一章
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「ただいっ……おぁ!!……ただいま。山姥切さん」
門を抜けて本丸に戻ると、一番に迎えてくれたのは山姥切さんだった。時刻は16時を数分すぎたところだ。朝、帰宅時間を聞いたのはこのためだろうか。
「あぁ、戻ったか」
「うん、どうだった?」
「別に、特別なことはない。決めたことは部屋で報告する」
簡潔にそれだけ言うと、私の荷物を取り上げて玄関へと向かう。さらりとそういうことをしてくれるのに、慣れていなくていちいち気にしてしまう。主なんて立場になるのは初めてなのだから当然だが、どうも丁重に扱われるというのには慣れない。
「主君!おかえりなさい」
「あるじさまー!帰ったんですね!」
「……おかえり」
「た、ただいま!」
広間の前を通ると、何人かが集まっていたようで、みんな思い思いに声をかけてくれる。こんなにも帰宅を歓迎されるのは初めてだ。
「あ、皆さん。この後出陣しますんで、準備お願いしますね」
彼らの歓迎に手を振って応え、一度は通り過ぎた部屋にまた顔を覗かす。それぞれ了解の返事をくれたので、こちらも早く準備をしてしまいたい。
まずは山姥切さんに今日の報告を聞いて、鍛刀部屋に向かうつもりでいる。その後は刀装を作る。それが終わったら、隊を分けて出陣予定だ。
本丸にいない間でもできることはないかと、探した結果が審神者マニュアルを読むことだ。目を通した結果、刀たちを攻撃から守る刀装や、毎日の日課など、必要な知識がいくつか身についたと思う。特に、刀装に関しては、戦いに向かうならば絶対に必要といってもいいアイテムらしい。知らないままだったら毎回彼らに怪我をさせ、手入れを繰り返していたことだろう。早いうちに気付けてよかった。
執務室に入り、山姥切さんが何枚かの紙を机に広げた。
「決めた部屋割りと、当番だ。基本的には顕現した順番で組めばいいだろう。今いるやつらは、兄弟で組み合わせたりもしたが……目を通してくれ」
言われた通り目を通せば、なるほど、2人から4人で部屋を分けたようだ。
「了解しました。見た感じ問題はないだろうし、これでいいかなぁ。当番の方は、基本2人1組なんだね。いいと思う!山姥切さんありがとう!」
「別に、言われたことはちゃんとやる」
素直にお礼を受け取ってくれないところが彼らしい。そういう性格が彼なのだろうから、無理に咎めるつもりはない。それに、仕事を任せて欲しくないだとか、他の刀に変えてほしいだとか、そういうのが心の底からのものでないことはなんとなくだがわかる。難儀な性格ではあるが、わりとわかりやすくもあるのだ。
「このあとは、出陣しようと思うんだけど……山姥切さんにはまた隊長をお願いするね」
出陣させる6振あらかじめ考えておいたので、彼にそれを伝え、出陣の準備をお願いする。
「私は、鍛刀部屋に行ってから行くね」
「着いていかなくていいのか?」
「大丈夫だよ。……あっ、でも刀装を作らなきゃいけないんだった。そっちだけ、手伝ってくれる?」
鍛刀部屋の隣にある刀装部屋。そこで初めての刀装作成に取り掛かる。といっても作るのは山姥切さんの役目で、私は資材の分量を指定するだけだ。
第一部隊全員に装備できるように、必要な分を作りたい。作るのにはコツがいるのか、いくつか煤けた失敗作ができてしまったようだ。失敗のたびに落ち込む彼を励ましつつ、なんとか最低限の数を作り上げた。
「じゃあ、これをみなさんに配って、準備をお願い」
刀装部屋をでたところで、彼と別れ、1人、隣の鍛刀部屋に入る。
朝、お願いしておいた刀が出来上がっているはずだ。
案の定、しっかりと完成された2振の刀を受け取る。どちらも大きい刀だ。太刀だろうか。一振ずつ、いつものように霊力をこめて顕現させる。
「三日月宗近。打ち除けが多い故、三日月と呼ばれる。よろしくたのむ」
「……江雪左文字と申します。戦いが、この世から消える日はあるのでしょうか……?」
現れた2振はどちらも綺麗な顔立ちをした、涼やかな雰囲気の2人だ。
「ふむ、次の主は随分と幼いようだな」
