今宵はぜひ、君と。
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「ったく…あんたって妙なところできっちりしてるよな」
散歩と称して森やら遊園地を猫と散策していた〇〇だったが、時間帯が夜に変わると来た道を戻り始めた。
遊び足りないボリスが頭の後ろで手を組み、つまらなさそうに唇を尖らせた。
「夜になったからって、もしこれが短かったら?時計塔に着くまでに明けちゃうかもよ」
「そのときはそのときにまた考える。とりあえず寝るなら夜って決めてるから、時計塔に戻るんだ」
「ふうん…。わかってるだろうけど、〇〇が送ろうとしてる生活ってこの世界じゃかなり無謀だぜ?リズム狂わされるって、確実に」
「まあ…反論はしない」
身に覚えがあるだけに自然と唇に浮かぶ笑いは苦くなる。
ボリスは組んだ両手を解くと、ひょいと顔を覗き込んできた。街灯を映した金色が悪戯っぽく輝く。
「でもまあ、時計屋さんは幸せだろうね。あんたの寝顔を独り占めできて」
「ユリウスが…?はは、そんな幸せあったら怖いっての」
床にスペースを確保して敷いた布団で寝ている〇〇。弾みで踏まれても文句は言えまい。
自分の寝顔など見たことがなく、この先も見る機会はない。おそらく色気もなく口を開いて、くかーっと間抜け面を晒しているのだろう。
酔狂にもユリウスがしゃがみ込んで寝顔を見ているとしたら、その顔にあるのは微笑みではなく圧倒的な呆れである。ああ、想像に易い。
だというのに、ボリスはちっちと人差し指を振った。わかってないなと悟り澄まして言うには、
「寝顔そのものもそうだけど、睡眠の無防備さに価値があるんだよ」
「価値?」
「だって人間が一日で一番、素の自分を晒す瞬間だろ?その時間を預けてもいいと思うって、ちょっとやそっとの仲じゃ無理だ」
「はあ…」
「ところが、これが男の立場になるとまた複雑なんだよねー。相手にどう思われてるのか、あれこれ考え巡らしたりしてさ…」
ボリスはぴたっと立ち止まると、口元に手をやった。「うわー…俺、なんだか時計屋さんに同情しちゃうな」
複雑な男心(?)はなんとなく解ったが、やはりユリウスと自分の場合には当て嵌まらないと〇〇は思う。
なんだか初々しさと不純さが同居したような話だ。ユリウスと二人でいるときの雰囲気とは一寸も重ならない。
とにかく話題を変えるかと、〇〇は何気なくボリスに言った。
「ボリス、もうこの辺りで大丈夫だよ。アナタの言うところの“女の一人歩き”にありがちな変質者もストーカーも、いないみたいだし」
一人で平気だと言う〇〇についてきたボリス。時計塔まで送ると言って聞かない猫をそろそろ遊園地に引き返させるタイミングだった。
そもそも彼に心配されるような襲われる対象に自分はなり得ない。よほどのマニアか、究極的に選り好みをしないならば話は別だが。
「あ、ひょっとして俺が送り狼になることを心配してる?」
「全然。万に一つも」
〇〇は平然とばっさり言い切った。ボリスが寂しくなるほどの清々しさだ。
「俺は少しの期待も許されないってわけか…」
「落ち込むなよ。アリスならきっと少しくらい許してくれるから」
ぽんぽんと叩かれた肩の振動がボリスの心にぴりりと染みた。
