一章
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「行きたくないよぉ……」
「いつまでもそんなこと言っていたって仕方ないだろう」
駄々をこねる私をたしなめるのは、この立ち位置が安定してきた歌仙さんだ。彼の言うことはもっともだが、今回は私も彼の言うことに簡単に「そうですね」と頷くことはできない。
つい先ほど。「お手紙です!」と、短刀たちが届けてくれたのは政府から審神者に宛てて送られた手紙。内容は審神者会議についてだった。
審神者会議────。
定期的に行われるそれは、審神者同士の交流、意見交換、問題についての議論などを目的とした、政府が主催する集まりだ。それを通して他の本丸を知り、さらなる成長に繋げることも目的としているらしい。
今回届いたのはその審神者会議への召集の知らせだ。もちろん、政府からの呼び出しである以上、正当な理由なしでは断ることはできない。ましてや、「行きたくない」などというわがままが通るはずもない。ほぼ回避は不可能なイベントと言っても良いだろう。
とはいえ、今回は最初の顔合わせだけで重苦しいものではないらしい。審神者の年齢規制が下げられ、一気に増えた低年齢層の審神者たちどうしの顔合わせ、先輩審神者との繋がりを作ることが主な目的だという。
「なんかなぁ……こういうの苦手……」
顔合わせ、とは言っても行くのは政府の所有する会議場。少なからず緊張はするだろう。それに、今後はきちんとした会議を行っていくのだ。遊び半分な気持ちで言っていい場所でないのはよく考えなくてもわかる。
「嫌だ嫌だと言っていても気が滅入るだけだよ。ほら、前向きに行こうじゃないか」
パン、と手を叩いて歌仙さんが仕切り直す。その合図で、やる気なく机に預けていた上体を反射的に起こすが、気持ちはなかなか晴れない。
見かねて歌仙さんが少し話の方向を変えてくれる。
「誰を連れて行くのかはもう決めたのかい?」
というのは、審神者会議には近侍として一振の刀の同伴が決められている。その刀の選出は審神者にそれぞれ任せられているため、自分で好きに選んで連れて行くことができるのだ。
誰を連れて行くべきか。会議、という名目であるならば仕事の得意な刀が良いかもしれない。私が何もしなくてもすべてやってくれそうな長谷部さん……は私の魂胆に気づいた歌仙さんが許してくれなさそうだ。ならば、そうやって私のお目付役になってくれる歌仙さん、意外にも事務仕事が得意だった江雪さん、何を任せても安心の前田さん。と候補は何人も出てくる。
なんなら、別に誰を連れて行っても問題ないと思っている。彼らのことはみんな信頼しているし、安心して一緒に行きたい思える。
でもやはり、その中で一振を選ぶとしたら。
「今回は、山姥切さんにお願いしようかと思ってます」
山姥切さん、私の最初の刀だ。もちろん、彼に確認をとって本人の意思を尊重はするけど、私は彼と行きたいと思っている。
「なるほどね、いいんじゃないかな。僕も君ならそう言うんじゃないかと思ってたんだ」
歌仙さんが頷いてくれて、自分の決定に自信が持てる。
山姥切さんは、この本丸のリーダー的存在として日々動いてくれている。それはもちろん初期刀だから、というのも理由の一つだろう。でも、それだけじゃないと私は思いたい。
彼がみんなに信頼され、誰からも文句なしにリーダーとして受け入れられているのは、彼の働きあってのものだ。そんな彼の働きを私も信頼している。
「準備は早い方がいいだろう。本人に伝えておいで」
「……俺は構わないが。本当にいいのか……?」
同行を求められた山姥切さんの反応は、思っていたよりもあまり良いものではなかった。もちろん、選ばれたことを「やったー!」などと喜ぶような刀でないのはわかっているが、むしろ行きたくなさそうな雰囲気すら感じる彼の反応に、戸惑ってしまうのは仕方ない。
「あ、別に、気が乗らないならいいんだけどね……?」
