一章
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「目標はず……ずじゅ……」
「数珠丸恒次」
「です!よし、鍛刀開始!」
本日の近侍である山姥切さんとともにやってきた鍛刀場。
始まる前から大騒ぎだった数珠丸さんの鍛刀期間がやってきたのだ。鍛刀に上手い下手があるのかはさておいて、ここはやはり一番の信頼を寄せる山姥切さんを近侍として、最高の布陣で挑む。
「1時間半、1時間半、1時間半……」
だが、現実というのは甘くない。出る数字は見慣れた1時間半ばかり。開始早々1時間半の嵐に早くも心が打ち砕かれそうになるが、まだまだ始まったばかり。諦めるには早すぎる時間だ。
「だ、大丈夫。数撃ちゃ当たるってね……」
とはいうものの、まだまだ日の浅い本丸にそんな大層な備蓄はない。出るまで鍛刀なんて、そんな無茶ができないことは理解できている。引き際をしっかり見極めること、それも大事だろう。
「まだまだ余裕はあるよ、やろう山姥切さん!」
先に底をついたのは、山姥切さんのメンタルだった。
「俺が写しだから……」
続く1時間半の嵐に、気を落とさないように空元気を振り回していたのだが、ついに山姥切さんがネガティブモードに突入する。
「大丈夫、大丈夫だから!それを言ったらきっと私の力が足りないから……」
「ちがう、あんたのせいじゃない……」
「……やろう、私たちで数珠丸さんを鍛刀しよう!やればできるんだって!」
山姥切さんとの結束を深め、繰り返し繰り返し鍛刀をする。途中でやめてしまえばそれまでの資材は全て水の泡だ。出れば消費した分も報われるというもの。ここまできたら引き下がることなどできないのだ。
「で、説明してもらおうか?」
私と山姥切さんはきっちりと正座させられている。その前に仁王立ちしてこちらを見下ろすのは、般若のごとく顔を歪めた歌仙さんだ。
「あの、数珠丸さんの鍛刀をしていまして……」
「うん、そうだね。朝から意気込んでいたね」
「でも全然出なくて……でもいつかは出ると思って……」
無言のままこちらの話を聞いている歌仙さんからの圧力がすごい。口調こそ穏やかだが、もうそのオーラがグサグサと私たちを攻撃してきている。
「ご、ごめんなさい!気づいたら依頼札も資材も失くなってました!」
ガバッと頭を畳に打ち付ける勢いで、我ながら見事な土下座を披露する。
「す、すまなかった……」
隣で山姥切さんも頭を下げている。付き合わせたばかりにこんなことになってしまって申し訳ない。
「資材がなければ傷ついたものの手入れもできないんだよ、わかるよね?」
「はい……すみません……」
「新しい刀が入手できると聞いて、舞い上がる気持ちはわかるけどね。それで今いる刀たちをないがしろにするのはどうなんだい?」
「おっしゃる通りです……」
先日の騒ぎで散々言っておいて、実際にはこれだから本当に頭が上がらない。手入れ資材すら確保できずに、大切に思っているなどとはよく言えたものだ。
「山姥切。君も、付いていながら主を止めることができなかったのかな?」
「わ、悪かった。出るまでやることしか考えていなかった」
歌仙さんが深いため息をこぼす。
「とはいえ、主がずいぶん盛り上がっているのを知っていたからね。それに、政府が用意したイベントに参加することは業務の一環と言えなくもない。まだ5日あるんだろう?無理のない程度に、頑張るんだね」
「か、歌仙さぁん!」
仕方ないな、というように眉毛を下げて言った歌仙さんの言葉。なんだかんだで優しいのが本丸の母、歌仙さんだ。
「遠征より、ただいま戻りました。……これは、改めた方が良さそうですね?」
遠征から帰還した前田さんの足が部屋の入り口で止まる。歌仙さんの前に正座させられている私たちを見て、お説教の気配を察知したことだろう。
「おかえり。もう話は終わったから構わないよ」
「そうですか。主君、遠征より資材を持ち帰りました」
資材、その言葉に思わず反応してしまう。だが、バッと顔をあげて反応したのを見過ごさないのが歌仙さんだ。
「主、わかっているね」
言外に「使い込むな」というのがひしひしと伝わってくる。
「はい……」
「一体何があったんですか?お聞きしても?」
「あぁ。まったく主ときたら……」
歌仙さんの口から、前田さんにばっちりと告げ口されてしまう。とは言っても、すぐに本丸全員に知らされることとなるだろう。しかし、目の前で自分の罪を口にされるのはとても心にくる。
「そうでしたか。では、僕たちは引き続き遠征に向かった方が良さそうですね。少しでも資材が潤えば、主君の助けになることでしょう」
「え、でも帰ってきたばかりでしょ?」
「僕なら大丈夫です!不足している資材があればお知らせください!」
