確かな光。(いつの間にか晴れ。0.7)

夢を見てた 何度も何度も。
眩しい朝 確かな光が



ヒリヒリと傷が痛む。これは突風による裂傷。
絶望を歌い奏でる彼女らのこれは嘆きの声だ。
自分以外の仲間が空に舞う。このままではいけない…!

【進むなら、護り抜け。】

そうだ、護り抜く。私、私は-----------------------
折れるわけには行かないのだ。誰のためでもなく自分のために。
私が、彼らの、彼女らのいる世界を、護り抜く。それは誰の願いでもない
私自身の願いであるのだから。

「だめ…待って!!!!!!!!」

遠くに聞こえるアリゼーの言葉は聞こえないことにした。転送機器をつかって皆をラグナロクにもどす。そして…
ーーーーさあ、やってやろうじゃないか。
何時もそうしてきたように。やろうと思ってできなかったことなんかないのだと、
私は今、ここでそれを証明してみせる------------------!


「ぁぁぁぁ!!! ・・・・ったー…」
過去あった出来事を夢に見ていた真っ最中、唐突に走る激痛に一気に目が覚める。ズキズキと額の上から頭を貫くような頭痛。
最近ウルティマ・トゥーレから戻りバルデシオン分館の中にあるナップルームで養生しているが、この頭痛で強制的に眠りから起こされることが多々ある。
なんとも…まだ本調子ではない、と宣告されている気がして気分が悪い。
然しずっと続くわけではなく徐々に痛みは消えていくから、暫くこのまま。それが過ぎ去るまで耐える。

「はあ・・・・・・・・・」

この痛みは、自分で負ってきた物なのだからどうしようもないものだ。判ってる。
だから誰かにどうとも言える話ではないし、言うつもりもない。ただ耐えるだけだ。誰にも気づかれないように。
これは私の中のまだ続いている戦い。…………でもそれを許さないという人がいる。
耐える為に荒くなる息をなんとか抑えるように身体を丸める。と、まるで判っていたかのように部屋へやって来るのだ。
-----------------------この人が。

「…大丈夫か?………! お前!」
額に浮かぶ汗を、大きな手がぬぐう。
ああ、この声は。

「----------だい、じょうぶ…。」
有難う…サンクレッド。
私は眼を閉じたまま、微かにそう答えた。


荒くなった息が漸くおさまると、私はうっすら眼を開けた。ぼんやりした視界の先、ベッドの端に見慣れた白いコートが断片として見える。
私の汗を拭った彼の掌は、今私の頭を緩やかに撫で擦っていた。

「はぁ…もう、大丈夫。ごめんなさい」
「謝るな。……痛みはもうないのか。」
「…無いよ。」

全くもって信用していないような音を声色に感じ、私は信じさせるためにも身を起こした。

「ほら。ね?」
問題ないでしょ?と見せるためにきっちり背を伸ばしてみせると、「…さっきまで、苦しがっていたのに。」とか言いながらもサンクレッドは私の頭にぽん、と手を載せた。

「そうみたいだな。…まあ、あまり無理するなよ。」
「してないよ。有難う。」
ふんわり笑いながらそう言うと、苦笑しながらもじゃあな、とサンクレッドは部屋を出ていった。
…扉がきっちりしまったのを見届け、体内にあった空気を全て外へ吐き出す。

皆、私が暁…仲間だから、心配してくれるのだと思うのだけれど、とにかく優しい。
こんな風に何時も気にかけてくれる。正直申し訳ないくらいだ。
特にサンクレッドは私が例えば今のように痛みに苛まれている時や、参っているときに必ずやってくる。…何故なのか、解らないけれど。
然し偶にそれが苦しく思う時がある。彼の人にそんな風に、気にかけて貰える資格が私には、ない。
偶にあまりに優しすぎて…苦しくなる。
---------------------------お願いだからもう、私に手を伸ばさないで。
先程の頭の痛みとはまた別の、胸の奥が酷く軋む痛みに思わず私は着ていたシャツの胸元を握りしめた。
その手に、縋ってしまいたくなるから。
そんな無様な姿は、見せたくないのに。




扉を閉めた後、俺は暫く彼女の部屋の前から動けなかった。
とても苦しそうにしていた。…なのに彼女はそれを、決して仲間には見せないようにする。まるで、見られる事を恐れているかのように。
心配をかけたくない思いからなのか、どうなのか。ただそれが、俺にはまるで見えない壁に阻まれているようで歯がゆい。
眼の前で泣いているならその涙を拭ってやりたい。痛みに苛まれているなら手を差し伸べたい。
…然しそれを、彼女は拒絶する。
彼女は昔からいつも綺麗な仮面で全てを覆い隠すのだ。何もかもを。

「…っくそ。」
俺はつい口からでる悪態を押さえられなかった。
どうしたら彼女は…それらを、取り去ってくれるのだろう。
ここで考えていても仕方がない、俺は踵を返した。



「そうね…先日ヴリトラのところへ行った後から揺らぎが戻ってきていると思うわ」
ただ、まだまだなのだけどね。
そうヤ・シュトラは険しい顔をしていた。
「つまり、まだ楽観視は出来ないと?」
「そんなところよ。」

