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バレンタイン2019

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「おい、こそこそとなにやってるんだ」

 たくさん用意したチョコを、せっかくならば彼らに見つからずに部屋まで運びたかった。どっきりとまではいかないが、少しサプライズ的なことをしたい気持ちがあったのだ。
 しかし、あっさり見つかってしまった。

「随分と大荷物だな。手伝うか?」

 しかし、彼は荷物、といっただけで特に言及はしてこない。これは、チョコだということは気づかれていないのではないだろうか?
 よく考えてみれば、彼らの知っている時代でバレンタインというイベントはまだ日本にはないはずだ。それならば、私のこの荷物の中身にも察しなどつくはずがない。まだ、彼らへのサプライズは続行できそうだ。

「うん、私の部屋まで運びたいんだけど、手伝ってもらえる?」

「わかった」

 ひとつひとつは大した重さではないチョコだが、こんなにも集まればそれなりの重量がある。本丸までは転移門を使って一瞬だったが、ここから部屋までとなるとなかなかに骨の折れる作業だった。ここで山姥切さんに出会えたのはラッキーだったかもしれない。

 部屋へ向かう道中、何人かの男士とすれ違う。みんな「おかえり」と声をかけてくれるが、山姥切さんの運ぶ荷物に言及する者はいない。彼が運んでくれることによって、何か業務的なものだと思われているのかもしれない。私が抱えて運んでいたなら、こうは行かなかっただろう。


「ここでいいのか?」

「うん、ありがとう!」

 二階の自室までチョコを運んでもらった。仕事を終えて部屋を出て行こうとする山姥切さんを慌てて止める。

「あ、山姥切さん!ちょっとまって!」

「なんだ、まだ何かやることが?」

 首をかしげる山姥切さんを手招きして呼び寄せる。そして、今しがた運んでもらった袋の中から、一つチョコを取り出す。


「山姥切さん、いつもありがとう!」

 そう言って差し出せば、彼はチョコと私を交互に見つめる。

「俺に……?」

「うん。日頃の感謝の気持ちです!審神者になってからずっと、山姥切さんにはお世話になりっぱなしだからね。改めて、ありがとう」

 初期刀の彼とは一番長く一緒に過ごしていることになる。思えば、2振目の刀である前田さんを鍛刀した時にも彼にはお世話になっている。本当に、一番最初から一緒に本丸を作ってきたパートナーだ。

「これ、開けてもいいのか?」

「うん、どーぞ」

 小さな箱の蓋を彼が開ける。

「これは……チョコレート?」

「そう。今日はバレンタインっていって、大切な人にチョコを送って気持ちを伝える日なんだよ」

 中身を確認した山姥切さんはそれを口に運ぶ。あまり得意ではないおかし作りだが、手伝ってもらったし、味もしっかり確認済みだ。それでもやっぱり、いざ食べるところを見るのは緊張する。

「……美味い」

 もぐもぐと黙って食べる彼を少しハラハラして見つめたが、その頬が緩むのを見てほっとする。短い感想だがそれだけで十分だ。嬉しそうなその顔がなによりもの感想だ。
 
「山姥切さんには一番最初に渡したかったから、よかったです」

 なんとなくだが、一番最初に渡すのは、一番はじめに出会った彼がいいと思っていたのだ。

「俺に、か?」

「そう、一番はじめの山姥切さんには一番はじめにありがとうって言いたかったの」

 改めていうのは照れるが、毎日お世話になっている感謝はきちんと伝えられたと思う。喜んでもらえたようでなによりだ。

「それじゃあ、このチョコ。みんなにも渡してくるね」

 いくつかチョコを別の袋に入れ替えて、小分けにする。さすがに全部持って周ることはできなさそうなので、何度か取りに戻ってくることにしたのだ。
 10個ほどを小さめの袋に詰め替えて、部屋を出ようとするが、山姥切さんに引き止められる。腕をつかまれる感覚に振り向けば、彼が目を伏せがちにしている。
 
「気持ちを伝える日、なんだろう。チョコはないが……あんたにはいつも感謝している。ありがとう」

 綺麗な瞳がまっすぐにこちらを見つめる。思わぬお返しに笑みが溢れ出てくる。喜んでもらおうと思ったのに、これでは立場が逆転してしまう。とんだサプライズだ。

「山姥切さん……私今、めちゃくちゃ嬉しい……!もう最高に好き!」

「俺だってあんたと同じ気持ちだ」

 感謝の気持ちを伝えるというのは、大切なことなのだと実感した。それだけで、こんなにも胸がいっぱいになるのだ。私と同じ喜びを山姥切さんも感じてくれていたのなら嬉しい限りだ。
 
「これからもよろしくね、山姥切さん」

「あぁ。俺はあんたの刀だからな。期待には応えるさ」
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