救いを断たれた世界の何処かで。
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純粋な白。無垢な白。漂白されたかのような白。
清潔感漂う白さはしかし、光を反射するように、すべてを拒絶する。
なにもかもを白色で埋め尽くした部屋の中でただひとつ、〇〇の横たわる寝台だけが異なる色に染まっていた。
燃えるような緋色のシーツの上で、〇〇は倦怠感を纏って寝返りを打った。冷えた鎖の音が従う。
白と赤のこの部屋は、檻だった。
ここに連れて来られてからどれほどの月日が流れたのか、もはや自身の感覚はあてにならない。
“生きる”とは、どういう状態を言うのであったのだろう。
以前はさも当たり前のように生きていたはずなのに、今は他人の手によって“生かされている”自分しか認識できずにいる。
〇〇をこの何処とも知れぬ屋敷の一室に閉じ込めた男は、部屋を二色に彩ることで、不在時でさえ己の存在を主張した。
逃れられない現実から一瞬でも目を背けたくて、〇〇は目蓋を下ろしたまま、無為の時間に身を委ねる。
その唯一の抵抗も、開錠の音とともに呆気なく断たれてしまうのだけれど。
赤と白の世界に色を運んできた男は、いつもどおりであったが、そうではなかった。
その腕には、青いエプロンドレスの少女がいた。〇〇はハッと瞠目すると、勢いよく跳ね起きた。
彼女が寝かされたソファーに駆け寄ろうとしたが、行動を制限する鎖が無慈悲に〇〇の首を締めつけた。
喉が詰まって噎せる〇〇の耳に、呆れの笑い声が届く。
「なにをしているんですか、あなたは…。自虐趣味は感心しませんよ」
部屋と同色を纏う男――〇〇を監禁した張本人、ペーター=ホワイトは、重たい扉に再び施錠し終えるとこちらに近づいて来た。
反射のように強張る身体も意に介さず、ベッドに腰掛けて、〇〇の背中を優しく摩る。
思わず声を上げそうになったが、喉は引き攣っただけだった。
「大丈夫ですか。喉は痛みますか?ああ、こんなに赤くなって…。後で消毒しましょうね」
「い、いい。いらない」
なにかに託つけて触れてこようとするペーターに、〇〇は即座に返した。
だが、負の感情に色濃くなる彼の瞳を見て、自分の失言に気づいた。
ペーターは〇〇の否定や拒絶には過敏に反応する。
言葉に出さなくとも表情や雰囲気を察知して、〇〇が否を応に変えるまで、延々と身体を責め苛み続けるのだ。
苦痛よりはまだましだ、耐えられる。そう思えていたのは最初のうちだけで、経験値を遥かに上回る責め苦に、今では精神ともども参ってしまっていた。
「ねえ、〇〇。まさかこの僕に…嫌だなんて、言いませんよね?」
「っ…」
「だって、あなたは僕のことを愛しているんですから」
首輪が擦れて赤くなった喉を撫でながら、ペーターは鈍い光を帯びて爛々と輝く目を細めた。
慈しむように肌を行き交う指は、憎悪も殺意も宿してはいない。
「僕はあなたのこと、大嫌いですけど。あなたは僕にならなにをされても、全部喜んで受け入れるんでしょう?」
「……それは、」
ペーターの願望だ――決して信じたくはないけれど。そうであれと迫る彼を理解できない。
こんなふうにされてもなお、〇〇のペーターに対する感情は嫌悪にもなっていなかった。
だが、それは意図的な無理解といつまで経ってもおさまらない混乱が大半を占めているためだ。
そして、ゲームのキャラクターとして抱いていた好意も、今ではどんな形をしていたのか思い出せそうになかった。
清潔感漂う白さはしかし、光を反射するように、すべてを拒絶する。
なにもかもを白色で埋め尽くした部屋の中でただひとつ、〇〇の横たわる寝台だけが異なる色に染まっていた。
燃えるような緋色のシーツの上で、〇〇は倦怠感を纏って寝返りを打った。冷えた鎖の音が従う。
白と赤のこの部屋は、檻だった。
ここに連れて来られてからどれほどの月日が流れたのか、もはや自身の感覚はあてにならない。
“生きる”とは、どういう状態を言うのであったのだろう。
以前はさも当たり前のように生きていたはずなのに、今は他人の手によって“生かされている”自分しか認識できずにいる。
〇〇をこの何処とも知れぬ屋敷の一室に閉じ込めた男は、部屋を二色に彩ることで、不在時でさえ己の存在を主張した。
逃れられない現実から一瞬でも目を背けたくて、〇〇は目蓋を下ろしたまま、無為の時間に身を委ねる。
その唯一の抵抗も、開錠の音とともに呆気なく断たれてしまうのだけれど。
赤と白の世界に色を運んできた男は、いつもどおりであったが、そうではなかった。
その腕には、青いエプロンドレスの少女がいた。〇〇はハッと瞠目すると、勢いよく跳ね起きた。
彼女が寝かされたソファーに駆け寄ろうとしたが、行動を制限する鎖が無慈悲に〇〇の首を締めつけた。
喉が詰まって噎せる〇〇の耳に、呆れの笑い声が届く。
「なにをしているんですか、あなたは…。自虐趣味は感心しませんよ」
部屋と同色を纏う男――〇〇を監禁した張本人、ペーター=ホワイトは、重たい扉に再び施錠し終えるとこちらに近づいて来た。
反射のように強張る身体も意に介さず、ベッドに腰掛けて、〇〇の背中を優しく摩る。
思わず声を上げそうになったが、喉は引き攣っただけだった。
「大丈夫ですか。喉は痛みますか?ああ、こんなに赤くなって…。後で消毒しましょうね」
「い、いい。いらない」
なにかに託つけて触れてこようとするペーターに、〇〇は即座に返した。
だが、負の感情に色濃くなる彼の瞳を見て、自分の失言に気づいた。
ペーターは〇〇の否定や拒絶には過敏に反応する。
言葉に出さなくとも表情や雰囲気を察知して、〇〇が否を応に変えるまで、延々と身体を責め苛み続けるのだ。
苦痛よりはまだましだ、耐えられる。そう思えていたのは最初のうちだけで、経験値を遥かに上回る責め苦に、今では精神ともども参ってしまっていた。
「ねえ、〇〇。まさかこの僕に…嫌だなんて、言いませんよね?」
「っ…」
「だって、あなたは僕のことを愛しているんですから」
首輪が擦れて赤くなった喉を撫でながら、ペーターは鈍い光を帯びて爛々と輝く目を細めた。
慈しむように肌を行き交う指は、憎悪も殺意も宿してはいない。
「僕はあなたのこと、大嫌いですけど。あなたは僕にならなにをされても、全部喜んで受け入れるんでしょう?」
「……それは、」
ペーターの願望だ――決して信じたくはないけれど。そうであれと迫る彼を理解できない。
こんなふうにされてもなお、〇〇のペーターに対する感情は嫌悪にもなっていなかった。
だが、それは意図的な無理解といつまで経ってもおさまらない混乱が大半を占めているためだ。
そして、ゲームのキャラクターとして抱いていた好意も、今ではどんな形をしていたのか思い出せそうになかった。