一章
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「お願いします……お願いします……」
「私にそんな力はないんだけどな……」
石切丸さんを拝み倒す私と、困った顔をする石切丸さんの図が繰り広げられている現在。数珠丸さんの鍛刀期間ももう最終日に差し掛かっていた。
「加持祈祷的ななんかでこう……できませんか!?」
「そんな便利なものではないんだよ」
むちゃくちゃなのは承知の上で、石切丸さんに頼むが、当然断られてしまう。
彼は出陣していた第一部隊が連れ帰ってきた刀剣で、神社暮らしの長い神刀だという。なにやら神秘的なその響きと、彼の出で立ちにはどこかありがたみを感じて、こうして拝ませてもらっているのだ。神頼み、という意味では間違った行いではないだろうが、来て早々に拝み倒される石切丸さんからすれば全くもってわけがわからないことだろう。
「あ、あとさんじかん……おわっちゃうよ……」
数珠丸さんの鍛刀期間は刻一刻と終わりに近づいていく。
歌仙さんに散々言われているにも関わらず、本丸の資材は期間中すでに何回目かのゼロ状態だ。迫る終わりを前に、なんとか結果として残したいと思った結果だ。
「主君、戻りました!遠征の成果です!」
前田さんがパタパタと遠征から急ぎ足で帰還する。その手にはわずかな資材が抱えられている。
「すみません……あまり量が得られず……」
そう言って謝る彼の顔には疲労が色濃く見える。それもそうだ。この5日間。交代で休みをとりながらの遠征の中で、ほとんど休むことなく、隊長として働き続けてくれたのだ。
「そんな、十分すぎる成果だよ……もう休んで……」
「いえ、最後までやらせてください!2時間の遠征でしたら、時間内に戻ってくることができます、行かせてください!」
そう言う彼の瞳には、疲労を跳ね飛ばすような強い意思を感じる。
「主君のお役に立てるのならば、これくらいなんのそのです!」
「前田さん……!ありがとう!!」
思わず彼を抱きしめる。この小さな隊長はどこまでも頼もしい。疲労状態の彼に仕事を任せるのは、本来であればよくないとわかっているのだが、こうまで言われてはお願いするほかない。
「必ずや成果を持ち帰ってみせます!」
応えるように私の背に手を回してくれる。
そうして、来たばかりの方へ戻っていく。彼だけではなく、隊のメンバーみんなにもきちんとお礼をしなくてはいけない。
「主!お納め下さい!」
シュタっという効果音が聞こえたような気がする。持ち前のスピードで帰ってきた長谷部さんたち第四部隊も繰り返し遠征に出てもらっている。
「俺はまだまだやれますよ。次はどこへ向かいましょうか」
そう言う彼はなぜか桜を舞わせている。疲労などまるで知らないと言った様子だ。
「あ、ありがとうございます。長谷部さんもお疲れではないですか……?」
「いえ、主のために働いていると思うと、むしろ喜びすら感じています。なんなりとお申し付けください」
「そ、それじゃ、1時間半で遠征を……」
やたらとつやつやして見える長谷部さんへの反応に困りつつも、本人が望んでくれているし、なにより絶好調なのだから、彼にも遠征をお願いする。
「お任せください!それでは……」
そう言って腕を広げる長谷部さん。なにやら期待するような目でこちらを見つめる。
しかし、それが何を意味するのか私にはわからず、首をかしげる。
「ほらっ、前田にもやっていたでしょう!」
そういって満面の笑みで待ち構えている。
自分の行動を思い出して、答えに行きつく。だが、
「や、それはできないです」
丁重にお断りさせていただく。
「な、なぜですか!」
「なんでって……」
前田さん相手には勢いでしてしまったことだ。それに、前田さんと長谷部さんとでは気持ち的にも違いがある。小学生ほどに見える前田さんは言ってしまえば弟のようなものだ。それに対して、長谷部さんは大人の男性。それに抱きつけというのはどうしても無理がある。
「お、俺の何がいけないんですか!?」
「いけないとかそう言うんじゃなくて……!」
こうなった長谷部さんはめんどくさい。今までの経験でそれは心得ている。