歌仙さんに後押しされたのもあって、もう気持ちは山姥切さんと一緒に行くことばかり考えていたが、微妙な反応についつい押しも弱くなってしまう。無理に連れて行くのは申し訳ないし、何より私の精神的なダメージがでかい。無理矢理に連れ回していると思うと、会議なんかよりもそっちのほうで胃が痛くなりそうだ。
「嫌なわけじゃない!ただ……」
私の顔が曇ったのを察したのか、彼が強めに訂正をしてくれる。それだけで随分心が軽い。だが、そのあとで言葉を切った彼は、その先を言おうか悩んでいるようだ。
「私は山姥切さんと行きたいよ。でも、山姥切さんが気になることがあるなら教えて欲しい……かな。私が無理矢理連れて行く感じになるのは嫌じゃん?」
山姥切さんに何か理由があるのなら、もちろん無理に連れて行く気はない。私と行くのが嫌なわけではないのだと知れただけで十分だが、もし何か思うところがあるのなら教えて欲しい。
「……あんたは……写しなんか見せびらかしてどうしたいんだ?余所に出すならもっと別の……」
「私は……!山姥切さんと行きたいって言ってるじゃん」
彼の言葉を遮って言った。何かと思えば、またいつもの『写し』だ。
「前も言ったけど、私は写しとかなんだとかわかんないし。山姥切さんじゃない山姥切がいるとか知らないし」
写しだから、と自分を卑下する彼を今まで何度でも見てきたが、なぜだか今回は口が止まらない。口調がきつくなってしまうが止められない。
私から理由を聞いたくせに、聞いておいてこれはないだろう。でも、私は山姥切さんと行きたいと思ったのだ。私が、胸を張って「私の自慢の刀だ」と言える彼と一緒に。
それなのに、彼には私の気持ちが伝わらないのかと思うと悲しかった。刀のことなんてわからない。山姥切国広が写しだとしても、本人がどう思っていても、私の山姥切国広はどこに出しても恥ずかしくない最高の刀なのだ。
彼の目がじっとこちらを見ている。それに気づいても、私の口は止まらなかった。
「私の山姥切さんはこの本丸のリーダーで、隊長で!強いし、優しいし、ちょっとめんどくさい性格だけど、そこも含めて私は好きで……」
自分で言っていて、だんだんとわけがわからなくなってくる。言葉もうまく出てこなくて、尻すぼみに声も弱くなっていく。
言いたいことを言ってしまって、山姥切さんがどんな顔をしているのか怖くなって顔を伏せた。彼が気にしていることはわかっていたのに。それこそ、今まで何回だって聞いてきたのだ。それをわかってあげなければと思っていたのに。
「……ごめん、やっぱ誰かに頼む」
勝手な謝罪だけ言い残して、その場から逃げる。
審神者の命令だ。もちろん、頼めば彼は付いてきてくれるのだろう。でも、なぜ自分を選んだのかと。写しを見せびらかして何をしたいのかと、変に疑心を持たれて一緒に行くのは辛い。
山姥切さんは怒っただろうか。傷ついただろうか。それを確かめる勇気が今はなくて、下を向いたまま彼に背を向けた。
「待ってくれ」
彼は逃してくれなかった。腕を掴まれたが、彼に責められるのかと思うと怖くて、振り返ることはできない。でも、その腕を振り払ってまで逃げるのも、怖くてできなかった。
「俺が写しだから他の刀にする、というのなら止められない。だが、あんたがそれを気にしないなら……俺を、選んでくれ」
そう言った彼は腕を掴んだまま、ただじっと私の返事を待っているみたいだ。
「私は、山姥切さんを選んだんだよ。なのに、それを否定したのは山姥切さんじゃん……」
素直に彼にもう一度「付いてきて欲しい」と言えばいいのに。彼の方から歩み寄ってくれたのに、これではめんどくさいのはどちらかわからない。
「俺なんかでいいのかわからない。でもあんたが、俺がいいと言ってくれるなら、もう一度選んでくれ。応えさせてくれ」
「私は最初っから、山姥切さんを選んだんだよ……。貴方は、私が唯一自分で選んだ刀なんだから……自信持ってよ」
ただ1人、私が自分の意思で掴み取った刀。それが初期刀だ。他の誰でもない。山姥切さんがいいと思って、彼を選んだのだ。それが、少しでも彼に伝わってくれれば、少しでも彼の自信に繋がってくれればいいのに。
