一章
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「全く、きみは!そんな格好で暴れるのは感心しないよ!」
暴れるとは聞こえが悪い。第一部隊の出陣中、本丸に残ったメンバーが手合わせをするというのでその合間に、私も刀の振るい方を教わっていたところだ。
そんな格好、と言われた服装はセーラー服。学校から帰ったそのままの格好だ。確かにスカートで動くというのはあまりよろしくないかもしれないが、何もめくれ上がるような動きをしたわけでもないのだし、大目に見て欲しい。
「きみの時代の格好に文句を言うつもりはないけどね、それでもそれに見合った格好というのがあるんじゃないないのかな?」
新しく本丸にやってきた歌仙さん。雅を重んじる文系の刀だと言っていたが、やたらと口うるさいせいで第一印象はおかんだ。
「まあまあ歌仙くん。それくらいにしてあげなよ。主、僕もその格好はヒヤヒヤするから、着替えてくれると嬉しいな」
こちらは燭台切さん。歌仙さんと一緒にやってきた太刀だ。彼もまた、世話焼きなところがお母さんのような刀だが、2人は似ているようで全然タイプが違う。歌仙さんがオカンならば、燭台切さんはママだ。
2人に注意されてしまうと、さすがにこのままと言うわけにはいかない。手合わせに使っていた木刀を返して、おとなしく部屋に引き上げる。
学校から帰ってからお風呂に入るまでの間、私の主な仕事というのは出陣の管理がメインだ。あまり派手に動くこともないので制服のままで過ごしていたが、さすがに今日のように外に出て動くならば着替えた方が良いらしい。正直に言ってしまうと、着替えるのがめんどくさいし、洗濯物を増やすのもどうかと思ってのことなのだが。そんなことを言えばあの文系名刀に何を言われるかわからないので、これからは大人しく着替えることにしようと密かに決める。
動きやすい格好、といったら普段部屋着にしているジャージだろうか。刀たちの中には内番着としてジャージを着用している者も多い。これならば浮かないだろうし、文句も言われないだろう。
ハーフパンツにジャージを羽織って、再び彼らの手合わせの場へと向かう。審神者の私が自ら戦場に赴くことはないし、刀を握る機会というのも無いに等しい。しかし、私は刀を扱うものとして、最低限の使い方というのは知っておきたいと思っている。というのは完全に建前というわけではないが、どちらかというと単純に興味があったというのが正直なところだ。馴染みのなかった刀というものに興味を持ったのだ。
刀を握ってみたいと言った私に彼らはすぐには頷かなかったが、護身用にも教えてくれと頼んだら、練習用の木製の短刀を渡してくれた。
「主君が護身術など使うことがないように努めますが……そう望まれるのならば全力でお応えします」
前田さんに習って刀の扱いを学ぶ。短刀というのは握ってみると案外短い。彼らはいつもこの間合いで敵と戦っているのだと改めて認識すると恐ろしい。
「前田さんたちはいつもこんなに近い距離で敵と戦ってるんだね」
ぼそり、とこぼれ出たそれは答えを求めたものではなかったが、聞き逃さなかった彼は律儀にそれに答えをくれる。
「はい。主君は短刀では戦いに不利だと思いますか?」
前田さんたちを弱い、と言いたいわけではない。でも他の刀に比べたら威力もないだろうし、リーチだって短い。
「思う……」
素直にそう答えた。彼は気を悪くするだろうか。
「そうですね、短刀は他の方々に比べて弱いです。僕たち自身もこうして小柄ですしね」
そう言って俯く彼の表情は見えない。そのままこちらに一歩踏み出して距離を詰められる。
「でも、懐に入ってしまえば僕たちの間合いです。相手の命を奪えるこの距離で、僕たちは誰よりも有利に動けるのです」
顔を上げた彼の顔はとても晴れやかだ。己に誇りを持っているのがよくわかる、凛々しい表情だ。
「打撃では到底他の方々に及びませんが、身軽な分早く動けます。夜目も効くので、暗闇でも大丈夫です。隠れての偵察も得意です。」
「ごめんなさい……軽率なこと言っちゃった」
前田さんには前田さんの、短刀の戦い方というのがあるのだ。刀種が違えば、戦い方も違ってくる。少し考えればわかる、当然のことだ。