彼女の部屋を出た後、その足でラストスタンドに出向くとヤ・シュトラが丁度いたので改めて話をきくとそんな回答が帰ってきた。
やはりな、と思いつい溜息が溢れる。
それを暫く眺めていただろう、ヤ・シュトラがフフフと含み笑いをしていた。

「………何だ?」
「いいえ。貴方もついに年貢を納める気になったのかしら、と」
「何の話だか-------」
「否定しても無駄よ。」

私が何も気がついて居なかったとでも?という彼女の真珠色の眼が面白そうに光っているのが解る。

「貴方、第一世界にいるときから露骨だったじゃない」
「! まさか。…おい、魔女様は何時から気がついていたんだ?」
「さあ?何時からだったかは覚えがないけれど…」
彼女が危険に瀕する度に貴方のエーテル波長は物凄い乱れてたから。すぐわかったわ。
それから暫く眺めてたら流石に解るわね。目線が何時も追っていたもの--------------。
そういってコロコロ笑うヤ・シュトラには勝てそうもない。サンクレッドは解りやすく両手をあげ、降参の体をした。

「……はぁ。よく見てたな。俺のほうが逆に気が付かれてると、気づいてなかった。」
全く、これじゃ諜報活動のスペシャリストとは言えんな。
「いいんじゃない。恋とはそんなものよ?」
そう言いながら優雅に珈琲を飲む彼女と向い合せに座りつつ、自分も届いた珈琲を飲む。

「けれど」
「うん?」
「それなら、全力で彼女を元に戻してあげなくては。ね。」
「ああ、勿論。…だが、俺では何ができるのか…。」
エーテルの扱いが上手く出来ない自分に、ヤ・シュトラやウリエンジェ、アルフィノ様のような治癒はできない。
「何も出来ないのが、歯がゆくてな。」
そう少し目線を下げて言うと、目の前の魔女様は意外な事を言った。

「あらそんなことはないわよ。」
「…?」
「貴方にしか出来ないことがあるわ。間違いなくね。」
思わず目線をあげ、目の前の真珠色の眼を見るとヤ・シュトラは真っ直ぐ此方を見てはっきりそう言った。

「たぶん…彼女に完全な揺らぎを取り戻すには、貴方の力が必要なのよ。サンクレッド。」




ふう。
唐突に訪れる頭痛の響きがやっと収まり、一息吐く。
…この間出かけたラザハンで、ヴリトラは私に「周りの声を、想いを聞け」といった。
そうしなくては君は負の感情に囚われてしまう、と。
確かに。…彼への気持ちを無かったことにしようとする為に色々苦労している。
それをする為になんだかんだで全ての感情を制御しようとするからだ。これでは…そう「負の感情にとらわれる」土台を作ってしまっているようなものだ。
第一世界に居た時、考えていた【ずっと抱えて生きていく】…これをできるようにするほうが、たぶん私自身には良いことなのかもしれない。

「…そうだ、ね。」
先程胸が痛くて、掴んだシャツの胸元は酷く皺が寄っている。掌でゆっくり伸ばしながら、思う。
ちゃんと直して、元気になるんだ。
その間に…彼への想いも何もかも抱えても、一人で生きていけるように。
あの時、あの場で。否、何時も困難にぶち当たった時、言い聞かせるように。
--------------やろうと思って、出来なかったことなど無いのだと。
私に出来ないことはないのだと、そう誓って。

パフ。とベッドに横たわる。
眠ろうもう一度。………今度は激しい痛みが来ない事を祈りつつ。
私は瞼を下ろすと、程なく眠りの淵に降りた。



静かにノックをするが反応がない。
ゆっくり扉を開けると、彼女はまた眠りに落ちていた。

「……」

すぅすぅと眠る彼女の横に気配を消して近づき、脇にあるイスへ座る。
布団の端にでている彼女の指に手を伸ばす。
握ると、少しだけ握り返してきた。


ラストスタンドをでてくる前、ヤ・シュトラと最後にした会話を思い出す。

「ヴリトラに言われてきた事を聞いたわ。今彼女の感情が負に傾いているからだと。」
そしてそれを元の状態に戻すには、【周りの声と想いを聞け】と言われた、と。
「ああ。俺もそれは皆といたから聞いていたが」
手元の珈琲を全て飲み終えながらヤ・シュトラは続けた。

「声を聞け、だけではなかったところに意味があると、私は考えているの。……古の天竜がどこまで見通しているのかは解らないけれど」
「それは一体…?」
「私と同じようなものをもしヴリトラが見えているのだとしたら、間違いなく彼女を引き戻すのは貴方が一番適任なのだと思うわ。」
彼女を一番心の底から欲しているのは、貴方でしょうからね。

「思いの強さはそのまま力になると、私たちはあそこで理解してきたわけでしょう?」
「! 確かに。」
悪いな、助かった。そう眼の前の聡明な魔女様へ伝えながら席を立つ。と、「私は何もしてないわよ。」寧ろ彼女をお願いね…と笑いながら手を振ってくれた。

「…俺はずっと傍にいる」
だから…その仮面を早く外してくれ。俺に全部、受け止めさせて欲しいんだ。
眠る彼女の指先に、触れるだけの口吻を落とした。
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