「あんたは、俺でいいんだな」
「山姥切さんがいい」
「……すまなかった。あんたの気持ちを疑うつもりはなかった」
「私もごめん。私じゃわかんないことなのに、勝手にいろいろ言っちゃった」
素直になれば一瞬だ。なんてことはない。
「あんたに恥をかかせないよう、気をつける」
「心配ないよ。むしろ、私がやらかしちゃうかも」
「問題ない。それも含めて俺の主だ」
それはまるで普段から私がやらかしているような言い方だが、否定はできないので反論もできない。それでも、ありのままの私を主だと認めてくれていることは嬉しく思う。
「審神者会議、ちょっと楽しみかも」
私の山姥切さんを、知らない人に見せられる機会なんてなかった。私の刀を自慢できる場だと思うと、少しだけ気分も晴れやかになる。
「うちの山姥切さんが一番だと思う」
「真顔で言われると反応に困るんだが……」
「だって本気だもん」
「……そうか」
ふいっと、外に向けられた顔は照れ隠しだろうか。布で隠れてその顔は一切見えないが、背けられる前一瞬見えた頬が赤くなっていたから、そうだと思いたい。
「あー……話は済んだかな?」
「えっ、歌仙さん!?」
部屋の入り口から、こちらの様子を伺っていたのは歌仙さんだ。
「せっかくだから、君の着物の準備を……と思って後を追いかけて探していたんだけど、話しかけるタイミングがなくてね……?随分込み入っていたようだったから……」
聞かれていたと知って、改めて内容を思い出すと少し恥ずかしくなってくる。もちろん、すべて本当のことではあるが、熱くなってしまっていた自覚はあるので、羞恥心で顔が赤くなるのがわかる。
それに触れないのは歌仙さんの優しさか。彼は着物の話を進める。
「ああ、山姥切。君も主に恥をかかせないように、綺麗な格好をするんだよ」
「なっ……!?それは聞いてないぞ!?」
このあと、しばらく布を脱ぐ、脱がないで二振の言い争いが続いたのだが、結局は歌仙さんが折れる形となった。
布を被った、いつもの通りの山姥切さんと、私は初めての審神者会議に臨むのだ。
2019.3.27
「いつまでもそんなこと言っていたって仕方ないだろう」
駄々をこねる私をたしなめるのは、この立ち位置が安定してきた歌仙さんだ。彼の言うことはもっともだが、今回は私も彼の言うことに簡単に「そうですね」と頷くことはできない。
つい先ほど。「お手紙です!」と、短刀たちが届けてくれたのは政府から審神者に宛てて送られた手紙。内容は審神者会議についてだった。
審神者会議────。
定期的に行われるそれは、審神者同士の交流、意見交換、問題についての議論などを目的とした、政府が主催する集まりだ。それを通して他の本丸を知り、さらなる成長に繋げることも目的としているらしい。
今回届いたのはその審神者会議への召集の知らせだ。もちろん、政府からの呼び出しである以上、正当な理由なしでは断ることはできない。ましてや、「行きたくない」などというわがままが通るはずもない。ほぼ回避は不可能なイベントと言っても良いだろう。
とはいえ、今回は最初の顔合わせだけで重苦しいものではないらしい。審神者の年齢規制が下げられ、一気に増えた低年齢層の審神者たちどうしの顔合わせ、先輩審神者との繋がりを作ることが主な目的だという。
「なんかなぁ……こういうの苦手……」
顔合わせ、とは言っても行くのは政府の所有する会議場。少なからず緊張はするだろう。それに、今後はきちんとした会議を行っていくのだ。遊び半分な気持ちで言っていい場所でないのはよく考えなくてもわかる。
「嫌だ嫌だと言っていても気が滅入るだけだよ。ほら、前向きに行こうじゃないか」
パン、と手を叩いて歌仙さんが仕切り直す。その合図で、やる気なく机に預けていた上体を反射的に起こすが、気持ちはなかなか晴れない。
見かねて歌仙さんが少し話の方向を変えてくれる。
「誰を連れて行くのかはもう決めたのかい?」
というのは、審神者会議には近侍として一振の刀の同伴が決められている。その刀の選出は審神者にそれぞれ任せられているため、自分で好きに選んで連れて行くことができるのだ。