それを、弱いなどと言ってしまうのはどれだけ無礼なことだろうか。刀の扱い方も知らない人間が、彼らを侮辱するようなことを言ってしまった。
「主君、顔を上げてください。知らなかったことは仕方ありません。これから、僕たちを存分に使ってくだされば良いのです。僕たちが得意とする形で、必ずや主君のお役に立ってみせます!」
ポンと胸に手を当ててそういう彼は、その小さな体に見合わずとても逞しく見える。そこには弱さなど全く感じられない。
「前田さん……男前すぎるよぉ……」
自分よりも小さく幼いように見える彼が、何百年もの時を生きた刀なのだと改めて思い知らされるようだ。それに対する、自分の未熟さも。
それを誤魔化すように、目の前の小柄な体を抱きしめた。私よりも随分小さい彼は、しっかりと私を受け止めてくれた。ポンポンと、まるであやすように背中を優しく叩いてくれる。女子高生の私が、小学生ほどに見える彼に抱きつく様子は端からみたら褒められたものではないのだろうな、とかそんなことを考えながら、今は前田さんの優しさに甘える。
「前田さん。私、強くなりたい。審神者として、みんなを率いられるように」
「主君ならきっと強くなれますよ」
「あー……大将?熱い抱擁中すまないが、出陣連中の帰還だぜ」
薬研さんの声で前田さんと2人になりかけていた世界から引き戻された。彼が指差す道場の入り口には、帰還を報告にきたであろう隊長の山姥切さんを始め、数名がいた。
「……帰ったぞ」
「はて、主は取り込み中だったか」
目をそらす山姥切さん。とぼけたようで、どこか楽しそうな三日月さん。この状態をどう見られているのか想像はつく。花の女子高生と言えど、年下に手を出すというのはいただけない。自覚しているからこそ、彼らからの視線が急に痛く感じる。
「ち、ちがいますよ。手は、手は出してないです!」
現在進行形でばっちり前田さんに触れておきながらその言い訳は苦しい。慌てて彼の体を話すと言葉にならない言い訳を続ける。
「いや、心配したのはそこじゃないんだが……ああなるほど!否定するということはつまり、そうなのか?」
神妙な面持ちを作った鶴丸さんだが、唇の端がピクピクするのを堪えきれていない。余計な茶々を入れてからかおうとしているのが見え見えだ。自体をややこしくするのはやめてもらいたい。
「ま、前田さんからも、私の無実を証明してください……」
「主君に求められるとは、身にあまる光栄です」
余計な男前を発揮されてしまい、ここはそうじゃない!と言いたくなるが、彼には一切の悪気はないであろうから責められない。言い回しまで、この状況では意味深に捉えられかねないが、きっと彼に他意はないのだ。
「ぶはっ、慌てすぎだろう大将。旦那方も、大将はちーっとばかし甘えたくなってただけだから安心しな」
それまで黙ってことの成り行きを見守っていた薬研さんが、急に吹き出したかと思えばとんでもない爆弾を置いていく。
「ほう、ならばじじいが甘やかしてやるとしよう。ほら、スキンシップというやつだな」
こっちにこいと手を広げる三日月さんはなんだか楽しそうだが、ちがうそうじゃない。
変に勘違いをされるよりも恥ずかしいことを暴露されてしまい、逃げ出してしまいたい気持ちに襲われる。前田さんにありがとう、と短刀を返し、私が逃げ道に選んだのは山姥切さんだ。
「山姥切さん、執務室までお願いします!」
彼ならば面白がってからかったりしないであろう信頼が決め手だ。彼の腕をとり、道場を後にする。
「なんだなんだ。次は山姥切か?」
後ろから鶴丸さんの声が聞こえるが、届かなかったことにする。まっすぐ振り返らずに執務室までやってきて、戸を閉める。
確かに、前田さんに甘えたのは事実だが、薬研さんのあの言い方では誤解が生まれるだろう。短刀相手では、見た目が幼いからという理由でついつい気を許してしまうが、全く油断ならない。今後は周りの目に一層気を配ることとしよう。
「なああんた。その、なんだ……写しに期待なんかするな。甘えるなら……俺なんかより適任がいる」
彼を選んだのは正解だっただろうか。信頼していた通り、からかったりはしない。だが、この刀はさっきの薬研さんの言葉をしっかり真に受けている様子。
「違います。甘えないです」
