一章
名前変換
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「20分……この手伝い札ってのを使えばすぐに完成するのね」
端末に表示された審神者マニュアルを片手に初の『鍛刀』を行う。といっても、私がやるのは何をどれだけ使うかの指示だけだ。それを刀にするのは目の前でせっせと働いている小さな妖精さんたちの役目のようだ。
手伝い札を消費して、20分の時間を短縮する。すると眩い光を放って妖精さんのもとには1振りの刀が現れた。手渡された刀は山姥切国広さんに比べると随分と小さい。その刀を受け取り、先ほどのように力を流し込むようにイメージする。 ポンと桜が弾けて彼は現れた。
「前田藤四郎と申します。末永くお仕えします」
刀も小さいならば、現れた神様も小さかった。恭しく頭を垂れる彼は小学生くらいだろうか。女の子のような可愛らしい見た目だが、その瞳には凛とした涼しさのある男の子だ。
「初めまして、前田藤四郎さん!私は……」
そこまでいって後ろから肩を引かれる。ここまで黙って見ていた山姥切国広さんだ。
「あんた、また同じことする気じゃないだろうな」
そう言われてハッとする。同じこと、とは間違いなく自己紹介でバッチリ名前を明かしてしまうことだろう。
「し、しないよ!」
とは言ったものの、本当のところ口走りそうになっていた。 今まで自己紹介といえば、まず第一に名前というのが普通だった。それを思えば仕方のないことだと思うのだが、審神者になった以上そんなことは言っていられないのだろう。
疑いの目を向けてくる山姥切国広さんに気づかないふりをして、再び目の前の彼に向き直る。
「初めまして。この本丸の審神者です。こちらこそ、末永くよろしくお願いします!」
彼と同じように頭を下げれば、「はい、主君!」と、パァッと笑う。まだ幼さの残る男の子の笑顔は随分と眩しい。先に出会った山姥切国広さんがあまり明るい表情をしないせいもあるのかもしれない。
「では、前田藤四郎さん!早速ですがお仕事です!」
マニュアルを横目で見つつ、主らしく指示を出す。
「山姥切国広さんも一緒ですよ!」
*****
続いてやるべきことは、『出陣』。これが私たちがやるべき最重要課題とも言える仕事だ。刀たちを編成し、指定された時代へと送り出す。そこで、歴史改変を目論む『時間遡行軍』と呼ばれる敵を倒すことが目標だ。
「隊長は山姥切国広さんにお願いします」
「俺で、いいのか?」
「はい、お願いします。目標は敵の撃破。最初はまだ敵も強くない場所のようですが、怪我のないように気をつけてください」
これから彼らが向かうのは戦場だ。真剣同士の戦い、文字通り命をかけた戦いになるのだろう。そんな彼らに怪我をしないように、などと言うのはおかしいのかもしれない。彼らは歴史を守るためにここに呼び出されたのだ。私とは違って戦いに出る覚悟など、きっと言われなくてもできているのだろう。
「はい。全力を尽くします」
「あぁ、わかった」
彼らの返事は頼もしい。私の不安を吹き飛ばしてしまうようだ。
この二振ならば心配ない。彼らを信じて、転移門まで見送る。
「それでは、お願いします!」
***
彼らの活躍は素晴らしかった。見事遡行軍を撃破し、1振の刀を持ち帰ってきたのだ。
「ただいま戻りました、主君!」
眩しい笑顔で駆け寄ってくる前田藤四郎さん。その腕は服が切り裂かれ、血がにじんでいる。
「ちょ、ちょっ!前田藤四郎さん怪我!?」
慌てて彼の腕を取り傷を見る。刀による傷なんて見たことがないため、確認したところで何がわかるわけでもないが、幸いもう血は止まっているようだった。
「ほんのかすり傷ですよ。ご心配には及びません」
確かに、刀の傷と言われて想像したようなすっぱり切れたような傷ではない。
「で、でも……」
服に染みた血が、ただのかすり傷ではないことを物語っている。
「手当、しなきゃだよね」
救急箱なんかはあっただろうかと、とりあえずは自室に目星をつけてみる。慌てて部屋へ戻ろうとする私を止めたのは山姥切国広さんだった。
「落ち着け。俺たちは刀だ。人とは違ってあんたが手入れをすればすぐに治る」
手入れ。そういえば審神者マニュアルにも『手入れ』の項目があったはずだ。
「そうだ、手入れ!手入れ部屋に行きましょう。山姥切さん彼を運んでください!」
「……わかった」
「え、大丈夫です!これくらいの傷大したことでは……!」
随分と大げさだったかもしれないが、山姥切国広さんはその指示に従ってくれる。前田藤四郎さんは大人しく運ばれてくれたようだ。少し申し訳なさそうに縮こまっていた姿はこんな時に不謹慎かもしれないが随分可愛らしかった。
