あの子のクッキーをめぐるお話。
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アリスを愛する彼の気持ちも、〇〇を厭う気持ちもよくわかる。
だからといって、これはアリスが好意で〇〇にくれたものなのだ。みすみす奪われるのもなあと、〇〇は思案顔になった。
しかも、こちらはアリスを諦めて帰途につく身だ。
今から会いに行くペーターは、あたしに構ってないで、早く行って自分の分を直接もらえばいいのでは。
(意地でもあたしに渡したくないとか?…ありえる。ていうか絶対そうだ)
〇〇はこれみよがしに深い溜め息をついてみせた。うまく逃れられるかは賭けだった。
「ここはひとつ、ペーターの広ーい心で見逃してくれないかな。ほら、アリスだって、狭量な男は好きじゃないだろうし?」
ペーターはアリス一筋ゆえに、大嫌いな余所者の言葉にも耳を傾けざるを得ないのである。
嫌いなら嫌いで、そんな奴の言うことなんてさらっと聞き流せばいいのに。難儀なことだ。
(ま、ペーターはペーターだもんなあ…)
だからこそペタアリ大好き、とつい頬がだらしなく緩んでしまう。
ペーターはというと、心の葛藤が表に出てしまっている。アリスと〇〇、心血を注いでどちらを想うかは一目瞭然だった。
「さ、あたしのことなんか放っておいてアリスのとこに行きなよ。大丈夫、あたしは大人しく帰るから」
後押しするつもりで軽い口調でそう告げた。すると、赤い目がひたりと〇〇を捉えた。
「帰る……つまり、時計塔へ?」
「そうだけど?」
「……」
沈黙が落ちる。あれ?と〇〇は首を傾げた。なんだかペーターの発する空気がさっきとは種類が違うような。
ぴりぴりと肌を刺す冷気。え、なに、まさか怒ってる?
キッと勢いよく顔を上げた白ウサギは、今にも引き金を引かんばかりに憤っていた。何故だ。
「あなたがアリスの作ったものを口にするなんて百万年早い!いいえっ、未来永劫許されるはずがありません」
「……は?」
「持ち帰ってどうするつもりですか。まさか時計屋と仲良く分け合うとでも?」
口を挟む間もなく、ペーターは次々と言葉を吐き捨てた。
「ああなるほど、あなたはそうやって男の気を惹くんですね。見るだけで苛立つような笑顔を向けて。時計屋も柄にもなく、あなたには笑い返したりするんでしょう?…想像するだけで気持ち悪い、反吐が出る」
酷い暴言を吐かれているのだが、〇〇はきょとんとして突っ立っているだけだった。
ペーターは一人で勝手にヒートアップしている。いつ終わるのだろうとしばらく眺めていると、
「――ですが、そうはさせません。ええ、二人きりで楽しませるなど言語道断!それは――これは、僕のものです!」
(あ、終わった?)
言い切ったペーターは息切れしたのか、肩を揺らしていた。
実は話しているうちに、ペーターはその方向性を見失っていた。それ、これ、とは素直にクッキーを指していたのか。あるいは。
勇気ある第三者がいたのなら、単に時計屋と余所者が仲良くするのが気に食わないだけなんじゃないか、と言ったかもしれない。
大半を聞き流した〇〇はそのことに気づかず、よってそのズレを指摘することもなかった。
(んー…。やっぱりペーターは、ライバルには食べさせたくない、か)
おおざっぱに聞いていた結論がこれだった。アリス手作りのクッキーは、役持ちにとって争奪の的であろう。
〇〇はしばらく包みを見つめると、おもむろにそのリボンを解いた。中からふわりといい香りが現れる。自然と表情が緩くなる匂いだ。
近づく〇〇に、ペーターは警戒心いっぱいに銃口を突き出した。
「なんですか。近寄らないでください」
「ユリウスに渡したくない気持ちはよくわかった。だから、はい」
〇〇はクッキーを一枚摘むと、悪戯っぽく首を傾げて微笑んだ。
「はい、あーん」
「!? なッ……」
それはまさしく嫌がらせだった。
ペタアリを生で楽しむことを断念し、さらにユリウスの反応を確かめることを諦める代わりの。
よそ向きの中でも完成度の高い、とびっきりの笑顔をプレゼント。
案の定、ペーター=ホワイトは銃を構えた姿勢で固まってしまった。
彼の色白の肌がほのかに色づく。その原因が怒り以外のものであったとは、〇〇はもちろん、当の本人でさえ知らない事実だった。
口を開けてもらえるとは端から思っていなかった。取り出したクッキーを包みに戻す。
そして、〇〇は再びリボンを結び直すと、硬直するペーターの横を通り過ぎた。
擦れ違いざま、彼の上着のポケットに包みを入れて。
