一章
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山姥切さん、前田さん、今剣さん、鶴丸さん、陸奥守さん、小夜さん。第一部隊の6名が新たな合戦場へと向かった。彼らのことはもちろん心配なのだが、出陣のたびに他の仕事に手がつかないようでは審神者失格だ。私は私でできる仕事をこなさなければいけない。
日課達成のため、もう一度鍛刀がしたい。しかし、近侍の山姥切さんは出払ってしまっている。他の刀に手伝いを頼みたいところだが、誰に頼もうか。それに先ほど顕現したばかりの彼らに詳しい案内をするのも、誰かに任せたい。
「宗三さん!ちょっといいですか?」
弟の見送りに出てきていた宗三さんを捕まえる。左文字、と名のつくところから見て、江雪さんとも兄弟なのではないだろうか。
「なんです?あぁ、兄様!いらしてたんですね」
正解なようだ。ならば、兄弟水入らずということで彼に案内を任せたい。
「先ほど来ました、江雪さんと三日月さんです。宗三さんにお二人をお願いしてもいいですか?」
「えぇ、構いませんよ。でも僕、今日は食事当番なんですよねぇ……」
なろほど、確かにそろそろ準備に取り掛かる時間だろう。ならば別の刀に任せる方がよいだろうか。
「ならば、俺たちも手伝おう。そうすれば早く終わるだろう?」
「そうですね、戦でないのなら手伝います……」
それならば、と宗三さんが2人を本丸内へ案内してくれる。
私の方は鍛刀だ。今手が空いている刀は、確か短刀たちがいたはずだが、広間のほうだろうか。姿を探しつつ、広間に向かうが今は誰もいないようだ。この広い本丸内で人を探すというのはなかなか骨が折れる。
「あるじどの!どなたかお探しですかな?」
元気のいい声が私を呼び止めた。この耳に残る声は鳴狐さんのお供の狐だ。そういえば、鳴狐さんも今の時間手が空いているはずだ。
「鍛刀をしたくて、どなたか探してたんですけど……鳴狐さん今空いてますか?」
私の問いかけにコクリと頷いて答える本体さん。
「はい!鳴狐は今暇を持て余しておりますゆえ、あるじどののお役に立てましょうぞ!」
本体さんの首元で元気よく答えるのは狐さん。本体の方はとにかく、狐さんの方はやる気いっぱいのようなので彼にお願いしようか。
「じゃあ、お手伝いお願いします」
「わかった」
ぼそりと言った低い声は本体さんだ。喋らないわけではないのだが、狐さんが本体さんのぶんも喋ってしまうのか口数はものすごく少ない。彼と喋っているのか、狐さんと喋っているのか、よくわからなくなる。狐さん抜きで話してみたいとも思うのだが、離れるタイミングはあるのだろうか……。
鳴狐さんに鍛刀を手伝ってもらい、時間に余裕があるので手伝い札は使わずに待つことにする。と言っても他に何かすることがあるわけではない。
遠征や内番は昼の内に終わらせてくれているようなので、第一部隊が帰ってくるまでは自由にしていても良さそうだ。
「あるじどの、他に何かお手伝いすることはございますか?」
「うーん、特には思いつかないかな。ありがとう」
狐さんに手を伸ばしそうになるが、彼のいる場所が本体さんの首元であることを思い出し、一応許可を求める。
「撫でてもいい?」
「やや!あるじどのがお望みとあれば!」
「いいよ」
わざわざ狐さんを首元から抱いてこちらに渡してくれる本体さん。ありがたく受け取り頭をわしゃわしゃと撫でてみる。
「わー!あるじどの!毛並みが乱れますゆえ、ご容赦を!ご容赦をー!」
「いいよ、もっとやって」
狐さんの抗議に止めようとした手の横に別の手が伸びてきて、毛をかき乱す。本体さんも止める側に回ると思ったのだが、意外にノリノリみたいだ。
「な、鳴狐!?お、おやめなさい!は、はわぁーーー!」
2人で狐さんを撫で回す。喜んでいるようにも聞こえるそれは悲鳴なのだろうか。
身をよじり私の腕から抜け出した狐さんは地面に降り立つと、警戒するように身を低くしてこちらに対峙する。
「ごめんごめん、もうしないよ。整えてあげるからこっちおいで」
ぼさぼさの毛並みでぷるぷると震える狐さんに思わず笑いがこみ上げてくるが、それを我慢して手を広げる。顔を背ける鳴狐さんもマスクの下で笑っているんだろう。
「ほ、本当ですね!?信じますよ、あるじどの!」