手入れ部屋へと入ると、そこには手入れの道具らしきものと布団が一式。横になってもらうほどの怪我でもないような気がするので、とりあえずは腰を下ろしてもらう。
「えっと、本体の方を修復すればいいのね?」
マニュアルに従い、前田藤四郎さんの刀を受け取った。彼の本体であるこの小さな刀を修復することで、彼自身の体の傷も治るのだという。
刀の修復なんてやったことは当然ないが、技術は必要ないらしい。これも審神者の力というやつだ。
案の定私が何か特別なことをする必要はなく、必要な資材を消費して、刀は綺麗に元に戻った。不思議なもので、それが終わると前田藤四郎さん本人の傷も治っていた。当然のように服までが切られていたところを含め、汚れなんかも全て綺麗になっている。
「ありがとうございます、主君」
前田さんはペコリと頭を下げた。
「ううん、主として当然のことだよ。あなたたちを戦わせておいて何もしないなんてことできないでしょ」
「主君は立派なお方ですね」
褒められて素直に嬉しくなってしまう。
「毎回こんなに大騒ぎするのもどうかと思うがな」
山姥切国広さんはやれやれと言ったふうにため息を吐いた。
「大騒ぎするくらいでいいんですよ、怪我なんて、しないに越したことはないんですから」
彼の言うことはもっともだが、私は平成という時代、戦いのない時代から選ばれた審神者だ。怪我なんて滅多なことではしないし、刀による切り傷なんて大事以外のなにものでもない。というか、普通に生きていたらまず出会うことのない傷だ。大騒ぎするのも許してほしい。
とは言っても、これから毎回そんな騒ぎを起こしていたら私の体がもたないだろうから、多少は慣れることも必要だろう。
「素敵な考え方だと思います」
にこにこと私を肯定してくれる小さな刀に、思わずその頭を撫でてしまう。さらさらとした髪の毛はずいぶんと撫で心地が良い。
「……あー!す、すみません、つい」
無意識に撫でてしまっていたことに気付き、手を瞬時に引っ込めた。相手は神様だ。子供の見た目をしているせいでついつい距離感を間違えてしまう。
「?何か問題がありましたか?」
当の本人は気にしていないようだが、彼らとどう接していいものか、いまいち距離感を計れていない部分がある。意を決して、私は尋ねた。
「あのー質問なんですけど、神様相手にどこまでなら許されますか?」
2020.2.20 改稿
端末に表示された審神者マニュアルを片手に初の『鍛刀』を行う。といっても、私がやるのは何をどれだけ使うかの指示だけだ。それを刀にするのは目の前でせっせと働いている小さな妖精さんたちの役目のようだ。
手伝い札を消費して、20分の時間を短縮する。すると眩い光を放って妖精さんのもとには1振りの刀が現れた。手渡された刀は山姥切国広さんに比べると随分と小さい。その刀を受け取り、先ほどのように力を流し込むようにイメージする。 ポンと桜が弾けて彼は現れた。
「前田藤四郎と申します。末永くお仕えします」
刀も小さいならば、現れた神様も小さかった。恭しく頭を垂れる彼は小学生くらいだろうか。女の子のような可愛らしい見た目だが、その瞳には凛とした涼しさのある男の子だ。
「初めまして、前田藤四郎さん!私は……」
そこまでいって後ろから肩を引かれる。ここまで黙って見ていた山姥切国広さんだ。
「あんた、また同じことする気じゃないだろうな」
そう言われてハッとする。同じこと、とは間違いなく自己紹介でバッチリ名前を明かしてしまうことだろう。
「し、しないよ!」
とは言ったものの、本当のところ口走りそうになっていた。 今まで自己紹介といえば、まず第一に名前というのが普通だった。それを思えば仕方のないことだと思うのだが、審神者になった以上そんなことは言っていられないのだろう。
疑いの目を向けてくる山姥切国広さんに気づかないふりをして、再び目の前の彼に向き直る。
「初めまして。この本丸の審神者です。こちらこそ、末永くよろしくお願いします!」
彼と同じように頭を下げれば、「はい、主君!」と、パァッと笑う。まだ幼さの残る男の子の笑顔は随分と眩しい。先に出会った山姥切国広さんがあまり明るい表情をしないせいもあるのかもしれない。
「では、前田藤四郎さん!早速ですがお仕事です!」
マニュアルを横目で見つつ、主らしく指示を出す。
「山姥切国広さんも一緒ですよ!」
*****
続いてやるべきことは、『出陣』。これが私たちがやるべき最重要課題とも言える仕事だ。刀たちを編成し、指定された時代へと送り出す。そこで、歴史改変を目論む『時間遡行軍』と呼ばれる敵を倒すことが目標だ。
