熱の発露を誘うのは、いつも。
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身に覚えのある足元の風通しのよさ、ひらひらとした肌触り。
動くたびに実感してしまう自らの服装に対して、嘆く以外どうすればいいというのだろう。
薔薇の咲き誇る庭。昼という時間帯に開かれたお茶会で、ハートの女王様は夕方並みのご機嫌だ。
本格的な給仕などしたことのない〇〇は、慣れない手つきで見よう見真似に紅茶を注ぐ。
熱視線を浴びる全身は否応なしに緊張を強いられ、顔面は筋肉痛を予感させるほど強張っていた。
「〇〇…。そのように怖い顔をして、せっかくの衣装が台無しではないか」
ビバルディはふうと溜め息をつくと、洗練された動作でティーカップを口に運んだ。
そんなことを言われたって、どうしようもない。出そうになる文句を喉の奥に引っ込め、〇〇は代わりの言葉を表に押し出した。
「衣装もなにも……ただのメイド服なんだけど、これ」
ただのメイド服にせよ、なにこれコスプレ?な状態であるに違いないが。
無論、〇〇が好き好んで着るはずのないものだ。ならば何故着用しているのかというと、至極単純な話だった。
首をはねられるか、メイド服を着るか。
究極の二択は、真っ当に考えれば同列に並ぶはずのない選択肢である。
メイド服を着ることを〇〇自身に選ばせようという意図は明らかだったが、かといって冗談でも斬首を選べば、戯れに殺されかねない。
まだまだアリスを堪能し足りない〇〇は、女王の言葉を伝えに来たメイドの手から、意を決して彼女とお揃いの黒と赤の服を受け取り――今に至る。
(いや…お揃いだと思ったけど、着てみたらなんか丈が短いし)
なんだ、この無駄な絶対領域は。色気のなさが強調されてちょっと恥ずかしいぞ。
残念な仕上がりであることは確認するまでもないだろうと、〇〇は敢えて自分の姿を鏡で見ていなかった。
「あたしにこんなの着せて、なにが楽しいんだか…」
「見るだけで楽しく、面白い。わらわをこうも容易く満足させられる者は他に見当たらぬな」
「あー……それはなにより」
上機嫌な彼女の微笑みは、この状況と相俟って、何処かの誰かさんを思い起こさせた。
(これで哀れな犠牲者が減るっていうなら……まあ別にいいんだけどさ)
彼女の機嫌の良し悪しと斬首に処される人間の数は、切っても切り離せない関係にある。
〇〇のコスプレがビバルティの機嫌を上昇させ、結果として人命を救うのであれば安いものだろう。
というか、無理矢理にでもメリットを生じさせなければ正直やっていられない。
笑え、とビバルティが圧力をかけるので、〇〇は精一杯に口角を上げた。……やば、唇が痙攣しそう。
そんな〇〇を気遣ってか、共に給仕に勤しむメイドの二人がそっと声をかけてきた。
「とてもお似合いですわ。私達以上に着こなしていらっしゃるかも…」
「ええ、とても。メイド服がお似合いだなんて言っては、〇〇様に失礼かもしれませんが…素敵です」
声量を抑えたそれには、隠し切れない熱意がこもっていた。……わくわくというか、ドキドキというか。
女王陛下の御前でなければ、きゃっきゃと騒ぎ出しそうな雰囲気である。
好意的に受け止められるのは嬉しいが、何故か素直に喜べない。
(興奮する要素が、あたしのどこにある…?)
おおいに疑問だ。〇〇は不自然な笑顔をやめると、柔らかく唇を緩めた。
「あたしから見たら、アナタ達のほうがよっぽど似合ってて可愛いよ」
「まあ……」
「そんな……」
顔なしとはいえ、身に纏う雰囲気やぼんやりと窺える表情で感情はわかる。
彼女達は〇〇の言葉にうっすら頬を染め、恥じらっているようだった。ほら、やっぱりあたしなんかより、すごく女の子らしくて可愛い。
メイド服が似合うかどうかは、外見ばかりでなく中身も関係するらしい。
奥が深いな、メイド服。〇〇がうんうんと納得していると、
「――〇〇。それ以上わらわを放っておくつもりなら、即刻そやつらの首をはねる」
不機嫌な声を出したビバルディは、やる気満々の剣呑な眼差しでメイドを見据えた。
優雅なお茶会を流血で飾りつけたくはない。〇〇は慌ててビバルディに寄り添った。
「ごめん、怒らないで…な?」
「…ふん。メイドをたらしこむ暇があるのなら、わらわを口説けばよいのじゃ」
「いやいや、たらしこむって…」
正直に似合うものを似合うと褒めただけなのだが。事実がどうであれ、ひと時放置されただけでも嫌だったようだ。
ビバルディはツンとそっぽを向いていたが、ふと思いついたように〇〇に問うた。
「〇〇」
「なに?」
「おまえは、わらわのことをどう思う?」
「……うん?」
恋い慕うように甘い響きの問いかけ。なんだろう、新手の罠かなにかか。
一瞬疑いかけたものの、素直に答えるのが無難だろうと口を開く。
「ビバルディのことは、当然好きだよ」
「そこの役なしよりもか?」
「そりゃメイドさん達のことも好きだけど」
〇〇は頬に伸ばされた美しい手に手を添えて、にっこりと笑った。
「アナタのほうが好きだって、あたしの口から言わせたいんだ?」
