好きになって欲しい
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「俺が一番や!」
ドアが開いたのが先か、彼の声が聞こえたのが先か。スピードスターの登場に私たちの唇は触れることなく離れた。
「け、謙也くん!?」
慌てて体を離したが、しっかり握られた手を財前くんは離してくれなかった。
「お、おぅ……名前。えっと、なんか……」
謙也くんの反応を見るにばっちり見られている。現在進行形でしっかり繋がれた手が言い訳をさせてくれない。
「なんや、謙也。財前おらんのか?」
入り口で立ったままだった謙也くんの後ろから顔を覗かせたのは蔵だった。
「おるやん。あれ?名前も一緒やったん?」
「なんすか謙也さん、入ってくるなり放心して。ついにスピードに着いていけんと頭が故障したんやないですか?」
そういいながら立ち上がって、財前くんの手がようやく離れた。
「な、なんやと。財前!」
財前くんのいつもの憎まれ口に、若干切れ味を落としつつ答える謙也くん。その視線は財前くんと私を行き来している。
「もう部活終わったんすか」
「おん、まだおるかと思って見にきてん。みんな帰り始めてるで」
窓の外を見れば校庭に人はまばらだ。いつのまにかチャイムが鳴っていたらしい。
「やー、全然気づきませんでしたわ。ね、名前さん?」
「そ、やね。もうこんな時間やったんや」
こちらを振り向く財前くんから目をそらしてうなずく。謙也くんがそわそわしているのもあって、見られたことが気になりうまく言葉が出てこない。反応を見る限りでは、蔵には気づかれてないと思うけど。それでも財前くんと謙也くんにどうやって接していいものか悩んでしまう。
「チャイムも聞こえんなんて、何をそんなに集中しとったんや」
笑いながら言う蔵の言葉に深い意味は無いのだろうが、さっきまでのことを思い出してしまう。なんとか顔に出ないように、必死に平然を装う。
「別に、ただちょっとおしゃべりに夢中になってただけっすわ。名前さんとゆっくり喋ることあんまないんで」
財前くんは何事もなかったかのようだ。どうしてそんなに平然としていられるんだろう。対して謙也くんは当事者でもないのになぜかわたわたとしている。蔵の目に入っていないのが幸いだ。
「もう遅いし、帰ろか」
「あ、あー!そうや、俺財前と用事あってん!な!財前!俺も戸締り手伝ったるから一緒に帰ろな!ってことでまた!」
どう見ても様子のおかしい謙也くんに図書室を追い出される。蔵も一緒だ。あの2人と一緒に帰るのも気まずいので、ラッキーと言えばそうだが、大方謙也くんは財前くんにいろいろ聞きたいことがあるのだろう。彼がどこまで話すのかわからないが、明日謙也くんに会うのがますます怖くなってしまう。
「なんや、謙也のやつ。どう考えてもなんか隠してるやんな?」
顔を覗き込まれるが、謙也くんの隠しごとに無関係ではないので、なんとなく反応をにごしてしまう。彼を追い詰めれば自分の首を絞めることになる。
「あー、なんやろうね。まぁ謙也くんがおかしいのはいつものことやん?」
謙也くんごめんなさい。適当にごまかしたつもりだったが、「それもそうか?」なんて蔵も納得してる。
「ほな、帰ろか」
帰り道が途中まで一緒の私たちは自然と一緒に帰路についた。
幸いなことに謙也くんの話題はそれで終わりで、話題は今日の部活のことが中心になっていった。部活のことを話す蔵はすごく楽しそうだ。そんな蔵の話を聞いていて、私もいつもの調子に戻れたような気がしていた。
「そういや、今日はずっと図書室におったん?」
心臓が飛び跳ねた。急に話題を戻すものだからびっくりした。
返事の無い私に首をかしげてさらに続ける。
「財前と仲良かったんやな。なんや、意外な組み合わせでびっくりしたわ」
大丈夫。蔵には何も見られてないはずだ。現に今だって、別に何かを探ろうとしている様子はない。きっと単純に意外な組み合わせだったことを疑問に思っているだけだろう。
「部活行こうと思ってんけど、途中でざ……光くんに会うて、暇つぶしに付き合ってくれって誘われてん」
