バレンタイン2019
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「こら、主!また君は廊下を走って……」
「あ、歌仙さん!ちょうどいいところに!」
次は誰に渡そうかと、バタバタと廊下を小走りで移動しているとちょうどいいところに声をかけられた。部屋の中から現れた彼は、笑顔で振り返った私に少ししかめた顔を向ける。
「君は、いい加減もう少し落ち着いたらどうなんだい?」
こうして歌仙さんに怒られるのは何度目だろうか。初めこそうるさいお小言だと思っていたが、今はそれほど嫌ではない。彼の言うことは間違っていないし、なんだかんだ言って私のことを気にかけてくれているがゆえのお説教だ。それに、叱られた後に彼が用意してくれるおやつは格別に美味しい。飴と鞭というやつだろうか。それにすっかりやられてしまっている。
「で、僕に何か用事だったのかい?」
彼にも他のみんな同様、チョコを渡すつもりだった。しかし、
「忙しそうですね?」
彼の腕には抱えられた本の山。
「あぁ、忙しいというわけでもないんだが……これを部屋に運ぼうと思っていたところでね。何か用なら手を空けるよ」
そう言って、本を降ろそうと今出てきた部屋に戻ろうとする歌仙さん。わざわざそこまでしてもらうのも申し訳ない。
「いえ、大丈夫です!急ぎの用事ではないので……部屋までついて行ってそこでお話ししてもいいですか?」
「君がそれでいいなら、構わないよ」
本を運ぶ歌仙さんに付いて、彼の自室まで足を運ぶ。手伝いを申し出たが、私用で主の手を煩わせるわけにはいかないと断られてしまったため、私は手ぶらだ。荷物を持つ人の横を何も持たず歩くというのは、なんとなく居心地が悪い。
「拗ねないでおくれよ。君に重いものは持たせられないだろう?」
表情に出てしまっていたのか。歌仙さんが少し困ったように笑った。別に拗ねているというわけではなかったのだが、それでも納得いっていないのは事実だ。
「別に拗ねてはないです。ただ、なんかいっつもみんな私のことは助けてくれるのに、私は何もできないのかなぁ……と」
ただ荷物を持たせてもらえなかっただけでそこまで話を飛躍させるのは大げさかもしれないが、思いついたことがふと口からこぼれ出てしまった。
「あ、いや、わかってますよ!私はできることやってるつもりだし、それでちゃんとみなさんの役に立ってるつもりだし……」
別に咎められたわけでもないのに、なぜか言い訳のように慌てて言葉を紡いでしまう。
それを黙って聞いていた彼は、部屋に付いて、本を下ろすと私に座るように促した。
「主、君はね、君が思ってる以上に僕たちの支えになっているんだよ。君がいるから僕たちはこの身を振るって戦っているんだ。君はよくやっている、自信を持つことだ」
正面に座った歌仙さんが、優しく頭を撫でてくれる。彼のこういう甘さには弱い。厳しいところが目立ちがちな彼だが、いつだって私を甘やかしてくれるのだ。
「歌仙さん……ありがとうございます」
じんわりと胸が温かくなり、喉のあたりがきゅっとなる。気を抜いたら涙が出てしまいそうだ。
頭を撫でてくれる彼の手が気持ちよくて、しばらくそれに身を委ねる。静かで穏やかな時間がゆっくりすぎていく。
それを破ったのは歌仙さんの方からだった。
「そういえば、何か僕に用があったんじゃなかったかい?」
言われて気づく。歌仙さんに励まされてしまったが、本来の目的は感謝を伝えることだ。立場が逆転してしまっている。
「そうだった!あの、これ、歌仙さんに!」
彼にチョコの箱を差し出す。
「これを僕に?いったいなんだろうね」
受け取った彼は「開けてもいいかい?」と確認をとると、その箱を開ける。
「あまり得意ではないので、歌仙さんに食べてもらうのは大変恐縮なんですけども……」
いつも美味しいご飯を食べさせてもらっている身として、そんな彼に手作りのお菓子を渡すというのは緊張する。彼のように美味しく作れているだろうか。他の人に渡すよりも少し緊張してしまう。
「これは、チョコレート?君が作ったのかい?」
「はい。バレンタインなので、みなさんに感謝の気持ちを伝えたくて……」
無言のまま歌仙さんがチョコを口に運ぶ。突然のことに思わずあっと声が出る。もぐもぐと咀嚼する彼をハラハラとして見つめる。
「美味しい。うん、とても美味しいね」
笑って頷く彼の感想にホッと胸をなでおろす。そして、改めて彼に感謝の気持ちを言葉にして伝える。
「いつもありがとうございます。美味しいご飯もそうなんですけど、私のこと考えて厳しいことも言ってくれて……私、まだまだですけど、歌仙さんに褒められることが増えるようにがんばります!」
いつか、歌仙さんに叱られることのないような、そんな立派な審神者になりたい。いつだって見守ってくれている歌仙さんは、私の中でお母さんのような存在かもしれない。
「……嬉しいね。きみからそんな言葉をもらえるなんて。いつだってきみのことを思ってきたつもりだけれど、改めて感謝されると照れてしまうよ」
綺麗に微笑んで、少し顔を染めた歌仙さんは本当に嬉しそうだ。
「そうだ、お礼に僕からきみへ歌を贈らせてくれないか?」
