好きになって欲しい
名前変換
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やった。いや、やってしまった。
結果として良いのか悪いのか、それは俺には判断できないところだ。
名前さんに名前で呼ばれた。
元からそんなにこだわってたわけではなかった。確かに先輩たちは名前呼びで、自分だけ苗字呼びなことがあまり気に食わなかったのは事実だ。一年の学年の差を見せつけられているようなそんな気になっていたのだ。しかし、羨ましいと思う程度に止まっていて、わざわざ名前で呼んでくださいなんて言ってしまったのは、あの場の空気に流されてしまったからだろう。
でも、実際に名前で呼ばれてみるとなんとも言い難いこそばゆさが胸の仲に広がった。顔を真っ赤にして、いっぱいいっぱいだという様子で俺の名前を口にした先輩は、俺の心を一瞬で鷲掴みにした。好きな人が自分のことを思って泣きそうになっている様子は想像していたよりもずっと可愛くて、もっと彼女に夢中にさせられてしまった。
この人をもっと俺でいっぱいにしたい。俺のことしか考えられんようにしたい。俺のことで困ってほしい。悩んでほしい。もうなんも手につかんようになったらええのに。
明らかに俺のことを意識している名前さんを見ていると期待が止まらなくなってしまう。嫌がらんってことは少なくとも嫌われてはいないんじゃないか。止めないってことはこのまましてもええんやろか。もしかしたら名前さんもちょっとは俺のこと……
好きな人を目の前にして男子中学生の脳内はもう爆発寸前だった。もうまともに考えることもできなくて、ただひたすら「名前さんが好き」その思いでいっぱいだった。
「おい、聞いとるんか!」
パシンっと後頭部を軽く叩かれる。
「何するんすか、謙也さん。あんたと違って俺は叩いても治りませんよ」
「俺かて治らんわ!お前がボケーっとしてるからやろ」
「いや、謙也さんが邪魔しんかったら名前さんとキスできたのになーって考えてました」
こちらから確信をついてやると、謙也さんはちょっと赤くなってたじろぐ。なんであんたが赤くなんねん。
「な、なぁ、お前ら付き合ってるん?」
一番聞きたかったであろう質問を投げかけてくる謙也さん。まぁ、いきなりマネージャーと後輩がキスしようとしてるとこなんか見せられたら気にもなるだろう。
「付き合ってないっすよ」
「な!やったら無理矢理しようとしたんか!?」
「ちゃいますって。合意の上です」
多分、と心の中で付け加える。拒否されなかったのだからセーフ、というのはかなりの暴論かもしれないが、舞い上がっている俺にとってはそんなこと気にしていられなかった。
「え、ちゅーことは名前は財前のことが好きなんか!?」
「どうでしょうね。少なくとも俺は名前さんのことが好きですけど」
「いや、でも、好きでも無い相手とチューとかしようとしんやろ……知らんかったなぁー」
名前さんが俺のことを好きだという方向で勝手に納得してる謙也さん。俺は別にそれでも構わないが、実際のところはわからない。今までにそんなそぶりを見せられたことはなかったし、今回のこともきっと突然のことに驚いてしまったゆえの反応だろう。
今はそれでも構わない。ただの後輩だった俺のポジションが、名前さんの中で意識している男に大幅にランクアップしたのだ。それだけでも大きな進歩だ。
「ほんで、告白はいつするん?両思いなんやったらもう成功100%みたいなもんやろ!」
名前さんの気持ちを勘違いしている謙也さんは勝手に盛り上がっているが、それを無視してメールを打ち込む。相手はもちろん名前さんだ。
「お?なんやなんや。メールで告白か?財前らしいっちゃらしいけど、男やったら直接当たって砕けんといかんやろ!」
「うるさいっすわ。告白とちゃうし、そもそも砕ける気ないんで」
横から勝手に覗き込んでくる謙也さんを避けてさっさと先を歩く。
「そんじゃまた、謙也さん」
逃げるように謙也さんとは別方向の道を選んでメールに集中する。後ろで何か言っているのが聞こえるが、無視だ。
何度か打ち直してメールを送信する。
このメールをみてきっと名前さんはまた俺のことを考えてくれるんだ。その顔を想像してまた胸がぎゅっとなる。
部長と2人で帰ってしまったのは、もう当たり前のこととはいえ気にならないわけではなかった。でも名前さんは部長といても俺のことを考えてたりするんじゃないかと期待するだけで、ちょっとした背徳感がある。もしこのメールが部長といる時に届いたなら、俺が名前さんの中を塗り替えてしまっているんじゃないか。
我ながらちょっと気持ち悪いな、と思ったりもするが仕方ない。これが恋というものなのだろう。