幼いと言われる年齢ではないような気もする。だが、彼らが刀であり、人とは違う時を生きているのだと思うと、十数年しか生きていない私なんかはまだまだ子供、赤ん坊レベルかもしれない。
「審神者です。三日月さん、江雪さん、よろしくお願いします」
新入りの2振を連れて、本丸を案内しながら庭へ向かう。
「今から出陣するので、よければ一緒にお見送りに行きましょう!」
「戦…ですか」
はぁ、と深くため息をつく江雪さん。顕現した時にもそうだったが、争いごとが苦手なのかと推察できることを何度か口にしている。刀というと戦いの道具、というイメージが強いからか、彼が戦を嫌いだというのはなんとなく不思議に思う。
「江雪さんは、戦うの嫌なんですか?」
「嫌いです。刀など、使われない方が良いのです」
私は彼らを戦うために呼び出しているのに、それを嫌いだと言われるのはなんだか申し訳なくなる。刀だから、戦いに出ることが本望、そういうわけでもないらしい。それはきっと、刀にも辿ってきたそれぞれの歴史があるからなのだろう。江雪さんは戦いで悲しい思いをしたのだろうか。
「そうですか……」
嫌いだと、はっきり言われてしまい、なんと返すべきかわからずに黙ってしまった。彼に出陣の見送りをしましょう!などと言うのは良くなかったかもしれない。
「刀もそれぞれ、ということだな。俺は使ってくれるならば嬉しく思うぞ」
ぽふぽふと柔らかに頭を叩くのは三日月さんだ。気を遣ってくれたのだろうか。おっとりとした雰囲気の彼だが、意外な助け舟だ。
「見送るのならば、着いていきます……。せめて、無事を祈りましょう」
江雪さんも、そういってくれたので、山姥切さんたちが待つ庭へと向かう。
今日は新たな合戦上へと向かう予定だ。山姥切さんを始め、安定したメンバーを選んだつもりだ。新たに刀装を作ったこともあり、自信はある。きっと無事にやり遂げてくれるだろう。
「おまたせしました、みなさん準備は大丈夫ですか?」
第一部隊の待つ庭、転移門の前。みんな、準備はばっちりなようだ。
「いつでも出発できる」
代表して山姥切さんがそう言うと、皆それぞれに頷く。
「それでは、無事を祈ります。行ってらっしゃい!」
2019.2.9
門を抜けて本丸に戻ると、一番に迎えてくれたのは山姥切さんだった。時刻は16時を数分すぎたところだ。朝、帰宅時間を聞いたのはこのためだろうか。
「あぁ、戻ったか」
「うん、どうだった?」
「別に、特別なことはない。決めたことは部屋で報告する」
簡潔にそれだけ言うと、私の荷物を取り上げて玄関へと向かう。さらりとそういうことをしてくれるのに、慣れていなくていちいち気にしてしまう。主なんて立場になるのは初めてなのだから当然だが、どうも丁重に扱われるというのには慣れない。
「主君!おかえりなさい」
「あるじさまー!帰ったんですね!」
「……おかえり」
「た、ただいま!」
広間の前を通ると、何人かが集まっていたようで、みんな思い思いに声をかけてくれる。こんなにも帰宅を歓迎されるのは初めてだ。
「あ、皆さん。この後出陣しますんで、準備お願いしますね」
彼らの歓迎に手を振って応え、一度は通り過ぎた部屋にまた顔を覗かす。それぞれ了解の返事をくれたので、こちらも早く準備をしてしまいたい。
まずは山姥切さんに今日の報告を聞いて、鍛刀部屋に向かうつもりでいる。その後は刀装を作る。それが終わったら、隊を分けて出陣予定だ。
本丸にいない間でもできることはないかと、探した結果が審神者マニュアルを読むことだ。目を通した結果、刀たちを攻撃から守る刀装や、毎日の日課など、必要な知識がいくつか身についたと思う。特に、刀装に関しては、戦いに向かうならば絶対に必要といってもいいアイテムらしい。知らないままだったら毎回彼らに怪我をさせ、手入れを繰り返していたことだろう。早いうちに気付けてよかった。
執務室に入り、山姥切さんが何枚かの紙を机に広げた。
「決めた部屋割りと、当番だ。基本的には顕現した順番で組めばいいだろう。今いるやつらは、兄弟で組み合わせたりもしたが……目を通してくれ」
言われた通り目を通せば、なるほど、2人から4人で部屋を分けたようだ。
