一章
名前変換
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【初めまして】
「つまり、私が刀たちを使って世界を救うってわけね!」
「少々大それた物言いな気はしますが、間違ってはおりません」
「よし、おっけー。その仕事引き受けたわ!」
「ありがとうございます。それではまず、最初の刀となります、初期刀を選んでください」
喋る不思議な狐。こんのすけと名乗った彼が5振の刀を取り出す。取り出す、という表現が正しいのかはわからないが、彼の目の前に刀がどこからともなく現れたのだ。
「えーっと……私、刀の違いとかわからないんだけど、どれを選んでもいいの?」
「構いませんよ。政府が認めた、最初の一振に不足の無い刀ばかりです」
そうは言われても、記念すべき私の1振目の刀だ。適当に選ぶのは違う気がする。でも選ぶ材料としては、刀の見た目くらいしかない。
「これ……かな。なんか綺麗な気がする!これにする!」
「かしこまりました。それでは本丸へ向かいましょう」
こんのすけがそういうのが早いか、床が光り始め、気が付いたら外に出ていた。ここは庭、だろうか。ぐるりと周りをとり囲う塀を見るに、目の前にある大きな建物の敷地の中みたいだ。
「ここが審神者様の本丸になります」
本丸、とは私の拠点となる場所らしい。そこに住むことになると聞いていたのだが、
「なんか、おっきいね……」
日本家屋、というのだろうか。おじいちゃんの家に似ている気もするが、とにかく規模が違う。決して煌びやかな見た目では無いが、大きさだけで言えば地主とかそれなりの役職の人が住んでいそうな、屋敷と呼ぶのがふさわしい建物だ。
「そうですね、これから多くの刀たちと過ごすことになりますので。これでも足りないかと思いますよ。必要であれば増築も可能です」
「は、はぁ〜そんなに大所帯になるのね……」
「はい、鍛刀したり、出陣して刀を見つけたりと、かなり増えることになりますよ」
簡単に引き受けてしまった審神者業だが、ここにきて少し気を引き締める。こんな大きな屋敷をひっぱるトップになるのだ。自然と背筋が伸びる。
こんのすけに案内され、まずは執務室へと案内された。そこで、先ほどの私が選んだ刀を取り出す。持ち慣れないそれはずっしりとした重みがある。
「それでは、彼を顕現させましょう」
「と。いうと?」
聞きなれない言葉に首をかしげる。
「先ほども申し上げました通り、あなたには審神者の素質があります。ですから、難しいことではないです。刀に力を込めるのです」
ふんわりとした説明だが、物は試しだ。とりあえずやってみる。刀に触れて、なんとなく心の中で「えいっ」と掛け声をかければ、その刀は人の姿となった。
「山姥切国広だ。……何だその目は。写しだというのが気になると?」
「お、おぉー!すっごい、人になった」
現れたのは、布をかぶった美青年。俯いた布の影からちらりと見える金色の髪が美しい。
「これが顕現です。刀に審神者様の力を込めることで、自ら刀を振るう刀剣男士となって現れるのです」
なるほど。特に難しいことは必要ないようだ。審神者の素質があるというのは便利らしい。
「あんたが俺の主か?」
布の下から綺麗な緑色の目が覗く。
「はい!審神者の苗字名前です」
「あぁー!!審神者様それは!!」
突然こんのすけが大声をあげる。
「な、なに!?」
「……俺は何も聞いていない。それでいいだろう」
「で、ですが……」
二人は何やら深刻な顔をしている。話を飲み込めていないのは私だけみたいだ。そんな様子を察したのか、こんのすけが説明をしてくれる。
──審神者は名を明かしてはいけない。
そのようなルールが存在しているわけではないのだが、これは暗黙の了解のようなものだという。
刀剣男士という存在にとって、名前とは私たち人間以上に意味を持つものらしい。
知られたからといってどうにかなるわけではない。だが稀にそれが原因ではないかと思われる事件なども発生しているようだ。
いわゆる『神隠し』と呼ばれる現象だ。審神者が突然その姿を消す。それに名前が関係しているのかということについては明らかになっていない。
ただ、古くより真名を知られると呪われるなどと言われてきた国だ。また西洋なんかでも悪魔を使役するのに名前を用いたりする。
そういった様々な要因が絡まりあって行き着いた結論というのが、「刀剣男士に名前を知られてはいけない」という暗黙の了解というわけだ。