長谷部さんが私のことを主として慕ってくれているのはよくわかっているのだが、彼はどうも忠誠心というのがずれている気がする。
このままめんどくさい方へ掘り進んでしまいそうな長谷部さんに、どうやらこちらが折れる方が早いだろうと判断する。
「……はい、長谷部さん頑張ってくださいね」
彼の腕の中に潜り込んで、激励の意味を込めて背中をぽんぽんと叩く。
この位置からは彼の顔は見えない。何も言わない彼がどんな反応をしているのかはわからない。それを確かめようと彼から体を離そうとした瞬間、彼からブワッと花びらが溢れ出す。実体のないそれは触れられるはずなどないのだが、あまりの勢いに押し返されそうになる。
しかし、それを許すまじと長谷部さんの腕にしっかりとらえられる。
「ありがたき幸せ……!!」
噛みしめるようにそう言われ、腕にもぎゅっと力を込められる。
あまりにも嬉しそうな反応をするものだから、こちらだって悪い気はしない。
だが、相手は大人の男性。こんな風にくっついているのは耐性のない私には少々堪える。
「ほ、ほら!遠征お願いしますよ!」
ごまかすようにそう言って、無理矢理長谷部さんから離れる。
それを大して気にしていない様子で、相変わらず桜を舞わせながら長谷部さんが膝をつく。
「拝命いたしました」
恭しくそう言う姿は、素直にかっこいい。
本丸内でも、特にこうして忠誠心をあらわにする長谷部さんの振る舞いは、普通の生活ではなかなか見れるものではなく、憧れであったりするものだ。
無事に長谷部さんも送り出し、いよいよ数珠丸さんの鍛刀もラストスパートに差し掛かる。とは言っても、遠征部隊が帰還するまではなにもできない。
今の私には、ただおとなしく待っていることしかできないのだ。
「そわそわして落ち着きがないな。そんなに待ち遠しいか?」
それもある。だがそれよりも、待っているだけの状態が歯がゆい方が大きい。
「私にも何かできれば、と思って」
「外にでるのはあんたの役目じゃないんだ、気にすることはない」
そうは言われても、やはり何かしらのことはしたい。というか、じっとしているのが落ち着かないのだ。そう言っている山姥切さんだって、この五日間何度も何度も出陣してくれていた。
なにか、待っている間にできることはないだろうか。そう考えを巡らせて、帰ってきた遠征部隊を出迎える準備を思いつく。きっとみんな疲れているだろうから、甘味なんかを用意したらいいんじゃないだろうか。
「あっ、主。長谷部くんがすっごい笑顔で出て行ったんだけど、何かあったの?」
グットタイミングというべきか、廊下を通りかかった燭台切さんとばったり会う。
「いえ、何もなかったデス……」
抱きしめたらめちゃくちゃ喜ばれました、というのは私の方が恥ずかしいので黙っておくことにする。
そんなことよりも、この本丸では台所担当の一角を担っている燭台切さんだ。甘味のことを相談するならばもってこいだろう。
「なるほど……今から材料を用意して、作るとなるとそれなりにかかってしまいそうだね。みんなを迎えたいなら、買ってきた方がいいかもしれない」
「じゃあ私すぐに行ってきます!」
「あ、ちょっと!誰かお供に連れて行きなよ。1人は危ないでしょ」
そうと聞いたならばすぐに買いに行こうと行動に移した私を燭台切さんの手がしっかり止める。
「俺が行こう」
「うん、山姥切くんお願いね。あ、主がいろいろ買いすぎないようにちゃんと注意してあげてね」
完全に私を子供か何かだと思っている燭台切さんの忠告にしっかりと頷いた山姥切さんが買い物に同行してくれることとなる。
審神者の仕事に役立つ便利な道具なんかを扱っているここには何度かきたことがある。
それ以外にも、菓子屋や呉服屋など、普通の街並のように店が立ち並んでいるここは、いわば審神者専用の商店街のようなものだ。行き交う人たちは審神者ばかりなのだろうか。見知った顔の刀剣を連れ歩いている。
「ほら、早く行くぞ」
そんな人の波を眺め、ふらふらとつられて流れていきそうになる私の腕をしっかり掴んで山姥切さんが前を歩く。これではなんだか連行されているみたいな、どうも連れ歩かれているような感じが否めない。
