一章
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「あ、歌仙さんおかえりなさい。遠征ありがとうございました……お疲れ様の気持ちです、食べてください……」
「ありがとう。でも労いの言葉ならもう少し言い方があるだろうに……」
このありさまはなんだ。と言いたい言葉を飲み込む。
机の上に用意されたお菓子。それが遠征から帰還した歌仙たちを迎えるものだというのはよくわかる。その気持ちもとてもありがたい。
だが、当の審神者はというと、山姥切の布に隠れるようにして完全に彼の布の一部と化している。頭を隠すように、布にずっぽり入って丸まっている。布の主、山姥切はというと、それを歓迎している様子こそないが、追い出す気はなさそうだ。
その惨状を見て、此度の数珠丸鍛刀が失敗に終わったであろうことは想像に容易い。それですっかり落ち込んでしまっているのだろうが、落ち込み方が少々独特だ。
「まったく……主はいつからそうしているんだい?」
「鍛刀期間が終わってからずっとこれです……」
随分と落ち込んでしまっているものだ。今回は運がなかったと割り切れないのがまだまだ子供と言ったところだろうか。
「いつまでそうしているつもりだい?また次があるんじゃないかい?」
山姥切の布をめくろうとするが、内側からしっかり掴んでいるようでそれは叶わない。しかたなしにそのまま声をかけるが、返事は「んー」だとかよくわからないうめき声だけだ。
「はぁー……ほら、今日は君の好きなものを作ってあげよう。美味しいものを食べれば元気が出るだろう」
「私、そんな単純じゃないです……オムライスがいいです」
「しっかり注文はするんだね」
しかも、オムライスなんて、大人数分を作るのは手間なものを。しかし、言ってしまった手前断るのは気がひける。
仕方がないので、部屋に戻って着替えたら早速厨に立つことにする。燭台切にも相談して、誰か手伝いも頼まなければいけない。歌仙が立ち上がろうとすると、クイと裾を引かれる。
布から伸びた手が、歌仙の裾を控えめに掴んでいた。
「せっかく、遠征頑張ってくれたのに、結果がでなくてごめんなさい」
顔は見えないが、小さなその声で彼女がどんな顔をしているのか想像はつく。
「僕たちにも、帰ってきてからずっとこれなんです」
確かに、今回の連続遠征はなかなか堪えた。なんなら、今すぐにでも休みをもらって布団に倒れこみたいところだ。審神者にも、それがわかっていて、だからこそ何も結果がでなかったことが申し訳なのだろう。
「別に、君が資材を無駄にしたなんて思っていないさ。消費は激しかったみたいだけどね、君がただただ浪費しただなんて思っていないよ。今回は少し運がなかったね」
まだ布の下にあって見えない顔のあたりに目星をつけて、審神者の頭を撫でる。
「また次、明日から頑張っていこうね」
「ううう……歌仙さん……」
涙ぐんだようなその声に、布を剥いでやりたくなるが、布の上から顔を覆い隠すようにしているのはきっとその顔を見られたくないからだろう。ここは審神者の気持ちを尊重する。
「それじゃあ、僕は行くからね」
「……ケチャップでお絵描きしてください」
「君、本当は元気だったりするんじゃないか!?」
ちゃっかりしている審神者に多少呆れつつも、それが少しでも持ち直していることの現れならば、まあそれで良いかと歌仙は思う。
「それで、ちゃんと描いてあげるのが歌仙くんだよね。何を描くか真剣に悩んじゃって」
にこにことしながら見守る燭台切にどこか照れくささがわいてくる。
「ぼ、僕のことは別にいいだろう。ちゃんと手を動かすんだよ、33人分作らなければいけないんだから」
それをごまかすように、燭台切を咎める。だが、彼は器用なもので、口を動かしながらもきちんと手元は働いている。
「歌仙さんってなんだかんだで主に甘々ですよねー」
「そんなことは……」
「あるよね。厳しいように見えて、そのあとしっかり甘やかすことを忘れないもんねぇ」