ボリスは気を取り直して〇〇の手を攫い、率先して歩き出した。猫の気落ちを誤解した〇〇はしたいようにさせることにした。
そうして休戦地区に帰ってきた二人は、そこに見覚えのある立ち姿を認めた。驚いて声をかけると、彼もこちらに気がついた。
「ブラッド?珍しいな、こんなところで」
「そちらこそ…珍しいツーショットじゃないか。仲良く手を繋いで何処へ行っていた?」
ブラッドのにこやかさは背筋に冷たいものを走らせる。
氷を押し当てられたかのように手のひらが冷えた気がして、〇〇は思わずぱっと繋いだ手を弾いた。
ボリスの不満をよそに、ブラッドは満足そうに視線を緩めた。
「えっと。この時間は仕事中じゃなかったっけ、ボス?」
「エリオットに任せてきた。ほんの少しおだてて…いや、一言二言声をかけてやったら、我が腹心の部下は上司の手を煩わせるまでもないと張り切って飛び出して行ったぞ?」
つまり体よく押しつけてきたというわけか。ふふんと笑う顔はなんとも確信的だ。
「なんかいいように使われてない、ウサギのお兄さんて…」
「エリオットは、たまに気の毒になるくらいの忠犬っぷりを発揮するから…」
哀れみを向けられたとしても気づかなさそうなところがまた同情を誘う。本人に異存がなければそれで構わないのかもしれないが。
ブラッドは「今夜は君に会いに来たんだよ、〇〇」と近づき、手を取ってそっと口元に運んだ。
挨拶代わりという感じで口づけを落とす様は気障だが、文句が出ないほど似合っている。
ボリスと繋いでいたほうの手を選ぶあたり、判りやすいあてつけだった。
「ブラッドがやると…お嬢様っていうより、なんだか狙いを定められた気分になるんだけど」
「あながち外れていないな。私は常に、君を狙っている」
「あー…ストーカーらしき人がここにいたよ、ボリス」
受け入れるというよりは受け流す感じだが、そこに拒絶はない。
〇〇の眠りを見守る時計屋より、鋭利な目をする帽子屋を警戒すべきかもしれない。
チェシャ猫は尻尾を揺らすと、尖った瞳でブラッドを一瞥してから、〇〇を見た。
「帽子屋さんがいるなら、俺はもう帰ったほうがいいかもな。…すっげー視線感じるし」
「おや、なかなか躾の行き届いた猫じゃないか。利口だな」
「……。あんたに言われると、なんか腹が立つんだけど。ま、俺もここで争う気はないしね」
ボリスはシニカルな笑みを見せた後、乗り出すように〇〇に顔を寄せた。
頬の柔らかさを掠め取ると、またねと軽やかに去っていった。
ブラッドはしばしステッキを銃に変えるべきか否か悩んだが、〇〇に歩み寄るとボリスの触れた場所を親指でぐいぐい荒っぽく拭った。
「訂正しよう。躾のなっていない、狡賢い野良猫だ」
「痛っ…そんなに擦らないでってば」
「君は礼儀を弁えているだろう?少しの間、おとなしくしていろ」
気の済んだブラッドが手を離せば、頬は摩擦で熱を帯びていた。まったく、女の扱いには長けているのにたまに感情任せに加減を知らない男である。
〇〇は頬を労りつつ、問いかけるように首を傾げた。
「で、ブラッド。本当はなにしに来たの」
「言ったはずだが?君に、会いに来たんだ」
つい難解なものを見る目になってしまう。もしくは疑いの眼差しだ。ブラッドがわざわざここまで出向いた理由が、あたしに会うためだって?
