今宵はぜひ、君と。
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前触れもなくやって来た訪問者の姿を認めたユリウスは、思わず眉間に皺を寄せた。
それは珍しい客人であり、且つあまりいい予感のしない来訪だった。
「いつ来ても辛気臭いところだな、ここは」
広いとは言えない室内を見渡した男から、早速余計な一言を頂戴する。
ユリウスは日頃からあまり活用されない表情筋がますます強張るのを感じた。
「……なにをしに来た、ブラッド=デュプレ」
「用がなければわざわざこんな場所に来たりしないさ」
ブラッドはざっと周囲を視線で把握する。ところどころに不釣り合いなものを確認できた。
不釣り合いな、というのは陰気な時計屋に相応しい空間の中、ブラッドの目に異色に映る小物の存在のことである。
なるほど、確かにあの余所者は時計屋と同棲しているらしい。
「――いや。同居と言ったほうが正しい…か」
ブラッドの独り言にユリウスは怪訝な顔をした。
目当てを得られなかったブラッドは、物達からユリウスに視線を合わせた。にやりと皮肉を込めて微笑む。
「たとえどんなに濃密な時間を過ごそうと、夜になればあっさり帰ってしまう。君の努力の賜物かと思っていたが…どうやら違うようだ。せっかくこの時間帯を狙って来たというのに、当てが外れたな」
誰のことを言っているのかすぐにわかった。ユリウスは訪問者の目的を知り、露骨に嫌そうな顔をした。
嫌味に巻き込まれるのはもちろんごめんだが、帽子屋が〇〇を訪ねて長い階段も厭わずにやってきた事実が気に食わなかった。
「〇〇になんの用だ」
「私は気まぐれでね。会いたいと思ったから会いに来た、ただそれだけだよ」
疑心で深意を探る目にも、ブラッドの考えは読めなかった。だが何故か、不思議と本当にただそれだけの理由しかないようにも見えた。
ユリウスはふいと目を逸らして、己の感情を含めず告げた。
「あいつなら、四、五時間帯前に猫の迎えで出ていった」
「ほう。それで、見す見すくれてやったというわけか?」
「……私のものではない。束縛も強制も、あいつの望むところではないだろう」
知らず思いやりの滲む言葉を紡ぐ様子に、彼の余所者の与える影響が見えた。
それぞれ形は異なれど、例外なく役持ち達に及ぶ波紋。さて、最も影響を受けているのは誰だろうか。
「欲のない…いや、浅い男だな。その“お優しさ”で獲物を逃すのは目に見えている」
「手段を選ばない貪欲さで傷つけることになるよりは、よほどましだ」
「まあいい。せいぜい安全視されていろ。いざ牙を剥いたときに彼女に与える失望は…そのほうが遥かに大きいと思うがね」
愉快そうにそう言ってブラッドは帽子を軽く摘むとあっさり踵を返し、時計塔を後にした。
それは珍しい客人であり、且つあまりいい予感のしない来訪だった。
「いつ来ても辛気臭いところだな、ここは」
広いとは言えない室内を見渡した男から、早速余計な一言を頂戴する。
ユリウスは日頃からあまり活用されない表情筋がますます強張るのを感じた。
「……なにをしに来た、ブラッド=デュプレ」
「用がなければわざわざこんな場所に来たりしないさ」
ブラッドはざっと周囲を視線で把握する。ところどころに不釣り合いなものを確認できた。
不釣り合いな、というのは陰気な時計屋に相応しい空間の中、ブラッドの目に異色に映る小物の存在のことである。
なるほど、確かにあの余所者は時計屋と同棲しているらしい。
「――いや。同居と言ったほうが正しい…か」
ブラッドの独り言にユリウスは怪訝な顔をした。
目当てを得られなかったブラッドは、物達からユリウスに視線を合わせた。にやりと皮肉を込めて微笑む。
「たとえどんなに濃密な時間を過ごそうと、夜になればあっさり帰ってしまう。君の努力の賜物かと思っていたが…どうやら違うようだ。せっかくこの時間帯を狙って来たというのに、当てが外れたな」
誰のことを言っているのかすぐにわかった。ユリウスは訪問者の目的を知り、露骨に嫌そうな顔をした。
嫌味に巻き込まれるのはもちろんごめんだが、帽子屋が〇〇を訪ねて長い階段も厭わずにやってきた事実が気に食わなかった。
「〇〇になんの用だ」
「私は気まぐれでね。会いたいと思ったから会いに来た、ただそれだけだよ」
疑心で深意を探る目にも、ブラッドの考えは読めなかった。だが何故か、不思議と本当にただそれだけの理由しかないようにも見えた。
ユリウスはふいと目を逸らして、己の感情を含めず告げた。
「あいつなら、四、五時間帯前に猫の迎えで出ていった」
「ほう。それで、見す見すくれてやったというわけか?」
「……私のものではない。束縛も強制も、あいつの望むところではないだろう」
知らず思いやりの滲む言葉を紡ぐ様子に、彼の余所者の与える影響が見えた。
それぞれ形は異なれど、例外なく役持ち達に及ぶ波紋。さて、最も影響を受けているのは誰だろうか。
「欲のない…いや、浅い男だな。その“お優しさ”で獲物を逃すのは目に見えている」
「手段を選ばない貪欲さで傷つけることになるよりは、よほどましだ」
「まあいい。せいぜい安全視されていろ。いざ牙を剥いたときに彼女に与える失望は…そのほうが遥かに大きいと思うがね」
愉快そうにそう言ってブラッドは帽子を軽く摘むとあっさり踵を返し、時計塔を後にした。