手伝いで厨房に入っている脇差たちからもにやにやとした視線を向けられる。それに反論できずに口ごもってしまう歌仙。
「まあまあ、わかりますよ。主さんって、どうもほおっておけないんですよね」
「……そうだね。どうも世話を焼いてしまうよ」
堀川の言葉に同意をする。まだ十数年生きただけの審神者は、刀たちからすれば随分幼い子供のようだ。確かに信頼はしているが、どこか頼りない自分の主。ついつい手を焼いてしまうのは、それはもう審神者が可愛くて仕方ないのだ。
「で、歌仙くん。それなんだい?」
燭台切が覗き込むのは歌仙の手元。こちらも口を動かしながらもしっかり手を働かせていた歌仙。その卵の上にはケチャップで何かが描かれている。
「何って、主の顔を描いてみたよ。似顔絵、というのはありきたりかもしれないが、こうして笑顔になってほしいからね」
そういって、少し得意げにして見せる歌仙。だが、それに対する反応はどれも微妙だ。
「これ……主ですか」
「……顔だというのはわかる」
「うーん。でもこれ、人間かな」
あまりにも辛辣な評価が下される。だが、それが妥当だ。
歌仙の手で描かれた審神者の似顔絵は、顔のパーツでかろうじて生き物だというのはわかるものの、とても審神者だとは、人間だとはわからない仕上がりだ。
「つ、伝えたい気持ちがあるなら、メッセージの方がいいんじゃないですか?」
「そうだね。歌仙くん、言葉選びは得意でしょ」
堀川と燭台切があたふたとフォローに入る。
「そうかな。君たちがそう言うなら、そういうのもいいかもしれないね」
「ほら、こっちのに書きなおしなよ。それは、別の子に」
審神者のもとには無事、歌仙からのメッセージが書かれたオムライスが届いた。運んできたのは、燭台切で、彼曰く直接渡すのは恥ずかしかったらしい。
失敗作、と呼ぶべきか、歌仙の生み出したなんだかよくわからない産物は、誰かの元に届いたはずだ。一体何が描かれているのか、首をかしげながらも味は変わらないと気にすることなく食べたのは一体誰だったか。
2019.4.13
「ありがとう。でも労いの言葉ならもう少し言い方があるだろうに……」
このありさまはなんだ。と言いたい言葉を飲み込む。
机の上に用意されたお菓子。それが遠征から帰還した歌仙たちを迎えるものだというのはよくわかる。その気持ちもとてもありがたい。
だが、当の審神者はというと、山姥切の布に隠れるようにして完全に彼の布の一部と化している。頭を隠すように、布にずっぽり入って丸まっている。布の主、山姥切はというと、それを歓迎している様子こそないが、追い出す気はなさそうだ。
その惨状を見て、此度の数珠丸鍛刀が失敗に終わったであろうことは想像に容易い。それですっかり落ち込んでしまっているのだろうが、落ち込み方が少々独特だ。
「まったく……主はいつからそうしているんだい?」
「鍛刀期間が終わってからずっとこれです……」
随分と落ち込んでしまっているものだ。今回は運がなかったと割り切れないのがまだまだ子供と言ったところだろうか。
「いつまでそうしているつもりだい?また次があるんじゃないかい?」
山姥切の布をめくろうとするが、内側からしっかり掴んでいるようでそれは叶わない。しかたなしにそのまま声をかけるが、返事は「んー」だとかよくわからないうめき声だけだ。
「はぁー……ほら、今日は君の好きなものを作ってあげよう。美味しいものを食べれば元気が出るだろう」
「私、そんな単純じゃないです……オムライスがいいです」
「しっかり注文はするんだね」
しかも、オムライスなんて、大人数分を作るのは手間なものを。しかし、言ってしまった手前断るのは気がひける。
仕方がないので、部屋に戻って着替えたら早速厨に立つことにする。燭台切にも相談して、誰か手伝いも頼まなければいけない。歌仙が立ち上がろうとすると、クイと裾を引かれる。
布から伸びた手が、歌仙の裾を控えめに掴んでいた。
