彼の隣は予約要らず。
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ゴーランドの案内で、彼おすすめのアトラクションを次々と巡っていく。
休憩を挟んではいるが、どうしたって〇〇にとってはハードルの高いものばかりだった。
可愛らしい乗り物も中にはあるのに、何故に絶叫系を選ぶ。
暴走気味、不安定、そんなアトラクションに乗った結果、体内がシェイクされてぐらぐらだった。
(これも、ゴーランドのため、ゴーランドのため…)
呪詛のように内心繰り返すも、顔色は誤魔化しきれないらしい。
休憩時、冷たい飲み物を手渡しながら、ゴーランドは眉尻を下げた。
「悪い…。ついテンションが上がっちまって、振り回しすぎたな」
「あたしは、アナタが楽しいならそれでいいよ」
清涼感のあるジュースが美味しい。〇〇はほっと息をついて、肩を落とすオーナーに微笑んでみせた。
彼が心から楽しんでいるとわかったから、付き合うのは苦ではなかった。
嘘のない笑顔を見て、ゴーランドは「まいった…」と呟き視線を逸らした。気を取り直すように咳ばらいをすると、
「じゃ…少し趣向を変えてアレ、行くか」
「アレ?」
――おどろおどろしい建物を前に、〇〇は顔の筋肉が引き攣るのを感じた。
キャーなんていう悲鳴が聞こえてきそうだ、と思ったら、断末魔のような叫び声が耳に届く。
お化け屋敷に悲鳴は付き物。だが、今のは確実に誰かやられた。
「気分転換に、ここをのんびり歩くってのも悪くねえだろ?」
「……」
オーナーは気を利かせてくれたのだ。うん、本当にそうだから。つ…と背筋を伝う冷たい雫を、〇〇は捨て置いた。
元気いっぱいの従業員に見送られ、対照的な暗闇へと足を踏み入れた。
緑色のライトに浮かび上がる小路が、不気味に客人を手招いている。
ゴーランドの半歩後ろを歩く〇〇は、早くもその差を一歩から二歩、三歩へと広げようとしていた。
(これは……ヤバイ)
なにも出現しないうちから、その確定的なヤバさは〇〇を脅かした。そして。
目玉だらけの部屋。生暖かい息を吹きかけてくる壁。生首を差し出すゾンビ。血みどろの赤ん坊が行列をなす棺桶。
お化け屋敷というか、もはや恐怖を超えるグロテスクぶり。駄目だ。これは駄目だ。祟られる。
〇〇は自身の害にならなければ、幽霊の存在も許せると思っていた。
だが、意図的に人を恐怖させ、それを楽しむお化け屋敷は苦手だった。グロも決して得意ではない。
〇〇は精神攻撃を回避できず、ぐにゃりとした変質の床に足をとられた。硬直した喉からはかすかな声さえ出ない。
「……!」
気持ち悪い床への熱烈なキスは、力強い腕によって防がれた。
徐々に開いていく二人の距離を気にかけたゴーランドが、意識的に〇〇に歩調を合わせてくれていたおかげだった。
「〇〇、大丈夫か?顔色が悪いのはライトのせい…ってわけでもなさそうだな」
「……正直、生きてる心地がしない」
縋りついたが最後、二度と離せなくなった。きつく目を閉じる。
目蓋の裏に焼きついた光景を消そうと、いっそうゴーランドの腕を強く抱く。女とは違う、筋肉の硬さが今は心強かった。
触れ合う場所から情けない震えが伝わっているのだろう。彼は気まずそうに〇〇にそっと尋ねた。
「もしかして、こういうのは嫌いだったか…?」
ここではっきり答えてしまえば、それまでだ。元からあるとは言えない雰囲気が崩れ去るのは目に見えている。
(ああ、気を遣わせてばっかりだな…。せっかくだから、楽しく過ごそうって思ってるのに)
