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確かに恋だったbotヨリお題:短文集

お題:【空っぽのフォルダだけ】



色々な書類、綺麗に片付けてファイリングも完了。引き出しの中には空っぽのフォルダだけ。
不必要な書類はシュレッダーにかけた。個人情報も抹消。私自身の守秘契約書類も提出した。
後は…自分の名前の入ったIDカードと、ええっと、建物のセキュリティカードと、ロッカーの鍵を返したらこの会社との関係も終わる。
いつものことだ。派遣社員として様々な会社に入る私にとって、これらは2-3年に1度はやっていることだから、通過儀礼のようなもの。
…でも今回は、少しだけ…心が、軋む。理由は解ってるのだけれど。
所属部署の部長に返却物を渡して、では、と挨拶をすると、
「是非正社員になって貰いたかったな…残念だ。また考えが変わったら連絡くれるかな。」という大変有り難い言葉もかけていただいた。
派遣社員冥利に尽きるところではある。でも、この会社には流石にこのまま務められないかなあ、と思ったから…この申し出はお断りしたのだ。
「有難うございました」と挨拶して、私はそこを出た。
ーーーーー二度とこないだろう。

高いビルから外へでると、熱風にさらされる。日傘をさそうとすると、後ろから声がかかった。
今一番、できれば、会いたくない人から。

「待ってくれ」
「! …何で、しょうか」
「会社の外にでたんだ、もうそんな敬語はいらないだろ?」
「そう、だけど」
「頼む。…少し話、させてくれないか」そう言う彼が、とても必死だったから。私はつい絆されてしまった、と思う。
「ーーーーーー少しですよ?」と、返事をすると、「じゃあこっち」 といって即手を引っ張られた。思わずつま先が道路に引っかかる。
「サ、サンクレッドさん?!」
「さん、とか要らないって言っただろ?」
慌てる私に笑いながら私の手を引く彼は、私の上司だった人だ。


そのまま、近場のカフェに連れられて席を取ると、私の分も合わせて飲み物を頼んでくれた。それぞれの手元にアイスコーヒーが届いたところで、私は本題に入ることにした。
正直長く一緒にいたくはないのだ。…余計な気持ちが、溢れる前にかたをつけたい。なるべく声に感情が出ないようにして。
「…で、私に何か、御用ですか」
「そんな風に言わなくてもいいだろう?」
「けど、もう貴方の部下ではありませんし」
「…だから、引き止めたんだけどな」
「!」
「この間言ったことは、別に嘘でも冗談でもない」そう言って、テーブルに乗せた私の手をとる。触れる指先は私と違って、ゴツゴツしていて…その感触が、つい先日起こったことを思い出させた。
…そうなのだ。別に嫌いとかいうわけでもなくて、普通に惹かれてて、でも勤め先の方だし…となるべく、仕事以外では接点を持たないようにしていたのに。
この間、最後に参加したプロジェクトの会合が終わった会議室で。…打ち合わせの後、誰もいなくなったそこで私の頬に触れた指。…触れた唇。思わず、その時の事を思い出して、顔が赤くなるのを止められない。
「サ、サンクレッドさん、私は」
「好きだ。」……言って、私の指先に彼は口吻を落とす。彼の目線はとても烟ってみえて…正直、心臓に悪い。
「っ…!」
「同じ職場にいるのが付き合えない理由だったなら、そうじゃなくなった今は?」
「そう、言ったけど…」
問いながらも捉えた手を離そうとはしないサンクレッドに、私は、これ以上目を背ける事はできない気がしてきて。
だんだんと早くなる鼓動に、覚悟を決めねばならないと思い始めた…
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