「せっかく、遠征頑張ってくれたのに、結果がでなくてごめんなさい」
顔は見えないが、小さなその声で彼女がどんな顔をしているのか想像はつく。
「僕たちにも、帰ってきてからずっとこれなんです」
確かに、今回の連続遠征はなかなか堪えた。なんなら、今すぐにでも休みをもらって布団に倒れこみたいところだ。審神者にも、それがわかっていて、だからこそ何も結果がでなかったことが申し訳なのだろう。
「別に、君が資材を無駄にしたなんて思っていないさ。消費は激しかったみたいだけどね、君がただただ浪費しただなんて思っていないよ。今回は少し運がなかったね」
まだ布の下にあって見えない顔のあたりに目星をつけて、審神者の頭を撫でる。
「また次、明日から頑張っていこうね」
「ううう……歌仙さん……」
涙ぐんだようなその声に、布を剥いでやりたくなるが、布の上から顔を覆い隠すようにしているのはきっとその顔を見られたくないからだろう。ここは審神者の気持ちを尊重する。
「それじゃあ、僕は行くからね」
「……ケチャップでお絵描きしてください」
「君、本当は元気だったりするんじゃないか!?」
ちゃっかりしている審神者に多少呆れつつも、それが少しでも持ち直していることの現れならば、まあそれで良いかと歌仙は思う。
「それで、ちゃんと描いてあげるのが歌仙くんだよね。何を描くか真剣に悩んじゃって」
にこにことしながら見守る燭台切にどこか照れくささがわいてくる。
「ぼ、僕のことは別にいいだろう。ちゃんと手を動かすんだよ、33人分作らなければいけないんだから」
それをごまかすように、燭台切を咎める。だが、彼は器用なもので、口を動かしながらもきちんと手元は働いている。
「歌仙さんってなんだかんだで主に甘々ですよねー」
「そんなことは……」
「あるよね。厳しいように見えて、そのあとしっかり甘やかすことを忘れないもんねぇ」
手伝いで厨房に入っている脇差たちからもにやにやとした視線を向けられる。それに反論できずに口ごもってしまう歌仙。
「まあまあ、わかりますよ。主さんって、どうもほおっておけないんですよね」
「……そうだね。どうも世話を焼いてしまうよ」
堀川の言葉に同意をする。まだ十数年生きただけの審神者は、刀たちからすれば随分幼い子供のようだ。確かに信頼はしているが、どこか頼りない自分の主。ついつい手を焼いてしまうのは、それはもう審神者が可愛くて仕方ないのだ。
「で、歌仙くん。それなんだい?」
燭台切が覗き込むのは歌仙の手元。こちらも口を動かしながらもしっかり手を働かせていた歌仙。その卵の上にはケチャップで何かが描かれている。
「何って、主の顔を描いてみたよ。似顔絵、というのはありきたりかもしれないが、こうして笑顔になってほしいからね」
そういって、少し得意げにして見せる歌仙。だが、それに対する反応はどれも微妙だ。
「これ……主ですか」
「……顔だというのはわかる」
「うーん。でもこれ、人間かな」
あまりにも辛辣な評価が下される。だが、それが妥当だ。
歌仙の手で描かれた審神者の似顔絵は、顔のパーツでかろうじて生き物だというのはわかるものの、とても審神者だとは、人間だとはわからない仕上がりだ。
「つ、伝えたい気持ちがあるなら、メッセージの方がいいんじゃないですか?」
「そうだね。歌仙くん、言葉選びは得意でしょ」
堀川と燭台切があたふたとフォローに入る。
「そうかな。君たちがそう言うなら、そういうのもいいかもしれないね」
「ほら、こっちのに書きなおしなよ。それは、別の子に」
審神者のもとには無事、歌仙からのメッセージが書かれたオムライスが届いた。運んできたのは、燭台切で、彼曰く直接渡すのは恥ずかしかったらしい。
失敗作、と呼ぶべきか、歌仙の生み出したなんだかよくわからない産物は、誰かの元に届いたはずだ。一体何が描かれているのか、首をかしげながらも味は変わらないと気にすることなく食べたのは一体誰だったか。
2019.4.13