そう、これは仮にも“デート”である。〇〇は一度唇を結ぶと、緩やかに解いて弧を描いた。
どうにも格好のつかない、この女々しい姿にも、今日は目を瞑って利用してしまおう。
また選択を誤ったかと気を落とすゴーランドを見つめて、
「…ね。出口まで腕を貸してくれたら、ちょっとは好きになる、かも」
と茶目っ気のある笑みを向けた余所者を、彼はしっかりと外までエスコートした。
お化け屋敷は迷路でもあり、分かれ道に何度も出くわしたが、ゴーランドの歩みに迷いはなかった。
おそらく最短距離で出口にたどり着くと、空は夜を迎えていた。
極度の緊張からは解放されたが、力んだ身体はなかなか正常に戻らない。
ぎくしゃくと動いて離れようとする〇〇を見て、ゴーランドは少し苦みを混ぜて笑った。
「あんたのそんな姿を見ることになるとは思わなかった。お化け屋敷の出来はまずまずだと思うんだが…刺激が強すぎたか」
手のひらが黒髪を撫でる。心地いい。染み込む体温に身を委ね、目蓋を下ろす。
髪に触れていた手がふと止まり、するりと顔の輪郭をたどると、唇を軽く啄まれた。
「ん…ゴーランド?」
「怒るなよ。デートの締めくくりだ」
キスを受けて、不思議に思う。怒りはまったく湧かなかった。満足そうにしている男にそういうものかと受け流す。
なんとなく二人で園内を歩きながら、ゴーランドは言った。
「俺の腕なら、いくらでも貸し出すぜ。なんならあんた専用にしてもいい。いつでも求めてくれ」
「ありがと。あたしには過ぎた贅沢だね」
後日、遊園地のお化け屋敷が大幅に改装された。
メルヘンな被り物をつけたゾンビが出るのは、ある余所者の意見が採用されたとか。(怖さは激減、だが不気味さは増した)
とりあえず、一般的寄りとなった新しいお化け屋敷では、断末魔が上がることはなくなったという。
end。→あとがき
休憩を挟んではいるが、どうしたって〇〇にとってはハードルの高いものばかりだった。
可愛らしい乗り物も中にはあるのに、何故に絶叫系を選ぶ。
暴走気味、不安定、そんなアトラクションに乗った結果、体内がシェイクされてぐらぐらだった。
(これも、ゴーランドのため、ゴーランドのため…)
呪詛のように内心繰り返すも、顔色は誤魔化しきれないらしい。
休憩時、冷たい飲み物を手渡しながら、ゴーランドは眉尻を下げた。
「悪い…。ついテンションが上がっちまって、振り回しすぎたな」
「あたしは、アナタが楽しいならそれでいいよ」
清涼感のあるジュースが美味しい。〇〇はほっと息をついて、肩を落とすオーナーに微笑んでみせた。
彼が心から楽しんでいるとわかったから、付き合うのは苦ではなかった。
嘘のない笑顔を見て、ゴーランドは「まいった…」と呟き視線を逸らした。気を取り直すように咳ばらいをすると、
「じゃ…少し趣向を変えてアレ、行くか」
「アレ?」
――おどろおどろしい建物を前に、〇〇は顔の筋肉が引き攣るのを感じた。
キャーなんていう悲鳴が聞こえてきそうだ、と思ったら、断末魔のような叫び声が耳に届く。
お化け屋敷に悲鳴は付き物。だが、今のは確実に誰かやられた。
「気分転換に、ここをのんびり歩くってのも悪くねえだろ?」
「……」
オーナーは気を利かせてくれたのだ。うん、本当にそうだから。つ…と背筋を伝う冷たい雫を、〇〇は捨て置いた。
元気いっぱいの従業員に見送られ、対照的な暗闇へと足を踏み入れた。
緑色のライトに浮かび上がる小路が、不気味に客人を手招いている。