念を押す狐さんを安心させるべく、縁側に腰をかけて膝を叩く。するとおとなしく膝に乗ってくれた狐さん。今度は毛並みを整えるように、頭からお尻にかけて流れに沿って手を滑らす。
「わぁ、普通に狐だよね……しゃべるけど」
こうして撫でていると本当に普通の狐だ。狐に触れたことはないのでわからないが、きっと喋ること以外は普通の狐と大差ないだろう。
それにしても不思議だ。彼らは刀の付喪神だというが、なぜ狐も一緒に顕現されたのだろう。狐まで含めて刀の一部なんだろうか。たしかに本体さんの感情のほとんどを狐さんが代わっているのをみると、2人で1つのような感じもする。
すっかりおとなしくなった狐さんを無心で撫でていると、隣に本体さんが腰をおろす。
「動物、好きなの?」
「うん、好き。それに狐って身近な動物じゃないから、こんな風に触るの初めて」
現世では、動物園などにいかないと会えない動物だった。ましてや、こんな風に自由に触れ合えることはなかった。珍しさもあって、狐さんを撫でる手は止まらない。
「キツネ、寝たね」
確かにおとなしくなったと思ったが、なるほど。スースーと寝息を立てて気持ち良さそうにしている。すぐに起こしてしまうのは忍びない。
「本体さんはどこか行く?私はしばらくこのままでいようかと思うんだけど……」
「このままでいいよ。ねぇ、あるじ。本体って、鳴狐のこと?」
しまった。心の中で、『本体さん』『狐さん』と呼び分けていたせいで、つい口から出てしまっていたようだ。きっと本体も何も彼も狐も『鳴狐』なのだろう。気を悪くしてしまっただろうか。
「ご、ごめんなさい。狐さんと呼び分けてたんだけど……鳴狐さんは鳴狐さんだよね」
「別に、なんと呼ばれてもいい」
謝った私に、なぜそうするのかわからないというように首をかしげる鳴狐本体さん。しかし、このまま本体さんと呼び続けるものどうかと思う。
「あ、じゃあ鳴さんってどう?こっちが狐さんで、2人合わせて鳴狐……みたいな?」
「鳴さん……いいよ」
お面の下に見える口元が弧を描く。
「鳴さんいっぱいおしゃべりしてくれますね」
率直な感想だが、つい口から出てしまった。狐さんが寝てしまっているからだと思うが、私以外の人ともこんな風に喋っているところは見たことがない。喋らないのには何か理由があるのか、その疑問は彼によって解決される。
「鳴狐は、喋るの苦手。それに、キツネが喋るとみんな驚くから、ちょっと楽しい」
意外なことに、ただ喋るのが苦手らしい。そんな人間らしい理由だとは思いもしなかった。そうなると、こうして狐さんを取り上げてしまっているようなこの状況は、彼にとってあまり喜ばしいことではないのかもしれない。この場に留まったのも、狐さんと離れるのは困るからではないだろうか。
「でも、こうやってあるじと喋るのは楽しいよ。キツネ抜きなのも、たまにはいい」
そうやって続けられた鳴さんの言葉にホッと安心する。もし無理をさせていたらば申し訳ないと思っていたところだ。気を遣ってくれたのかもしれないが、彼の言葉に胸をなでおろした。
「また、こうやってお喋りしよう。今日はもう、冷えるから」
言われてみれば、確かにもう日が傾きかけている。最近やっと太陽の光が暖かくなってきたが、それが沈めばまだまだ冷え込む。意識すると急に寒くなってきたような気がする。
「確かに寒いね……もう中に入ろうか」
「キツネ、起きて」
鳴さんが狐さんを軽く揺する。しばらくむにゃむにゃと何か言葉にならない声を発した後、ハッと目を覚ました。
「わ、わたくしとしたことが…!あるじどののお膝の上で眠りこけてしまうとは、なんたる不覚!!」
さすが、寝起きから元気がいい。頭を抱えるような仕草をする彼が、人の仕草を真似ている様子がおかしくて、少し笑ってしまう。
「あははっ、気持ちよかった?」
「はい!それはとても!」
「ならよかったー」
ググッと伸びをして鳴さんの肩の定位置に収まった狐さん。
「また撫でさせてね?」
「あるじどののご命令とあらば、いつでも!」
さっきまで落ち込んでいたのはどこの誰だっただろう。まったく調子が良いもので、すっかりけろっとしている。
「今度は、鳴狐も」
「えっ」
狐さんと話していたのを遮るように、ずい、と鳴さんの顔が寄せられる。
「……冗談」
そう言って目を細めて笑う彼はずいぶんと楽しそうだ。やっぱり彼は思っていたよりもずっと人間らしくて、意外にもいたずら好きみたいだ。