誰を連れて行くべきか。会議、という名目であるならば仕事の得意な刀が良いかもしれない。私が何もしなくてもすべてやってくれそうな長谷部さん……は私の魂胆に気づいた歌仙さんが許してくれなさそうだ。ならば、そうやって私のお目付役になってくれる歌仙さん、意外にも事務仕事が得意だった江雪さん、何を任せても安心の前田さん。と候補は何人も出てくる。
なんなら、別に誰を連れて行っても問題ないと思っている。彼らのことはみんな信頼しているし、安心して一緒に行きたい思える。
でもやはり、その中で一振を選ぶとしたら。
「今回は、山姥切さんにお願いしようかと思ってます」
山姥切さん、私の最初の刀だ。もちろん、彼に確認をとって本人の意思を尊重はするけど、私は彼と行きたいと思っている。
「なるほどね、いいんじゃないかな。僕も君ならそう言うんじゃないかと思ってたんだ」
歌仙さんが頷いてくれて、自分の決定に自信が持てる。
山姥切さんは、この本丸のリーダー的存在として日々動いてくれている。それはもちろん初期刀だから、というのも理由の一つだろう。でも、それだけじゃないと私は思いたい。
彼がみんなに信頼され、誰からも文句なしにリーダーとして受け入れられているのは、彼の働きあってのものだ。そんな彼の働きを私も信頼している。
「準備は早い方がいいだろう。本人に伝えておいで」
「……俺は構わないが。本当にいいのか……?」
同行を求められた山姥切さんの反応は、思っていたよりもあまり良いものではなかった。もちろん、選ばれたことを「やったー!」などと喜ぶような刀でないのはわかっているが、むしろ行きたくなさそうな雰囲気すら感じる彼の反応に、戸惑ってしまうのは仕方ない。
「あ、別に、気が乗らないならいいんだけどね……?」
歌仙さんに後押しされたのもあって、もう気持ちは山姥切さんと一緒に行くことばかり考えていたが、微妙な反応についつい押しも弱くなってしまう。無理に連れて行くのは申し訳ないし、何より私の精神的なダメージがでかい。無理矢理に連れ回していると思うと、会議なんかよりもそっちのほうで胃が痛くなりそうだ。
「嫌なわけじゃない!ただ……」
私の顔が曇ったのを察したのか、彼が強めに訂正をしてくれる。それだけで随分心が軽い。だが、そのあとで言葉を切った彼は、その先を言おうか悩んでいるようだ。
「私は山姥切さんと行きたいよ。でも、山姥切さんが気になることがあるなら教えて欲しい……かな。私が無理矢理連れて行く感じになるのは嫌じゃん?」
山姥切さんに何か理由があるのなら、もちろん無理に連れて行く気はない。私と行くのが嫌なわけではないのだと知れただけで十分だが、もし何か思うところがあるのなら教えて欲しい。
「……あんたは……写しなんか見せびらかしてどうしたいんだ?余所に出すならもっと別の……」
「私は……!山姥切さんと行きたいって言ってるじゃん」
彼の言葉を遮って言った。何かと思えば、またいつもの『写し』だ。
「前も言ったけど、私は写しとかなんだとかわかんないし。山姥切さんじゃない山姥切がいるとか知らないし」
写しだから、と自分を卑下する彼を今まで何度でも見てきたが、なぜだか今回は口が止まらない。口調がきつくなってしまうが止められない。
私から理由を聞いたくせに、聞いておいてこれはないだろう。でも、私は山姥切さんと行きたいと思ったのだ。私が、胸を張って「私の自慢の刀だ」と言える彼と一緒に。
それなのに、彼には私の気持ちが伝わらないのかと思うと悲しかった。刀のことなんてわからない。山姥切国広が写しだとしても、本人がどう思っていても、私の山姥切国広はどこに出しても恥ずかしくない最高の刀なのだ。
彼の目がじっとこちらを見ている。それに気づいても、私の口は止まらなかった。
「私の山姥切さんはこの本丸のリーダーで、隊長で!強いし、優しいし、ちょっとめんどくさい性格だけど、そこも含めて私は好きで……」
