気まぐれにアナタのもの。
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仕事だと呼び出された〇〇は、ブラッド=デュプレの自室を訪れていた。
帽子屋屋敷に到着してまず確認した問いに返った言葉は、アリスの不在(となれば滞在地である城にいる確率が増したわけだ)。
それを聞いてやや不満になるも、まあしかたがないかと頭を切り替える。実際は仕事と私情はいつだって混在しているために切り替えるもなにもなかったが。
ともあれ、ならばとすぐに仕事に取りかかるつもりになったのだが、自慢の紅茶を振る舞ってくれるというのでせっかくだからとご馳走になり。
とりあえず一息入れ、さあ今度こそはと思った〇〇にこれといった依頼もしないで、優雅にフレーバーを楽しむマフィアのボス。
時折投げ掛けられる会話を有意義というにはかなりの無理がある。だらだらと流れる時間は完全に空費ではないだろうか。
肝心のアリスがいないせいで、〇〇のテンションはいまひとつである。同様に、向かい合わせに座るブラッドも、時間帯の影響かいまいち覇気がない(…いや、彼の場合は常からこんなものだったような…)。
ブラッドの意図を読めず、どういうつもりなのかと不審に思い始めた矢先だった。
ふと〇〇の向こう側に視線を投げたブラッドが、思い出したように言った。
「そういえば、ついこの間新しく蔵書に加えた本があってね。アリスと同じく、確か君も興味があったと思ったが…」
アリス、の名前に反応を示し、〇〇はつられるようにして後ろを振り向いた。
壁と一体化した見映えのする本棚は堂々たる存在感がある。これだけの本の蒐集には相当の資金が必要に違いない、と庶民的な感想を抱く。
「好きなだけ見てくれて構わない」と言うブラッドに勧められるままに、〇〇は書棚の前に立っていた。
読書を好む者にとっては非常に意欲を掻き立てられる蔵書の山。
新しく購入したという書物を見るついでに、ほほう、と興味津々に端から順に眺めていたのだ。つい先程までは。
しかし今、〇〇は突っ立った姿勢で身動きが取れずにいた。もちろん一歩も動けないから、視界に代わり映えはない。上体は心持ち前に傾いている。
最初は特に気にすることなく意識を目の前の本に注いでいたが、時間が経過するに従って視線は背表紙をただなぞるだけになっていった。
(……いやいや、やっぱりどう考えてもおかしいよな、この状況?)
つまり、自分以外の体温を背中に感じているという現状がおかしい。
〇〇はついにはさまよう視線を止め、目を伏せると盛大に溜め息をついた。
「……ブラッド。いったいアナタはなにをしたいんだ?」
〇〇の背後に立って、腕を回して腰を抱き。そうしてもう一方の空いた手で悪戯に触れてくる、帽子屋ファミリーのボス。
ブラッドはいつの間にやら無言で接近してから、ずっとこの状態を続けていた。なんだこれは。忍耐力を鍛える訓練?仮にそうだとしても有難迷惑以外のなにものでもない(それにしてもどこかで見たような構図である)。
「本を読めって言ってくれたの、誰だっけ」
「――私、だな」
おお、やっと喋ったか。少し安心した〇〇は、首を捻って肩越しにブラッドのほうを見た。
「じゃあ、そろそろ放してくれない?これじゃ読むに読めないから」
「いや…、読まなくていい」
「……は?」
読めと勧めた本人が、同じ口で今度は読むなと言う。わけがわからない。
忘れかけていたが、そもそもは仕事で呼ばれた身だった。口を開きやっとそちらに話が移るのかというとそうではないらしい。
じゃあ、あたしになにをどうしろと?困惑を読み取ったように、ブラッドは〇〇の黒髪に頬を寄せて言った。
吐息混じりの、例によってだらりとした口調で。
「私の相手をしてくれ。…君ならこの、不快極まりない退屈を殺してくれるだろう?」
心底つまらなさそうなブラッドに、〇〇はようやく彼の奇怪な行動の意味を知る。
ああ、なるほど。つまり、あたしは単なる暇潰しに呼ばれたというわけか。
実にくだらないと言ってしまえばそれまでだが、ブラッドにとっては切実なのだろう。
それにしても、自分は結構な過大評価をされているらしい、と〇〇は思った。あたしひとりが来たところで、ブラッドの悩みが改善されるとは思えない。
なのに、君ならこの退屈をどうにかできるだろう、むしろどうにかしろ、とブラッドが雰囲気で圧してくる。
仕事と称したからには、いつもどおり報酬をきちんと支払うつもりのようだ。それなら、気まぐれなボスに付き合うのも悪くないかもしれない。ある意味、常よりも儲けた気分である。ただ少し気にかかるのはその時間の長さだった。
いつまでこうしていればいいんだか。と気を抜きかけたところで、不意に背中や肩にかかる負荷が増した。
「ちょっ…と?あの、重いんだけど」
「気のせいだ」
言い切ったぞこの人。そんなわけあるか。平然と返すブラッドに一瞬むっとなる。
傍目から見てもわかるほど、二人の密着度は確実に上がっていた。
〇〇は覆いかぶさり身体を預けてくるブラッドを支えるために、書棚に手をついた。すかさずブラッドが手を重ねてくる。
手袋に隠されていてもわかる、じんわりと広がっていく温もり。奇妙な心地につい、じ…とそこを眺めてしまう。
すると、布一枚で隔てられた右手がするりと〇〇の指の隙間に滑り込んだ。その行為に総毛立つものを感じ、思わず身じろぐ。
寒いわけでもなく、またなにかしらの恐怖のためでもない。