「隊長は山姥切国広さんにお願いします」
「俺で、いいのか?」
「はい、お願いします。目標は敵の撃破。最初はまだ敵も強くない場所のようですが、怪我のないように気をつけてください」
これから彼らが向かうのは戦場だ。真剣同士の戦い、文字通り命をかけた戦いになるのだろう。そんな彼らに怪我をしないように、などと言うのはおかしいのかもしれない。彼らは歴史を守るためにここに呼び出されたのだ。私とは違って戦いに出る覚悟など、きっと言われなくてもできているのだろう。
「はい。全力を尽くします」
「あぁ、わかった」
彼らの返事は頼もしい。私の不安を吹き飛ばしてしまうようだ。
この二振ならば心配ない。彼らを信じて、転移門まで見送る。
「それでは、お願いします!」
***
彼らの活躍は素晴らしかった。見事遡行軍を撃破し、1振の刀を持ち帰ってきたのだ。
「ただいま戻りました、主君!」
眩しい笑顔で駆け寄ってくる前田藤四郎さん。その腕は服が切り裂かれ、血がにじんでいる。
「ちょ、ちょっ!前田藤四郎さん怪我!?」
慌てて彼の腕を取り傷を見る。刀による傷なんて見たことがないため、確認したところで何がわかるわけでもないが、幸いもう血は止まっているようだった。
「ほんのかすり傷ですよ。ご心配には及びません」
確かに、刀の傷と言われて想像したようなすっぱり切れたような傷ではない。
「で、でも……」
服に染みた血が、ただのかすり傷ではないことを物語っている。
「手当、しなきゃだよね」
救急箱なんかはあっただろうかと、とりあえずは自室に目星をつけてみる。慌てて部屋へ戻ろうとする私を止めたのは山姥切国広さんだった。
「落ち着け。俺たちは刀だ。人とは違ってあんたが手入れをすればすぐに治る」
手入れ。そういえば審神者マニュアルにも『手入れ』の項目があったはずだ。
「そうだ、手入れ!手入れ部屋に行きましょう。山姥切さん彼を運んでください!」
「……わかった」
「え、大丈夫です!これくらいの傷大したことでは……!」
随分と大げさだったかもしれないが、山姥切国広さんはその指示に従ってくれる。前田藤四郎さんは大人しく運ばれてくれたようだ。少し申し訳なさそうに縮こまっていた姿はこんな時に不謹慎かもしれないが随分可愛らしかった。
手入れ部屋へと入ると、そこには手入れの道具らしきものと布団が一式。横になってもらうほどの怪我でもないような気がするので、とりあえずは腰を下ろしてもらう。
「えっと、本体の方を修復すればいいのね?」
マニュアルに従い、前田藤四郎さんの刀を受け取った。彼の本体であるこの小さな刀を修復することで、彼自身の体の傷も治るのだという。
刀の修復なんてやったことは当然ないが、技術は必要ないらしい。これも審神者の力というやつだ。
案の定私が何か特別なことをする必要はなく、必要な資材を消費して、刀は綺麗に元に戻った。不思議なもので、それが終わると前田藤四郎さん本人の傷も治っていた。当然のように服までが切られていたところを含め、汚れなんかも全て綺麗になっている。
「ありがとうございます、主君」
前田さんはペコリと頭を下げた。
「ううん、主として当然のことだよ。あなたたちを戦わせておいて何もしないなんてことできないでしょ」
「主君は立派なお方ですね」
褒められて素直に嬉しくなってしまう。
「毎回こんなに大騒ぎするのもどうかと思うがな」
山姥切国広さんはやれやれと言ったふうにため息を吐いた。
「大騒ぎするくらいでいいんですよ、怪我なんて、しないに越したことはないんですから」
彼の言うことはもっともだが、私は平成という時代、戦いのない時代から選ばれた審神者だ。怪我なんて滅多なことではしないし、刀による切り傷なんて大事以外のなにものでもない。というか、普通に生きていたらまず出会うことのない傷だ。大騒ぎするのも許してほしい。
とは言っても、これから毎回そんな騒ぎを起こしていたら私の体がもたないだろうから、多少は慣れることも必要だろう。
「素敵な考え方だと思います」
にこにこと私を肯定してくれる小さな刀に、思わずその頭を撫でてしまう。さらさらとした髪の毛はずいぶんと撫で心地が良い。
「……あー!す、すみません、つい」
無意識に撫でてしまっていたことに気付き、手を瞬時に引っ込めた。相手は神様だ。子供の見た目をしているせいでついつい距離感を間違えてしまう。
「?何か問題がありましたか?」
当の本人は気にしていないようだが、彼らとどう接していいものか、いまいち距離感を計れていない部分がある。意を決して、私は尋ねた。
「あのー質問なんですけど、神様相手にどこまでなら許されますか?」
2020.2.20 改稿