正直今まで、俺に勝ち目は無いと思っていた。
名前さんの気持ちはわからなかったが、少なくとも部長は名前さんのことを気にしていると思う。「付き合ってへんよな」と2人笑いあって、そのあとに名前さんを見つめる部長の顔を見て確信した。彼女は部長が噂について迷惑してる、なんて言っていたが、きっと部長はその噂のせいで名前さんとの関係を上手く進展させられないことに対して困っているんやと思う。ただの俺の勘でしか無いが、間違っているならべつにそれでいい。
間違っていたとしても、部長の気持ちが名前さんに向いていなくても、結局ただの後輩というポジションの俺には勝ち目なんてなかった。
でも違う。名前さんは俺のことを意識してくれた。これからが大事なところだろう。意識させたところで、落とさなければいけない。
反応は悪くなかったと思うが、彼女の本心が気になるところだ。
「返信、まだこぉへんな」
送ってからもう三時間ほど経っただろうか。
メールが届いたことを知らせる通知音はならない。聞き逃したかも、と思って何度か画面を確認しているが、やはり届いていない。
あの場の空気に流されただけで、本当は嫌やったんやろうか。強引すぎた?もうメールするのすら嫌になってしまったんやろか。
一度嫌な方へ考えてしまうと、思考はどんどん沈んでいく。さっきまで舞い上がっていたのが嘘のようだ。
ベッドの上で携帯を確認してはため息をつく作業をしているうちに眠ってしまっていたらしい。何かの音で目をさます。寝起きでぼーっとする頭を働かせて、いったい何の音かとあたりを見る。
目に入ったのは携帯。メールの受信を告げる通知音だ。
眠たかった目が一気に覚める。確認すれば、それは待ちに待った名前さんからの返信。
『じゃあこれからは光くんて呼ぶ』
たったそれだけ。待ちに待った返信はたったそれだけなのに、完全に沈み込んでいた俺をいっきに引き上げてくれた。
好き。めちゃくちゃに好き。
返事が遅かったとか、そんなことはもう吹き飛んでいた。
そのまま名前さんに再度メールを送る。
『めっちゃ嬉しいっすわ。
明日、朝一緒に学校行きませんか?
家まで迎えに行きます。』
手早く本文を打ち込んで送信。
しばらく待ってみたものの、返信は無い。もう寝てしまったのだろうか?明日の朝、メールをみた彼女はどんな反応をするのだろうか。
期待に胸を踊らせて、今度は心地よい眠りについた。
結果として良いのか悪いのか、それは俺には判断できないところだ。
名前さんに名前で呼ばれた。
元からそんなにこだわってたわけではなかった。確かに先輩たちは名前呼びで、自分だけ苗字呼びなことがあまり気に食わなかったのは事実だ。一年の学年の差を見せつけられているようなそんな気になっていたのだ。しかし、羨ましいと思う程度に止まっていて、わざわざ名前で呼んでくださいなんて言ってしまったのは、あの場の空気に流されてしまったからだろう。
でも、実際に名前で呼ばれてみるとなんとも言い難いこそばゆさが胸の仲に広がった。顔を真っ赤にして、いっぱいいっぱいだという様子で俺の名前を口にした先輩は、俺の心を一瞬で鷲掴みにした。好きな人が自分のことを思って泣きそうになっている様子は想像していたよりもずっと可愛くて、もっと彼女に夢中にさせられてしまった。
この人をもっと俺でいっぱいにしたい。俺のことしか考えられんようにしたい。俺のことで困ってほしい。悩んでほしい。もうなんも手につかんようになったらええのに。
明らかに俺のことを意識している名前さんを見ていると期待が止まらなくなってしまう。嫌がらんってことは少なくとも嫌われてはいないんじゃないか。止めないってことはこのまましてもええんやろか。もしかしたら名前さんもちょっとは俺のこと……
好きな人を目の前にして男子中学生の脳内はもう爆発寸前だった。もうまともに考えることもできなくて、ただひたすら「名前さんが好き」その思いでいっぱいだった。
「おい、聞いとるんか!」
パシンっと後頭部を軽く叩かれる。
「何するんすか、謙也さん。あんたと違って俺は叩いても治りませんよ」
「俺かて治らんわ!お前がボケーっとしてるからやろ」
「いや、謙也さんが邪魔しんかったら名前さんとキスできたのになーって考えてました」
こちらから確信をついてやると、謙也さんはちょっと赤くなってたじろぐ。なんであんたが赤くなんねん。
「な、なぁ、お前ら付き合ってるん?」
一番聞きたかったであろう質問を投げかけてくる謙也さん。まぁ、いきなりマネージャーと後輩がキスしようとしてるとこなんか見せられたら気にもなるだろう。
「付き合ってないっすよ」
