それぞれの唇で。
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「――アリス、ここですか!?」
扉の建て付けが悪くなるのではないかと思うほどの勢いだった。
ユリウスと〇〇は呆気に取られて、前触れもなくばーんと開け放たれたそこに視線を集めた。
ユリウスは銜えていた指を離したが、白ウサギの目を引くには十分な時間があった。
一瞬にして求める彼女の不在を認めたらしいペーターは一気に纏う温度を下降させ、さらに二人を凝視して冷気に刺々しさを生じさせた。
「……二人でこそこそと、いったいなにをしているんです?」
「ここは私の住居だ。こそこそもなにも、為すことすべてを貴様に報告する義務はない」
先に我に返った時計塔の主が、すぐさま立ち上がって応戦の姿勢を見せた。
一足遅れで、居候の余所者も気の立った来訪者に声をかけた。
「アリスなら今日は来てないけど。緊急の用でも…」
「黙りなさい。あなたには関係のないことです」
ぴしゃりと撥ね退ける物言いは、いつにも増して辛辣な気がした。〇〇は首を竦めた。こりゃ下手に口出しすると厄介なことになりそうだな。
ただでさえ決して友好的でない関係なのだ、アリス不在のダメージが重なればとことん悪化の一途を辿るだろう。
不仲を追求して満たされる性癖は持ち合わせていないので、言葉の剣を振りかぶられる前に微笑みで降参した。
…ますます気分を害したような顔をされても困る。
「アリスを目当てに来たのなら、〇〇の言うとおりだ。他を当たれ」
ペーターはユリウスの小さな擁護さえ気に食わないようだった。
無駄に会話する僅かな時間も惜しいはずなのに、構わずにはいられないという顔。
すごすごと立ち去るには彼のプライドが許さないのだろうか。
機嫌がいいとは言えない表情のユリウス、その視線の先のペーターは真っ直ぐに〇〇を睨みつけている。
下手を打てば要らぬ被害を受けそうだったが、肝心のウサギさんがこちらを見ていてはしかたがない。
妙な膠着状態を脱すべく、〇〇は口を開いた。
「あー…まあ、あれだ。こうしてたって意味がないから、アリスを探しに行こっか?ペーターさえよければあたしも付き合うよ」
さあ、これをきっかけにすれば自然に出ていけるはずだ。いつもどおりきつい言葉を吐いて、冗談じゃないとばかりに出ていけばいい。
虐げられて喜びを感じる体質ではないが、アリスのためならば喜んで甘受しよう。
ところが、ペーターは動かなかった。ものも言わない。意地でも張っているのかと、〇〇は立ち上がって近づいた。
「ペーター…っ?」
腕を取られる。驚きが抵抗を上回り、そのまま引きずられていきそうになった。
無言で立ち去ろうとするペーターに、椅子が倒れる荒々しい音が敵対した。ユリウスが低く制止の声を上げた。
彼はいつの間にか工具を銃に変え、照準をペーターに合わせていた。
「待て。そいつを連れていく気か」
「…それがなにか?」
ペーターは抑揚なく淡々と答える。その分、ユリウスの苛立ちが露になった。
「なにを企んでいる?貴様は〇〇を嫌っているだろう。そいつになにかするつもりで連れていくなら、見過ごすわけにはいかない」
「待って、ユリウス。ここは穏便に…な?」
〇〇は慌てて仲裁に入った。銃を向けてまで守ろうとしてくれるのは嬉しいが、大袈裟でもある。
一応居候を預かる者としての義務感がそうさせるのだろう。
白ウサギの意図は読めないが、危害を加えるようなことはない、はず。ぎりりと服を通して肌に食い込む指に、たぶん、と心の中で自信なく付け加えた。
「なにを偉そうに…。これをどうしようが僕の勝手でしょう。なんの権限があって口出しするんです?」
「仮にも時計塔に滞在する余所者だ。私の知らないところで害が及ぶのは…いい気がしない」
(ユリウス…)
不器用な気遣いに、受け入れられていることを実感する。
拾った動物に少なからず情が湧くように、一度懐に入れた人間には時計屋はある種“甘い”。
ユリウスがそうだから、〇〇もまた思うのだ。なるべく迷惑はかけたくないなと。
〇〇は身体の自由を諦め、白ウサギに向かって言った。
「ペーターはなんであたしを連れていきたいの」
意表を突かれたように、一瞬圧迫が弱まった。だが強く握り直すと、彼はこれといった感情もなく答えた。
「――…手土産ですよ。アリスはあなたが来ると嬉しそうにする。彼女の笑顔が見られるなら、僕は僕を犠牲にしてもいい」
〇〇は掴まれた腕を見た。……なるほど、犠牲の結果がこの状態か。
アリス至上を掲げる身としては、これ以上抵抗する理由がなくなった。身体を張ってアリスを想う白ウサギ。いいじゃないか。
ふっと表情を和らげて、〇〇はユリウスと目を合わせた。
気難し屋で意外と心配性の同居人は、視線の中に意思を読み取って瞠目したが、やがて銃口を下げて工具に戻した。
それを見たペーターは不可解そうに眉を上げた。
「…なんの真似ですか?」
ユリウスは返答せず、代わりに〇〇に問いかけた。
「行くのか」
「うん」
短いやりとりだが二人は確かに通じ合った。
この件は終了だとばかりに時計屋は倒した椅子を戻すと、何事もなかったように仕事を再開した。