「やや!表が騒がしいですよ。皆様が帰ってこられたやもしれませんね」
出陣部隊が帰ってきたであろう声が聞こえる。彼らを迎えたら、そろそろご飯の時間だろうか。
「よし、行こっか」
2019.2.12
日課達成のため、もう一度鍛刀がしたい。しかし、近侍の山姥切さんは出払ってしまっている。他の刀に手伝いを頼みたいところだが、誰に頼もうか。それに先ほど顕現したばかりの彼らに詳しい案内をするのも、誰かに任せたい。
「宗三さん!ちょっといいですか?」
弟の見送りに出てきていた宗三さんを捕まえる。左文字、と名のつくところから見て、江雪さんとも兄弟なのではないだろうか。
「なんです?あぁ、兄様!いらしてたんですね」
正解なようだ。ならば、兄弟水入らずということで彼に案内を任せたい。
「先ほど来ました、江雪さんと三日月さんです。宗三さんにお二人をお願いしてもいいですか?」
「えぇ、構いませんよ。でも僕、今日は食事当番なんですよねぇ……」
なろほど、確かにそろそろ準備に取り掛かる時間だろう。ならば別の刀に任せる方がよいだろうか。
「ならば、俺たちも手伝おう。そうすれば早く終わるだろう?」
「そうですね、戦でないのなら手伝います……」
それならば、と宗三さんが2人を本丸内へ案内してくれる。
私の方は鍛刀だ。今手が空いている刀は、確か短刀たちがいたはずだが、広間のほうだろうか。姿を探しつつ、広間に向かうが今は誰もいないようだ。この広い本丸内で人を探すというのはなかなか骨が折れる。
「あるじどの!どなたかお探しですかな?」
元気のいい声が私を呼び止めた。この耳に残る声は鳴狐さんのお供の狐だ。そういえば、鳴狐さんも今の時間手が空いているはずだ。
「鍛刀をしたくて、どなたか探してたんですけど……鳴狐さん今空いてますか?」
私の問いかけにコクリと頷いて答える本体さん。
「はい!鳴狐は今暇を持て余しておりますゆえ、あるじどののお役に立てましょうぞ!」
本体さんの首元で元気よく答えるのは狐さん。本体の方はとにかく、狐さんの方はやる気いっぱいのようなので彼にお願いしようか。
「じゃあ、お手伝いお願いします」
「わかった」
ぼそりと言った低い声は本体さんだ。喋らないわけではないのだが、狐さんが本体さんのぶんも喋ってしまうのか口数はものすごく少ない。彼と喋っているのか、狐さんと喋っているのか、よくわからなくなる。狐さん抜きで話してみたいとも思うのだが、離れるタイミングはあるのだろうか……。
鳴狐さんに鍛刀を手伝ってもらい、時間に余裕があるので手伝い札は使わずに待つことにする。と言っても他に何かすることがあるわけではない。
遠征や内番は昼の内に終わらせてくれているようなので、第一部隊が帰ってくるまでは自由にしていても良さそうだ。
「あるじどの、他に何かお手伝いすることはございますか?」
「うーん、特には思いつかないかな。ありがとう」
狐さんに手を伸ばしそうになるが、彼のいる場所が本体さんの首元であることを思い出し、一応許可を求める。
「撫でてもいい?」
「やや!あるじどのがお望みとあれば!」
「いいよ」
わざわざ狐さんを首元から抱いてこちらに渡してくれる本体さん。ありがたく受け取り頭をわしゃわしゃと撫でてみる。
「わー!あるじどの!毛並みが乱れますゆえ、ご容赦を!ご容赦をー!」
「いいよ、もっとやって」
狐さんの抗議に止めようとした手の横に別の手が伸びてきて、毛をかき乱す。本体さんも止める側に回ると思ったのだが、意外にノリノリみたいだ。
「な、鳴狐!?お、おやめなさい!は、はわぁーーー!」
2人で狐さんを撫で回す。喜んでいるようにも聞こえるそれは悲鳴なのだろうか。
身をよじり私の腕から抜け出した狐さんは地面に降り立つと、警戒するように身を低くしてこちらに対峙する。
「ごめんごめん、もうしないよ。整えてあげるからこっちおいで」
ぼさぼさの毛並みでぷるぷると震える狐さんに思わず笑いがこみ上げてくるが、それを我慢して手を広げる。顔を背ける鳴狐さんもマスクの下で笑っているんだろう。
「ほ、本当ですね!?信じますよ、あるじどの!」
念を押す狐さんを安心させるべく、縁側に腰をかけて膝を叩く。するとおとなしく膝に乗ってくれた狐さん。今度は毛並みを整えるように、頭からお尻にかけて流れに沿って手を滑らす。
「わぁ、普通に狐だよね……しゃべるけど」