そのため、名前は隠しておくのが一般的だという。
「そんなの知らないし……」
しかし、そんな審神者の常識は、新米の私にとっては初耳も当然。大事なことなら先に言っておいて欲しかった。
「すみません。政府の定めた規約というわけではないので、見落としておりました」
そんな風にこんのすけに頭を下げられれば、責めることはできない。
「まぁ、いっか。一応、山姥切国広さん?も今後私の名前は口にしないってことで、良いですか?」
「良いも何も、俺は何も聞いていないからな」
あくまでも聞いていないスタイルを突き通してくれるようだ。物分りの良い刀で助かった。
「じゃあ、改めて……初めまして、審神者です。よろしくお願いします。山姥切国広さん」
「あぁ。……写しの俺にあまり期待なんかするなよ」
「あ、私もまだまだ新米なんで、期待しちゃダメですよ。お手柔らかにお願いします」
彼の謙遜に、私の方も慌てて頭を下げる。
「写しに頭なんか下げてどうする。あんたは俺に命令すればいい」
「とは言っても、山姥切国広さんが初めての刀なんですよ!一緒に頑張りましょう!」
仲良くやっていこうという意味を込めて手を差し出すが、彼はふいっと横を向いてしまう。謙遜、と思ったが、これはなにやら別のものを感じる。なんというか、卑屈な感じだ。
「審神者様、私はそろそろ失礼します。」
タイミングをみてこんのすけが間に入ってくる。
「こちらをどうぞ」
そう言って渡されたのはなにやら電子端末だ。和風なこの空間にはあまり似つかわしくないが、現世で似たようだものを見たことがある私としては馴染み深い見た目だ。
「こちら審神者様の専用端末になります。本丸の管理などを行うためのものです。困ったときはこちらをみればとりあえずは解決するかと。まずは説明をご覧ください。私も定期的にこちらに参りますが、今日から貴方がこの本丸の主人です」
「それでは」と言い残すと彼はぽんっと消えてしまった。
さて、これから何をしようか。それはこの端末に書かれているのだろうが、なにぶん初めて触る機械。なんとなく起動する前にまじまじと見つめてしまう。
見た目は有名なメーカーのタブレットによく似ている。ボタンの位置なんかも大差なく、恐らく使い方は問題なさそうだ。
電源も点けずに端末を見つめたままの私を疑問に思ったのだろう。
「使い方がわからないのか?」
見当違いの心配ではあるが、表情を見るに彼は真剣だ。彼ら刀が使われていた時代からすればそれも当然か。こう言った端末を誰もが使っている私たちに比べてさらに馴染みのないことだろう。
「いえ、初めて触る機械なのでなんとなく気後れして」
「そうか。使い方はわかるんだな」
「なんとなくですけど……」
恐らく、私の時代のものとそう大きくは変わらないだろう。とりあえずこういう物は使ってみればわかるというものだ。
側面にある電源ボタンらしきものを押せば画面が点いた。そこに触れればチュートリアルのような説明をスクロールで操作できるみたいだ。使い方に関しては問題ないらしい。
山姥切国広さんはというと、隣でまじまじと画面を見つめている。きっと珍しいのだろう。特に見られて困るようなものでもないので、そのまま彼と一緒に画面を進めていく。
読み始めれば、中はわかりやすくまとまっているようで難なく読めてしまった。
最初の方は手順通りに進められるように丁寧に説明されている。端末によればまずは『鍛刀』を行うべきらしい。
「鍛刀部屋ってどこかわかる?」
そこに行って『鍛刀』とやらをするらしいのだが、この広い屋敷。庭からこの小さめの部屋まで真っ直ぐに歩いてきただけで、他に関しては一切わからない。
「写しに聞いてどうする?」
わからないならそう答えてくれればいいのに、いちいち卑屈な返答だ。しかし、「これじゃないのか?」と彼が画面の中に本丸の案内図を見つけてくれる。そこをタップすれば拡大して表示される。なんだかんだで親切だし、悪い刀でないのは確かだ。ただちょっと性格に難ありと言ったところか。
「これだ!ありがとう、助かりました」
お礼をいえば、「ふんっ」と外を向いてしまう。微妙に心をちくちく刺される。どうも近寄り難いというか、距離を詰めさせてくれない。
人の姿をしているとは言っても相手は神様。もしかしたらこんな人間に仕えるのなんて不本意なことなのかもしれない。もしそうならば、私はこの態度を受け入れるしかないみたいだ。
