バレンタイン2019
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「主、いる?」
この声は小夜さんだ。
「いるよー、どうぞ」
「おかえりなさい、帰ってたんだね」
執務室にいなかった私を探して、自室まできてくれたようだ。私の返事を待って小夜さんが部屋に入ってくる。
「どうしたの?何かあった?」
わざわざ訪ねてきたということは、何か用事だろうか。彼には第一部隊の隊長を任せている。近侍に指名することも多く、この本丸の要とも言える存在だ。それゆえに、彼からは重要な報告が上がってくることが多い。今回もその類いだろうかと勘ぐってしまう。
「いや、なにもないよ。あなたが帰ってきたって、他の刀に聞いたから……会いに来ただけなんだ。ダメだった?」
小夜さんは最初に比べて随分と親しみやすくなった。こうして、私にも歩み寄りを見せてくれるし、時々だが、少し柔らかい表情も見せてくれる。
「ううん、嬉しいよ。ありがとう」
わざわざおかえりを言いに来てくれるのは、私としても嬉しい限りだ。
「あなたが帰ってきてくれるのは嬉しいから……見捨てられるんじゃないかって、今でもときどき考えてしまうんだ」
小夜さんはさみしいのには慣れている、というが、人一倍そういうことには敏感な気がする。現にこうして私のところにわざわざ顔を出しにきてくれた。小さな彼はあまり感情を表には出さないが、それでも長く一緒にいて随分わかりやすくなったように思う。素直に帰ってきたことを喜んでくれているように思えて、少し嬉しくなる。
「みんなを見捨てるなんてしないよ。ただいま、小夜さん」
「うん、おかえりなさい」
私よりも随分低い位置にある彼の頭をポンポンと撫でる。攻撃的な毛質の彼の髪の感触はなかなかにクセになる。それを目を細めて受け入れてくれる彼の表情は、いつでも柔らかくて、私はそれが好きだ。
「小夜さん。いつも本丸のために頑張ってくれてありがとう。大変な仕事ばっかり頼んじゃってごめんなさい。でも、これからも頼りにしてる」
「主……?急に、どうかしたの?」
突然の感謝の言葉に戸惑っているようだ。無理もない。言っている私だって、慣れないことを言っている自覚はあるし、誰よりも照れくさく思っているはずだ。
「小夜さんに、ありがとうを伝えたかったの。今日は私たちの時代で気持ちを伝える日なんだよ。だから、小夜さんにいつもの感謝の気持ちを込めて」
そう言って、用意していた小箱を渡す。それを彼はおずおずと受け取ってくれる。
「感謝するのは僕たちだよ。あなたがいるから、あなたのために戦うんだ。これからも、あなたが望むなら僕はあなたの刀であり続けるよ」
そう言って、手を握ってくれる。小さな手がギュッと私の手を包む。そこには彼の強い意思が込められているようだ。
「やっぱり小夜さんは頼もしいね。これからもよろしく、隊長さん」
その手を握り返す。小さな体で、いくつもの戦場をくぐり抜けてきた彼は、見た目こそ小さくても長くを生きてきた立派な刀なのだ。私なんかでは到底及ばない、確かな強さがそこにはある。そんな彼が、私を主と認め、刀を振るってくれる。それのなんと頼もしいことか。今までずっと、そしてきっとこれからも、私はこの小さく強い刀に支えられているのだと改めて実感する。
「ねえ、これは何?」
小夜さんが示すのは渡した小箱だ。
「チョコレートだよ。気持ちと一緒にチョコレートを送るものなの」
「そう……この黒いお菓子を見ていると、何かが渦巻くような、そんな気がしていたんだけど……。でも不思議だね。あなたからもらったものだと思うと、そんな澱みはまったく感じないんだ」
危うく地雷を踏んでしまったのかと思ったが、心配は無用なようだ。チョコレートで感謝を伝えるつもりが、彼の暗い部分に触れてしまったとあっては、本末転倒もいいところだ。
彼の復讐に対する気持ちは私でどうにかできるものだとは思っていない。それでも、このチョコレートで、少しでも彼の気が晴れれば、それ以上の喜びはないだろう。
「チョコレートは甘くて美味しいお菓子だよ。頑張って手作りしたの、食べてもらえると嬉しいな」