「……なにかのついで、とか?」
「私の目的は君だけだ。それ以外になにもない」
不服か、と問われて、頷くのも首を横に振るのも違う気がした。結局、曖昧な表情でブラッドを見つめるしかない。
こちらの戸惑いを眺める顔は楽しそうだった。自分の与える変化はどのようなものであれ喜ばしいのだと。
「まあ…うん、あれだ。ブラッドがしたいと思ったときに、したいことをすればいいんじゃないかな」
無難に述べる〇〇に、ブラッドも満足げに同意した。
「ああ、そうとも。私は、君に会いたいと思ったときには仕事もそっちのけで会いに来るし、このまま連れ去ってしまいたいと思えば君の意思に反してでも攫っていく」
「わっ」
エスコートするような優雅さで腰を奪ったかと思うと、〇〇の進行方向を曲げてさっさと歩き出す。
〇〇は離れていく時計塔を少し振り返ったが、歩き続ける限り間もなく前を向かざるを得なくなった。
溜め息をつくも抗いを見せない〇〇の耳に、ブラッドが吐息たっぷりに囁いた。
「私との付き合いもそろそろ長い…。こういう男だと、諦めもついた頃だろう?」
(……自分で言ってりゃ世話ねーわ)
しかし、確かにブラッドの言うとおり。従う足がいい証拠だ。
多少強引に事を運ばれたところで、苛立ちすら生まれず、良くて呆れがあるくらいに留まっている。
絆されている?それとも、侵されている?わからないが、時には白黒つけない曖昧さも欲しくなる。
「…了解。例の気まぐれでやって来たにしても、わざわざ訪ねてくれたことに変わりない。今夜は寝るのを諦めて、アナタに付き合うよ」
降参、と両手を軽く上げてみせる。ブラッドは意に適った返答に機嫌よく笑った。
「嬉しいよ。君の同居人に許可を得た甲斐があったというものだ」
いつ許可を得た、という突っ込みを行える人間はこの場にいなかった。
「時計塔まで行ったんだ?…あの階段、よく上がる気になったな」
「骨は折れたがね。だが、夜のうちにこうして君に会えたことを思えば、どうということはない」
「……そ」
ブラッドは気づいているだろうか。会ってからというもの、口説き文句紛いの言葉を連発しているということに。
上機嫌に水をさすのも躊躇われた〇〇は、腰から腕を外そうと持ち上げていた指を静かに下ろした。しかたないか、と肩から力が抜ける。
「美味しい紅茶、期待してもいい?」
「ああ、もちろん。その期待を裏切らないと約束しよう」
眠りの甘美さを上回る味を保証されるなら、ついていっても損ではないだろう。
〇〇は隣にある穏やかな表情から、天上の煌めく星に目をやった。
いい夜だ、と心の底から零れ落ちたようなブラッドの呟きが夜空に溶けていった。
end。→あとがき
散歩と称して森やら遊園地を猫と散策していた〇〇だったが、時間帯が夜に変わると来た道を戻り始めた。
遊び足りないボリスが頭の後ろで手を組み、つまらなさそうに唇を尖らせた。
「夜になったからって、もしこれが短かったら?時計塔に着くまでに明けちゃうかもよ」
「そのときはそのときにまた考える。とりあえず寝るなら夜って決めてるから、時計塔に戻るんだ」
「ふうん…。わかってるだろうけど、〇〇が送ろうとしてる生活ってこの世界じゃかなり無謀だぜ?リズム狂わされるって、確実に」
「まあ…反論はしない」
身に覚えがあるだけに自然と唇に浮かぶ笑いは苦くなる。
ボリスは組んだ両手を解くと、ひょいと顔を覗き込んできた。街灯を映した金色が悪戯っぽく輝く。
「でもまあ、時計屋さんは幸せだろうね。あんたの寝顔を独り占めできて」
「ユリウスが…?はは、そんな幸せあったら怖いっての」
床にスペースを確保して敷いた布団で寝ている〇〇。弾みで踏まれても文句は言えまい。
自分の寝顔など見たことがなく、この先も見る機会はない。おそらく色気もなく口を開いて、くかーっと間抜け面を晒しているのだろう。
酔狂にもユリウスがしゃがみ込んで寝顔を見ているとしたら、その顔にあるのは微笑みではなく圧倒的な呆れである。ああ、想像に易い。
だというのに、ボリスはちっちと人差し指を振った。わかってないなと悟り澄まして言うには、
「寝顔そのものもそうだけど、睡眠の無防備さに価値があるんだよ」
「価値?」
「だって人間が一日で一番、素の自分を晒す瞬間だろ?その時間を預けてもいいと思うって、ちょっとやそっとの仲じゃ無理だ」
「はあ…」
「ところが、これが男の立場になるとまた複雑なんだよねー。相手にどう思われてるのか、あれこれ考え巡らしたりしてさ…」