「……じゃあまずは、鍛刀部屋に行きましょうか」
2020.2.15 改稿
「つまり、私が刀たちを使って世界を救うってわけね!」
「少々大それた物言いな気はしますが、間違ってはおりません」
「よし、おっけー。その仕事引き受けたわ!」
「ありがとうございます。それではまず、最初の刀となります、初期刀を選んでください」
喋る不思議な狐。こんのすけと名乗った彼が5振の刀を取り出す。取り出す、という表現が正しいのかはわからないが、彼の目の前に刀がどこからともなく現れたのだ。
「えーっと……私、刀の違いとかわからないんだけど、どれを選んでもいいの?」
「構いませんよ。政府が認めた、最初の一振に不足の無い刀ばかりです」
そうは言われても、記念すべき私の1振目の刀だ。適当に選ぶのは違う気がする。でも選ぶ材料としては、刀の見た目くらいしかない。
「これ……かな。なんか綺麗な気がする!これにする!」
「かしこまりました。それでは本丸へ向かいましょう」
こんのすけがそういうのが早いか、床が光り始め、気が付いたら外に出ていた。ここは庭、だろうか。ぐるりと周りをとり囲う塀を見るに、目の前にある大きな建物の敷地の中みたいだ。
「ここが審神者様の本丸になります」
本丸、とは私の拠点となる場所らしい。そこに住むことになると聞いていたのだが、
「なんか、おっきいね……」
日本家屋、というのだろうか。おじいちゃんの家に似ている気もするが、とにかく規模が違う。決して煌びやかな見た目では無いが、大きさだけで言えば地主とかそれなりの役職の人が住んでいそうな、屋敷と呼ぶのがふさわしい建物だ。
「そうですね、これから多くの刀たちと過ごすことになりますので。これでも足りないかと思いますよ。必要であれば増築も可能です」
「は、はぁ〜そんなに大所帯になるのね……」
「はい、鍛刀したり、出陣して刀を見つけたりと、かなり増えることになりますよ」
簡単に引き受けてしまった審神者業だが、ここにきて少し気を引き締める。こんな大きな屋敷をひっぱるトップになるのだ。自然と背筋が伸びる。
こんのすけに案内され、まずは執務室へと案内された。そこで、先ほどの私が選んだ刀を取り出す。持ち慣れないそれはずっしりとした重みがある。
「それでは、彼を顕現させましょう」
「と。いうと?」
聞きなれない言葉に首をかしげる。
「先ほども申し上げました通り、あなたには審神者の素質があります。ですから、難しいことではないです。刀に力を込めるのです」
ふんわりとした説明だが、物は試しだ。とりあえずやってみる。刀に触れて、なんとなく心の中で「えいっ」と掛け声をかければ、その刀は人の姿となった。
「山姥切国広だ。……何だその目は。写しだというのが気になると?」
「お、おぉー!すっごい、人になった」
現れたのは、布をかぶった美青年。俯いた布の影からちらりと見える金色の髪が美しい。
「これが顕現です。刀に審神者様の力を込めることで、自ら刀を振るう刀剣男士となって現れるのです」
なるほど。特に難しいことは必要ないようだ。審神者の素質があるというのは便利らしい。
「あんたが俺の主か?」
布の下から綺麗な緑色の目が覗く。
「はい!審神者の苗字名前です」
「あぁー!!審神者様それは!!」
突然こんのすけが大声をあげる。
「な、なに!?」
「……俺は何も聞いていない。それでいいだろう」
「で、ですが……」
二人は何やら深刻な顔をしている。話を飲み込めていないのは私だけみたいだ。そんな様子を察したのか、こんのすけが説明をしてくれる。
──審神者は名を明かしてはいけない。
そのようなルールが存在しているわけではないのだが、これは暗黙の了解のようなものだという。
刀剣男士という存在にとって、名前とは私たち人間以上に意味を持つものらしい。
知られたからといってどうにかなるわけではない。だが稀にそれが原因ではないかと思われる事件なども発生しているようだ。
いわゆる『神隠し』と呼ばれる現象だ。審神者が突然その姿を消す。それに名前が関係しているのかということについては明らかになっていない。
ただ、古くより真名を知られると呪われるなどと言われてきた国だ。また西洋なんかでも悪魔を使役するのに名前を用いたりする。
そういった様々な要因が絡まりあって行き着いた結論というのが、「刀剣男士に名前を知られてはいけない」という暗黙の了解というわけだ。
そのため、名前は隠しておくのが一般的だという。