唐突な幕切れにやや呆然とするペーター。〇〇が出発を促すように揺らしてみた手は、依然として掴まれていたけれど。
扉の建て付けが悪くなるのではないかと思うほどの勢いだった。
ユリウスと〇〇は呆気に取られて、前触れもなくばーんと開け放たれたそこに視線を集めた。
ユリウスは銜えていた指を離したが、白ウサギの目を引くには十分な時間があった。
一瞬にして求める彼女の不在を認めたらしいペーターは一気に纏う温度を下降させ、さらに二人を凝視して冷気に刺々しさを生じさせた。
「……二人でこそこそと、いったいなにをしているんです?」
「ここは私の住居だ。こそこそもなにも、為すことすべてを貴様に報告する義務はない」
先に我に返った時計塔の主が、すぐさま立ち上がって応戦の姿勢を見せた。
一足遅れで、居候の余所者も気の立った来訪者に声をかけた。
「アリスなら今日は来てないけど。緊急の用でも…」
「黙りなさい。あなたには関係のないことです」
ぴしゃりと撥ね退ける物言いは、いつにも増して辛辣な気がした。〇〇は首を竦めた。こりゃ下手に口出しすると厄介なことになりそうだな。
ただでさえ決して友好的でない関係なのだ、アリス不在のダメージが重なればとことん悪化の一途を辿るだろう。
不仲を追求して満たされる性癖は持ち合わせていないので、言葉の剣を振りかぶられる前に微笑みで降参した。
…ますます気分を害したような顔をされても困る。
「アリスを目当てに来たのなら、〇〇の言うとおりだ。他を当たれ」
ペーターはユリウスの小さな擁護さえ気に食わないようだった。
無駄に会話する僅かな時間も惜しいはずなのに、構わずにはいられないという顔。
すごすごと立ち去るには彼のプライドが許さないのだろうか。
機嫌がいいとは言えない表情のユリウス、その視線の先のペーターは真っ直ぐに〇〇を睨みつけている。
下手を打てば要らぬ被害を受けそうだったが、肝心のウサギさんがこちらを見ていてはしかたがない。
妙な膠着状態を脱すべく、〇〇は口を開いた。
「あー…まあ、あれだ。こうしてたって意味がないから、アリスを探しに行こっか?ペーターさえよければあたしも付き合うよ」
さあ、これをきっかけにすれば自然に出ていけるはずだ。いつもどおりきつい言葉を吐いて、冗談じゃないとばかりに出ていけばいい。
虐げられて喜びを感じる体質ではないが、アリスのためならば喜んで甘受しよう。
ところが、ペーターは動かなかった。ものも言わない。意地でも張っているのかと、〇〇は立ち上がって近づいた。
「ペーター…っ?」
腕を取られる。驚きが抵抗を上回り、そのまま引きずられていきそうになった。
無言で立ち去ろうとするペーターに、椅子が倒れる荒々しい音が敵対した。ユリウスが低く制止の声を上げた。
彼はいつの間にか工具を銃に変え、照準をペーターに合わせていた。
「待て。そいつを連れていく気か」
「…それがなにか?」
ペーターは抑揚なく淡々と答える。その分、ユリウスの苛立ちが露になった。
「なにを企んでいる?貴様は〇〇を嫌っているだろう。そいつになにかするつもりで連れていくなら、見過ごすわけにはいかない」
「待って、ユリウス。ここは穏便に…な?」
〇〇は慌てて仲裁に入った。銃を向けてまで守ろうとしてくれるのは嬉しいが、大袈裟でもある。
一応居候を預かる者としての義務感がそうさせるのだろう。
白ウサギの意図は読めないが、危害を加えるようなことはない、はず。ぎりりと服を通して肌に食い込む指に、たぶん、と心の中で自信なく付け加えた。
「なにを偉そうに…。これをどうしようが僕の勝手でしょう。なんの権限があって口出しするんです?」
「仮にも時計塔に滞在する余所者だ。私の知らないところで害が及ぶのは…いい気がしない」
(ユリウス…)
不器用な気遣いに、受け入れられていることを実感する。
拾った動物に少なからず情が湧くように、一度懐に入れた人間には時計屋はある種“甘い”。
ユリウスがそうだから、〇〇もまた思うのだ。なるべく迷惑はかけたくないなと。
〇〇は身体の自由を諦め、白ウサギに向かって言った。
「ペーターはなんであたしを連れていきたいの」
意表を突かれたように、一瞬圧迫が弱まった。だが強く握り直すと、彼はこれといった感情もなく答えた。
「――…手土産ですよ。アリスはあなたが来ると嬉しそうにする。彼女の笑顔が見られるなら、僕は僕を犠牲にしてもいい」
〇〇は掴まれた腕を見た。……なるほど、犠牲の結果がこの状態か。
アリス至上を掲げる身としては、これ以上抵抗する理由がなくなった。身体を張ってアリスを想う白ウサギ。いいじゃないか。
ふっと表情を和らげて、〇〇はユリウスと目を合わせた。
気難し屋で意外と心配性の同居人は、視線の中に意思を読み取って瞠目したが、やがて銃口を下げて工具に戻した。
それを見たペーターは不可解そうに眉を上げた。
「…なんの真似ですか?」
ユリウスは返答せず、代わりに〇〇に問いかけた。
「行くのか」
「うん」
短いやりとりだが二人は確かに通じ合った。
この件は終了だとばかりに時計屋は倒した椅子を戻すと、何事もなかったように仕事を再開した。
唐突な幕切れにやや呆然とするペーター。〇〇が出発を促すように揺らしてみた手は、依然として掴まれていたけれど。