こうして撫でていると本当に普通の狐だ。狐に触れたことはないのでわからないが、きっと喋ること以外は普通の狐と大差ないだろう。
それにしても不思議だ。彼らは刀の付喪神だというが、なぜ狐も一緒に顕現されたのだろう。狐まで含めて刀の一部なんだろうか。たしかに本体さんの感情のほとんどを狐さんが代わっているのをみると、2人で1つのような感じもする。
すっかりおとなしくなった狐さんを無心で撫でていると、隣に本体さんが腰をおろす。
「動物、好きなの?」
「うん、好き。それに狐って身近な動物じゃないから、こんな風に触るの初めて」
現世では、動物園などにいかないと会えない動物だった。ましてや、こんな風に自由に触れ合えることはなかった。珍しさもあって、狐さんを撫でる手は止まらない。
「キツネ、寝たね」
確かにおとなしくなったと思ったが、なるほど。スースーと寝息を立てて気持ち良さそうにしている。すぐに起こしてしまうのは忍びない。
「本体さんはどこか行く?私はしばらくこのままでいようかと思うんだけど……」
「このままでいいよ。ねぇ、あるじ。本体って、鳴狐のこと?」
しまった。心の中で、『本体さん』『狐さん』と呼び分けていたせいで、つい口から出てしまっていたようだ。きっと本体も何も彼も狐も『鳴狐』なのだろう。気を悪くしてしまっただろうか。
「ご、ごめんなさい。狐さんと呼び分けてたんだけど……鳴狐さんは鳴狐さんだよね」
「別に、なんと呼ばれてもいい」
謝った私に、なぜそうするのかわからないというように首をかしげる鳴狐本体さん。しかし、このまま本体さんと呼び続けるものどうかと思う。
「あ、じゃあ鳴さんってどう?こっちが狐さんで、2人合わせて鳴狐……みたいな?」
「鳴さん……いいよ」
お面の下に見える口元が弧を描く。
「鳴さんいっぱいおしゃべりしてくれますね」
率直な感想だが、つい口から出てしまった。狐さんが寝てしまっているからだと思うが、私以外の人ともこんな風に喋っているところは見たことがない。喋らないのには何か理由があるのか、その疑問は彼によって解決される。
「鳴狐は、喋るの苦手。それに、キツネが喋るとみんな驚くから、ちょっと楽しい」
意外なことに、ただ喋るのが苦手らしい。そんな人間らしい理由だとは思いもしなかった。そうなると、こうして狐さんを取り上げてしまっているようなこの状況は、彼にとってあまり喜ばしいことではないのかもしれない。この場に留まったのも、狐さんと離れるのは困るからではないだろうか。
「でも、こうやってあるじと喋るのは楽しいよ。キツネ抜きなのも、たまにはいい」
そうやって続けられた鳴さんの言葉にホッと安心する。もし無理をさせていたらば申し訳ないと思っていたところだ。気を遣ってくれたのかもしれないが、彼の言葉に胸をなでおろした。
「また、こうやってお喋りしよう。今日はもう、冷えるから」
言われてみれば、確かにもう日が傾きかけている。最近やっと太陽の光が暖かくなってきたが、それが沈めばまだまだ冷え込む。意識すると急に寒くなってきたような気がする。
「確かに寒いね……もう中に入ろうか」
「キツネ、起きて」
鳴さんが狐さんを軽く揺する。しばらくむにゃむにゃと何か言葉にならない声を発した後、ハッと目を覚ました。
「わ、わたくしとしたことが…!あるじどののお膝の上で眠りこけてしまうとは、なんたる不覚!!」
さすが、寝起きから元気がいい。頭を抱えるような仕草をする彼が、人の仕草を真似ている様子がおかしくて、少し笑ってしまう。
「あははっ、気持ちよかった?」
「はい!それはとても!」
「ならよかったー」
ググッと伸びをして鳴さんの肩の定位置に収まった狐さん。
「また撫でさせてね?」
「あるじどののご命令とあらば、いつでも!」
さっきまで落ち込んでいたのはどこの誰だっただろう。まったく調子が良いもので、すっかりけろっとしている。
「今度は、鳴狐も」
「えっ」
狐さんと話していたのを遮るように、ずい、と鳴さんの顔が寄せられる。
「……冗談」
そう言って目を細めて笑う彼はずいぶんと楽しそうだ。やっぱり彼は思っていたよりもずっと人間らしくて、意外にもいたずら好きみたいだ。
「やや!表が騒がしいですよ。皆様が帰ってこられたやもしれませんね」
出陣部隊が帰ってきたであろう声が聞こえる。彼らを迎えたら、そろそろご飯の時間だろうか。
「よし、行こっか」
2019.2.12