今し方まではまるで子供同然でもたれかかっていた無性の人間が、急に男として姿を現したかのような。
その唐突な変化は、果たして男の故意か、女の錯覚か。
帽子屋屋敷に到着してまず確認した問いに返った言葉は、アリスの不在(となれば滞在地である城にいる確率が増したわけだ)。
それを聞いてやや不満になるも、まあしかたがないかと頭を切り替える。実際は仕事と私情はいつだって混在しているために切り替えるもなにもなかったが。
ともあれ、ならばとすぐに仕事に取りかかるつもりになったのだが、自慢の紅茶を振る舞ってくれるというのでせっかくだからとご馳走になり。
とりあえず一息入れ、さあ今度こそはと思った〇〇にこれといった依頼もしないで、優雅にフレーバーを楽しむマフィアのボス。
時折投げ掛けられる会話を有意義というにはかなりの無理がある。だらだらと流れる時間は完全に空費ではないだろうか。
肝心のアリスがいないせいで、〇〇のテンションはいまひとつである。同様に、向かい合わせに座るブラッドも、時間帯の影響かいまいち覇気がない(…いや、彼の場合は常からこんなものだったような…)。
ブラッドの意図を読めず、どういうつもりなのかと不審に思い始めた矢先だった。
ふと〇〇の向こう側に視線を投げたブラッドが、思い出したように言った。
「そういえば、ついこの間新しく蔵書に加えた本があってね。アリスと同じく、確か君も興味があったと思ったが…」
アリス、の名前に反応を示し、〇〇はつられるようにして後ろを振り向いた。
壁と一体化した見映えのする本棚は堂々たる存在感がある。これだけの本の蒐集には相当の資金が必要に違いない、と庶民的な感想を抱く。
「好きなだけ見てくれて構わない」と言うブラッドに勧められるままに、〇〇は書棚の前に立っていた。
読書を好む者にとっては非常に意欲を掻き立てられる蔵書の山。
新しく購入したという書物を見るついでに、ほほう、と興味津々に端から順に眺めていたのだ。つい先程までは。
しかし今、〇〇は突っ立った姿勢で身動きが取れずにいた。もちろん一歩も動けないから、視界に代わり映えはない。上体は心持ち前に傾いている。
最初は特に気にすることなく意識を目の前の本に注いでいたが、時間が経過するに従って視線は背表紙をただなぞるだけになっていった。
(……いやいや、やっぱりどう考えてもおかしいよな、この状況?)
つまり、自分以外の体温を背中に感じているという現状がおかしい。
〇〇はついにはさまよう視線を止め、目を伏せると盛大に溜め息をついた。
「……ブラッド。いったいアナタはなにをしたいんだ?」
〇〇の背後に立って、腕を回して腰を抱き。そうしてもう一方の空いた手で悪戯に触れてくる、帽子屋ファミリーのボス。
ブラッドはいつの間にやら無言で接近してから、ずっとこの状態を続けていた。なんだこれは。忍耐力を鍛える訓練?仮にそうだとしても有難迷惑以外のなにものでもない(それにしてもどこかで見たような構図である)。
「本を読めって言ってくれたの、誰だっけ」
「――私、だな」
おお、やっと喋ったか。少し安心した〇〇は、首を捻って肩越しにブラッドのほうを見た。
「じゃあ、そろそろ放してくれない?これじゃ読むに読めないから」
「いや…、読まなくていい」
「……は?」
読めと勧めた本人が、同じ口で今度は読むなと言う。わけがわからない。
忘れかけていたが、そもそもは仕事で呼ばれた身だった。口を開きやっとそちらに話が移るのかというとそうではないらしい。
じゃあ、あたしになにをどうしろと?困惑を読み取ったように、ブラッドは〇〇の黒髪に頬を寄せて言った。
吐息混じりの、例によってだらりとした口調で。
「私の相手をしてくれ。…君ならこの、不快極まりない退屈を殺してくれるだろう?」
心底つまらなさそうなブラッドに、〇〇はようやく彼の奇怪な行動の意味を知る。
ああ、なるほど。つまり、あたしは単なる暇潰しに呼ばれたというわけか。
実にくだらないと言ってしまえばそれまでだが、ブラッドにとっては切実なのだろう。
それにしても、自分は結構な過大評価をされているらしい、と〇〇は思った。あたしひとりが来たところで、ブラッドの悩みが改善されるとは思えない。
なのに、君ならこの退屈をどうにかできるだろう、むしろどうにかしろ、とブラッドが雰囲気で圧してくる。
仕事と称したからには、いつもどおり報酬をきちんと支払うつもりのようだ。それなら、気まぐれなボスに付き合うのも悪くないかもしれない。ある意味、常よりも儲けた気分である。ただ少し気にかかるのはその時間の長さだった。
いつまでこうしていればいいんだか。と気を抜きかけたところで、不意に背中や肩にかかる負荷が増した。
「ちょっ…と?あの、重いんだけど」
「気のせいだ」
言い切ったぞこの人。そんなわけあるか。平然と返すブラッドに一瞬むっとなる。
傍目から見てもわかるほど、二人の密着度は確実に上がっていた。
〇〇は覆いかぶさり身体を預けてくるブラッドを支えるために、書棚に手をついた。すかさずブラッドが手を重ねてくる。
手袋に隠されていてもわかる、じんわりと広がっていく温もり。奇妙な心地につい、じ…とそこを眺めてしまう。
すると、布一枚で隔てられた右手がするりと〇〇の指の隙間に滑り込んだ。その行為に総毛立つものを感じ、思わず身じろぐ。
寒いわけでもなく、またなにかしらの恐怖のためでもない。
今し方まではまるで子供同然でもたれかかっていた無性の人間が、急に男として姿を現したかのような。
その唐突な変化は、果たして男の故意か、女の錯覚か。