2019.2.7
「あ、歌仙さん!ちょうどいいところに!」
次は誰に渡そうかと、バタバタと廊下を小走りで移動しているとちょうどいいところに声をかけられた。部屋の中から現れた彼は、笑顔で振り返った私に少ししかめた顔を向ける。
「君は、いい加減もう少し落ち着いたらどうなんだい?」
こうして歌仙さんに怒られるのは何度目だろうか。初めこそうるさいお小言だと思っていたが、今はそれほど嫌ではない。彼の言うことは間違っていないし、なんだかんだ言って私のことを気にかけてくれているがゆえのお説教だ。それに、叱られた後に彼が用意してくれるおやつは格別に美味しい。飴と鞭というやつだろうか。それにすっかりやられてしまっている。
「で、僕に何か用事だったのかい?」
彼にも他のみんな同様、チョコを渡すつもりだった。しかし、
「忙しそうですね?」
彼の腕には抱えられた本の山。
「あぁ、忙しいというわけでもないんだが……これを部屋に運ぼうと思っていたところでね。何か用なら手を空けるよ」
そう言って、本を降ろそうと今出てきた部屋に戻ろうとする歌仙さん。わざわざそこまでしてもらうのも申し訳ない。
「いえ、大丈夫です!急ぎの用事ではないので……部屋までついて行ってそこでお話ししてもいいですか?」
「君がそれでいいなら、構わないよ」
本を運ぶ歌仙さんに付いて、彼の自室まで足を運ぶ。手伝いを申し出たが、私用で主の手を煩わせるわけにはいかないと断られてしまったため、私は手ぶらだ。荷物を持つ人の横を何も持たず歩くというのは、なんとなく居心地が悪い。
「拗ねないでおくれよ。君に重いものは持たせられないだろう?」
表情に出てしまっていたのか。歌仙さんが少し困ったように笑った。別に拗ねているというわけではなかったのだが、それでも納得いっていないのは事実だ。
「別に拗ねてはないです。ただ、なんかいっつもみんな私のことは助けてくれるのに、私は何もできないのかなぁ……と」
ただ荷物を持たせてもらえなかっただけでそこまで話を飛躍させるのは大げさかもしれないが、思いついたことがふと口からこぼれ出てしまった。
「あ、いや、わかってますよ!私はできることやってるつもりだし、それでちゃんとみなさんの役に立ってるつもりだし……」
別に咎められたわけでもないのに、なぜか言い訳のように慌てて言葉を紡いでしまう。
それを黙って聞いていた彼は、部屋に付いて、本を下ろすと私に座るように促した。
「主、君はね、君が思ってる以上に僕たちの支えになっているんだよ。君がいるから僕たちはこの身を振るって戦っているんだ。君はよくやっている、自信を持つことだ」
正面に座った歌仙さんが、優しく頭を撫でてくれる。彼のこういう甘さには弱い。厳しいところが目立ちがちな彼だが、いつだって私を甘やかしてくれるのだ。
「歌仙さん……ありがとうございます」
じんわりと胸が温かくなり、喉のあたりがきゅっとなる。気を抜いたら涙が出てしまいそうだ。
頭を撫でてくれる彼の手が気持ちよくて、しばらくそれに身を委ねる。静かで穏やかな時間がゆっくりすぎていく。
それを破ったのは歌仙さんの方からだった。
「そういえば、何か僕に用があったんじゃなかったかい?」
言われて気づく。歌仙さんに励まされてしまったが、本来の目的は感謝を伝えることだ。立場が逆転してしまっている。
「そうだった!あの、これ、歌仙さんに!」
彼にチョコの箱を差し出す。
「これを僕に?いったいなんだろうね」
受け取った彼は「開けてもいいかい?」と確認をとると、その箱を開ける。
「あまり得意ではないので、歌仙さんに食べてもらうのは大変恐縮なんですけども……」
いつも美味しいご飯を食べさせてもらっている身として、そんな彼に手作りのお菓子を渡すというのは緊張する。彼のように美味しく作れているだろうか。他の人に渡すよりも少し緊張してしまう。
「これは、チョコレート?君が作ったのかい?」
「はい。バレンタインなので、みなさんに感謝の気持ちを伝えたくて……」
無言のまま歌仙さんがチョコを口に運ぶ。突然のことに思わずあっと声が出る。もぐもぐと咀嚼する彼をハラハラとして見つめる。
「美味しい。うん、とても美味しいね」
笑って頷く彼の感想にホッと胸をなでおろす。そして、改めて彼に感謝の気持ちを言葉にして伝える。
「いつもありがとうございます。美味しいご飯もそうなんですけど、私のこと考えて厳しいことも言ってくれて……私、まだまだですけど、歌仙さんに褒められることが増えるようにがんばります!」
いつか、歌仙さんに叱られることのないような、そんな立派な審神者になりたい。いつだって見守ってくれている歌仙さんは、私の中でお母さんのような存在かもしれない。
「……嬉しいね。きみからそんな言葉をもらえるなんて。いつだってきみのことを思ってきたつもりだけれど、改めて感謝されると照れてしまうよ」
綺麗に微笑んで、少し顔を染めた歌仙さんは本当に嬉しそうだ。
「そうだ、お礼に僕からきみへ歌を贈らせてくれないか?」
2019.2.7
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