ボリスはぴたっと立ち止まると、口元に手をやった。「うわー…俺、なんだか時計屋さんに同情しちゃうな」
複雑な男心(?)はなんとなく解ったが、やはりユリウスと自分の場合には当て嵌まらないと〇〇は思う。
なんだか初々しさと不純さが同居したような話だ。ユリウスと二人でいるときの雰囲気とは一寸も重ならない。
とにかく話題を変えるかと、〇〇は何気なくボリスに言った。
「ボリス、もうこの辺りで大丈夫だよ。アナタの言うところの“女の一人歩き”にありがちな変質者もストーカーも、いないみたいだし」
一人で平気だと言う〇〇についてきたボリス。時計塔まで送ると言って聞かない猫をそろそろ遊園地に引き返させるタイミングだった。
そもそも彼に心配されるような襲われる対象に自分はなり得ない。よほどのマニアか、究極的に選り好みをしないならば話は別だが。
「あ、ひょっとして俺が送り狼になることを心配してる?」
「全然。万に一つも」
〇〇は平然とばっさり言い切った。ボリスが寂しくなるほどの清々しさだ。
「俺は少しの期待も許されないってわけか…」
「落ち込むなよ。アリスならきっと少しくらい許してくれるから」
ぽんぽんと叩かれた肩の振動がボリスの心にぴりりと染みた。
ボリスは気を取り直して〇〇の手を攫い、率先して歩き出した。猫の気落ちを誤解した〇〇はしたいようにさせることにした。
そうして休戦地区に帰ってきた二人は、そこに見覚えのある立ち姿を認めた。驚いて声をかけると、彼もこちらに気がついた。
「ブラッド?珍しいな、こんなところで」
「そちらこそ…珍しいツーショットじゃないか。仲良く手を繋いで何処へ行っていた?」
ブラッドのにこやかさは背筋に冷たいものを走らせる。
氷を押し当てられたかのように手のひらが冷えた気がして、〇〇は思わずぱっと繋いだ手を弾いた。
ボリスの不満をよそに、ブラッドは満足そうに視線を緩めた。
「えっと。この時間は仕事中じゃなかったっけ、ボス?」
「エリオットに任せてきた。ほんの少しおだてて…いや、一言二言声をかけてやったら、我が腹心の部下は上司の手を煩わせるまでもないと張り切って飛び出して行ったぞ?」
つまり体よく押しつけてきたというわけか。ふふんと笑う顔はなんとも確信的だ。
「なんかいいように使われてない、ウサギのお兄さんて…」
「エリオットは、たまに気の毒になるくらいの忠犬っぷりを発揮するから…」
哀れみを向けられたとしても気づかなさそうなところがまた同情を誘う。本人に異存がなければそれで構わないのかもしれないが。
ブラッドは「今夜は君に会いに来たんだよ、〇〇」と近づき、手を取ってそっと口元に運んだ。
挨拶代わりという感じで口づけを落とす様は気障だが、文句が出ないほど似合っている。
ボリスと繋いでいたほうの手を選ぶあたり、判りやすいあてつけだった。
「ブラッドがやると…お嬢様っていうより、なんだか狙いを定められた気分になるんだけど」
「あながち外れていないな。私は常に、君を狙っている」
「あー…ストーカーらしき人がここにいたよ、ボリス」
受け入れるというよりは受け流す感じだが、そこに拒絶はない。
〇〇の眠りを見守る時計屋より、鋭利な目をする帽子屋を警戒すべきかもしれない。
チェシャ猫は尻尾を揺らすと、尖った瞳でブラッドを一瞥してから、〇〇を見た。
「帽子屋さんがいるなら、俺はもう帰ったほうがいいかもな。…すっげー視線感じるし」
「おや、なかなか躾の行き届いた猫じゃないか。利口だな」
「……。あんたに言われると、なんか腹が立つんだけど。ま、俺もここで争う気はないしね」
ボリスはシニカルな笑みを見せた後、乗り出すように〇〇に顔を寄せた。
頬の柔らかさを掠め取ると、またねと軽やかに去っていった。
ブラッドはしばしステッキを銃に変えるべきか否か悩んだが、〇〇に歩み寄るとボリスの触れた場所を親指でぐいぐい荒っぽく拭った。
「訂正しよう。躾のなっていない、狡賢い野良猫だ」
「痛っ…そんなに擦らないでってば」
「君は礼儀を弁えているだろう?少しの間、おとなしくしていろ」
気の済んだブラッドが手を離せば、頬は摩擦で熱を帯びていた。まったく、女の扱いには長けているのにたまに感情任せに加減を知らない男である。
〇〇は頬を労りつつ、問いかけるように首を傾げた。
「で、ブラッド。本当はなにしに来たの」
「言ったはずだが?君に、会いに来たんだ」
つい難解なものを見る目になってしまう。もしくは疑いの眼差しだ。ブラッドがわざわざここまで出向いた理由が、あたしに会うためだって?