望まれる返答を〇〇は知っている。ハートの女王の赤い唇は満足そうに、艶やかな弧を描いた。
動くたびに実感してしまう自らの服装に対して、嘆く以外どうすればいいというのだろう。
薔薇の咲き誇る庭。昼という時間帯に開かれたお茶会で、ハートの女王様は夕方並みのご機嫌だ。
本格的な給仕などしたことのない〇〇は、慣れない手つきで見よう見真似に紅茶を注ぐ。
熱視線を浴びる全身は否応なしに緊張を強いられ、顔面は筋肉痛を予感させるほど強張っていた。
「〇〇…。そのように怖い顔をして、せっかくの衣装が台無しではないか」
ビバルディはふうと溜め息をつくと、洗練された動作でティーカップを口に運んだ。
そんなことを言われたって、どうしようもない。出そうになる文句を喉の奥に引っ込め、〇〇は代わりの言葉を表に押し出した。
「衣装もなにも……ただのメイド服なんだけど、これ」
ただのメイド服にせよ、なにこれコスプレ?な状態であるに違いないが。
無論、〇〇が好き好んで着るはずのないものだ。ならば何故着用しているのかというと、至極単純な話だった。
首をはねられるか、メイド服を着るか。
究極の二択は、真っ当に考えれば同列に並ぶはずのない選択肢である。
メイド服を着ることを〇〇自身に選ばせようという意図は明らかだったが、かといって冗談でも斬首を選べば、戯れに殺されかねない。
まだまだアリスを堪能し足りない〇〇は、女王の言葉を伝えに来たメイドの手から、意を決して彼女とお揃いの黒と赤の服を受け取り――今に至る。
(いや…お揃いだと思ったけど、着てみたらなんか丈が短いし)
なんだ、この無駄な絶対領域は。色気のなさが強調されてちょっと恥ずかしいぞ。
残念な仕上がりであることは確認するまでもないだろうと、〇〇は敢えて自分の姿を鏡で見ていなかった。
「あたしにこんなの着せて、なにが楽しいんだか…」
「見るだけで楽しく、面白い。わらわをこうも容易く満足させられる者は他に見当たらぬな」
「あー……それはなにより」
上機嫌な彼女の微笑みは、この状況と相俟って、何処かの誰かさんを思い起こさせた。
(これで哀れな犠牲者が減るっていうなら……まあ別にいいんだけどさ)
彼女の機嫌の良し悪しと斬首に処される人間の数は、切っても切り離せない関係にある。
〇〇のコスプレがビバルティの機嫌を上昇させ、結果として人命を救うのであれば安いものだろう。
というか、無理矢理にでもメリットを生じさせなければ正直やっていられない。
笑え、とビバルティが圧力をかけるので、〇〇は精一杯に口角を上げた。……やば、唇が痙攣しそう。
そんな〇〇を気遣ってか、共に給仕に勤しむメイドの二人がそっと声をかけてきた。
「とてもお似合いですわ。私達以上に着こなしていらっしゃるかも…」
「ええ、とても。メイド服がお似合いだなんて言っては、〇〇様に失礼かもしれませんが…素敵です」
声量を抑えたそれには、隠し切れない熱意がこもっていた。……わくわくというか、ドキドキというか。
女王陛下の御前でなければ、きゃっきゃと騒ぎ出しそうな雰囲気である。
好意的に受け止められるのは嬉しいが、何故か素直に喜べない。
(興奮する要素が、あたしのどこにある…?)
おおいに疑問だ。〇〇は不自然な笑顔をやめると、柔らかく唇を緩めた。
「あたしから見たら、アナタ達のほうがよっぽど似合ってて可愛いよ」
「まあ……」
「そんな……」
顔なしとはいえ、身に纏う雰囲気やぼんやりと窺える表情で感情はわかる。
彼女達は〇〇の言葉にうっすら頬を染め、恥じらっているようだった。ほら、やっぱりあたしなんかより、すごく女の子らしくて可愛い。
メイド服が似合うかどうかは、外見ばかりでなく中身も関係するらしい。
奥が深いな、メイド服。〇〇がうんうんと納得していると、
「――〇〇。それ以上わらわを放っておくつもりなら、即刻そやつらの首をはねる」
不機嫌な声を出したビバルディは、やる気満々の剣呑な眼差しでメイドを見据えた。
優雅なお茶会を流血で飾りつけたくはない。〇〇は慌ててビバルディに寄り添った。
「ごめん、怒らないで…な?」
「…ふん。メイドをたらしこむ暇があるのなら、わらわを口説けばよいのじゃ」
「いやいや、たらしこむって…」
正直に似合うものを似合うと褒めただけなのだが。事実がどうであれ、ひと時放置されただけでも嫌だったようだ。
ビバルディはツンとそっぽを向いていたが、ふと思いついたように〇〇に問うた。
「〇〇」
「なに?」
「おまえは、わらわのことをどう思う?」
「……うん?」
恋い慕うように甘い響きの問いかけ。なんだろう、新手の罠かなにかか。
一瞬疑いかけたものの、素直に答えるのが無難だろうと口を開く。
「ビバルディのことは、当然好きだよ」
「そこの役なしよりもか?」
「そりゃメイドさん達のことも好きだけど」
〇〇は頬に伸ばされた美しい手に手を添えて、にっこりと笑った。
「アナタのほうが好きだって、あたしの口から言わせたいんだ?」
望まれる返答を〇〇は知っている。ハートの女王の赤い唇は満足そうに、艶やかな弧を描いた。