「そんなの知らないし……」
しかし、そんな審神者の常識は、新米の私にとっては初耳も当然。大事なことなら先に言っておいて欲しかった。
「すみません。政府の定めた規約というわけではないので、見落としておりました」
そんな風にこんのすけに頭を下げられれば、責めることはできない。
「まぁ、いっか。一応、山姥切国広さん?も今後私の名前は口にしないってことで、良いですか?」
「良いも何も、俺は何も聞いていないからな」
あくまでも聞いていないスタイルを突き通してくれるようだ。物分りの良い刀で助かった。
「じゃあ、改めて……初めまして、審神者です。よろしくお願いします。山姥切国広さん」
「あぁ。……写しの俺にあまり期待なんかするなよ」
「あ、私もまだまだ新米なんで、期待しちゃダメですよ。お手柔らかにお願いします」
彼の謙遜に、私の方も慌てて頭を下げる。
「写しに頭なんか下げてどうする。あんたは俺に命令すればいい」
「とは言っても、山姥切国広さんが初めての刀なんですよ!一緒に頑張りましょう!」
仲良くやっていこうという意味を込めて手を差し出すが、彼はふいっと横を向いてしまう。謙遜、と思ったが、これはなにやら別のものを感じる。なんというか、卑屈な感じだ。
「審神者様、私はそろそろ失礼します。」
タイミングをみてこんのすけが間に入ってくる。
「こちらをどうぞ」
そう言って渡されたのはなにやら電子端末だ。和風なこの空間にはあまり似つかわしくないが、現世で似たようだものを見たことがある私としては馴染み深い見た目だ。
「こちら審神者様の専用端末になります。本丸の管理などを行うためのものです。困ったときはこちらをみればとりあえずは解決するかと。まずは説明をご覧ください。私も定期的にこちらに参りますが、今日から貴方がこの本丸の主人です」
「それでは」と言い残すと彼はぽんっと消えてしまった。
さて、これから何をしようか。それはこの端末に書かれているのだろうが、なにぶん初めて触る機械。なんとなく起動する前にまじまじと見つめてしまう。
見た目は有名なメーカーのタブレットによく似ている。ボタンの位置なんかも大差なく、恐らく使い方は問題なさそうだ。
電源も点けずに端末を見つめたままの私を疑問に思ったのだろう。
「使い方がわからないのか?」
見当違いの心配ではあるが、表情を見るに彼は真剣だ。彼ら刀が使われていた時代からすればそれも当然か。こう言った端末を誰もが使っている私たちに比べてさらに馴染みのないことだろう。
「いえ、初めて触る機械なのでなんとなく気後れして」
「そうか。使い方はわかるんだな」
「なんとなくですけど……」
恐らく、私の時代のものとそう大きくは変わらないだろう。とりあえずこういう物は使ってみればわかるというものだ。
側面にある電源ボタンらしきものを押せば画面が点いた。そこに触れればチュートリアルのような説明をスクロールで操作できるみたいだ。使い方に関しては問題ないらしい。
山姥切国広さんはというと、隣でまじまじと画面を見つめている。きっと珍しいのだろう。特に見られて困るようなものでもないので、そのまま彼と一緒に画面を進めていく。
読み始めれば、中はわかりやすくまとまっているようで難なく読めてしまった。
最初の方は手順通りに進められるように丁寧に説明されている。端末によればまずは『鍛刀』を行うべきらしい。
「鍛刀部屋ってどこかわかる?」
そこに行って『鍛刀』とやらをするらしいのだが、この広い屋敷。庭からこの小さめの部屋まで真っ直ぐに歩いてきただけで、他に関しては一切わからない。
「写しに聞いてどうする?」
わからないならそう答えてくれればいいのに、いちいち卑屈な返答だ。しかし、「これじゃないのか?」と彼が画面の中に本丸の案内図を見つけてくれる。そこをタップすれば拡大して表示される。なんだかんだで親切だし、悪い刀でないのは確かだ。ただちょっと性格に難ありと言ったところか。
「これだ!ありがとう、助かりました」
お礼をいえば、「ふんっ」と外を向いてしまう。微妙に心をちくちく刺される。どうも近寄り難いというか、距離を詰めさせてくれない。
人の姿をしているとは言っても相手は神様。もしかしたらこんな人間に仕えるのなんて不本意なことなのかもしれない。もしそうならば、私はこの態度を受け入れるしかないみたいだ。
「……じゃあまずは、鍛刀部屋に行きましょうか」
2020.2.15 改稿