手折られぬ君を翻弄。
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行きがけ、支払いをめぐってちょっと揉めたのだが、結局はユリウスの懐から出費することになった。
最初に食事に誘ったのは私だ、だから私が金を出すと言って譲らなかったユリウス。
やっぱり約束を覚えてたんじゃないかと、先を行く大きな背中に向かって〇〇はこっそり笑った。
ユリウスとの外食は満足のいく内容だった。
形式張ったお固い店ではなく、気軽に入れて手頃な価格の料理を出すレストランを選んだこともよかったのだろう。
食事を楽しみながら、合間に言葉を交わしたり、沈黙に身を委ねたりと気兼ねなく時間を過ごした。
せっかくだからと酒を注文して――昼間からどうかと思ったが、意外にもユリウスは同意した――ほどよい頃合いにレストランをあとにした。
表向きはいつもどおりだったが、ユリウスは機嫌がいいようだった。
酒を口に運ぶ手も進んでいたし、〇〇がほろ酔い気分なのに対して、彼は完全に酔っ払っていた。
「ほらほら、ユリウス、足元気をつけて」
危なげな足取りを見かねて、〇〇はユリウスの片腕を取った。
か弱い女の子であるつもりはないが、大の男の支えになるには筋力が十分ではない。
相手のふらつきに多少巻き込まれながら、急ぐ必要もないかとゆっくりと時計塔を目指して歩く。
ふと見上げた先、空の色が闇色に染まっていくのを〇〇は見た。
辺りが薄暗くなるにつれ、ぽつりぽつりと街明かりが灯っていく。――夜がやってきた。
「見て、ユリウス。この世界ならではの移り変わりって、なかなか綺麗だな」
「酔ってない…私は酔ってないぞ」
「……誰もそんな話はしてないよ」
しかもそれ酔っ払いの常套句だっての、と〇〇は溜め息をついてみせた。
たとえ素面だったとしても、共感を得られたかどうか。彼らにとってはなんの変哲もない日常の光景だろう。
こういうときにアリスがいてくれたらと思う。彼女ならきっとわかってくれるに違いない。
(ついでに…いや、メインで酔ったユリウスとの絡みを見せてくれたら最高だ)
と、やや品のよろしくない方向へ妄想してにやけていた、その罰が当たったのだろうか。
そこでばったり遭遇したのが求める少女ではなかったばかりか、なんと例のあれを蒸し返す存在だったのだ。
帽子もステッキも、当然上着もきちっと装備していたが、夢のそれと重ねずにはいられない。何故よりにもよって今、会ってしまうのか。
こりゃ面倒なことになりそうだと、冷静さを押し出すようにして頭を働かせた。
「これはこれは…珍しいものを見せてくれるじゃないか、お嬢さん」
「お嬢さんじゃないって否定するのは何度目だろうね、ボス?」
ぐらっと揺れたユリウスの腕を体重をかけて支えて、〇〇はひとまず笑顔を向けた。
早々に立ち去りたいのだが、許される空気ではなかった。
ブラッドは〇〇に身を預けているユリウスを面白がるように、同時に底冷えするような不機嫌さをもって眺めた。
「そこにいる不甲斐ない男はどうしたんだ?女性の手を煩わせるとは、なんとも情けない体たらくだな」
「いや…これは一緒に飲んだあたしにも責任があるから」
連れの面倒を見るのは当然だ。性別は関係ない。
庇ったつもりはなかったが、ブラッドは弁解を鼻で笑って一蹴した。
「仲睦まじくて結構。だが…時計塔での君の扱われ方が気になるところだよ」
「は?」
〇〇は意味がわからず首を傾げた。仲睦まじい、かはともかくも、不仲では同居など到底無理だろう。
扱われ方という言いようは、まるでぞんざいに振る舞われているように聞こえるではないか。
居候でよくしてもらっている身である〇〇としては、聞き捨てならなかった。家主に失礼だ。
「あのなあ、ブラッ…」
文句のひとつもと思った〇〇は、急に大きな身体に覆いかぶさられて言葉を切った。
ずしりと肩にかかる重み。酒気を帯びた息が耳元をくすぐった。その正体は言うまでもない。
「時計塔でどう過ごそうが、貴様には関係ないことだ。私達はうまくやっている」
体勢は謎だったが、同意を促されているのは響きで感じ取った。
否定する理由もなく、〇〇は首を縦に振った。
「まあ、うまくいってなかったら、あたしなんてとっくに追い出されてるはずだしね」
それを受けて、腹の辺りに回された腕がぎゅっと締まった。食事と酒の後だ、正直あまり圧迫しないでほしい。
「…おまえはまだそんな心配をしていたのか」
ユリウスは呆れと苦笑を織り交ぜた。
まるで大切なものを抱くようにして、驚くべき柔らかな口調で告げる。
「安心しろ。おまえが出ていきたいと思わない限り、時計塔はずっとおまえの居場所だ」
「あは……うん、それはありがたい」
わお。時計屋さん、アナタ相当酔っていらっしゃる。