自分で言っていて、だんだんとわけがわからなくなってくる。言葉もうまく出てこなくて、尻すぼみに声も弱くなっていく。
言いたいことを言ってしまって、山姥切さんがどんな顔をしているのか怖くなって顔を伏せた。彼が気にしていることはわかっていたのに。それこそ、今まで何回だって聞いてきたのだ。それをわかってあげなければと思っていたのに。
「……ごめん、やっぱ誰かに頼む」
勝手な謝罪だけ言い残して、その場から逃げる。
審神者の命令だ。もちろん、頼めば彼は付いてきてくれるのだろう。でも、なぜ自分を選んだのかと。写しを見せびらかして何をしたいのかと、変に疑心を持たれて一緒に行くのは辛い。
山姥切さんは怒っただろうか。傷ついただろうか。それを確かめる勇気が今はなくて、下を向いたまま彼に背を向けた。
「待ってくれ」
彼は逃してくれなかった。腕を掴まれたが、彼に責められるのかと思うと怖くて、振り返ることはできない。でも、その腕を振り払ってまで逃げるのも、怖くてできなかった。
「俺が写しだから他の刀にする、というのなら止められない。だが、あんたがそれを気にしないなら……俺を、選んでくれ」
そう言った彼は腕を掴んだまま、ただじっと私の返事を待っているみたいだ。
「私は、山姥切さんを選んだんだよ。なのに、それを否定したのは山姥切さんじゃん……」
素直に彼にもう一度「付いてきて欲しい」と言えばいいのに。彼の方から歩み寄ってくれたのに、これではめんどくさいのはどちらかわからない。
「俺なんかでいいのかわからない。でもあんたが、俺がいいと言ってくれるなら、もう一度選んでくれ。応えさせてくれ」
「私は最初っから、山姥切さんを選んだんだよ……。貴方は、私が唯一自分で選んだ刀なんだから……自信持ってよ」
ただ1人、私が自分の意思で掴み取った刀。それが初期刀だ。他の誰でもない。山姥切さんがいいと思って、彼を選んだのだ。それが、少しでも彼に伝わってくれれば、少しでも彼の自信に繋がってくれればいいのに。
「あんたは、俺でいいんだな」
「山姥切さんがいい」
「……すまなかった。あんたの気持ちを疑うつもりはなかった」
「私もごめん。私じゃわかんないことなのに、勝手にいろいろ言っちゃった」
素直になれば一瞬だ。なんてことはない。
「あんたに恥をかかせないよう、気をつける」
「心配ないよ。むしろ、私がやらかしちゃうかも」
「問題ない。それも含めて俺の主だ」
それはまるで普段から私がやらかしているような言い方だが、否定はできないので反論もできない。それでも、ありのままの私を主だと認めてくれていることは嬉しく思う。
「審神者会議、ちょっと楽しみかも」
私の山姥切さんを、知らない人に見せられる機会なんてなかった。私の刀を自慢できる場だと思うと、少しだけ気分も晴れやかになる。
「うちの山姥切さんが一番だと思う」
「真顔で言われると反応に困るんだが……」
「だって本気だもん」
「……そうか」
ふいっと、外に向けられた顔は照れ隠しだろうか。布で隠れてその顔は一切見えないが、背けられる前一瞬見えた頬が赤くなっていたから、そうだと思いたい。
「あー……話は済んだかな?」
「えっ、歌仙さん!?」
部屋の入り口から、こちらの様子を伺っていたのは歌仙さんだ。
「せっかくだから、君の着物の準備を……と思って後を追いかけて探していたんだけど、話しかけるタイミングがなくてね……?随分込み入っていたようだったから……」
聞かれていたと知って、改めて内容を思い出すと少し恥ずかしくなってくる。もちろん、すべて本当のことではあるが、熱くなってしまっていた自覚はあるので、羞恥心で顔が赤くなるのがわかる。
それに触れないのは歌仙さんの優しさか。彼は着物の話を進める。
「ああ、山姥切。君も主に恥をかかせないように、綺麗な格好をするんだよ」
「なっ……!?それは聞いてないぞ!?」
このあと、しばらく布を脱ぐ、脱がないで二振の言い争いが続いたのだが、結局は歌仙さんが折れる形となった。
布を被った、いつもの通りの山姥切さんと、私は初めての審神者会議に臨むのだ。
2019.3.27