「うん、ありがたく頂くよ。あなたからもらったものだもの、大切に食べるね」
2019.2.3
この声は小夜さんだ。
「いるよー、どうぞ」
「おかえりなさい、帰ってたんだね」
執務室にいなかった私を探して、自室まできてくれたようだ。私の返事を待って小夜さんが部屋に入ってくる。
「どうしたの?何かあった?」
わざわざ訪ねてきたということは、何か用事だろうか。彼には第一部隊の隊長を任せている。近侍に指名することも多く、この本丸の要とも言える存在だ。それゆえに、彼からは重要な報告が上がってくることが多い。今回もその類いだろうかと勘ぐってしまう。
「いや、なにもないよ。あなたが帰ってきたって、他の刀に聞いたから……会いに来ただけなんだ。ダメだった?」
小夜さんは最初に比べて随分と親しみやすくなった。こうして、私にも歩み寄りを見せてくれるし、時々だが、少し柔らかい表情も見せてくれる。
「ううん、嬉しいよ。ありがとう」
わざわざおかえりを言いに来てくれるのは、私としても嬉しい限りだ。
「あなたが帰ってきてくれるのは嬉しいから……見捨てられるんじゃないかって、今でもときどき考えてしまうんだ」
小夜さんはさみしいのには慣れている、というが、人一倍そういうことには敏感な気がする。現にこうして私のところにわざわざ顔を出しにきてくれた。小さな彼はあまり感情を表には出さないが、それでも長く一緒にいて随分わかりやすくなったように思う。素直に帰ってきたことを喜んでくれているように思えて、少し嬉しくなる。
「みんなを見捨てるなんてしないよ。ただいま、小夜さん」
「うん、おかえりなさい」
私よりも随分低い位置にある彼の頭をポンポンと撫でる。攻撃的な毛質の彼の髪の感触はなかなかにクセになる。それを目を細めて受け入れてくれる彼の表情は、いつでも柔らかくて、私はそれが好きだ。
「小夜さん。いつも本丸のために頑張ってくれてありがとう。大変な仕事ばっかり頼んじゃってごめんなさい。でも、これからも頼りにしてる」
「主……?急に、どうかしたの?」
突然の感謝の言葉に戸惑っているようだ。無理もない。言っている私だって、慣れないことを言っている自覚はあるし、誰よりも照れくさく思っているはずだ。
「小夜さんに、ありがとうを伝えたかったの。今日は私たちの時代で気持ちを伝える日なんだよ。だから、小夜さんにいつもの感謝の気持ちを込めて」
そう言って、用意していた小箱を渡す。それを彼はおずおずと受け取ってくれる。
「感謝するのは僕たちだよ。あなたがいるから、あなたのために戦うんだ。これからも、あなたが望むなら僕はあなたの刀であり続けるよ」
そう言って、手を握ってくれる。小さな手がギュッと私の手を包む。そこには彼の強い意思が込められているようだ。
「やっぱり小夜さんは頼もしいね。これからもよろしく、隊長さん」
その手を握り返す。小さな体で、いくつもの戦場をくぐり抜けてきた彼は、見た目こそ小さくても長くを生きてきた立派な刀なのだ。私なんかでは到底及ばない、確かな強さがそこにはある。そんな彼が、私を主と認め、刀を振るってくれる。それのなんと頼もしいことか。今までずっと、そしてきっとこれからも、私はこの小さく強い刀に支えられているのだと改めて実感する。
「ねえ、これは何?」
小夜さんが示すのは渡した小箱だ。
「チョコレートだよ。気持ちと一緒にチョコレートを送るものなの」
「そう……この黒いお菓子を見ていると、何かが渦巻くような、そんな気がしていたんだけど……。でも不思議だね。あなたからもらったものだと思うと、そんな澱みはまったく感じないんだ」
危うく地雷を踏んでしまったのかと思ったが、心配は無用なようだ。チョコレートで感謝を伝えるつもりが、彼の暗い部分に触れてしまったとあっては、本末転倒もいいところだ。
彼の復讐に対する気持ちは私でどうにかできるものだとは思っていない。それでも、このチョコレートで、少しでも彼の気が晴れれば、それ以上の喜びはないだろう。
「チョコレートは甘くて美味しいお菓子だよ。頑張って手作りしたの、食べてもらえると嬉しいな」
「うん、ありがたく頂くよ。あなたからもらったものだもの、大切に食べるね」
2019.2.3