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確かに恋だったbotヨリお題:短文集

お題:【早く 嘘だよ って言って欲しい 手遅れになる前に】(https://onl.sc/LzD7eQ8)
の『続きが読みたい』というお友達からのご依頼で書きました。

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 彼女が心の中に住むようになったのは何時からだったか、正直もう分らない。かなり前からだと思う。アシエンに操られた俺を助け出し、その後も何度となく俺や、仲間を助けてくれた彼女に惹かれていくのは当たり前だったのかもしれないが。
だから本当は、もっと前に告げたかった。好きだと。どうか俺と共にいてくれないか、と。ところが『愛の吟遊詩人』等と昔は言われる程度には上手く女性をあしらっていたのが、そんな姿はどこかに行ってしまったかのような、俺は臆病者になっていた。
言って、彼女との間が今までの付き合いすら難しくなってしまったらどうしようか、とか。自分の方が大人で経験もあるだろうに……である。
けれどそんなモタモタしていたら俺は第一世界に召喚されてしまい、言葉を交わす事すら暫くできなくなった。
水晶公はいずれ彼女を呼びよせるつもりだと当時言っていたが、結果的に彼女と再度顔を合わせるまで五年もかかったのだ。なかなかどうして、長い年月だ。正直やることは色々あったから飛ぶように過ぎたともいえる時間だったが、でも彼女を想うと……遠くて。どうしようもなくて。
漸く会えた時思ったのだ。ああ、あの時臆病になっていたのがどれほど勿体ない時間だったのかと。
――――俺たちはいつ離れてしまうかわからない、そんな場にこの身を置いているのに。何故躊躇っていられるのか、と。
 だから第一世界から戻ってきてから、俺はどんなに終末の災厄を振り払うために奔走している最中でも、彼女へ想いを伝える事を止めなかった。
どんなにはぐらかされようとも。はっきりと断られるまでは――お前なんか大嫌いだと言われるまでは、彼女へ言葉を贈り続けると、決めて。
そうしたらどうだろう? 最初は本当に笑い飛ばされるだけだった。ところがいつからか、告げたときに彼女の眼の中の光が、揺れるようになった。
それは僅かな変化。普通なら、見落としそうなくらい小さな、小さな。俺はそれが良い意味なのか悪い意味なのか判断がつかなくて、だからそのまま告げ続けて。するとその変化は徐々に大きくなった。ついには、彼女が見せない為に俺から目線を逸らすようになるくらいに。
ああ。そんな風にするのはそれだけ動揺しているという事なのか? それとも……それとも、俺と同じ想いを持っているという事?
変に期待してはいけないのは解っていたが、それでも俺の心は微かに浮足立っていた。
そんな昨今――――ついに、転機が訪れた。
 
「式典に出ろって?」
「そうなのよ。シャーレアン大学からの招待なのだけど。」
「俺よりウリエンジェやグ・ラハとかー……ヤ・シュトラのほうが適役じゃないか」
「何を言っているの、勿論皆も出たうえでの話よ。」
「なんだ。そりゃ逃げられないな。」
 少し長めの期間を使った調査が終わり、報告書類を上げたところでクルルから『式典に出て欲しい』という要請があった。
正直その手の類はあまり好きじゃない。華やかな場は相応の対応を求められるから面倒なのだ。それが依頼なら致し方ないが、避けられるなら避けたいところ。しかしどうやら『暁の血盟』として参加要請だからどうしようもないらしい。
了承した数日後。一緒にでるヤ・シュトラ達と指定の建屋に行くとー……まあなんだ、俺だけじゃなく他の連中も学生やその親に、それぞれ囲まれた。
やはり実際各地を旅し、終末と渡り合った俺達に話を聞きたいという人間は多いという事だった。解らなくはないが。
しかし俺やグ・ラハ、ウリエンジェにはなかなかに煌びやかなお嬢さん達が溢れかえっていて、どう見ても「お前は勉学の為に話を聞きに来たわけではないだろう」という輩も混じっていた。正直辟易する。とはいえ無下にもできなかった。今後の俺たちの活動がしづらくなるのは、困るからだ。
俺は適当に愛想笑いをしながら応対していたのだが――――ふと、何処からか視線を感じて。
「――――? ……!」
談笑しながらも視線を巡らせると、そこにいたのだ。

――――眼の奥に酷く悲し気な光を宿した、彼女が。

「サンクレッドさん、どうされたのですか?」
「あー……いや。悪いが、ちょっと用事を思い出したんだ。今日はこれで失礼するよ」
「あら。そうでしたの? では次の機会は」
「悪いな。それはバルデシオン委員会のクルル経由で。研究調査の話なら窓口はそっちでお願いしたい。」
縋る美女をハッキリと明確な依頼でなければ話をする事は無いと言い、振り切ってから俺はすぐさま会場をでた。
先程遠く見た彼女は、もうここに居なかったから。
ああ、早く見つけなくては、彼女を。
捕まえて……聞き出さなくては。その悲しみを眼に宿した理由を。

◇◆◇◆◇

 真っすぐバルデシオン分館に戻ったが彼女はいなかった。ナップルーム受付のオジカに聞いても通っていないという。
ではどこに? 俺はすぐさまシャーレアンの街中を走った。
テレポで遥か彼方へ飛んでいたらどうしようもないが。……でも会場でみた彼女は凄く綺麗な深緑色のドレスを着ていて、そのまま外へ出かけるような姿ではなかったから、俺はまだここに居るだろうと踏んで走り回った。
――すると見つけたのだ。彼女は港の埠頭の端で白い傘を差して一人佇んでいた。少し前に雨がぱらつきはじめたから。でもその姿は凄く綺麗で……凄く寂しそうだった。その腕を引き、この腕の中で理由を聞き出したい位。儚く見えるその姿に逆に募る劣情を、俺は無理やり抑え込んで彼女に声をかけた。