ふと、仲睦まじそうに手を繋ぐ刀剣と審神者が目に入る。その刀剣は偶然にも、同じ山姥切国広だ。
「ね、ね、山姥切さん。みてみて、ああいうのの方が仲よさそうじゃない」
彼の耳元に顔を寄せて、先ほどの2人を見るように促す。
「ああいうって……なんだ?」
「だから、手だよ、手!こんなふうに引っ張らないでさぁ……」
途中まで行って私の口は止まった。
視線の先の2人が、お互いの顔を見つめ合い微笑んでいる。なんてことはない、普通の光景なのかもしれない。だが、顔を寄せてお互いを見るその顔はどちらもすごく幸せそうで、愛に満ちていて、2人の関係には簡単に想像がつく。
「あ、えと……なんでもないです」
おそらく、恋人同士、そうでなくともお互いに好き合ってあるであろうあの2人を真似ようとしたことに羞恥心が湧き上がってきて、適当にごまかす。幸い山姥切さんにはなんのことやらわかっていないようで、そのままうやむやにして店への道を急いだ。
ああいった恋の形もあるのだ。初めて見た審神者と刀剣男士の関係に、真っ先に自分を当てはめてしまうのは想像力が豊か過ぎるだろうか。
しかし、今までそんな風に思って見たことがなかった。審神者と刀剣男士が恋仲になるなんて。
さっきの審神者は私よりも年上には見えたが、それでも刀たちとは埋まらない年の差というものがある。そもそも年の差云々の前に、彼らは神様だ。そんな人たちを好きになって良いのだろうか。
私も、誰かを好きになることがあるのだろうか。
本丸の面々を思い浮かべて、それを振り払うように頭を振る。
相手は何百歳、何千歳レベルでの年上だ。それこそ、テレビなんかでで取り上げられているのを見たことがある年の差カップルが可愛く見えてしまう。それに私なんて子供相手にされるはずもないだろう。
「ないよね……そもそもみんなは大切な仲間なんだし……」
自分に言い聞かせるように、そう口にする。
「何か言ったか?」
振り返る山姥切さんを適当にごまかして、早く買い物をと急かす。
刀剣男士との関係だって、きっと本丸それぞれだ。私が変に考えたところで、何になるわけでもない。
先ほど見た、幸せな2人の表情を必死に振り払って、本丸への道を急いだ。
2019.4.11
「私にそんな力はないんだけどな……」
石切丸さんを拝み倒す私と、困った顔をする石切丸さんの図が繰り広げられている現在。数珠丸さんの鍛刀期間ももう最終日に差し掛かっていた。
「加持祈祷的ななんかでこう……できませんか!?」
「そんな便利なものではないんだよ」
むちゃくちゃなのは承知の上で、石切丸さんに頼むが、当然断られてしまう。
彼は出陣していた第一部隊が連れ帰ってきた刀剣で、神社暮らしの長い神刀だという。なにやら神秘的なその響きと、彼の出で立ちにはどこかありがたみを感じて、こうして拝ませてもらっているのだ。神頼み、という意味では間違った行いではないだろうが、来て早々に拝み倒される石切丸さんからすれば全くもってわけがわからないことだろう。
「あ、あとさんじかん……おわっちゃうよ……」
数珠丸さんの鍛刀期間は刻一刻と終わりに近づいていく。
歌仙さんに散々言われているにも関わらず、本丸の資材は期間中すでに何回目かのゼロ状態だ。迫る終わりを前に、なんとか結果として残したいと思った結果だ。
「主君、戻りました!遠征の成果です!」
前田さんがパタパタと遠征から急ぎ足で帰還する。その手にはわずかな資材が抱えられている。
「すみません……あまり量が得られず……」
そう言って謝る彼の顔には疲労が色濃く見える。それもそうだ。この5日間。交代で休みをとりながらの遠征の中で、ほとんど休むことなく、隊長として働き続けてくれたのだ。
「そんな、十分すぎる成果だよ……もう休んで……」
「いえ、最後までやらせてください!2時間の遠征でしたら、時間内に戻ってくることができます、行かせてください!」
そう言う彼の瞳には、疲労を跳ね飛ばすような強い意思を感じる。
「主君のお役に立てるのならば、これくらいなんのそのです!」
「前田さん……!ありがとう!!」
思わず彼を抱きしめる。この小さな隊長はどこまでも頼もしい。疲労状態の彼に仕事を任せるのは、本来であればよくないとわかっているのだが、こうまで言われてはお願いするほかない。