白ウサギは発砲することもなければ、あとを追ってくることもなかった。
end。→あとがき
だからといって、これはアリスが好意で〇〇にくれたものなのだ。みすみす奪われるのもなあと、〇〇は思案顔になった。
しかも、こちらはアリスを諦めて帰途につく身だ。
今から会いに行くペーターは、あたしに構ってないで、早く行って自分の分を直接もらえばいいのでは。
(意地でもあたしに渡したくないとか?…ありえる。ていうか絶対そうだ)
〇〇はこれみよがしに深い溜め息をついてみせた。うまく逃れられるかは賭けだった。
「ここはひとつ、ペーターの広ーい心で見逃してくれないかな。ほら、アリスだって、狭量な男は好きじゃないだろうし?」
ペーターはアリス一筋ゆえに、大嫌いな余所者の言葉にも耳を傾けざるを得ないのである。
嫌いなら嫌いで、そんな奴の言うことなんてさらっと聞き流せばいいのに。難儀なことだ。
(ま、ペーターはペーターだもんなあ…)
だからこそペタアリ大好き、とつい頬がだらしなく緩んでしまう。
ペーターはというと、心の葛藤が表に出てしまっている。アリスと〇〇、心血を注いでどちらを想うかは一目瞭然だった。
「さ、あたしのことなんか放っておいてアリスのとこに行きなよ。大丈夫、あたしは大人しく帰るから」
後押しするつもりで軽い口調でそう告げた。すると、赤い目がひたりと〇〇を捉えた。
「帰る……つまり、時計塔へ?」
「そうだけど?」
「……」
沈黙が落ちる。あれ?と〇〇は首を傾げた。なんだかペーターの発する空気がさっきとは種類が違うような。
ぴりぴりと肌を刺す冷気。え、なに、まさか怒ってる?
キッと勢いよく顔を上げた白ウサギは、今にも引き金を引かんばかりに憤っていた。何故だ。
「あなたがアリスの作ったものを口にするなんて百万年早い!いいえっ、未来永劫許されるはずがありません」
「……は?」
「持ち帰ってどうするつもりですか。まさか時計屋と仲良く分け合うとでも?」
口を挟む間もなく、ペーターは次々と言葉を吐き捨てた。
「ああなるほど、あなたはそうやって男の気を惹くんですね。見るだけで苛立つような笑顔を向けて。時計屋も柄にもなく、あなたには笑い返したりするんでしょう?…想像するだけで気持ち悪い、反吐が出る」
酷い暴言を吐かれているのだが、〇〇はきょとんとして突っ立っているだけだった。
ペーターは一人で勝手にヒートアップしている。いつ終わるのだろうとしばらく眺めていると、
「――ですが、そうはさせません。ええ、二人きりで楽しませるなど言語道断!それは――これは、僕のものです!」
(あ、終わった?)
言い切ったペーターは息切れしたのか、肩を揺らしていた。
実は話しているうちに、ペーターはその方向性を見失っていた。それ、これ、とは素直にクッキーを指していたのか。あるいは。
勇気ある第三者がいたのなら、単に時計屋と余所者が仲良くするのが気に食わないだけなんじゃないか、と言ったかもしれない。
大半を聞き流した〇〇はそのことに気づかず、よってそのズレを指摘することもなかった。
(んー…。やっぱりペーターは、ライバルには食べさせたくない、か)
おおざっぱに聞いていた結論がこれだった。アリス手作りのクッキーは、役持ちにとって争奪の的であろう。
〇〇はしばらく包みを見つめると、おもむろにそのリボンを解いた。中からふわりといい香りが現れる。自然と表情が緩くなる匂いだ。
近づく〇〇に、ペーターは警戒心いっぱいに銃口を突き出した。
「なんですか。近寄らないでください」
「ユリウスに渡したくない気持ちはよくわかった。だから、はい」
〇〇はクッキーを一枚摘むと、悪戯っぽく首を傾げて微笑んだ。
「はい、あーん」
「!? なッ……」
それはまさしく嫌がらせだった。
ペタアリを生で楽しむことを断念し、さらにユリウスの反応を確かめることを諦める代わりの。
よそ向きの中でも完成度の高い、とびっきりの笑顔をプレゼント。
案の定、ペーター=ホワイトは銃を構えた姿勢で固まってしまった。
彼の色白の肌がほのかに色づく。その原因が怒り以外のものであったとは、〇〇はもちろん、当の本人でさえ知らない事実だった。
口を開けてもらえるとは端から思っていなかった。取り出したクッキーを包みに戻す。
そして、〇〇は再びリボンを結び直すと、硬直するペーターの横を通り過ぎた。
擦れ違いざま、彼の上着のポケットに包みを入れて。
白ウサギは発砲することもなければ、あとを追ってくることもなかった。
end。→あとがき