「な!やったら無理矢理しようとしたんか!?」
「ちゃいますって。合意の上です」
多分、と心の中で付け加える。拒否されなかったのだからセーフ、というのはかなりの暴論かもしれないが、舞い上がっている俺にとってはそんなこと気にしていられなかった。
「え、ちゅーことは名前は財前のことが好きなんか!?」
「どうでしょうね。少なくとも俺は名前さんのことが好きですけど」
「いや、でも、好きでも無い相手とチューとかしようとしんやろ……知らんかったなぁー」
名前さんが俺のことを好きだという方向で勝手に納得してる謙也さん。俺は別にそれでも構わないが、実際のところはわからない。今までにそんなそぶりを見せられたことはなかったし、今回のこともきっと突然のことに驚いてしまったゆえの反応だろう。
今はそれでも構わない。ただの後輩だった俺のポジションが、名前さんの中で意識している男に大幅にランクアップしたのだ。それだけでも大きな進歩だ。
「ほんで、告白はいつするん?両思いなんやったらもう成功100%みたいなもんやろ!」
名前さんの気持ちを勘違いしている謙也さんは勝手に盛り上がっているが、それを無視してメールを打ち込む。相手はもちろん名前さんだ。
「お?なんやなんや。メールで告白か?財前らしいっちゃらしいけど、男やったら直接当たって砕けんといかんやろ!」
「うるさいっすわ。告白とちゃうし、そもそも砕ける気ないんで」
横から勝手に覗き込んでくる謙也さんを避けてさっさと先を歩く。
「そんじゃまた、謙也さん」
逃げるように謙也さんとは別方向の道を選んでメールに集中する。後ろで何か言っているのが聞こえるが、無視だ。
何度か打ち直してメールを送信する。
このメールをみてきっと名前さんはまた俺のことを考えてくれるんだ。その顔を想像してまた胸がぎゅっとなる。
部長と2人で帰ってしまったのは、もう当たり前のこととはいえ気にならないわけではなかった。でも名前さんは部長といても俺のことを考えてたりするんじゃないかと期待するだけで、ちょっとした背徳感がある。もしこのメールが部長といる時に届いたなら、俺が名前さんの中を塗り替えてしまっているんじゃないか。
我ながらちょっと気持ち悪いな、と思ったりもするが仕方ない。これが恋というものなのだろう。
正直今まで、俺に勝ち目は無いと思っていた。
名前さんの気持ちはわからなかったが、少なくとも部長は名前さんのことを気にしていると思う。「付き合ってへんよな」と2人笑いあって、そのあとに名前さんを見つめる部長の顔を見て確信した。彼女は部長が噂について迷惑してる、なんて言っていたが、きっと部長はその噂のせいで名前さんとの関係を上手く進展させられないことに対して困っているんやと思う。ただの俺の勘でしか無いが、間違っているならべつにそれでいい。
間違っていたとしても、部長の気持ちが名前さんに向いていなくても、結局ただの後輩というポジションの俺には勝ち目なんてなかった。
でも違う。名前さんは俺のことを意識してくれた。これからが大事なところだろう。意識させたところで、落とさなければいけない。
反応は悪くなかったと思うが、彼女の本心が気になるところだ。
「返信、まだこぉへんな」
送ってからもう三時間ほど経っただろうか。
メールが届いたことを知らせる通知音はならない。聞き逃したかも、と思って何度か画面を確認しているが、やはり届いていない。
あの場の空気に流されただけで、本当は嫌やったんやろうか。強引すぎた?もうメールするのすら嫌になってしまったんやろか。
一度嫌な方へ考えてしまうと、思考はどんどん沈んでいく。さっきまで舞い上がっていたのが嘘のようだ。
ベッドの上で携帯を確認してはため息をつく作業をしているうちに眠ってしまっていたらしい。何かの音で目をさます。寝起きでぼーっとする頭を働かせて、いったい何の音かとあたりを見る。
目に入ったのは携帯。メールの受信を告げる通知音だ。
眠たかった目が一気に覚める。確認すれば、それは待ちに待った名前さんからの返信。
『じゃあこれからは光くんて呼ぶ』
たったそれだけ。待ちに待った返信はたったそれだけなのに、完全に沈み込んでいた俺をいっきに引き上げてくれた。
好き。めちゃくちゃに好き。
返事が遅かったとか、そんなことはもう吹き飛んでいた。
そのまま名前さんに再度メールを送る。
『めっちゃ嬉しいっすわ。
明日、朝一緒に学校行きませんか?
家まで迎えに行きます。』
手早く本文を打ち込んで送信。
しばらく待ってみたものの、返信は無い。もう寝てしまったのだろうか?明日の朝、メールをみた彼女はどんな反応をするのだろうか。
期待に胸を踊らせて、今度は心地よい眠りについた。