はっきりと彼の誤解を否定して、はぁーっと長めに息を吐いた。タチの悪い鶴丸さんたちと違って、悪意がないというのも困りものだ。
2019.2.16
暴れるとは聞こえが悪い。第一部隊の出陣中、本丸に残ったメンバーが手合わせをするというのでその合間に、私も刀の振るい方を教わっていたところだ。
そんな格好、と言われた服装はセーラー服。学校から帰ったそのままの格好だ。確かにスカートで動くというのはあまりよろしくないかもしれないが、何もめくれ上がるような動きをしたわけでもないのだし、大目に見て欲しい。
「きみの時代の格好に文句を言うつもりはないけどね、それでもそれに見合った格好というのがあるんじゃないないのかな?」
新しく本丸にやってきた歌仙さん。雅を重んじる文系の刀だと言っていたが、やたらと口うるさいせいで第一印象はおかんだ。
「まあまあ歌仙くん。それくらいにしてあげなよ。主、僕もその格好はヒヤヒヤするから、着替えてくれると嬉しいな」
こちらは燭台切さん。歌仙さんと一緒にやってきた太刀だ。彼もまた、世話焼きなところがお母さんのような刀だが、2人は似ているようで全然タイプが違う。歌仙さんがオカンならば、燭台切さんはママだ。
2人に注意されてしまうと、さすがにこのままと言うわけにはいかない。手合わせに使っていた木刀を返して、おとなしく部屋に引き上げる。
学校から帰ってからお風呂に入るまでの間、私の主な仕事というのは出陣の管理がメインだ。あまり派手に動くこともないので制服のままで過ごしていたが、さすがに今日のように外に出て動くならば着替えた方が良いらしい。正直に言ってしまうと、着替えるのがめんどくさいし、洗濯物を増やすのもどうかと思ってのことなのだが。そんなことを言えばあの文系名刀に何を言われるかわからないので、これからは大人しく着替えることにしようと密かに決める。
動きやすい格好、といったら普段部屋着にしているジャージだろうか。刀たちの中には内番着としてジャージを着用している者も多い。これならば浮かないだろうし、文句も言われないだろう。
ハーフパンツにジャージを羽織って、再び彼らの手合わせの場へと向かう。審神者の私が自ら戦場に赴くことはないし、刀を握る機会というのも無いに等しい。しかし、私は刀を扱うものとして、最低限の使い方というのは知っておきたいと思っている。というのは完全に建前というわけではないが、どちらかというと単純に興味があったというのが正直なところだ。馴染みのなかった刀というものに興味を持ったのだ。
刀を握ってみたいと言った私に彼らはすぐには頷かなかったが、護身用にも教えてくれと頼んだら、練習用の木製の短刀を渡してくれた。
「主君が護身術など使うことがないように努めますが……そう望まれるのならば全力でお応えします」
前田さんに習って刀の扱いを学ぶ。短刀というのは握ってみると案外短い。彼らはいつもこの間合いで敵と戦っているのだと改めて認識すると恐ろしい。
「前田さんたちはいつもこんなに近い距離で敵と戦ってるんだね」
ぼそり、とこぼれ出たそれは答えを求めたものではなかったが、聞き逃さなかった彼は律儀にそれに答えをくれる。
「はい。主君は短刀では戦いに不利だと思いますか?」
前田さんたちを弱い、と言いたいわけではない。でも他の刀に比べたら威力もないだろうし、リーチだって短い。
「思う……」
素直にそう答えた。彼は気を悪くするだろうか。
「そうですね、短刀は他の方々に比べて弱いです。僕たち自身もこうして小柄ですしね」
そう言って俯く彼の表情は見えない。そのままこちらに一歩踏み出して距離を詰められる。
「でも、懐に入ってしまえば僕たちの間合いです。相手の命を奪えるこの距離で、僕たちは誰よりも有利に動けるのです」
顔を上げた彼の顔はとても晴れやかだ。己に誇りを持っているのがよくわかる、凛々しい表情だ。
「打撃では到底他の方々に及びませんが、身軽な分早く動けます。夜目も効くので、暗闇でも大丈夫です。隠れての偵察も得意です。」
「ごめんなさい……軽率なこと言っちゃった」
前田さんには前田さんの、短刀の戦い方というのがあるのだ。刀種が違えば、戦い方も違ってくる。少し考えればわかる、当然のことだ。
それを、弱いなどと言ってしまうのはどれだけ無礼なことだろうか。刀の扱い方も知らない人間が、彼らを侮辱するようなことを言ってしまった。