図書室でのやり取りを思い出し、なんとなく、『光くん』と呼びなおしてしまった。本人のいないところでなら幾分か緊張も少ない。
「ほんでそれが意外に盛り上がってなー」
「へぇー、財前がなぁ。名前に懐いてるんやなぁ」
蔵に変わった様子は無い。大丈夫。嘘は言ってないし、悟られる心配は無いだろう。
そうこうしているうちに蔵とは分かれる場所まで来てしまっていた。
「ほな、また明日!」
「おん、またね」
いつも通り、いつもの場所で蔵と分かれる。
曲がり角を曲がって、蔵の姿が完全に見えなくなったところで緊張の糸が解けてふぅーっとため息をついた。やっと心が休まった気がする。
いつも通り部活に行っていればこんな気持ちにならなかっただろうか。
やっと落ち着いた頭に浮かんでくるのは図書室での財前くんばかりだ。あの時の重たく甘い空気を思い出すだけでじわじわと顔が熱くなる。
生意気でかわいかった後輩が、私の仲で急に男の子に変わってしまった。そんなの意識するなというのが無理な話だ。
ブブッと突然震える携帯に大きく体が跳ねた。
ポケットに入れていた携帯がメールが届いていることを伝えている。送り主は
「光……くん」
彼の名前をそっとつぶやいてみる。なんてことはない。仲が良くなれば下の名前で呼ぶことはなにも特別な事では無い。でも、名前を呼んだ時の彼の顔を思い出すとどうしても恥ずかしくなってしまうのだ。あんなにも嬉しそうに笑う彼を見たのは初めてだった。
意識しまくっている最中の彼からのメールに再び緊張が戻ってくる。中身を見る勇気が出ず、そのまま携帯を閉じ、足早に家に帰った。
結局メールの中身を確認できたのは寝る直前になってからだった。
『今日はいきなりすいませんでした。
名前さんの気持ちも考えんと、しそうになってしまって。
でも、俺は嬉しかったです。また名前で呼んでくださいね』
たっぷり焦らしてしまったために、返信にさらに悩むことになったのだが、遅い時間だし、もう眠っているだろうと簡潔に文字を打ち込むと勢いで送信してしまった。
そのすぐあと、再び携帯が鳴っていることに気づかないまま、隠れるように布団に潜って眠りに落ちてしまっていた。
ドアが開いたのが先か、彼の声が聞こえたのが先か。スピードスターの登場に私たちの唇は触れることなく離れた。
「け、謙也くん!?」
慌てて体を離したが、しっかり握られた手を財前くんは離してくれなかった。
「お、おぅ……名前。えっと、なんか……」
謙也くんの反応を見るにばっちり見られている。現在進行形でしっかり繋がれた手が言い訳をさせてくれない。
「なんや、謙也。財前おらんのか?」
入り口で立ったままだった謙也くんの後ろから顔を覗かせたのは蔵だった。
「おるやん。あれ?名前も一緒やったん?」
「なんすか謙也さん、入ってくるなり放心して。ついにスピードに着いていけんと頭が故障したんやないですか?」
そういいながら立ち上がって、財前くんの手がようやく離れた。
「な、なんやと。財前!」
財前くんのいつもの憎まれ口に、若干切れ味を落としつつ答える謙也くん。その視線は財前くんと私を行き来している。
「もう部活終わったんすか」
「おん、まだおるかと思って見にきてん。みんな帰り始めてるで」
窓の外を見れば校庭に人はまばらだ。いつのまにかチャイムが鳴っていたらしい。
「やー、全然気づきませんでしたわ。ね、名前さん?」
「そ、やね。もうこんな時間やったんや」
こちらを振り向く財前くんから目をそらしてうなずく。謙也くんがそわそわしているのもあって、見られたことが気になりうまく言葉が出てこない。反応を見る限りでは、蔵には気づかれてないと思うけど。それでも財前くんと謙也くんにどうやって接していいものか悩んでしまう。
「チャイムも聞こえんなんて、何をそんなに集中しとったんや」
笑いながら言う蔵の言葉に深い意味は無いのだろうが、さっきまでのことを思い出してしまう。なんとか顔に出ないように、必死に平然を装う。
「別に、ただちょっとおしゃべりに夢中になってただけっすわ。名前さんとゆっくり喋ることあんまないんで」