「見つけた。」
「! サン、クレッド」
「素敵なレディが、一人でこんなところにいるなんて、な」言ってくれたら、エスコートは俺がするのに。
言いながら彼女の後ろから声をかけると、むき出しの肩を少し震わせて彼女は振り向いた。いつもと同じ表情で「そんなお世辞はいいよ?」と笑いながら答えてくれたけれど。
でも俺はもう見てしまったから。……悲し気な光を宿した眼で俺を見つめていた、彼女を。だからそのまま俺はいつもより更に半歩、彼女へ近づいてから口を開いた。
「お世辞じゃないさ。お前は綺麗だよ。凄く。」
「なん、」
「俺を魅了してやまない。……ずっと。」俺はお前が好きでたまらないから。いつでもこの手で捕まえたいし、引き寄せて抱きしめたいのだから。
そう言うと、彼女は一瞬目を見開くとくるりと背を向けてしまった。
「そんな事、言わないで? またいつもの、冗談でしょう」
「違う。お前が信じてくれるまで言い続けるが。――――俺がお前を好きなのは、嘘でも冗談でも気の迷いでも何でもない」
すると、彼女は。
 パサリ、と傘を落とすと両手で自分の身体を抱きしめて。そのむき出しの肩を少し震わせながら、言葉を零したのだった。
それは初めて俺に見せてくれた、彼女がひた隠しにしてきた『弱い彼女の姿』だった。
「だって。さっきみた君は、綺麗な女の子と凄く絵になっていたの。私なんかより、全然お似合いのカップルに、見えた」
「お前、」
「やっぱり、私じゃ似合わない。サンクレッドにはもっと素敵な人がいいんだ。そうに違いないって、想って」……だから。

――――もう我慢なんかできなかった。

 俺は強く握りしめていた掌を彼女に伸ばしていた。その震える身体を後ろから、腕の中に捕えて。力いっぱい抱きしめて、いた。
「サ、ンク、レッド!!」
「俺が欲しいのはお前だけだ。」抱きしめたいのも好きだと言いたいのも、傍にいて欲しいのも、お前だけ。
強く抱きしめて、その耳元に唇を寄せて。耳朶に触れながら俺は言葉を紡いだ。どうか伝わって? 俺の想いをちゃんと聞いて欲しい。
「ずっと好きだったんだ。でも言い出せなかった。今までの関係が壊れるのを恐れて。でもそうしたら、第一世界に呼ばれて、お前と離れ離れになった」
「――――。」
「あっちで過ごしていた時間は、五年だ。確かにやらねばならないことはあったが、でもその間一日たりともお前を忘れたことなんか無くて」
「サンクレッド……」
「言わずに来たことを酷く後悔したんだ。俺がいない間に、誰かが攫っていたら? とか、な。」だからもう、臆病になるのは止めたんだ。
 俺はそう言いながら、腕の中の彼女がこの腕から逃れようとしないのを見て、少しだけ力を緩めて彼女を振り向かせた。
でも俺の腕の中で俯こうとするから、また身体を重ねる様に抱き寄せて、その頬に掌を添え上向かせて。少し潤んで揺れる彼女の眼を見ながら、もう一度俺は伝えたのだ。この胸に強くある想いを。
「好きだ。好きなんだ。……もうはぐらかして逃げるのは、諦めてくれないか?」俺の腕に、囚われてくれよ。
言葉と共に頬に口吻を一つ落とした。すると彼女はゆっくりと頬を染めて……一粒だけ、涙を零してから、微かに頷いてくれて。
「私も、キミが、」――――好き、なの。
吐息と共にもたらされた音に、俺は可笑しい位胸の奥が跳ねて、高揚する心のまま目の前の彼女を強く抱きしめて。そのまま触れるだけの口吻を何度も落としていた。嬉しい、良かった、ずっと好きだったんだと、幾つも零しながら。すると彼女は途中で俺の胸を叩いてストップをかけたけれど。
「悪い。」嬉しすぎて、止まらなくなった。……と、額を合わせながら謝ると彼女はふわりと笑ってくれた。
「サンクレッドもそいうところ、あるのね」などと言うから、俺は彼女の目元に口吻て。
「当たり前だろう? 本気で好きになった子には必死になるんだよ、男はな。」振り向いて欲しくて。俺だけを見て欲しくて。――誰にも渡したくないのだから。
そう至近距離で真っ直ぐ見つめながら答えると、彼女は一気に頬を赤く染めて、俺の肩口に顔を埋めた。ああ可愛い。逃げ回っていた彼女なのだから、当然こんなストレートな言葉には慣れていないのだろう。然し照れて困った顔を俺に見せるその姿は、本当に可愛くてたまらない。普段の彼女では絶対に見られない姿だから、余計に。けれどそれをまた言うと――――彼女は、逃げてしまうかもしれないから。
「どうした?」ただそれだけの言葉に留めると、彼女は恥ずかしそうにしながらも「ううん……」と答えつつ。ゆっくり、おずおずと俺の背に腕をまわして、くれて。
――――ああやっと、彼女を手に入れた。
 少しだけ降っていた雨はいつの間にか上がっていて。雲の隙間から零れる日の光を受けながら、俺は彼女を強く両腕で抱きしめたのだった。
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