「必ずや成果を持ち帰ってみせます!」
応えるように私の背に手を回してくれる。
そうして、来たばかりの方へ戻っていく。彼だけではなく、隊のメンバーみんなにもきちんとお礼をしなくてはいけない。
「主!お納め下さい!」
シュタっという効果音が聞こえたような気がする。持ち前のスピードで帰ってきた長谷部さんたち第四部隊も繰り返し遠征に出てもらっている。
「俺はまだまだやれますよ。次はどこへ向かいましょうか」
そう言う彼はなぜか桜を舞わせている。疲労などまるで知らないと言った様子だ。
「あ、ありがとうございます。長谷部さんもお疲れではないですか……?」
「いえ、主のために働いていると思うと、むしろ喜びすら感じています。なんなりとお申し付けください」
「そ、それじゃ、1時間半で遠征を……」
やたらとつやつやして見える長谷部さんへの反応に困りつつも、本人が望んでくれているし、なにより絶好調なのだから、彼にも遠征をお願いする。
「お任せください!それでは……」
そう言って腕を広げる長谷部さん。なにやら期待するような目でこちらを見つめる。
しかし、それが何を意味するのか私にはわからず、首をかしげる。
「ほらっ、前田にもやっていたでしょう!」
そういって満面の笑みで待ち構えている。
自分の行動を思い出して、答えに行きつく。だが、
「や、それはできないです」
丁重にお断りさせていただく。
「な、なぜですか!」
「なんでって……」
前田さん相手には勢いでしてしまったことだ。それに、前田さんと長谷部さんとでは気持ち的にも違いがある。小学生ほどに見える前田さんは言ってしまえば弟のようなものだ。それに対して、長谷部さんは大人の男性。それに抱きつけというのはどうしても無理がある。
「お、俺の何がいけないんですか!?」
「いけないとかそう言うんじゃなくて……!」
こうなった長谷部さんはめんどくさい。今までの経験でそれは心得ている。
長谷部さんが私のことを主として慕ってくれているのはよくわかっているのだが、彼はどうも忠誠心というのがずれている気がする。
このままめんどくさい方へ掘り進んでしまいそうな長谷部さんに、どうやらこちらが折れる方が早いだろうと判断する。
「……はい、長谷部さん頑張ってくださいね」
彼の腕の中に潜り込んで、激励の意味を込めて背中をぽんぽんと叩く。
この位置からは彼の顔は見えない。何も言わない彼がどんな反応をしているのかはわからない。それを確かめようと彼から体を離そうとした瞬間、彼からブワッと花びらが溢れ出す。実体のないそれは触れられるはずなどないのだが、あまりの勢いに押し返されそうになる。
しかし、それを許すまじと長谷部さんの腕にしっかりとらえられる。
「ありがたき幸せ……!!」
噛みしめるようにそう言われ、腕にもぎゅっと力を込められる。
あまりにも嬉しそうな反応をするものだから、こちらだって悪い気はしない。
だが、相手は大人の男性。こんな風にくっついているのは耐性のない私には少々堪える。
「ほ、ほら!遠征お願いしますよ!」
ごまかすようにそう言って、無理矢理長谷部さんから離れる。
それを大して気にしていない様子で、相変わらず桜を舞わせながら長谷部さんが膝をつく。
「拝命いたしました」
恭しくそう言う姿は、素直にかっこいい。
本丸内でも、特にこうして忠誠心をあらわにする長谷部さんの振る舞いは、普通の生活ではなかなか見れるものではなく、憧れであったりするものだ。
無事に長谷部さんも送り出し、いよいよ数珠丸さんの鍛刀もラストスパートに差し掛かる。とは言っても、遠征部隊が帰還するまではなにもできない。
今の私には、ただおとなしく待っていることしかできないのだ。
「そわそわして落ち着きがないな。そんなに待ち遠しいか?」
それもある。だがそれよりも、待っているだけの状態が歯がゆい方が大きい。
「私にも何かできれば、と思って」
「外にでるのはあんたの役目じゃないんだ、気にすることはない」
そうは言われても、やはり何かしらのことはしたい。というか、じっとしているのが落ち着かないのだ。そう言っている山姥切さんだって、この五日間何度も何度も出陣してくれていた。