「主君、顔を上げてください。知らなかったことは仕方ありません。これから、僕たちを存分に使ってくだされば良いのです。僕たちが得意とする形で、必ずや主君のお役に立ってみせます!」
ポンと胸に手を当ててそういう彼は、その小さな体に見合わずとても逞しく見える。そこには弱さなど全く感じられない。
「前田さん……男前すぎるよぉ……」
自分よりも小さく幼いように見える彼が、何百年もの時を生きた刀なのだと改めて思い知らされるようだ。それに対する、自分の未熟さも。
それを誤魔化すように、目の前の小柄な体を抱きしめた。私よりも随分小さい彼は、しっかりと私を受け止めてくれた。ポンポンと、まるであやすように背中を優しく叩いてくれる。女子高生の私が、小学生ほどに見える彼に抱きつく様子は端からみたら褒められたものではないのだろうな、とかそんなことを考えながら、今は前田さんの優しさに甘える。
「前田さん。私、強くなりたい。審神者として、みんなを率いられるように」
「主君ならきっと強くなれますよ」
「あー……大将?熱い抱擁中すまないが、出陣連中の帰還だぜ」
薬研さんの声で前田さんと2人になりかけていた世界から引き戻された。彼が指差す道場の入り口には、帰還を報告にきたであろう隊長の山姥切さんを始め、数名がいた。
「……帰ったぞ」
「はて、主は取り込み中だったか」
目をそらす山姥切さん。とぼけたようで、どこか楽しそうな三日月さん。この状態をどう見られているのか想像はつく。花の女子高生と言えど、年下に手を出すというのはいただけない。自覚しているからこそ、彼らからの視線が急に痛く感じる。
「ち、ちがいますよ。手は、手は出してないです!」
現在進行形でばっちり前田さんに触れておきながらその言い訳は苦しい。慌てて彼の体を話すと言葉にならない言い訳を続ける。
「いや、心配したのはそこじゃないんだが……ああなるほど!否定するということはつまり、そうなのか?」
神妙な面持ちを作った鶴丸さんだが、唇の端がピクピクするのを堪えきれていない。余計な茶々を入れてからかおうとしているのが見え見えだ。自体をややこしくするのはやめてもらいたい。
「ま、前田さんからも、私の無実を証明してください……」
「主君に求められるとは、身にあまる光栄です」
余計な男前を発揮されてしまい、ここはそうじゃない!と言いたくなるが、彼には一切の悪気はないであろうから責められない。言い回しまで、この状況では意味深に捉えられかねないが、きっと彼に他意はないのだ。
「ぶはっ、慌てすぎだろう大将。旦那方も、大将はちーっとばかし甘えたくなってただけだから安心しな」
それまで黙ってことの成り行きを見守っていた薬研さんが、急に吹き出したかと思えばとんでもない爆弾を置いていく。
「ほう、ならばじじいが甘やかしてやるとしよう。ほら、スキンシップというやつだな」
こっちにこいと手を広げる三日月さんはなんだか楽しそうだが、ちがうそうじゃない。
変に勘違いをされるよりも恥ずかしいことを暴露されてしまい、逃げ出してしまいたい気持ちに襲われる。前田さんにありがとう、と短刀を返し、私が逃げ道に選んだのは山姥切さんだ。
「山姥切さん、執務室までお願いします!」
彼ならば面白がってからかったりしないであろう信頼が決め手だ。彼の腕をとり、道場を後にする。
「なんだなんだ。次は山姥切か?」
後ろから鶴丸さんの声が聞こえるが、届かなかったことにする。まっすぐ振り返らずに執務室までやってきて、戸を閉める。
確かに、前田さんに甘えたのは事実だが、薬研さんのあの言い方では誤解が生まれるだろう。短刀相手では、見た目が幼いからという理由でついつい気を許してしまうが、全く油断ならない。今後は周りの目に一層気を配ることとしよう。
「なああんた。その、なんだ……写しに期待なんかするな。甘えるなら……俺なんかより適任がいる」
彼を選んだのは正解だっただろうか。信頼していた通り、からかったりはしない。だが、この刀はさっきの薬研さんの言葉をしっかり真に受けている様子。
「違います。甘えないです」
はっきりと彼の誤解を否定して、はぁーっと長めに息を吐いた。タチの悪い鶴丸さんたちと違って、悪意がないというのも困りものだ。
2019.2.16