頼もしい前田さんがやたら眩しく見える。小さな体のどこにそんな逞しさを兼ね備えているのだろう。
「第三、第四部隊も遠征にまわしましょう。疲労の見える者は交代して休息を取れば、効率的に資材を集められるかと思います」
「はぁー……まったく前田は主に甘いよ」
テキパキと準備を進める前田さんに、歌仙さんが呆れたようにため息をつく。
「第三部隊、僕に任せてもらおうか」
「えっ、歌仙さんも行ってくれるんですか!?」
てっきり、あまり協力的ではないものと思ってたので、びっくりする。
「勘違いしないでくれ。君が溶かすために集めるわけではないよ。お小言を言っているだけでは示しがつかないからね」
そうはいうものの、部隊長を任せて欲しいと言ってまでの協力はありがたい限りだ。
「みなさんにもお伝えしてきます!」
そう言って部屋を出て行く前田さん。歌仙さんも準備をするからとそのあとに続く。
残されたのは山姥切さんと2人だけだ。
「第一部隊も出陣するか?資材は厳しいが、札なら多少見つかるだろう」
「えっ、いいんですか?」
山姥切さんからもありがたい申し出だ。
「いいもなにも、俺が使い込んだんだ。他の奴に任せておくわけにもいかないだろう」
「…!じゃあお願いします!」
私の無計画な浪費が招いた結果ではあるのだが、こうしてみんなが奔走してくれることをどこかで嬉しく思っている。なんだか一丸となってイベントに取り組んでいる感じがして、ちょっと楽しい。
「よーし!みんなで頑張って数珠丸さんをゲットしましょう!」
「お任せください!」
「ちょっと、あくまで本丸のための資材集めだからね!わかっているだろうけど!」
「主のためでしたら、この長谷部。すぐにでも遠征を終わらせて資材を持ち帰ります!」
「は、長谷部さん、それは無理だと思います……すみません……」
それぞれの頼もしい部隊長を見送って、私もじっとしてはいられなくなる。
みんなが頑張ってくれているのに、何もできることがないのは歯がゆい。
「あんたは、ここで待っていてくれればいい」
そんな私の気持ちを読み取ったかのように、山姥切さんが後ろから声をかけてくれる。
「俺たちも行く。あんたは、帰りを待っていてくれ」
そう言って門をくぐっていく頼もしい背中。
「いってらっしゃい……!」
その背中にエールを込めて、見送る。
残り5日。みんなの協力もある。なんとか期間中に数珠丸さんを手に入れて、努力の成果としたいものだ。
2019.4.8
「数珠丸恒次」
「です!よし、鍛刀開始!」
本日の近侍である山姥切さんとともにやってきた鍛刀場。
始まる前から大騒ぎだった数珠丸さんの鍛刀期間がやってきたのだ。鍛刀に上手い下手があるのかはさておいて、ここはやはり一番の信頼を寄せる山姥切さんを近侍として、最高の布陣で挑む。
「1時間半、1時間半、1時間半……」
だが、現実というのは甘くない。出る数字は見慣れた1時間半ばかり。開始早々1時間半の嵐に早くも心が打ち砕かれそうになるが、まだまだ始まったばかり。諦めるには早すぎる時間だ。
「だ、大丈夫。数撃ちゃ当たるってね……」
とはいうものの、まだまだ日の浅い本丸にそんな大層な備蓄はない。出るまで鍛刀なんて、そんな無茶ができないことは理解できている。引き際をしっかり見極めること、それも大事だろう。
「まだまだ余裕はあるよ、やろう山姥切さん!」
先に底をついたのは、山姥切さんのメンタルだった。
「俺が写しだから……」
続く1時間半の嵐に、気を落とさないように空元気を振り回していたのだが、ついに山姥切さんがネガティブモードに突入する。
「大丈夫、大丈夫だから!それを言ったらきっと私の力が足りないから……」
「ちがう、あんたのせいじゃない……」
「……やろう、私たちで数珠丸さんを鍛刀しよう!やればできるんだって!」
山姥切さんとの結束を深め、繰り返し繰り返し鍛刀をする。途中でやめてしまえばそれまでの資材は全て水の泡だ。出れば消費した分も報われるというもの。ここまできたら引き下がることなどできないのだ。
「で、説明してもらおうか?」
私と山姥切さんはきっちりと正座させられている。その前に仁王立ちしてこちらを見下ろすのは、般若のごとく顔を歪めた歌仙さんだ。
「あの、数珠丸さんの鍛刀をしていまして……」
「うん、そうだね。朝から意気込んでいたね」
「でも全然出なくて……でもいつかは出ると思って……」
無言のままこちらの話を聞いている歌仙さんからの圧力がすごい。口調こそ穏やかだが、もうそのオーラがグサグサと私たちを攻撃してきている。
「ご、ごめんなさい!気づいたら依頼札も資材も失くなってました!」
ガバッと頭を畳に打ち付ける勢いで、我ながら見事な土下座を披露する。
「す、すまなかった……」