なにか、待っている間にできることはないだろうか。そう考えを巡らせて、帰ってきた遠征部隊を出迎える準備を思いつく。きっとみんな疲れているだろうから、甘味なんかを用意したらいいんじゃないだろうか。
「あっ、主。長谷部くんがすっごい笑顔で出て行ったんだけど、何かあったの?」
グットタイミングというべきか、廊下を通りかかった燭台切さんとばったり会う。
「いえ、何もなかったデス……」
抱きしめたらめちゃくちゃ喜ばれました、というのは私の方が恥ずかしいので黙っておくことにする。
そんなことよりも、この本丸では台所担当の一角を担っている燭台切さんだ。甘味のことを相談するならばもってこいだろう。
「なるほど……今から材料を用意して、作るとなるとそれなりにかかってしまいそうだね。みんなを迎えたいなら、買ってきた方がいいかもしれない」
「じゃあ私すぐに行ってきます!」
「あ、ちょっと!誰かお供に連れて行きなよ。1人は危ないでしょ」
そうと聞いたならばすぐに買いに行こうと行動に移した私を燭台切さんの手がしっかり止める。
「俺が行こう」
「うん、山姥切くんお願いね。あ、主がいろいろ買いすぎないようにちゃんと注意してあげてね」
完全に私を子供か何かだと思っている燭台切さんの忠告にしっかりと頷いた山姥切さんが買い物に同行してくれることとなる。
審神者の仕事に役立つ便利な道具なんかを扱っているここには何度かきたことがある。
それ以外にも、菓子屋や呉服屋など、普通の街並のように店が立ち並んでいるここは、いわば審神者専用の商店街のようなものだ。行き交う人たちは審神者ばかりなのだろうか。見知った顔の刀剣を連れ歩いている。
「ほら、早く行くぞ」
そんな人の波を眺め、ふらふらとつられて流れていきそうになる私の腕をしっかり掴んで山姥切さんが前を歩く。これではなんだか連行されているみたいな、どうも連れ歩かれているような感じが否めない。
ふと、仲睦まじそうに手を繋ぐ刀剣と審神者が目に入る。その刀剣は偶然にも、同じ山姥切国広だ。
「ね、ね、山姥切さん。みてみて、ああいうのの方が仲よさそうじゃない」
彼の耳元に顔を寄せて、先ほどの2人を見るように促す。
「ああいうって……なんだ?」
「だから、手だよ、手!こんなふうに引っ張らないでさぁ……」
途中まで行って私の口は止まった。
視線の先の2人が、お互いの顔を見つめ合い微笑んでいる。なんてことはない、普通の光景なのかもしれない。だが、顔を寄せてお互いを見るその顔はどちらもすごく幸せそうで、愛に満ちていて、2人の関係には簡単に想像がつく。
「あ、えと……なんでもないです」
おそらく、恋人同士、そうでなくともお互いに好き合ってあるであろうあの2人を真似ようとしたことに羞恥心が湧き上がってきて、適当にごまかす。幸い山姥切さんにはなんのことやらわかっていないようで、そのままうやむやにして店への道を急いだ。
ああいった恋の形もあるのだ。初めて見た審神者と刀剣男士の関係に、真っ先に自分を当てはめてしまうのは想像力が豊か過ぎるだろうか。
しかし、今までそんな風に思って見たことがなかった。審神者と刀剣男士が恋仲になるなんて。
さっきの審神者は私よりも年上には見えたが、それでも刀たちとは埋まらない年の差というものがある。そもそも年の差云々の前に、彼らは神様だ。そんな人たちを好きになって良いのだろうか。
私も、誰かを好きになることがあるのだろうか。
本丸の面々を思い浮かべて、それを振り払うように頭を振る。
相手は何百歳、何千歳レベルでの年上だ。それこそ、テレビなんかでで取り上げられているのを見たことがある年の差カップルが可愛く見えてしまう。それに私なんて子供相手にされるはずもないだろう。
「ないよね……そもそもみんなは大切な仲間なんだし……」
自分に言い聞かせるように、そう口にする。
「何か言ったか?」
振り返る山姥切さんを適当にごまかして、早く買い物をと急かす。
刀剣男士との関係だって、きっと本丸それぞれだ。私が変に考えたところで、何になるわけでもない。
先ほど見た、幸せな2人の表情を必死に振り払って、本丸への道を急いだ。
2019.4.11