちは一緒だ。
「オーケー、任せてよ」
「腕がなるね」
「可愛くデコっちゃうからねー!」
それぞれが思い思いにやる気を口にする。どうやら今夜の会議はこれでお開きらしい。そんな雰囲気に、しっかりと終わりが宣言されたわけではないが、各々に席を立つ。
「あぁそうだお前たち。くれぐれも、主には悟られぬように」
最後に長谷部が念を押して注意するのを忘れない。短刀たちや、三日月や鶴丸はいないため、心配はないと思うが、一応念のためだ。
そうして、深夜に繰り広げられた秘密の会議は静かに幕を閉じた。それぞれの部屋で明日に備えてできる限りの準備をする。
「ちょっと清光!明かり消してよ、眠れないんだけど!」
布団の中から顔だけを出して、そう抗議する大和守だが、加州はそれを聞き入れるつもりなどないようだ。
「あー、悪いけど気になるなら他の部屋の世話にでもなってよ。どうしてもやらなきゃいけないから」
顔も上げずに手元の作業に集中する加州の様子が気になるのか、大和守が布団から這い出てきてその手元を覗き込む。
「なにこれ」
「明日の準備」
その返答に首をかしげる大和守。一体明日、何があるのかといった顔だ。
「明日、主の誕生日。聞いてたでしょ?」
「あぁ、聞いてたけど……主明日は本丸にいないんでしょ」
「だから、その間に準備するんじゃん。俺、飾り付け担当になったから、やるからには可愛くしないとねー」
「ふぅん……なに?これを作ればいいの?」
加州の手元を見て、同じように真似始める。
「なに?手伝ってくれるの?」
「別に、主のためならやろうと思って」
「お前のためじゃないからな」と念を押しているのは、照れ隠しだろうか。
加州と大和守の部屋とは別に、遅くまで明かりの灯っている部屋が隣にもう1つ。
「せっかくだから、主の好きなものを作ってあげたいよね」
「そうだね……しかし、外で食べやすいものでないと……」
厨房担当の燭台切と歌仙の部屋だ。
幸いにもここは2人部屋。同室のものに咎められることもなく、存分に話し合いを広げられる。
「やっぱりお重に詰めてお花見弁当にしちゃうのが、見栄えもいいし、運びやすいかな」
「うん、そうしよう。ケーキは別に用意しておいて、あとで運ぼうか」
「サプライズ登場ってわけだね。かっこよく決めたいよね!」
どちらも、その顔は審神者のことを思ってか頬が緩んでいる。思い浮かべるのは、審神者の喜ぶ反応だ。そのことを思えば自然と準備には力が入るもの。いつもならば、もうとっくに寝ている時間なのだが、そんなことは気にならない。最愛の主のために、最高のお祝いをしたいという気持ちは眠気なんて吹き飛ばして、結局話し合いは朝方まで続くことになるのだ。
「それじゃあ、いってくるねー!」
10時過ぎ、審神者が意気揚々と本丸を出て行く。
いつも学校に行く時とは違って、しっかりと着飾っている姿は、見慣れないがだからこそ新鮮で可愛らしい。
加州が手がけた爪を始め、燭台切のヘアアレンジに、乱の見立てた服で今日の審神者は何割も増して可愛く見える。そんなおしゃれをした審神者を外に送り出すのは、見せびらかしたい気持ちもありつつ、人に見せたくなくもある。せっかく可愛くなった姿は、自分たちのためのものではないというのは少々複雑な気持ちだ。
「あはは、なんか気合入れすぎかなぁ」
直前になって、そんなことを言い出す審神者に皆が口々に言う。
「そんなことないって!主の可愛さが最高に引き立ってるよ!」
「本日の主役だもの、派手なくらいでちょうどいいよ」
「最高にカワイイよ、主さん!悪い男の人に連れ去られたりしないか僕心配だよー……絶対に付いていちゃダメだからね!?」
手をとって、しっかりと注意をする乱に審神者は苦笑いだ。
「子供じゃないんだから、大丈夫だよ」
「僕たちからしたら、主さんなんてまだまだ小さい子供なんだからね!とにかく絶対に気をつけて!」
そこまで言われれば、おとなしく「はい」と返事をするほかない。
何人かに見送られて、審神者が現世への門を潜って、その姿が見えなくなる。完全に門が閉じきったところで、それまで笑顔で見送っていた刀剣たちの顔がぐっと引き締まる。
「よし、準備開始!乱くんは僕と買い出しね」
「はーい!もうすぐにいけるよ!」
主を見送ったその足で、すぐさま買い出しに向かう燭台切と乱。
「はい、力持ち集合!これ、桜のところまで運んでくれる?そんで、短刀たちはこれをこうやって……」
飾り付けを任された加州は、テキパキと指示を出して、順調に会場の準備を進めていく。
ほかの刀たちも、計画を聞かされて、皆それぞれの仕事こなしていく。その表情はどれも楽しそうで、期待に満ち溢れている。これで主は喜んでくれるだろうか、一体どんな反応をしてくれるんだろう。そんなことを考えながら、審神者のいない本丸で、秘密の準備は着実に進んでいった。
2019.4.17