隣で山姥切さんも頭を下げている。付き合わせたばかりにこんなことになってしまって申し訳ない。
「資材がなければ傷ついたものの手入れもできないんだよ、わかるよね?」
「はい……すみません……」
「新しい刀が入手できると聞いて、舞い上がる気持ちはわかるけどね。それで今いる刀たちをないがしろにするのはどうなんだい?」
「おっしゃる通りです……」
先日の騒ぎで散々言っておいて、実際にはこれだから本当に頭が上がらない。手入れ資材すら確保できずに、大切に思っているなどとはよく言えたものだ。
「山姥切。君も、付いていながら主を止めることができなかったのかな?」
「わ、悪かった。出るまでやることしか考えていなかった」
歌仙さんが深いため息をこぼす。
「とはいえ、主がずいぶん盛り上がっているのを知っていたからね。それに、政府が用意したイベントに参加することは業務の一環と言えなくもない。まだ5日あるんだろう?無理のない程度に、頑張るんだね」
「か、歌仙さぁん!」
仕方ないな、というように眉毛を下げて言った歌仙さんの言葉。なんだかんだで優しいのが本丸の母、歌仙さんだ。
「遠征より、ただいま戻りました。……これは、改めた方が良さそうですね?」
遠征から帰還した前田さんの足が部屋の入り口で止まる。歌仙さんの前に正座させられている私たちを見て、お説教の気配を察知したことだろう。
「おかえり。もう話は終わったから構わないよ」
「そうですか。主君、遠征より資材を持ち帰りました」
資材、その言葉に思わず反応してしまう。だが、バッと顔をあげて反応したのを見過ごさないのが歌仙さんだ。
「主、わかっているね」
言外に「使い込むな」というのがひしひしと伝わってくる。
「はい……」
「一体何があったんですか?お聞きしても?」
「あぁ。まったく主ときたら……」
歌仙さんの口から、前田さんにばっちりと告げ口されてしまう。とは言っても、すぐに本丸全員に知らされることとなるだろう。しかし、目の前で自分の罪を口にされるのはとても心にくる。
「そうでしたか。では、僕たちは引き続き遠征に向かった方が良さそうですね。少しでも資材が潤えば、主君の助けになることでしょう」
「え、でも帰ってきたばかりでしょ?」
「僕なら大丈夫です!不足している資材があればお知らせください!」
頼もしい前田さんがやたら眩しく見える。小さな体のどこにそんな逞しさを兼ね備えているのだろう。
「第三、第四部隊も遠征にまわしましょう。疲労の見える者は交代して休息を取れば、効率的に資材を集められるかと思います」
「はぁー……まったく前田は主に甘いよ」
テキパキと準備を進める前田さんに、歌仙さんが呆れたようにため息をつく。
「第三部隊、僕に任せてもらおうか」
「えっ、歌仙さんも行ってくれるんですか!?」
てっきり、あまり協力的ではないものと思ってたので、びっくりする。
「勘違いしないでくれ。君が溶かすために集めるわけではないよ。お小言を言っているだけでは示しがつかないからね」
そうはいうものの、部隊長を任せて欲しいと言ってまでの協力はありがたい限りだ。
「みなさんにもお伝えしてきます!」
そう言って部屋を出て行く前田さん。歌仙さんも準備をするからとそのあとに続く。
残されたのは山姥切さんと2人だけだ。
「第一部隊も出陣するか?資材は厳しいが、札なら多少見つかるだろう」
「えっ、いいんですか?」
山姥切さんからもありがたい申し出だ。
「いいもなにも、俺が使い込んだんだ。他の奴に任せておくわけにもいかないだろう」
「…!じゃあお願いします!」
私の無計画な浪費が招いた結果ではあるのだが、こうしてみんなが奔走してくれることをどこかで嬉しく思っている。なんだか一丸となってイベントに取り組んでいる感じがして、ちょっと楽しい。
「よーし!みんなで頑張って数珠丸さんをゲットしましょう!」
「お任せください!」
「ちょっと、あくまで本丸のための資材集めだからね!わかっているだろうけど!」
「主のためでしたら、この長谷部。すぐにでも遠征を終わらせて資材を持ち帰ります!」
「は、長谷部さん、それは無理だと思います……すみません……」
それぞれの頼もしい部隊長を見送って、私もじっとしてはいられなくなる。
みんなが頑張ってくれているのに、何もできることがないのは歯がゆい。
「あんたは、ここで待っていてくれればいい」
そんな私の気持ちを読み取ったかのように、山姥切さんが後ろから声をかけてくれる。
「俺たちも行く。あんたは、帰りを待っていてくれ」
そう言って門をくぐっていく頼もしい背中。
「いってらっしゃい……!」
その背中にエールを込めて、見送る。
残り5日。みんなの協力もある。なんとか期間中に数珠丸さんを手に入れて、努力の成果としたいものだ。
2019.4.8