「了解しました。見た感じ問題はないだろうし、これでいいかなぁ。当番の方は、基本2人1組なんだね。いいと思う!山姥切さんありがとう!」
「別に、言われたことはちゃんとやる」
素直にお礼を受け取ってくれないところが彼らしい。そういう性格が彼なのだろうから、無理に咎めるつもりはない。それに、仕事を任せて欲しくないだとか、他の刀に変えてほしいだとか、そういうのが心の底からのものでないことはなんとなくだがわかる。難儀な性格ではあるが、わりとわかりやすくもあるのだ。
「このあとは、出陣しようと思うんだけど……山姥切さんにはまた隊長をお願いするね」
出陣させる6振あらかじめ考えておいたので、彼にそれを伝え、出陣の準備をお願いする。
「私は、鍛刀部屋に行ってから行くね」
「着いていかなくていいのか?」
「大丈夫だよ。……あっ、でも刀装を作らなきゃいけないんだった。そっちだけ、手伝ってくれる?」
鍛刀部屋の隣にある刀装部屋。そこで初めての刀装作成に取り掛かる。といっても作るのは山姥切さんの役目で、私は資材の分量を指定するだけだ。
第一部隊全員に装備できるように、必要な分を作りたい。作るのにはコツがいるのか、いくつか煤けた失敗作ができてしまったようだ。失敗のたびに落ち込む彼を励ましつつ、なんとか最低限の数を作り上げた。
「じゃあ、これをみなさんに配って、準備をお願い」
刀装部屋をでたところで、彼と別れ、1人、隣の鍛刀部屋に入る。
朝、お願いしておいた刀が出来上がっているはずだ。
案の定、しっかりと完成された2振の刀を受け取る。どちらも大きい刀だ。太刀だろうか。一振ずつ、いつものように霊力をこめて顕現させる。
「三日月宗近。打ち除けが多い故、三日月と呼ばれる。よろしくたのむ」
「……江雪左文字と申します。戦いが、この世から消える日はあるのでしょうか……?」
現れた2振はどちらも綺麗な顔立ちをした、涼やかな雰囲気の2人だ。
「ふむ、次の主は随分と幼いようだな」
幼いと言われる年齢ではないような気もする。だが、彼らが刀であり、人とは違う時を生きているのだと思うと、十数年しか生きていない私なんかはまだまだ子供、赤ん坊レベルかもしれない。
「審神者です。三日月さん、江雪さん、よろしくお願いします」
新入りの2振を連れて、本丸を案内しながら庭へ向かう。
「今から出陣するので、よければ一緒にお見送りに行きましょう!」
「戦…ですか」
はぁ、と深くため息をつく江雪さん。顕現した時にもそうだったが、争いごとが苦手なのかと推察できることを何度か口にしている。刀というと戦いの道具、というイメージが強いからか、彼が戦を嫌いだというのはなんとなく不思議に思う。
「江雪さんは、戦うの嫌なんですか?」
「嫌いです。刀など、使われない方が良いのです」
私は彼らを戦うために呼び出しているのに、それを嫌いだと言われるのはなんだか申し訳なくなる。刀だから、戦いに出ることが本望、そういうわけでもないらしい。それはきっと、刀にも辿ってきたそれぞれの歴史があるからなのだろう。江雪さんは戦いで悲しい思いをしたのだろうか。
「そうですか……」
嫌いだと、はっきり言われてしまい、なんと返すべきかわからずに黙ってしまった。彼に出陣の見送りをしましょう!などと言うのは良くなかったかもしれない。
「刀もそれぞれ、ということだな。俺は使ってくれるならば嬉しく思うぞ」
ぽふぽふと柔らかに頭を叩くのは三日月さんだ。気を遣ってくれたのだろうか。おっとりとした雰囲気の彼だが、意外な助け舟だ。
「見送るのならば、着いていきます……。せめて、無事を祈りましょう」
江雪さんも、そういってくれたので、山姥切さんたちが待つ庭へと向かう。
今日は新たな合戦上へと向かう予定だ。山姥切さんを始め、安定したメンバーを選んだつもりだ。新たに刀装を作ったこともあり、自信はある。きっと無事にやり遂げてくれるだろう。
「おまたせしました、みなさん準備は大丈夫ですか?」
第一部隊の待つ庭、転移門の前。みんな、準備はばっちりなようだ。
「いつでも出発できる」
代表して山姥切さんがそう言うと、皆それぞれに頷く。
「それでは、無事を祈ります。行ってらっしゃい!」
2019.2.9