財前くんは何事もなかったかのようだ。どうしてそんなに平然としていられるんだろう。対して謙也くんは当事者でもないのになぜかわたわたとしている。蔵の目に入っていないのが幸いだ。
「もう遅いし、帰ろか」
「あ、あー!そうや、俺財前と用事あってん!な!財前!俺も戸締り手伝ったるから一緒に帰ろな!ってことでまた!」
どう見ても様子のおかしい謙也くんに図書室を追い出される。蔵も一緒だ。あの2人と一緒に帰るのも気まずいので、ラッキーと言えばそうだが、大方謙也くんは財前くんにいろいろ聞きたいことがあるのだろう。彼がどこまで話すのかわからないが、明日謙也くんに会うのがますます怖くなってしまう。
「なんや、謙也のやつ。どう考えてもなんか隠してるやんな?」
顔を覗き込まれるが、謙也くんの隠しごとに無関係ではないので、なんとなく反応をにごしてしまう。彼を追い詰めれば自分の首を絞めることになる。
「あー、なんやろうね。まぁ謙也くんがおかしいのはいつものことやん?」
謙也くんごめんなさい。適当にごまかしたつもりだったが、「それもそうか?」なんて蔵も納得してる。
「ほな、帰ろか」
帰り道が途中まで一緒の私たちは自然と一緒に帰路についた。
幸いなことに謙也くんの話題はそれで終わりで、話題は今日の部活のことが中心になっていった。部活のことを話す蔵はすごく楽しそうだ。そんな蔵の話を聞いていて、私もいつもの調子に戻れたような気がしていた。
「そういや、今日はずっと図書室におったん?」
心臓が飛び跳ねた。急に話題を戻すものだからびっくりした。
返事の無い私に首をかしげてさらに続ける。
「財前と仲良かったんやな。なんや、意外な組み合わせでびっくりしたわ」
大丈夫。蔵には何も見られてないはずだ。現に今だって、別に何かを探ろうとしている様子はない。きっと単純に意外な組み合わせだったことを疑問に思っているだけだろう。
「部活行こうと思ってんけど、途中でざ……光くんに会うて、暇つぶしに付き合ってくれって誘われてん」
図書室でのやり取りを思い出し、なんとなく、『光くん』と呼びなおしてしまった。本人のいないところでなら幾分か緊張も少ない。
「ほんでそれが意外に盛り上がってなー」
「へぇー、財前がなぁ。名前に懐いてるんやなぁ」
蔵に変わった様子は無い。大丈夫。嘘は言ってないし、悟られる心配は無いだろう。
そうこうしているうちに蔵とは分かれる場所まで来てしまっていた。
「ほな、また明日!」
「おん、またね」
いつも通り、いつもの場所で蔵と分かれる。
曲がり角を曲がって、蔵の姿が完全に見えなくなったところで緊張の糸が解けてふぅーっとため息をついた。やっと心が休まった気がする。
いつも通り部活に行っていればこんな気持ちにならなかっただろうか。
やっと落ち着いた頭に浮かんでくるのは図書室での財前くんばかりだ。あの時の重たく甘い空気を思い出すだけでじわじわと顔が熱くなる。
生意気でかわいかった後輩が、私の仲で急に男の子に変わってしまった。そんなの意識するなというのが無理な話だ。
ブブッと突然震える携帯に大きく体が跳ねた。
ポケットに入れていた携帯がメールが届いていることを伝えている。送り主は
「光……くん」
彼の名前をそっとつぶやいてみる。なんてことはない。仲が良くなれば下の名前で呼ぶことはなにも特別な事では無い。でも、名前を呼んだ時の彼の顔を思い出すとどうしても恥ずかしくなってしまうのだ。あんなにも嬉しそうに笑う彼を見たのは初めてだった。
意識しまくっている最中の彼からのメールに再び緊張が戻ってくる。中身を見る勇気が出ず、そのまま携帯を閉じ、足早に家に帰った。
結局メールの中身を確認できたのは寝る直前になってからだった。
『今日はいきなりすいませんでした。
名前さんの気持ちも考えんと、しそうになってしまって。
でも、俺は嬉しかったです。また名前で呼んでくださいね』
たっぷり焦らしてしまったために、返信にさらに悩むことになったのだが、遅い時間だし、もう眠っているだろうと簡潔に文字を打ち込むと勢いで送信してしまった。
そのすぐあと、再び携帯が鳴っていることに気づかないまま、隠れるように布団に潜って眠りに落ちてしまっていた。