ゴーランドの半歩後ろを歩く〇〇は、早くもその差を一歩から二歩、三歩へと広げようとしていた。
(これは……ヤバイ)
なにも出現しないうちから、その確定的なヤバさは〇〇を脅かした。そして。
目玉だらけの部屋。生暖かい息を吹きかけてくる壁。生首を差し出すゾンビ。血みどろの赤ん坊が行列をなす棺桶。
お化け屋敷というか、もはや恐怖を超えるグロテスクぶり。駄目だ。これは駄目だ。祟られる。
〇〇は自身の害にならなければ、幽霊の存在も許せると思っていた。
だが、意図的に人を恐怖させ、それを楽しむお化け屋敷は苦手だった。グロも決して得意ではない。
〇〇は精神攻撃を回避できず、ぐにゃりとした変質の床に足をとられた。硬直した喉からはかすかな声さえ出ない。
「……!」
気持ち悪い床への熱烈なキスは、力強い腕によって防がれた。
徐々に開いていく二人の距離を気にかけたゴーランドが、意識的に〇〇に歩調を合わせてくれていたおかげだった。
「〇〇、大丈夫か?顔色が悪いのはライトのせい…ってわけでもなさそうだな」
「……正直、生きてる心地がしない」
縋りついたが最後、二度と離せなくなった。きつく目を閉じる。
目蓋の裏に焼きついた光景を消そうと、いっそうゴーランドの腕を強く抱く。女とは違う、筋肉の硬さが今は心強かった。
触れ合う場所から情けない震えが伝わっているのだろう。彼は気まずそうに〇〇にそっと尋ねた。
「もしかして、こういうのは嫌いだったか…?」
ここではっきり答えてしまえば、それまでだ。元からあるとは言えない雰囲気が崩れ去るのは目に見えている。
(ああ、気を遣わせてばっかりだな…。せっかくだから、楽しく過ごそうって思ってるのに)
そう、これは仮にも“デート”である。〇〇は一度唇を結ぶと、緩やかに解いて弧を描いた。
どうにも格好のつかない、この女々しい姿にも、今日は目を瞑って利用してしまおう。
また選択を誤ったかと気を落とすゴーランドを見つめて、
「…ね。出口まで腕を貸してくれたら、ちょっとは好きになる、かも」
と茶目っ気のある笑みを向けた余所者を、彼はしっかりと外までエスコートした。
お化け屋敷は迷路でもあり、分かれ道に何度も出くわしたが、ゴーランドの歩みに迷いはなかった。
おそらく最短距離で出口にたどり着くと、空は夜を迎えていた。
極度の緊張からは解放されたが、力んだ身体はなかなか正常に戻らない。
ぎくしゃくと動いて離れようとする〇〇を見て、ゴーランドは少し苦みを混ぜて笑った。
「あんたのそんな姿を見ることになるとは思わなかった。お化け屋敷の出来はまずまずだと思うんだが…刺激が強すぎたか」
手のひらが黒髪を撫でる。心地いい。染み込む体温に身を委ね、目蓋を下ろす。
髪に触れていた手がふと止まり、するりと顔の輪郭をたどると、唇を軽く啄まれた。
「ん…ゴーランド?」
「怒るなよ。デートの締めくくりだ」
キスを受けて、不思議に思う。怒りはまったく湧かなかった。満足そうにしている男にそういうものかと受け流す。
なんとなく二人で園内を歩きながら、ゴーランドは言った。
「俺の腕なら、いくらでも貸し出すぜ。なんならあんた専用にしてもいい。いつでも求めてくれ」
「ありがと。あたしには過ぎた贅沢だね」
後日、遊園地のお化け屋敷が大幅に改装された。
メルヘンな被り物をつけたゾンビが出るのは、ある余所者の意見が採用されたとか。(怖さは激減、だが不気味さは増した)
とりあえず、一般的寄りとなった新しいお化け屋敷では、断末魔が上がることはなくなったという。
end。→あとがき