「……なにかのついで、とか?」
「私の目的は君だけだ。それ以外になにもない」
不服か、と問われて、頷くのも首を横に振るのも違う気がした。結局、曖昧な表情でブラッドを見つめるしかない。
こちらの戸惑いを眺める顔は楽しそうだった。自分の与える変化はどのようなものであれ喜ばしいのだと。
「まあ…うん、あれだ。ブラッドがしたいと思ったときに、したいことをすればいいんじゃないかな」
無難に述べる〇〇に、ブラッドも満足げに同意した。
「ああ、そうとも。私は、君に会いたいと思ったときには仕事もそっちのけで会いに来るし、このまま連れ去ってしまいたいと思えば君の意思に反してでも攫っていく」
「わっ」
エスコートするような優雅さで腰を奪ったかと思うと、〇〇の進行方向を曲げてさっさと歩き出す。
〇〇は離れていく時計塔を少し振り返ったが、歩き続ける限り間もなく前を向かざるを得なくなった。
溜め息をつくも抗いを見せない〇〇の耳に、ブラッドが吐息たっぷりに囁いた。
「私との付き合いもそろそろ長い…。こういう男だと、諦めもついた頃だろう?」
(……自分で言ってりゃ世話ねーわ)
しかし、確かにブラッドの言うとおり。従う足がいい証拠だ。
多少強引に事を運ばれたところで、苛立ちすら生まれず、良くて呆れがあるくらいに留まっている。
絆されている?それとも、侵されている?わからないが、時には白黒つけない曖昧さも欲しくなる。
「…了解。例の気まぐれでやって来たにしても、わざわざ訪ねてくれたことに変わりない。今夜は寝るのを諦めて、アナタに付き合うよ」
降参、と両手を軽く上げてみせる。ブラッドは意に適った返答に機嫌よく笑った。
「嬉しいよ。君の同居人に許可を得た甲斐があったというものだ」
いつ許可を得た、という突っ込みを行える人間はこの場にいなかった。
「時計塔まで行ったんだ?…あの階段、よく上がる気になったな」
「骨は折れたがね。だが、夜のうちにこうして君に会えたことを思えば、どうということはない」
「……そ」
ブラッドは気づいているだろうか。会ってからというもの、口説き文句紛いの言葉を連発しているということに。
上機嫌に水をさすのも躊躇われた〇〇は、腰から腕を外そうと持ち上げていた指を静かに下ろした。しかたないか、と肩から力が抜ける。
「美味しい紅茶、期待してもいい?」
「ああ、もちろん。その期待を裏切らないと約束しよう」
眠りの甘美さを上回る味を保証されるなら、ついていっても損ではないだろう。
〇〇は隣にある穏やかな表情から、天上の煌めく星に目をやった。
いい夜だ、と心の底から零れ落ちたようなブラッドの呟きが夜空に溶けていった。
end。→あとがき