そして彼ほどではないが、〇〇も確実に酔っているようだった。
耳に心地よい低音が心に染み入るようで、らしくもなくはにかんでしまった。
最初に食事に誘ったのは私だ、だから私が金を出すと言って譲らなかったユリウス。
やっぱり約束を覚えてたんじゃないかと、先を行く大きな背中に向かって〇〇はこっそり笑った。
ユリウスとの外食は満足のいく内容だった。
形式張ったお固い店ではなく、気軽に入れて手頃な価格の料理を出すレストランを選んだこともよかったのだろう。
食事を楽しみながら、合間に言葉を交わしたり、沈黙に身を委ねたりと気兼ねなく時間を過ごした。
せっかくだからと酒を注文して――昼間からどうかと思ったが、意外にもユリウスは同意した――ほどよい頃合いにレストランをあとにした。
表向きはいつもどおりだったが、ユリウスは機嫌がいいようだった。
酒を口に運ぶ手も進んでいたし、〇〇がほろ酔い気分なのに対して、彼は完全に酔っ払っていた。
「ほらほら、ユリウス、足元気をつけて」
危なげな足取りを見かねて、〇〇はユリウスの片腕を取った。
か弱い女の子であるつもりはないが、大の男の支えになるには筋力が十分ではない。
相手のふらつきに多少巻き込まれながら、急ぐ必要もないかとゆっくりと時計塔を目指して歩く。
ふと見上げた先、空の色が闇色に染まっていくのを〇〇は見た。
辺りが薄暗くなるにつれ、ぽつりぽつりと街明かりが灯っていく。――夜がやってきた。
「見て、ユリウス。この世界ならではの移り変わりって、なかなか綺麗だな」
「酔ってない…私は酔ってないぞ」
「……誰もそんな話はしてないよ」
しかもそれ酔っ払いの常套句だっての、と〇〇は溜め息をついてみせた。
たとえ素面だったとしても、共感を得られたかどうか。彼らにとってはなんの変哲もない日常の光景だろう。
こういうときにアリスがいてくれたらと思う。彼女ならきっとわかってくれるに違いない。
(ついでに…いや、メインで酔ったユリウスとの絡みを見せてくれたら最高だ)
と、やや品のよろしくない方向へ妄想してにやけていた、その罰が当たったのだろうか。
そこでばったり遭遇したのが求める少女ではなかったばかりか、なんと例のあれを蒸し返す存在だったのだ。
帽子もステッキも、当然上着もきちっと装備していたが、夢のそれと重ねずにはいられない。何故よりにもよって今、会ってしまうのか。
こりゃ面倒なことになりそうだと、冷静さを押し出すようにして頭を働かせた。
「これはこれは…珍しいものを見せてくれるじゃないか、お嬢さん」
「お嬢さんじゃないって否定するのは何度目だろうね、ボス?」
ぐらっと揺れたユリウスの腕を体重をかけて支えて、〇〇はひとまず笑顔を向けた。
早々に立ち去りたいのだが、許される空気ではなかった。
ブラッドは〇〇に身を預けているユリウスを面白がるように、同時に底冷えするような不機嫌さをもって眺めた。
「そこにいる不甲斐ない男はどうしたんだ?女性の手を煩わせるとは、なんとも情けない体たらくだな」
「いや…これは一緒に飲んだあたしにも責任があるから」
連れの面倒を見るのは当然だ。性別は関係ない。
庇ったつもりはなかったが、ブラッドは弁解を鼻で笑って一蹴した。
「仲睦まじくて結構。だが…時計塔での君の扱われ方が気になるところだよ」
「は?」
〇〇は意味がわからず首を傾げた。仲睦まじい、かはともかくも、不仲では同居など到底無理だろう。
扱われ方という言いようは、まるでぞんざいに振る舞われているように聞こえるではないか。
居候でよくしてもらっている身である〇〇としては、聞き捨てならなかった。家主に失礼だ。
「あのなあ、ブラッ…」
文句のひとつもと思った〇〇は、急に大きな身体に覆いかぶさられて言葉を切った。
ずしりと肩にかかる重み。酒気を帯びた息が耳元をくすぐった。その正体は言うまでもない。
「時計塔でどう過ごそうが、貴様には関係ないことだ。私達はうまくやっている」
体勢は謎だったが、同意を促されているのは響きで感じ取った。
否定する理由もなく、〇〇は首を縦に振った。
「まあ、うまくいってなかったら、あたしなんてとっくに追い出されてるはずだしね」
それを受けて、腹の辺りに回された腕がぎゅっと締まった。食事と酒の後だ、正直あまり圧迫しないでほしい。
「…おまえはまだそんな心配をしていたのか」
ユリウスは呆れと苦笑を織り交ぜた。
まるで大切なものを抱くようにして、驚くべき柔らかな口調で告げる。
「安心しろ。おまえが出ていきたいと思わない限り、時計塔はずっとおまえの居場所だ」
「あは……うん、それはありがたい」
わお。時計屋さん、アナタ相当酔っていらっしゃる。
そして彼ほどではないが、〇〇も確実に酔っているようだった。
耳に心地よい低音が心に染み入るようで、らしくもなくはにかんでしまった。